子どもの意欲が高まる「自習の練習」の効用とは
自分のクラスを自習にさせることは意外と多いものです。校内の研究授業の参観、断れない研修会、急な体調不良などなど。自習体制にするのは、担任の先生としては不安なことも多いでしょう。ここでは、あなたのクラスの「自習力」を高める手立てを紹介します。
執筆/大阪府公立小学校教諭・浅野学
目次
子どもの「自律の力」を育てるには?
自習をさせることになると、周りのクラスと比べて授業が遅れることになり焦ってしまう先生が多いのではないでしょうか。ベテラン先生の授業進度は驚くほどスムーズです。数時間の遅れがどの教科も出てしまうことは、若手の先生あるあるだと思います。それに加えて若手の先生には研修会やら出張やらがあり、自分のクラスを自習にさせないといけないことも多いものです。
しかし、クラスがまとまっていないことは自分でもよく分かっていて、そんなクラスを誰か他の先生にお願いするのは恥ずかしいような、申し訳ないような、複雑な気持ちですよね。
それならば「自習の練習」を普段の授業からしてみるのはどうでしょうか。
円滑な自習に求められるのは児童の「自律」の力です。自分で自分のことを律する自律です。しかし、これはすぐには身につきません。それならば、クラスの中に子どもたちを律する「ルール」を浸透させればよいのです。あとはそのルールに沿って、子どもたちは自分たちで注意をし合いながら秩序をつくることができます。これが円滑な自習に求められる子どもたちの力です。
では「ルール」を浸透させるために普段の授業でできることは、どんなことでしょうか。
自習の時には「課題」を用意していると思います。これについては、いつもさせている学習プリントだと思いますので、子どもたちは特に困ることなく進めるでしょう。問題はこのあとです。課題が終わったあとの子どもたちの動きに「ルール」を設定するのです。
よく使われるルールは「静かに読書」だと思います。しかしこれには問題点があります。それは「本棚の前で集まって会話が盛り上がる児童が出てくる」です。教室後方にある本棚の前で数人の子どもたちがザワザワしてしまえば、自習の雰囲気は一気に悪くなります。僕のクラスでもよく問題になっていました。
そこで自習中に立ち歩かないようにするためにも、自習前に「あらかじめ本を選んでおく」というルールを設定しておきます。もちろん、このルールがあっても「あらかじめ本を選ぶことを忘れる」児童は出てきます。しかし、その数はルールを設定しないよりも少ないでしょう。
ルールにはいくつかの選択肢を用意して
ルールを設定する際に大切なのは「全員にしっかりと守らせることを目標にしない」です。
もちろん、全員がルールを守れることは理想です。でも、子どもたちの中には、どこか抜けている子もいます。何回も忘れ物をしてしまう子がいるように、毎回のように「あらかじめ本を選んでおく」ことを忘れる子も出てきてしまうのです。その子が辛くなるような環境は作ってはダメです。「クラスの8~9割が守れたらいい」これくらいのつもりでルールは運用しましょう。
どうしても守れない子には個別に支援してあげたらいいのです。例えば、「二冊まで選んでいい」というルールを合わせて設定しておけば、「あらかじめ本を選んでおく」ことを忘れてしまっても、近くの子どもから借りることもできます。
このように一つのルールを厳格に運用するのではなく、いくつかの選択肢を用意することで、子どもたちの「自律」の力は高まります。自分たちでできることの選択肢を用意してあげることは、子どもたちも嬉しいはずです。子どもは基本的にクラスメートを助けたいものです。
「静かに読書」一択では、読書が苦手な子はザワザワしたくなってしまいます。ここでも選択肢を用意してあげれば、子どもたちは「自律」の力を高めることができます。「静かに塗り絵」「静かに迷路」「静かに折り紙」。塗り絵や迷路や折り紙などの「静かに時間を過ごせる」プリント類は、普段から用意しておけば非常に便利です。
大事なことは「静かに」過ごせること。あるクラスでは「しずカニ」なんてダジャレを活用していました。カニの掲示物を黒板に貼れば自習スタート。言葉による指示はいりません。時間があればカニの掲示物を作ってみてください。
「自習のリハーサル」をやってみる
ルールを設定したら、それが運用されるかどうかを試してみましょう。授業が早めに終わった時などの時間を使って「自習の練習」をさせるのです。
簡単な課題とカニの掲示物を用意して、先生は教室から席を外します。気になるでしょうが、最低でも5分は席を外しましょう。教室の様子が聞こえるくらいの位置で隠れてもいいです。戻った時に静かにできていたら、しっかりと褒めてあげましょう。
5分間自習ができたら、次は10分、次は15分・・・。そうして少しずつクラスの「自習の力」を高めておくことで、来たるべき時にも不安な気持ちになることはないでしょう。
これには副次的な効果があります。それは子どもたちの自信です。「先生がいなくても自分たちで勉強ができる」この思いを高めることは、普段の授業における子どもたちの意欲向上にもつながるはずです。
子どもの力を認めて、握っている手綱を少し離してみる。これが子どもたちの力を高める学級経営のコツでもあるのです。