「緊急ではないが重要なこと」への時間を確保できてますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #69】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二
チーム学校への挑戦

多くの学校現場で、日々の緊急業務に追われ、本来重視すべき教育活動に十分な時間を割けない状況が続いています。今回は赤坂真二先生が、「アイゼンハワーマトリクス」を用いた学校業務の優先順位づけを解説するとともに、「緊急ではないが重要」な第2領域に時間を確保することの重要性と、その実現に向けたマネジメントの在り方について考察します。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

アイゼンハワーマトリクス

アイゼンハワーマトリクスをご存じの方も多いだろうと思います。アイゼンハワーマトリクスとは、第34代アメリカ大統領、ドワイト・D・アイゼンハワーが演説の中で述べた言葉から、自己啓発書としては名著中の名著と言われる『7つの習慣』を著したコヴィー(スキナー、川西訳、1996)が、具体的な手法としてまとめたタスク管理の方法です。

縦軸に「重要なこと」「重要ではないこと」の2つの評価項目を置き、横軸に「緊急なこと」「緊急ではないこと」の2つの評価項目を置くと、図のような4つの部屋ができます。こうやって身の回りのことを分類すると「最初にやるタスク」「後でやるために予定に入れるタスク」「誰かに任せるタスク」「削除するタスク」といった 4つの領域に分けることができ、自分がやるべきことの重要事項を見極めることができるというものです。

私たちはとかく、緊急かつ重要なことである第1領域にエネルギーを注ぎがちとなります。実際には、対応に迫られているのでエネルギーを注ぐというよりも、エネルギーを奪われる、削り取られるといった感覚でしょう。私たちは第1領域に引っ張られ、それに付随して第3領域にも足を突っ込んでしまい、その疲労感から「まずい」と思っていながら第4領域に時間を費やしてしまうことがあります。第4領域がエネルギーを回復してくれるなら、それはそれでいいのですが、実際には一時の癒しにはなっても、本質的な回復にはなりません。そうやって私たちのエネルギーは消費され、もっとも大切だとされる第2領域に向き合うことができなくなりがちです。

第2領域がなぜ大切だと言われるのかというと、それは今の充実と未来をつくる機能をもつからです。準備、計画、自己啓発等の勉強、健康、人間関係づくりは全て充実感と未来への投資であることは多くの方が理解されることでしょう。しかし、ここに時間を割くことが難しいのが現実です。実際に私たちの生活では、仕事やライフスタイルにもよりますが極めて主観に寄り添って言えば、24時間のうち22時間くらいを第1領域に費やしているのではないでしょうか。

この図は、個人的な生活だけでなく国や組織のあり方を捉えるときにも役立ちます。私たちの国は、「敗戦」に伴う「痛み」というハンデキャップをリカバリーするために、第2領域をあまり顧みず、第1領域である経済活動にエネルギーを注ぎすぎました。そのために「今のような状態」になっているような気がしてなりません。もちろん第1領域は重要なことではあるので対応しなくてはなりませんが、第1領域の取組のみに埋没せず、そこに取り組みながら第2領域に取り組む時間を確保しなくてはならなかったのです。

学校における第2領域

膨大な多種多様なタスクを抱える今の学校には、こうしたタスク管理が必要だろうと思います。特に、近年の学校は「今、やらねばならないこと」が政策や保護者、子どもの要望として、突然湧いて降ってきます。また、教員不足や先生方のメンタルの問題も緊急対応を迫られ、第1領域が膨大に膨れ上がる構造ができあがってしまっています。

学校における主な業務をこの図で整理してみましょう。あくまでも私の独断と偏見による整理です。受容と許容の気持ちをもってご覧ください。

【第1領域】重要かつ緊急なタスク
・授業時数の確保と授業の進度
・様々な書類作成、提出物
・緊急の保護者対応や子どものトラブル解決

【第2領域】重要だが緊急ではないタスク
・教育活動の長期計画やカリキュラムの見直し
・教員の研修や自己研鑽、メンタルヘルス
・教員と子ども、子ども同士の人間関係づくり及び職員のチームビルディング

【第3領域】緊急だが重要ではないタスク
・急な重要人物以外の来客、不定期に入る会議や電話応対
・校内の設備の故障
・急ぎの書類の確認や承認作業

【第4領域】重要でも緊急でもないタスク
・付き合い(数合わせ)で出席する会合、研修
・目的が曖昧な業務、活動
・長引く会議や打ち合わせ

私が思うに、学校教育の中心は、本来、第2領域の営みだったのではないでしょうか。だから教育活動全体が、エンパワメントの場であり、そこに魅力を感じる人が大勢いたわけです。しかし、結果や成果を求める世の中への変化や改革の波は、学校を大量の「ねばならない」で埋め尽くし、教育活動の中心を第1領域に移動させてしまったと思います。

カリキュラムの過剰積載化、コロナ禍、時短ありきの働き方改革、競争原理を持ち込み結果重視の学力向上が、さらにそれに拍車をかけました。第1領域の肥大化は、第2領域の重要性を見えなくし、時には第4領域として誤解させてしまったのかもしれません。教室における子ども同士のふれあい、じゃれ合い、職員室における談笑などの優先順位が下がり、ギスギス音を立てているような学校もあると聞きます。重要事項を蔑ろにして緊急事項に対応しているうちに、学校は未来や希望が見えない場になってしまったのでしょうか。

これから発展する業種、人々は、この第2領域に取り組む時間を確保できる人たちです。学校教育においては、第2領域に取り組む時間を確保した学校です。そして個人では、残された時間をここに充てることができる人たちです。真の教育改革は、子どもたちに第2領域を確保すること、真の働き方改革は、この時間を職員に確保することだろうと思います。

職員研修で、学校業務のマトリクス作成をやってみてはいかがでしょうか。それこそが第2領域の職員研修になるのではないでしょうか。

【出典】スティーブン・R・コヴィー著、ジェームス・スキナー、川西茂訳『7つの習慣』(キングベアー出版、1996)


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現所属。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。2018年3月より日本学級経営学会共同代表理事。『最高の学級づくり パーフェクトガイド』(明治図書出版)など著書多数。


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