「産休・育休」とは?【知っておきたい教育用語】
教員の「産休・育休」制度は安心して出産・育児に専念できる環境を整え、心身の健康を守る大切な仕組みです。仕事と家庭の両立を支え、優秀な人材の離職を防ぐことで教育の質も維持されます。今回は「学び続け、働き続ける教師」を実現するうえで、とても大切な制度である産休・育休について考えていきましょう。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

目次
「産休・育休」とは
【産休・育休】
産休(産前産後休業)は女性が出産前後において体調を整え、出産を安全に迎えることができるようにするための休暇制度。育休(育児休業)は子どもが一定年齢に達するまで、親(とくに母親)または父親が子育てに専念できるように、仕事を休むことができる制度。
教育の職務と家庭の育児の両立は大変な労力とエネルギーを要します。職務上の適切な配慮や保障がなければ、教員は安心して安定した教育指導を行うことはできません。これまでも職務環境の保障について、労働に関する法規にのっとって実施されてきました。近年は少子化や職務継続の問題対応のために社会全体で、さらにこれらの制度の趣旨の実現に努めるようになっています。
一方で教職の特殊性から、担当する子どもへの影響を心配し、年度の途中で産休・育休をとることに引け目を感じるようなこともあります。しかし、中長期的には教職キャリアの視点からも学校組織の質的向上のためにも重要な制度であり、実効性のあるものにしていかなければなりません。
その法的根拠と休業取得年限
産休の制度は主に「労働基準法」と「育児・介護休業法」に基づいています。厚生労働省のホームページでは「女性労働者の母性健康管理等について」として、「働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について」などの法令根拠やその内容をわかりやすく紹介しています。
労働基準法に基づく休業等の制度を正しく理解してもらうことを重視し、関係省庁はWEBでの発信やリーフレットの作成など、広報の工夫に努めています。下の資料はその一部です。

出産前休業は6週間となっています。しかし、教員の場合は地方自治体の運用で、教員の身体的負担の大きさを考慮し、労働基準法より拡張して「出産予定日の8週間前から産前休業を取れる」という特例措置を取るケースがほとんどです。
また、育休制度は「育児・介護休業法」に基づいています。2024年5月に「育児・介護休業法」および「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」が改正されました。この改正により、「次世代法」の有効期限が2035年3月31日までに再延長され、次世代育成支援対策の推進が強化されることになりました。
「育児・介護休業法」では原則1歳未満の子どもを養育するための休業の期間が決められています。ただし、親が働きに出ている間に子どもを預けることができないなどの状況によって最長2年までの延長が認められています。教員の場合は「地方公務員の育児休業等に関する法律」によって、子どもが3歳になるまで休業を取得できます。
さて、出産と育児に関わって休業している間の給与支給が気になるところです。産休の期間の給与が全額支給であることに対し、育休期間は原則給与の支給はありません。しかし、支給対象者には、育児休業給付金が支払われる制度があり、給与額の全額ではありませんが一定の期間給付されます。
教員の産休・育休取得率の現状
「育児・介護休業法」は1991年に制定され、男女とも育休を取得できる制度が始まりました。しかし、厚生労働省の「令和5年度雇用均等基本調査」や総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、2023年度時点で男性の育休取得率は30.1%にとどまり、女性の84.1%との差は依然大きいことが明らかになっています。
加えて、高齢化により介護をしながら働く人も増加しており、育児・介護による離職防止の具体的な策を講じることが重要です。2024年の改正はこのような状況を背景として、子どもの年齢に応じた柔軟な働き方の拡充、育休取得状況の公表義務の拡大、介護との両立支援の強化に向けたものとなっています。
「産後パパ育休(出生時育児休業)」などの新たな制度
「産後パパ育休」とは、産後8週間以内に4週間(28日)を限度として2回に分けて男性が取得できる休業で、1歳までの育児休業とは別に取得できる制度です。男性がより育休を取りやすくするために、出産後の育児支援ニーズが高い時期(出生後8週間以内)に、これまでよりも柔軟で取得しやすいものとして設けられました。男女が育児・家事を分担しながら働き続け、介護による離職も防ぐことをめざしています。
また、これまで育休は子どもが1歳になるまでの年間1回しか取得できなかったところを分割してできるようにしました。厚生労働省の「育児休業特設サイト」に例示されている次の資料を見ると、家庭の事情に応じた柔軟な育休取得のイメージができます。

今後の課題
教員が育休を取得するにあたって課題となる点は次の通りです。
①教員が育休を取ることの難しさについて
教育の専門性が求められる教員は、急に代わりを立てることが困難。とくに小学校では子どもや保護者との関係性を中心として、担任業務の引き継ぎの負担が大きい。
上記のことを背景に、「年度途中で休みに入ることは迷惑」、「学級の子どもに申し訳ない」などの無言の抑制が働くことも事実です。さらに、教育不足が深刻化している現在、休業に入った後に着任するものが不在ということも起きており、育休取得を申し出ること自体に心理的ハードルを感じやすいといわれています。
②教員が育休後に復帰する際の困難さについて
教員は早朝、放課後、場合によっては休日も職務を行わなければならないこともあり、育児との両立が非常に厳しいという現実がある。短時間勤務制度も学校の時程にはなじみにくい面もあり、他の職業で可能なテレワークも難しく、育児に合わせるために職務や時間を調整する心身への負担も大きい。また、育休期間中に教育事情が大きく変化したり、研修・昇進のチャンスを逃したりすることへの不安もある。
では今後、どのような環境整備が求められているのでしょうか。まずは、教員も「子育てを大事にする」ための育休取得は当たり前という文化づくりが欠かせません。そして、安心して休むことができるよう、代替教員の確保とそれをプールしておく仕組みの構築も必要です。
また、復帰したときの不安を解消する支援プログラムの導入や、実効性のある段階的な復帰ができるような短時間労働の仕組みづくりも考えていく必要があるでしょう。教員が安心して育休を取得し、スムーズに復帰できるようにするには、制度の整備だけでなく、管理職をはじめとする教職員の働き方とセットで意識を改革していかなくてはいけません。
▼参考資料
厚生労働省(PDF)「次世代育成支援対策推進法の改正ポイント」栃木労働局雇用環境・均等室、令和6年12月12日
厚生労働省(PDF)「労働基準法のあらまし(妊産婦等)」
厚生労働省(ウェブサイト)「育児休業制度 特設サイト」