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「子供を主語にした学びの実践」現場教師が語るこれからの授業デザイン(第2回)〈デジタル×深い学び〉

連載
「デジタル×深い学び」の授業デザインReport

東京都教育委員会が取り組む「デジタルを活用したこれからの学び(以下:これまな)」は、子供たち一人ひとりが主体的に学び、自らの力で未来を切り開いていけるように育てることをめざしています。今回、東京都教育庁が発信したデジタルブック『デジタルを活用したこれからの学び TOKYO LEARNING STYLE』にも登場された先生方の座談会を4回に分けてお届けしています。
前回は「これまな」を始めた経緯や動機、そして、1学期の授業展開についてお聞きしました。今回は「これまな」の授業で感じた手応えや子供たちの変化、さらに保護者の理解を得るための工夫を中心にお話を伺います。

この記事は、連続企画『「デジタル×深い学び」の授業デザインReport』の16回目です。記事一覧はこちら

  • 座談会メンバー紹介

●東久留米市立本村小学校
副校長 池田 守 先生

昨年度まで教育庁で統括指導主事として、数多くの学校現場を支援。現在は副校長として、授業づくりの現場を支えている。

●台東区立上野小学校
倉澤貴文 先生(3年生担任)

研究主任として、児童の学びを広げるデジタル活用や授業デザインの工夫を発信。朝の活動にタイピングの時間を取り入れるなど、実践的な提案を行っている。

●西東京市立上向台小学校
戸原真彦 先生(2年生担任)

同小学校のめざす児童像「自立した学習者の育成」に向けて、研究主任として学校全体をけん引している。

東京都立三鷹中等教育学校
仁田勇介 先生(数学科・6年生[高校3年生]担任)

研究委員会の研究主任として、中高一貫教育の視点から中高教員への情報を発信している。1年生(中学一年生)と6年生の数学を担当。

「これまな」の授業で見えた手応えと課題、子供たちの変化

実際に授業を行って見えてきた成果と課題、その過程における子供たちの変化についてお聞かせください。

戸原先生:昨年度では、6年生の社会科の研究授業がとても印象に残っています。そのクラスの子供たちは、5年生の頃から私の試行錯誤に付き合って、探究的な学び方や自分たちで学びを進めるスタイルに慣れてきていました。

研究授業は明治時代の単元でした。この授業では、これまで積み上げてきた学び方を生かし、自分たちなりにまとめた内容をスライドやドキュメント、スプレッドシートに整理し、さらに互いにリンクを貼り合って閲覧できるようにしました。最終的には、自分たちで要点を押さえて動画にまとめるなど、多様な表現で学びを深めていく姿が見られました。

デジタルに偏りすぎることなく、ノートで4コマ漫画を描く子もいて、子供たちが自分なりの方法を選び、表現していたのが印象的でした。そうした多様なやり方をお互いに「それもいいね」と自然に認め合う温かい雰囲気もありました。

また、得意な子が苦手な子に教えながら一緒に活動する姿も見られ、「この子にとっての学びになっているんだろうな」と実感できる場面がたくさんありました。実際、その子が書いた振り返りからは、自分の学びをしっかりと捉えている様子が伝わり、大きな手応えを感じました。

この単元がうまくいったのは、単元の構成のよさだけでなく、何よりも子供たちがこれまでの学び方を身につけ、自分で学ぶ楽しさを実感していたことが大きかったと思います。

一方で、今、私が悩んでいるのは、「学びの定着がゆっくりな子供たち」への支援です。研究協議会では、「みんなで集まって教えたほうがよいのでは」「その場で誰かがもっと教えられたらよかったのでは」といった意見が出ます。

私はとくに中学年くらいまでは、ある程度の「教え」も必要だと考えています。もちろん将来的に高校まで見通すと、小学校で全部教え切ることが正しいのか迷うこともありますし、教えることが教師のエゴではないかと感じることもあります。

しかし、一斉指導を全て手放してしまうと、「できない子はできないままでいい」と認めることになるのではないかという葛藤があります。「できた」という経験がいつか自立の力につながると信じている自分もいて、なかなか割り切れません。

また、もっと大きな視点で学びを捉え、「教師が何とかしようとする発想自体が違う」という考えもあります。そして、教えようとすることで一斉指導に戻ってしまい、その構造自体に問題があるという指摘には納得できる部分もあります。

こうした考えを聞くと、自分の悩みやこだわりがとても小さなことのように思えます。学びが遅れがちな子供たちには、こちらから働きかける必要もあると感じています。学校としても個人としても様々迷いながら、日々実践している状況です。

子供たちの主体性や協働を引き出す、教師の「しかけ」

池田先生:学びの定着がゆっくりな子供であっても、その子なりに考える姿を引き出すような教師の「しかけ」が大切だと思います。

また、高校までの長いスパンで子供の学びを捉える視点も必要だと思います。そう考えると、小学校段階では「勉強って楽しい」「問題が解けるって面白い」といった経験を通じて、学ぶことの意義や大切さを子供たちに実感させることが、まずは求められているのではないでしょうか。

とはいえ、学習内容が決まっている以上、どのようにして確実にそれを習得させるかということは考えなくてはなりません。自ら立てた問いの解決に向け、自分なりに試行錯誤していたら、気がつけば学習すべき内容が定着していた。そんな授業づくりを進めていく必要があるのだと思います。

「子供に学びを委ねながらも、確実に知識や技能を習得していく授業づくりに向け、子供自身も授業づくりを考えるようなしかけを作るとよい」と語る池田先生。
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