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「子供を主語にした学びの実践」現場教師が語るこれからの授業デザイン(第1回)〈デジタル×深い学び〉

連載
「デジタル×深い学び」の授業デザインReport

東京都教育委員会が取り組む「デジタルを活用したこれからの学び(以下:これまな)」は、子供たち一人ひとりが主体的に学び、自らの力で未来を切り開いていけるように育てることをめざしています。今回、東京都教育庁が発信したデジタルブック『デジタルを活用したこれからの学び TOKYO LEARNING STYLE』にも登場された先生方に、「これまな」に関心をもったきっかけや授業デザインの工夫、そして、見えてきた課題について語っていただきました(全4回)。

この記事は、連続企画『「デジタル×深い学び」の授業デザインReport』の15回目です。記事一覧はこちら

  • 座談会メンバー紹介

●東久留米市立本村小学校
副校長 池田 守 先生

昨年度まで教育庁で統括指導主事として、数多くの学校現場を支援。現在は副校長として、授業づくりの現場を支えている。

●台東区立上野小学校
倉澤貴文 先生(3年生担任)

研究主任として、児童の学びを広げるデジタル活用や授業デザインの工夫を発信。朝の活動にタイピングの時間を取り入れるなど、実践的な提案を行っている。

●西東京市立上向台小学校
戸原真彦 先生(2年生担任)

同小学校のめざす児童像「自立した学習者の育成」に向けて、研究主任として学校全体をけん引している。

東京都立三鷹中等教育学校
仁田勇介 先生(数学科・6年生[高校3年生]担任)

研究委員会の研究主任として、中高一貫教育の視点から中高教員への情報を発信している。1年生(中学1年生)と6年生の数学を担当。

「これまな」を始めた経緯や動機

先生方はなぜ「これまな」を導入しようと思ったのでしょうか。そのきっかけや思いをお聞かせください

戸原先生:異動してこられた校長先生が打ち出した指針が「一人ひとりの子供を主語にする学校」だったことと、校内研究でも「次に何をやっていこうか」とちょうど話していたタイミングだったんです。「じゃあ、挑戦してみよう」という流れで「これまな」に取り組み始めました。

「デジタルを使った学びが校内に広がり、児童にどんな力を身につけさせたいか、本質的な部分について話し合えるようになってきた」と話す戸原先生。

倉澤先生私は教員になって5~6年がたった頃は、ずっと一斉授業を行っていました。自分なりに手応えを感じていましたし、授業の引き出しも増え、子供たちも反応よくリアクションしてくれるので授業が楽しかったですね。

しかし、その一方で子供たちが教わる側として、受け身になってしまったり、自分が話している内容が教室の宙に浮いてしまったりと、もどかしさを感じる場面もありました。授業中、一生懸命に取り組んでいるように見えていたけど、あとからノートを見返すと内容が定着していなかったり、ちょっと問い返したら答えられないことがあったり……。

「『A先生の授業は学べるけど、B先生の授業は難しい』と自分の学びを教師で判断している子供たちの話を耳にすると、《自分自身で》《どこからでも》《どんな人からでも》学び取っていく力が必要なのではないかと感じていた」と話す倉澤先生。

そんな中、前任校で、オリンピック・パラリンピック教育の主任を任されました。総合的な学習と外国語活動を合わせて、子供たちが調べたことをスライドにまとめ、デザインして英語で発表する、という学習に取り組んだんです。まだGIGAスクール構想が始まる前でしたが、今思えば、その経験が自分の大きなきっかけだったと思います。

また、上野小学校に異動してきたとき、校長先生から「これまな」の話を伺い、「自分が求めているものはこれだ!」と感じました。

仁田先生私が「これまな」に挑戦したきっかけは、異動してこられた校長先生の声かけでした。「これまな」の研究授業に興味のある先生を募集していると聞いて、「やってみようかな」と手を挙げたのが始まりです。

もともと前任校でも、一人一台端末を導入するにあたっての研究授業をやらせていただくなど、研究自体には関心をもっていました。

「これまな」の実践に取り組む中で、仁田先生は改善の余地があると感じつつも、これからの教科教育や学校教育に新たな可能性を強く実感したそう。

また、当時の上司である学年主任の先生の存在も大きかったです。その先生は、今でいう「これまな」に近い授業を行っていました。私自身、その先生の授業を見て戸惑うことがありましたし、生徒たちから批判もありました。でも、少しずつ生徒が変わっていく様子を見て、いつか自分もその先生のような授業をやってみたいと思うようになりました。

池田先生:私の「学び」に対する考え方は、自分の小学生時代にルーツがあると思います。自分が通っていた小学校は研究校だったこともあり、「マイプラン」や「フリータイム」といった探究的に学ぶ学習の時間が設定されていました。自分で課題を設定し、調べたり話し合ったりする活動が多くありました。各教科においても問題解決的な学習を基調とした授業が全ての時間で展開されていたように思います。昨年度都が指定していた「デジタルを活用したこれからの学び研究校」において、「教師から学びを委ねてもらいうれしく感じる」といった児童・生徒の声がありましたが、個人的に共感できるものがありました。

ところが、教員になった当時、様々な授業を見る中で、「子供が主役である授業」よりも「教師が主役である授業」が多いと感じました。研究授業などでも、教師が教え込んでいるケースを多く見ました。「自分のやりたいこととはちょっと違うな」と感じながら過ごしていたのですが、当時の初任校の校長先生の下で取り組んだ校内研究が、子供主体の授業づくりをめざす大きなきっかけになりました。子供が自ら調べ、考え、豊かに学ぶための問題解決的な学習の手法を追究することを通して、子供が自分たちで授業(=学び)をつくる実践に挑戦することができたんです。この経験は今の自分の授業デザインのベースになっています。あの頃、もし今のような一人一台端末やネットワーク環境があればって思いますね(笑)。

池田先生は現在も、多くの地域や学校を訪れ、教育現場のニーズに応じた講演や授業づくりのアドバイスなど、実践的な指導を精力的に行っている。

10年程前、様々な提案をする中で「一斉指導で学習内容を全員に確実に定着させていくことが大切だ」といった声も多くいただきました。でも、今では子供が何を学ぶか、どのように学ぶかを自己決定する複線型の授業づくりが当たり前になりつつあります。こうした変化を実感できるのは、本当にうれしいです。

1学期に取り組んだ授業

1学期は、どのような実践に取り組まれたのでしょうか。授業形態や進め方、生徒の反応など、具体的な取組についてお聞かせください。

倉澤先生1学期の研究授業では、算数「表とグラフ」に取り組みました。学習は子供たちの習熟度に応じて、「ぐんぐんコース」「のびのびコース」「じっくりコース」の3つに分かれて進めました。

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