小1国語科「はるがきた」「さあはじめよう」全時間の板書&指導アイデア

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国語科 令和6年度版 新教材を活用した授業づくりー文部科学省教科調査官監修の実践提案ー
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文部科学省教科調査官監修「教科指導のヒントとアイデア」
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文部科学省教科調査官の監修のもと、令和6年度からの新教材、小1国語科「はるがきた」「さあはじめよう」(光村図書)の全時間の板書例、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。

 小一 国語科 教材名:「はるがきた」「さあはじめよう」(光村図書・こくご 一上)

監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/金沢大学人間社会研究域学校教育系教授・折川 司
執筆/埼玉県上尾市教育委員会指導主事・𠮷野竜一

1. 学年開きにあたって

ここから1年生の国語が始まります。ワクワクしているでしょうか。それともドキドキしているでしょうか。子供たちの実態や先生の経験値は、もちろん様々でしょうが、それがどのようなものであれ、先生方にはぜひ心に留めておいてほしいことがあります。
それは、「子供たちは、すでに6・7年間の学びを積み重ねてきている」ということです。小学校生活は1年生から始まりますが、これまでの学びがリセットされるわけではありません。子供たち自身とその学びの経験を尊重し、それを踏まえて、新たなものを伝えていくという気持ちで授業に臨めるといいですね。

では、子供たちはどんな学びをしてきているのでしょうか。
幼児教育では「遊び」が大切にされています。幼稚園や保育所の先生方は「遊び」を通して子供たちが成長できるように環境を整えています。その中で、子供たちは「自己決定」を繰り返し、様々な「学び」を積み重ねています。
ですから、もし小学校に入学した途端、「○○をしなさい。」と、生活の隅々まで指示を出されたとしたら、子供たちはどう感じるでしょうか。責任感の強いステキな先生であればあるほど、「子供たちのために」と力が入って指示を多めに出してしまうかもしれません。でも、できるだけ肩の力を抜いていきましょう。
教えるべきことは確実に教えつつも、子供たちの思いをどうか尊重し、子供たちの自己決定をおおらかに認めていってください。

さて、そんな1年生の子供たちに行う国語の授業については、どのように考えていけばいいのでしょうか。授業を考える際の流れを一つ例示したいと思います。

授業を考える際の流れの図解

①は身に付けてほしい力や成長した子供たちのイメージです。授業を考える際には、まず、この①についてはっきりさせていくことが大切です。
なんのために授業をするのか、どこへ向かうのかを先生方がつかんでおく。その上で、次に子供たちの「今」を捉えます。それが②のステップです。
①を明確にして、②を考えてみると、両者の間にはきっと大小のギャップがあることに気付くはずです。この間を埋めるものが授業です。
そこで次に、どんな教材を活用して①の状況を実現していくのか。どんな言語活動を行いながら①の状況を実現していくのか。そうしたことを考えていくことになります。
活用する教材がどのようなものかを考えるためには、③の教材分析が必要です。そして、ねらいとする力を身に付けるための④の言語活動を考えます。
授業を考える手順にはいろいろあると思いますが、このような各要素を落とさずに整理していくことが重要です。もし授業づくりに迷ったら、この流れを参考にしてみてください。

1年生の4月というとまだ子供たちと出会っていないタイミングです。そのため、②に目が向いてしまうこともあるかもしれませんが、授業づくりの基本型は最初に①をはっきりさせ、次に②を考慮するという流れです。その点は確実にされるとよいと思います。
それでは、1年生の国語のスタートです!

2. 単元で身に付けたい資質・能力

それぞれの単元には、その単元を通して身に付けてほしい資質・能力が必ずあります。これは、先生にとっては「ねらい」であり「願い」であるもので、子供にとっては「目標」となるものです。今回は、複数の単元を取り扱っているため、以下のようにまとめました。

単元で身に付けたい資質・能力

「こんなにたくさんあるのか」と思ったかもしれませんね。ですが、よく見てみると気が付くことがありませんか?

「話すこと・聞くこと」の単元がいくつもあるけれど、同じ資質・能力が何回も出てくるな。複数の単元の見通しをもって指導をしていこう。そして子供たちの姿を見取っていこう。

「かく こと たのしいな」は、書くことの単元ではなく、知識・技能を教える単元なのか。ということは、ここでしっかり平仮名や正しい鉛筆の持ち方等、教えるべきことを教えていこう。

どうでしょうか。他にも気が付いたことがあるかもしれません。しかも、4月に予定されている国語の学習指導で身に付けたい資質・能力は、これで全てです。その指導を「ゴールデンウィークまでに」と思うと、何とかなりそうな気がしてきませんか。

このように、単元で身に付けたい資質・能力を整理すると、先生方が「見通し」をもてます。もちろん「本時の授業」という1単位時間の視点も大切ですが、もう少し長い視点をもつことで、授業にゆとりが生まれ、結果として子供たちを見取りやすくなっていきます。

「もう少し長い視点を」と前述しましたが、「さらに長い視点で授業をすることに挑戦したい」という先生は、『小学校学習指導要領解説 国語編』(文部科学省)の196ページから207ページを見てみましょう。
ここには、「この学年の」「この領域では」「こんな力を身に付けたい」という一覧表が載っています。これを見ると、「1・2年生って、身に付けたい力が同じだ。」と気付いたり、「じゃあ、1年生と2年生では、何が変わるんだろう。」という問いが生まれたりするでしょう。また、「中学3年生まで、こんな流れでつながっているんだな。」ということに気付くかもしれません。

その気付きや問いによって生まれた長い視点こそ、「系統」であると私は考えています。先輩の先生方が「系統性をもった授業展開を」なんて、よく話していますよね。「系統」という長い視点をもつと、大切なことを確実に伝えることにつながり、子供にゆとりをもって接することにもつながります。
国語の授業が面白くなってきたら、ぜひ挑戦してみてください。

3. 単元の評価規準

学習指導によって、資質・能力を子供たち一人一人に身に付けられるようにすることも大切ですが、同時に、資質・能力が確実に身に付いたかどうかを確認していくことも忘れてはなりません。
その確認のことを「見取り」と呼んでいます。この見取りを行う際に活躍する「メガネ」のようなものが「評価規準」です。

評価規準の表

「あれ? さっきも見たような」と感じたのではないでしょうか。お気付きのとおり、これは、前項で見た「単元で身に付けたい資質・能力」の表と、ほぼ同じです。文末の表現が異なるくらいです。身に付けたい資質・能力と評価規準の内容が対応しているのは、単元を通して大切なことがブレないようにするためです。
「付けたい力はこれ。その力が付くように指導、支援を行うぞ。だから、それと同じメガネをかけて、その力が付いているかを見取っていこう。」というわけです。こうした一連の思考を「指導と評価の一体化」と呼んでいます。
「学びに向かう力、人間性等」が「主体的に学習に向かう態度」に変わっていますね。これは、観点別評価で見取ることができる部分にスポットライトを当てたためです。詳しくは、『学習評価の在り方ハンドブック』(国立教育政策研究所)6ページをご覧ください。

さて、この評価規準という「メガネ」ですが、実はこの時点ではまだ少し曖昧です。「平仮名を読み、書いている。」というメガネなら、子供たちの実態がどうなのかをすぐに、確実に確認できるかもしれません。
しかし、「『話すこと・聞くこと』において、身近なことや経験したことなどから話題を決め、伝え合うために必要な事柄を選んでいる。」というメガネは、具体的に何を見取るのかイメージしにくいところもありそうです。
このように、メガネがクリアに見えないときには、子供の具体的な姿をイメージすることが必要です。「どのような姿になっていればよいのか」「資質・能力が身に付いたと判断してよいのか」を先生方がイメージしておくことで、クリアに見取ることができるようになります。(具体的な姿の例は、下の「全時間の板書例と指導アイデア」の項 で紹介します。)

ちなみに、評価規準メガネをつけて子供を見取る経験を積んでいくと、「よくできている!」「あと少し、ここを直せば」「まだ時間はかかりそうだけど、○○はいい」「うーん。なかなかきびしいなあ。」といった、「判断」をすぐできるようになり、効率よく評価できるようになっていきます。ですが、これは子供のための評価から離れていく行為でもあります。
その子の成長を願うならば、パッと見ての判断だけでなく、じっくり観察をしてみてください。すると「なぜ、この子は○○をしているのだろう。」といった問いが生まれ、その子のことを想像するようになっていきます。そして、想像したことを子供との対話によって擦り合わせていきます。
「○○をしているのはどうしてかな?」「もしかして、□□って考えている?」と、決めつけるのではなく想像して対話することで、目に見えていなかったものまで見取ることができるようになります。そこで、ようやく評価をするのです。
このように見取ることは、とても大変です。ですが、全ての子が、目に見える形で言葉を表出できるわけではありません。子供の頭の中にあるステキな言葉を見取るために、「判断→評価」ではなく、「観察→想像→対話→評価」にぜひ挑戦してみてください。

4. 言語活動とその特徴

言語活動 ——よく聞く言葉ですね。学習指導要領に示されている国語科の目標には、「言語活動を通して」資質・能力を育成すると記されています。4月の単元において資質・能力を育成する際に行う言語活動は,例えば次の表のような感じです。

言語活動も表

言語活動を考える際には、「なぜ言語活動を行うのか」ということを整理しておくことが大切です。「どんな言語活動を行うか」ではありません。
「1.学年開きにあたって」の中でもお示ししましたが、子供たちが資質・能力を身に付けられるようにするために言語活動を行います。
言語活動を設定することは、子供の「やりたい」という思いと先生の「願い」をつなぐことであり、子供の実態と目指す姿をつなぐことでもあります。考えながら先生自身も楽しんでほしいと思います。

5. 指導のアイデア

ここでは4月の単元に共通した指導のアイデアを紹介します。4月以降も大切にしてほしいことでもあるので、そのときの実態と照らし合わせながらその都度確認してみてください。

(1)自己決定場面を設定する

これまで、子供たちは遊びの中で自己決定を繰り返してきています。それなのに全て先生が決めていたら、育っていたはずの主体性が奪われてしまうかもしれません。何か一つでもいいので、子供たちが自己決定する場面を設定するよう心がけましょう。
自己決定場面の例としては、「話す内容を決める」「書く紙の種類を決める」「話しかける友達を決める」など、「方法」や「相手」の自己決定が挙げられます。できそうなところを子供に委ねてみましょう。

(2)身に付けたい資質・能力を意識して振り返りを行う

1年生の4月であっても、子供たち自身が自分の学習の様子がどうだったかを振り返ることは重要です。振り返りを行うときは、身に付けたい資質・能力について問うことが求められます。
しかし、もちろん「振り返りカードを書く」というような高次な活動を求めるわけではありません。ハンドサイン、ネームマグネットなどを使って振り返るので十分です。学習がどうだったかを表情に表すという振り返りでもいいかもしれません。書くことをしなくても振り返りは十分できます

振り返りを行う際には、単元や本時のねらいを改めて意識できるような言葉を投げかけましょう。また、振り返り場面の前に、子供たちへのフィードバックを行えるとさらに効果的です。
例えば、「○○さんは、友達のお話に質問することができたね。」「○○さんは、書き順に気を付けて平仮名を書けたね。」といった、身に付けたい力が表出された場面を具体的に伝えるといいでしょう。
これは、「ほめる」こととは異なります。本人が、本時の学びを自覚できるように、見取った事実を伝えましょう。

学んだことを自覚できるようなフィードバック。これを第一に考えてほしいのですが、加えて「どのように学んだのか」についてもフィードバックできるといいですね。
例えば、「○○さんは、友達と一緒に話してから、たくさん書けたね。」「○○さんは、まずじっくり考えてから、活動を始めたね。」といったものです。
子供たちが活動に夢中になり、学びを自覚できていなかったとしたら、それは「活動あって学びなし」という状況になってしまいます。
ですが、先生からのフィードバックと自分自身の振り返りを擦り合わせていけば、子供は学びを自覚できるようになります。これを積み重ねて、子供たちが自分自身の輪郭を捉えられるようにすることが大切です。

(3)柔軟な学習活動・学習形態を設定する

遊びから学びへつながる重要な時期だからこそ、活動や形態に固執することなく、実態に合わせて柔軟に対応することが必要です。
例えば、友達と話し合う際に、必ず自分の座席で、隣の子とだけ話さなければならないのでしょうか。床に座って三人で話してみたり、立ち歩いて複数の子に話しかけてみたりすることもあるはずです。
幼稚園や保育所のような自然な話合いや対話でありながら、その内容は国語のものになっている。そうした柔軟さが理想です。

(4)楽しさを味わえるようにする

これは、最も大切なことかもしれません。子供たちが、国語の授業の楽しさ、言葉の楽しさ、学ぶ楽しさ等を味わえるように、教材研究を行い、肯定的なフィードバックを行い、安心して学ぶことのできる雰囲気づくりを行いましょう。

6. 単元の展開・全時間の板書例と指導アイデア

これより先、4月に学習する七つの単元の展開および、全時間の板書例と指導アイデアを紹介します。

「はるが きた」(2時間扱い)

【主な学習活動】
1時
① 挿絵を見て、見つけたことを話す。
② 挿絵を見て、想像したことを話す。

2時
① 挿絵をつなげてお話をつくる。
② お話を聞き合う。

【 本単元について 】

「はるが きた」は、1年生が、小学校で最初に出合う国語の教材です。全部で5枚の挿絵で構成されており、それらの絵が主導して物語が進んでいきます。
1枚目の挿絵は、子供たちが大きな絵を描いている場面ですが、2枚目以降は、空を飛んだり、絵が生きているように描かれたりと、少し不思議な場面になっています。不思議でワクワクする世界に、子供たちが想像をどんどん広げていける教材と言えます。

1時間目は、それぞれの絵から分かること、絵から想像したことをたくさん発表する時間にしましょう。分かることとは、例えば「子供がいる。」「三人いる。」といったことで、想像したこととは「先生かな?」「楽しそうに見える」といったことです。

2時間目は、絵をつなげてお話をつくります。先生のつくったお話をモデルとして紹介し、活動のイメージを共有しましょう。

1時間目の板書例

1時間目の板書例

問いを投げかける際のアイデア(導入)

本時の課題を板書し、見通しをもてるようにする
まだ平仮名が読めない子もいます。課題を板書するだけでなく、聞き取りやすく問いを投げかけるようにしましょう。

課題の説明とともに挿絵を投影し、子供たちのワクワクを引き出す
初めての国語の授業が楽しいものになるように、挿絵を投影しながら、子供たちに問いかけましょう。このとき、どんな気付きを促したいのかを考え、意図的に問いかけることが大切です。

環境のアイデア

柔軟な学習形態として、挿絵を見る場所、話す相手を工夫する
自分の座席で見るだけでなく、大型モニタの前に集まったり、教室を暗くして挿絵が際立つように投影したりすることもできます。
また、先生と子供が話すだけでなく、子供同士で話す場面も設定できるといいですね。はじめは、隣の席の子、近くにいる子等で、少人数での対話ができるようにしていきましょう。

みんな、テレビの前に集まってください。今から先生が絵を映します。どんな絵なのか、気付いたことを教えてね。3、2、1、(投影)

絵を描いてる!

おっきい絵だね!

クレヨンをもってるよ!

ほんとだ。大きな絵を描いてるね。他に、どんなことに気付くかな。絵をよーく見て、気が付いたことを近くのお友達と話してみましょう。

丸をたくさん描いているよ。

大人の人もいる。先生かな。

たくさんの子供がいるよ。

靴が、きれいに脱いであるね。

タンポポが咲いている。

カエルも絵を見ているよ。

車椅子が置いてあるね。

きれいなシャボン玉みたいなのが飛んでいる。

問いを投げかける際のアイデア(展開)

↓令和6年度からの国語科新教材を使った授業アイデアを、続々公開中です!

イラスト/横井智美

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