地域の河川と関連付けて河川防災教育に繋げる 〜4年「雨水の行方と地面の様子」【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】地域の河川と関連付けて河川防災教育に繋げる 〜4年「雨水の行方と地面の様子」
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理科の授業でフィールドワークをすることはありますか? 運動場に出て確認することはあっても、学校外に出て調べに行くというのは、保護者への連絡や安全面の配慮、地域教材を使う教材の意味など、少しハードルがあります。今回は地元の河川防災教育に繋げるために、フィールドワークを取り入れる工夫についてです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/三重大学教育学部附属小学校教諭・橋本有弥
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.4年理科「雨水の行方と地面の様子」の目標

4年生の理科で学習する「雨水の行方と地面の様子」の単元では、子どもに「水は、高い場所から低い場所へと流れて集まること」「水のしみ込み方は、土の粒の大きさによって違いがあること」についての理解を図るとともに、日常生活との関連として、雨水の流れ方やしみ込み方が排水の仕組みに生かされていることや、雨水が川へと流れ込むことに触れ、自然災害との関連を通して「流域概念」を形成することが目標とされています。
近年、気候変動の影響による水害の激甚化・頻発化から、集水域から氾濫域にわたる流域に関わる関係者が協働して水害対策を行う考え方である流域治水が推進されている状況を考えると、本単元の学習を通して子どもが流域概念を形成することは非常に重要であると言えます。

2.流域概念形成と教科横断的な学習の必要性

流域治水を学ぶ子どもたちが、日本のどこかで毎年のように発生している水害やその対策について興味をもつのは自然なことだと言えます。また、自分たちの生活している地域の水害による被害や対策はどうなっているのかを学ぶことで、より自分事として学習に取り組むことができるようになります。そのためには、子どもの身近な地域を流れる河川を題材にし、「雨水の行方と地面の様子」の知識だけでなく、自分たちの住む地域の水害の現状や歴史、水防災対策、流域に住む人々の生活や思い、経済生活や文化などについて、社会見学やフィールドワーク、調べ学習などを通して、多面的・多角的に思考・判断する学習機会を設けることが必要です。4年生の社会科では、「自然災害を防ぐ人々の工夫」についての学習も行うため、社会科や総合的な学習の時間とも連携させた「河川防災教育」として、教科横断的な学習を展開するのが良いでしょう。
教科横断的な学習というと難しく感じるかもしれません。そこで、4 年理科「雨水の行方と地面の様子」の学習を展開する中で、子どもたちが自然と「雨水が川へと流れ込むこと」に気付き、河川防災教育へと繋がっていくような単元デザインについて紹介します。

3.単元の導入

まず、雨が降った日に、「雨水の行方と地面の様子」の単元の導入として小学校の敷地内の様子を観察するためのフィールドワークを行います。事前に、敷地内で「水たまりができる場所」や「水が流れていく様子が見られる場所」を確認しておくと良いでしょう。
次に、晴れた日に、雨の日の様子とどう変化しているのかを比較するためのフィールドワークを行います。できれば、雨の日の翌日が晴れるかどうかを天気予報で確認しておくと良いでしょう。
その後、2回のフィールドワークの結果を比較します。比較する中で、子どもたちは「小学校に降った雨水がどこへ行ったのか」という疑問をもちます。その疑問について子どもたちに予想を促すと、大きく「高い所から低い所へ流れていった」「蒸発した」「地面に染み込んだ」の3つの予想が出てくると考えられます。この3つの予想を確かめるためのフィールドワークや実験について、子どもたちと計画しましょう。今回は、「河川防災教育」へとつながる「高い所から低い所へ流れていった」という予想を確かめる流れについて、詳しく紹介します。

4.予想を確かめるフィールドワーク

「高い所から低い所へ流れていった」という予想について確かめるために、次に雨が降った日に再度フィールドワークを行い、雨水が流れる様子を観察します。小学校の敷地内を流れていく雨水を追いかけていくと、排水溝に流れ込んでいたり、排水溝から溢れ出て校門や学校の外に出ていったりしていることが観察できるはずです。この時点で「高い所から低い所へ流れていった」という予想は確かめられますが、「小学校から出ていった雨水がどこへ行ったのか」という新たな問題が生まれます。雨の中で校外に出てフィールドワークを行うことは危険なため、晴天の日に改めて校外に出てフィールドワークを行い、排水溝の行方や「高い所から低い所へ流れていく」という雨水の性質を基に、雨水の行方を調べましょう。
この校外学習で、小学校から流れ出た雨水は、付近を流れる川へと流れていくことが分かるはずです。このことに気づいた子どもたちは、
「雨が直接川に降って水かさが増えているだけじゃなくて、川の周りの高いところに降った雨水が全部集まってきているから、あんなに水かさが増えているのか」
「遠くの山に降った雨も、川の上流に流れ込んで自分たちの住んでいるところに流れている川までやってくるなら、川の下流の方が危険なのだろうか。水害対策はどうなっているのか」
と、水害に対する問題意識や流域概念についての理解を深めていくでしょう。

5.「雨水の行方と地面の様子」と「河川防災教育」への接続

「雨水の行方と地面の様子」の学習で子どもたちが見いだした「自分たちの住んでいるところの水害対策はどうなっているのか」という問題は、社会科の「自然災害を防ぐ人々の工夫」の学習に引き継がれていきます。その学習の中で、各市町村の「洪水ハザードマップ」や「内水ハザードマップ」を使って、自分の家や学校までの通学路の水害リスクを調べたり、実際に水害リスクの高いとされている場所にフィールドワークに出かけ、危険箇所の確認や水害対策の工夫などの調査をしたりすると良いでしょう。また、地域によっては過去に起こった水害の歴史について、地域の人々にインタビューをしてまとめる学習も行うと良いかもしれません。このような単元デザインをすることで、「雨水の行方と地面の様子」の学習で学んだ「雨水は高い所から低い所へ流れていく」ということを、ハザードマップでの調べ学習やフィールドワークでの直接体験を通して、より深く理解することができるはずです。

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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橋本有弥教諭

<執筆者プロフィール>
橋本有弥●はしもとゆうや 三重大学教育学部附属小学校教諭。三重CST。四日市市立、松阪市立小学校教諭を経て現職。現在は「学級集団が『科学の営みを愉しむ文化』を創造する授業」を研究テーマに、課題解決型学習やモデルベース学習を取り入れた理科の授業について、授業実践を積んでいる。次年度からは、教職大学院で現職教員として特別支援教育も学んでいく。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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