春を呼ぶステキな使者たち。ウメとサクラの楽しいあれこれ【モンタ先生の自然はともだち】

【モンタ先生の自然はともだち】
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日ごとに光の春が感じられ、明るさと暖かさが増し、天地快い季節。いよいよ、大地胎動、万物躍動の春となりました。あちこちにウメの花が咲き、あたりに馥郁(ふくいく)たる香りを放っています。ウメの花が咲くと、早咲きで有名なカワヅザクラ開花の便りも伝わってきます。ステキな早春の風物詩、せっかくなので、ぜひとも詳しく観察して楽しんでみませんか?

【連載】モンタ先生の自然はともだち #02

執筆/森田弘文

1.早春の訪れを告げる花たちの違い

この写真は、2月中旬に多摩森林科学園で撮影したものです。左がウメで、右は早咲きで有名なカワヅザクラという種です。どちらも満開のようですが、花の様子はよく分かりませんので、もっと近くに寄ってみましょう。

2つの違いは何でしょう? そうです、色が違いますね! …その他は、どうですか?
スッキリと一言で説明するのはなかなか難しいようですが、花びらに注目して見てください。花弁の先をよく見ると、ウメの花は先が丸くなっていますが、サクラは、先が裂けているのが分かるでしょうか。
サクラの花は、ほとんどの種の花弁の先端は裂けています(例外としていくつかの種は、先端が丸くなるものもあります)。
では、花を裏から見たらどうなっているのでしょうか。

ここで気を付けて見てほしいのは、花の柄です。
ウメには柄がほとんどなく、枝から直接咲いているように見えます。この咲き方も特徴的で、ウメは新しく伸びた若枝全体から花が咲いてきます。
サクラはハッキリと伸びる長い柄があるのが分かりますね。この柄は、サクラの枝の先端から生えてきます。
これが大きな違いです!
この特徴のため、ウメは古い枝を剪定してあげるほうが、新しい枝に栄養が届いて花を咲かせやすくなります。一方でサクラは、古かろうが新しかろうが、あらゆる枝の先っぽから花を咲かせますので、手入れをする必要はありません。
こうした性質から、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」なんて言うことわざが残っていたりします。

なぜ開花時期が違うの?

さてさて、皆さんは、どうしてウメはサクラより先に咲くか、ご存知ですか?
「そんなの、あまりにも当然な自然現象で、疑問に感じることなんかないですよ」
そんな声も聞こえてきそうですが、子どもに聞かれたとき、「ほおー!」と尊敬してもらえるようなネタを、ここでぜひ仕入れてください。
一般的にウメが先に咲くのには、どんな理由があるのでしょう?
ウメやサクラは咲き終わると、来年の開花に備えて、新しい芽を育てます。
この芽は暖かい時期に成長しますが、低い温度にさらされると、成長を抑えるホルモンが増えてきて、越冬の準備をします。寒い間、長い長い眠りに入るわけですね。
冬を越えるため、この芽は冬芽(ふゆめ)と呼ばれます。
そして、春に向け気温が徐々に高くなってくると、この成長を抑えるホルモンの分泌量が少なくなり、ある一定の気温を超えたときに目覚めて、1~2ケ月後には芽を出せるように準備を始めます。
この目覚めのスイッチとなる気温が、ウメの場合は10℃前後。桜の場合は16~17℃です。
この気温の差によって、ウメとサクラは開花の時期が異なるというわけですね。別の言い方をすれば、ウメの蕾の眠りは、サクラよりも浅いと言っていいかもしれません。

2.サクラ前線はあるのに、ウメ前線はないの?

サクラは、春のランナーと呼ばれ、南から北へとサクラの開花が北上をしていきます。毎年おなじみの「サクラ前線」ですね。これは「ソメイヨシノ」というサクラの品種の開花時期を使った予報です。
テレビなどでよく伝えられますが、詳しく言いますと、ソメイヨシノの蕾10個の重さを計り、重さが1グラムになると、その10日後には花が開くという、これまでの経験値からの予想です。
また、開花宣言というのは、各地の気象台で標準になる木を決めて毎日観測し、その木に数輪の花が咲いた日を開花日として、『開花宣言』するそうです。
しかし、これは、よくよく考えてみたら不思議なことではありませんか? サクラ同士、申し合わせをしているわけではないのに、同じ地域のサクラは見事にそろって咲きますよね。
全国津々浦々に咲いている、最もメジャーで本数も多い「ソメイヨシノ」というサクラの品種。これ実は全て、もとは1本のサクラの木なんです。
江戸時代に品種改良で作られたサクラがあまりにもステキだったんですね。それで、その木から枝を分けてもらい、その枝を他の木に接ぎ木し、複製してはまた接ぎ木し・・・と増やしていったクローンなのです。つまりすべてのソメイヨシノは同じ遺伝子を持っているので、みんな同じようにふるまうわけですね。
ウメには、ソメイヨシノのような1強の品種があるわけではなく、その種類も開花時期もさまざまです。また、10日程度で咲いて散るサクラに比べて、ウメは1ヶ月以上咲いていることも珍しくありませんので、あまり「前線」という概念にはなりづらいのですね。
春の風物詩と言えばサクラの花見というくらい、日本人がサクラの開花に寄せる関心は高く、静かに可憐に咲いているウメの花が、ちょっとかわいそうに感じられてきます。

開花宣言があるなら、落花宣言も可能?

そうなんです。開花宣言ができるということは、『落花宣言』もできるんですよ。ソメイヨシノの花を1つ1つよく見れば、その花がいつ散るかがバッチリと分かります。次の写真を見てください。

サクラ(ソメイヨシノ)

落花宣言のポイントは、花の中心に注目して見ることです。よく見ると、花のまん中の色が違います。⑴は中心がとても赤いですね、⑵は少し赤く、そして、⑶はほとんど赤くありません。
この赤さに意味があるのです。
これまで観察してきた経験から言いますと、一番赤い⑴は、翌日には必ず散ります。また、⑵は、2~3日後には散ります。ぜひ、実際にご自分の目で、今年観察してみてください。
その確実性に驚きと面白さを発見できることでしょう。

サクラが美しいまま散るのは…

一般的に花が散るときは、花びらは色あせたり黄ばんだり、しおれたりして、悲しい姿になって散りますね。ところが、サクラは美しい花びらのまま散っていきます。しかも、とても短い間に。美しいのなら、もう少し花の形で留まっていてほしいと思いますが…。
実は、それにも、きちんとした訳があるんです。
サクラは、『離層(りそう)の発達がいい』のです。この離層というのは、葉が落ちるときに枝から外れる「切り離し装置」のような役割をもつ細胞のことです。花びらと葉は、発生的には同じなので、散り落ちるしくみは同じなんですよ。
この「離層」は花びらと花托(花の中心部分のこと)がつながっているところにあります。この細胞の発達が早いため、上の写真で、花の中心に色がついていない間は、ちょっとやそっとの風で散ることはありませんが、花の中心が濃く色づくのに従って大きくなり、開花から10日程度で、風がなくても花が落ちるようになります。
潔く散るのは花ばかりではありません。サクラは葉を散らすのも早くて、夏のうちから落葉しているのも、よく見られます。春の花見のあとは、ぜひ夏のサクラにも注目してみてくださいね。

コラム

ウメには、実をとるための実ウメと、観賞用の花ウメがあるよ!
サクラのお話が長くなってしまったので、ここでウメのお話ももう少し! ウメには、実を採るための「実ウメ」と、花を鑑賞するための「花ウメ」があります。「実ウメ」の条件は、枝ぶりが頑丈で病害虫に強く、栽培しやすく土質に対する適応性に富むこと。また、完全花が多くて、毎年たくさんの実をつけること。その実は果肉が多く品質優良なこと。さらに幼木から実をつけるようになるまでが早く、15年~20年くらい安定した収穫が見込めることが求められます。 これに対し「花ウメ」は見た目さえよければ…、美しく香り高い花を、毎年豊富に開花すればよいのです。写真の⑴と⑵のように、おしべやめしべがない不完全な花でもよく、実をつけない品種が多く見られるます。もし、近くに梅林などあれば、花を丁寧に観察して楽しんでみてはいかがでしょうか。
※完全花=花びら、がく、おしべ、めしべの4つの部分すべてがそろっている花


写真/モンタ先生


森田弘文

森田弘文(もりたひろぶみ)
ナチュラリスト。元東京都公立小学校校長。公立小学校での教職歴は38年。東京都教育研究員・教員研究生を経て、兵庫教育大学大学院自然系理科専攻で修士学位取得。教員時代の約20数年間に執筆した「モンタ博士の自然だよりシリーズ」の総数は約2000編以上に至る。2024年3月まで日本女子大学非常勤講師。その他、東京都小学校理科教育研究会夏季研修会(植物)、八王子市生涯学習センター主催「市民自由講座」、よみうりカルチャーセンター「親子でわくわく理科実験・観察(植物編・昆虫編)」、日野市社会教育センター「モンタ博士のわくわくドキドキ しぜん探検LABO」、あきる野市公民館主催「親子自然観察会」、区市理科教育研修会、理科・総合学習の校内研究会等の講師を担当。著書として、新八王子市史自然編(植物調査執筆等担当)、理科教育関係の指導書数冊。趣味は山登り・里山歩き・街歩き、植物の種子採集(現在約500種)、貝殻採集、星空観察、植物学名ラテン語学習、読書、マラソン、ズンバ、家庭菜園等。公式ホームページはこちら。

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