図工で絵を描くとき、ICT機器はどんなふうに活用したらいいの?
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みなさんは図工でICTをどんなふうに活用していますか? ICTは便利な反面、児童の自由な発想を邪魔したり、授業進行の妨げになってしまったりする可能性もあります。今回は図工の授業において、ICT機器を無理なく、有意義に使える方法を考えていきたいと思います。
題字・イラスト・執筆/埼玉県公立小・中学校教諭 坂齊諒一
連載【いちばん楽しいアート】#23
「しまった!」と思った時にはもう遅かった
4年生でヘチマの絵を描いていた時のことです。「ヘチマと一緒にソーラン節を踊っている自分たちを描きたいです。タブレットで調べてもいいですか?」と児童に言われたので、資料を探して描くことはいいことだと思い、調べて描かせました。その結果いらすとやの絵を真似して描いた作品がいくつも生まれてしまいました。――教員8年目 女性
6年生で風景画を描いていた時のことです。「いろいろな時代の風景を描きたいのでタブレットで調べてもいいですか?」と児童に言われたので許可しました。その結果、調べる時間が長くなり、大切な絵を描く時間が足りなくなってしまいました。「少し調べていいよ」というあいまいな指示を出した私のミスでした。――著者 坂齊諒一
このような失敗談は珍しくないと思います。資料を参考に描くことや調べること自体は全く悪いことではなく推奨されるものです。
私はイラストレーターとして仕事をする上で、参考資料なしに描くことはあり得ません。しかし、小学校現場でICT機器を使うとなると適切な使い方が変わります。よく考えてから使わないと後で取り返しのつかないことになりやすいです。
本来の目的を失ってしまう利用方法
小学校の図工の授業における使い方は時間との兼ね合いを考えなければなりません。そのため、授業時間外であれば推奨されることも、授業においては思わしくない状況になってしまう可能性があります。それは、「タブレットで参考資料を探す」です。理由は以下の通りです。
使用目的が知らぬ間に変わってしまう
「参考資料を探そう」と思って調べていたら、「この絵、写真ってすごいな」「他にはどんな絵を描いている人がいるんだろう」と思考が変化していって、最終的にはネット画像を眺める時間になってしまうことが多いです。これは私含め大人でもありがちですよね。時間を決め、必要な資料が見つかったらすぐに制作時間に移行する、という流れを全児童が行うのは至難の業です。
自分で絵を描くという思考を止めてしまう
イラストの資料探しの目的とは本来、考証を行うということだと思います。この時代の衣装はどのようなものだろうか、文化的背景との齟齬はないだろうか、実物はどんな大きさで、どんなふうに動くのだろうか、などといったことですね。
しかし私の経験では、児童たちは、自分が描きたいと思っている絵に近い資料を探す、自分が見たときに素敵だなと思う構図の絵を探す、自分が真似できそうな絵を探す、という使い方をしている場合が多いです。この使い方は、図工の授業の目的から逸脱してしまっています。
「このように描いてみたい」という思いを表すことが授業の目的であるのに対して、思いの部分で参考にできる資料を探すことは自分の絵を描こうという思考を止めてしまっています。
また完成した絵を見て参考にしてしまうと、どうしてもその絵をこれから描く絵の完成形として捉えてしまいます。この状況は確実に避けたいところです。
他の人から見て素敵な絵を描く時間ではなく、自分の中にある想いを周りの目を気にすることなく表せる時間にしたいですね。