理科授業におけるゲストの効果的活用 ~「ゲストに頼る」という視点~【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】理科授業におけるゲストの効果的活用 ~「ゲストに頼る」という視点~
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外部からゲスト講師をお招きして授業をされたことはありますか? 少しハードルが高い、と感じられる方も多いかもしれませんが、ときどき外部の先生が入ることで学習が引き締まることがありますし、子どもたちのロールモデルになることで、子どもたちが目的をもって主体的に取り組む機会になるかもしれません。今回は、ゲストに頼る方法についてです。具体的に何を頼ればいいの? と思っている方はこのような事例もありますよ。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/横須賀市公立小学校総括教諭・大橋幸史朗
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

はじめに

先日、小1になった息子の授業参観に初めて行ってきました。よくがんばっていたので、帰り道で褒めたところ、「そりゃ今日はがんばったよ」と一言。確かに、授業者の視点に戻ってふり返ってみても、参観者という『ゲスト』 の存在は、子どもたちにプラスの影響を与えることが多いように思います。
そこで私からは、理科授業において、子どもたちの「やる気」、ひいては「学びに向かう力」を引き出す手法の一つとして、『ゲストの効果的活用』について、皆さまにご提案したいと思います。
「全部自分で何とかしなきゃ…!」と日々がんばっておられる先生方には、「ときにはゲストに頼ってもいいのだ!」という新たな視点を持っていただければ幸いです。

1.授業参観は、技能習得の場面がおすすめ

まずは、授業参観。せっかく理科で授業参観をするならば、「保護者参加型」の楽しい活動が計画できると良いですね。場面は、技能を習得させる場面がおすすめです。
小学校の段階では、実験器具等の使い方が間違っていたとしても、やり過ごせてしまう事が多々あります。そのため、テストで器具の使い方が問われたときに初めて、技能の習得が不十分だったことが明るみに出るのです。
授業参観は、複数の大人の手で、子どもたちに確実に技能を習得させることができるチャンスと捉えましょう。

実践事例:メスシリンダーの使い方 ~100mLチャレンジ~
5年生児童にメスシリンダーを使って正しく液体を量り取る技能を習得させるために、以下のような保護者参加型ゲームを考案しました。子どもたちに促され、一緒にメスシリンダーの目盛りを覗き込む保護者の姿や、積極的に助言をする保護者の姿が見られるはずです。

100mLチャレンジのルール
① メスシリンダーで水を100mL測り取る。(4人程のグループをつくり、順番に挑戦する。他のメンバーや近くにいる保護者は積極的にサポートしてくれる仲間です)
② 電子天秤に置いたビーカーにその水を流し込む。
③ 電子天秤の示す数値が99~100g(※)なら、チャレンジ成功!⇒グループのみんなで拍手♪
※水100mL=100g。メスシリンダー内に水滴が残ってしまうため、99gでも成功と見なします。

私の場合、最後に、「飽和食塩水」をこっそりと登場させ、「物の溶け方」の学習へとつなげます。このときの子どもたちの思考の流れは、

「あれ、100gを越えちゃった」
「失敗した?」
「そんなはずはない」
「これ、先生が何か溶かしたんだよ」
「水に物が溶けると、その分重たくなるの?」

といった具合です。ゲーム的な活動に終始せず、自然と学習に入り込んでいく展開は、保護者にも好印象を与えられるはずです。

留意点

火や薬品を使用する活動等、危険が伴う活動は、「保護者参加型」には適さないので注意が必要です。危険が伴う活動を実施する場合は、落ち着いた学習環境をつくり、教職員が責任をもって安全指導にあたる必要があります。

2.ゲストティーチャーは心強い味方!

私たちがどれほど丁寧に勉強し、子どもたちの前で語ろうとも、専門家(ゲストティーチャー)のもつ説得力、オーラには敵わないものです。また、私たちがどれほど言葉巧みに誉め言葉を並べようとも、専門家からの「君たちすごいね。」の一言には及びません。
理科教育においては、博物館や科学学習センターなどと連携を図ることが推奨されています。施設側も学校教育に非常に協力的です。施設内の見学だけでなく、学芸員さんの派遣にも柔軟に対応してくださいます。こんなにも心強い私たちの味方。頼らない手はありません。

実践事例:「導入」と「まとめ」で専門家登場 ~わたしたちの成長をご覧ください!~
6年生「土地のつくりと変化」の学習にて、「導入:児童が地域の地層を初めて目にする場面」と、「まとめ:学びを活かして、地域の地層について推論したことを発表する場面」で、博物館の学芸員さんに登場していただきました。
導入の際は、現場までお越しいただき、目の前に広がるしま模様の土地が、何十万年も前に作られたものであることや、見えないところまで広く続いていることを伝えていただきました。これにより、その後の学習で子どもたちが「時間的・空間的な見方」を働かせる場面が表出しました。

<発話例>
「地層ができた時は、今とは(周囲の)様子が違うはず」(時間的な見方)
「海の底には地表に現れていた地層と同じ地層がまだあるかもしれない」(空間的な見方)

まとめの際は、「今日までよくがんばったね」とポジティブな言葉をかけていただきました。子どもたちが推論したことを発表した場面では、「これは…、確かにそうかもしれないなぁ」と大げさに驚いてくださる様子もありました。専門家に認めてもらう経験や専門家を驚かせる経験は、子どもたちの自信につながりました。

子供の発表を見守る学芸員さん

このように、理科授業において、「導入」と「まとめ」の二つの場面で専門家に登場していただく形は、子どもたちが自らの成長を自覚する機会に成り得ます。“ゲストの効果的活用” のひとつの型としておすすめしたいと思います。

留意点

ゲストティーチャーとの打ち合わせでは、活動の内容やねらいを共有しましょう。特に、ゲストティーチャーが話してくださる内容が、対象の子どもたちにとって難しくなりすぎないよう、丁寧に児童の実態を伝える必要があります。

3.おわりに

今回は、保護者や専門家を “ゲスト” とした理科の実践事例をご紹介しました。例に挙げた単元以外でも参考にしていただけると嬉しく思います。尚、ゲストは保護者・専門家に限りません。まずは気軽に、校内の教職員や異学年の児童を “頼れるゲスト” として、学習を計画してみてはいかがでしょうか。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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大橋幸史朗総括教諭

<執筆者プロフィール>
牧 逸馬●まきいつま 鹿児島県霧島市立陵南小学校教諭。理科専科。CST教員。ニックネームは鹿児島のガリレオ。理科を中心に日々実践研究を行う。理科の教材開発が得意で休日は材料探しに100均ショップやホームセンターを梯子している。SSTA鹿児島支部会員、鹿児島理科を語る会会員。親子自由研究相談会や各種研修会に講師として招聘される。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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