<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯13 徳島県石井町立石井小学校5年3組③<前編>

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菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。今回からは、徳島の堀井学級(5年生)における、11月下旬の授業レポートです。菊池先生と堀井先生による、2時間続きの「熟議」の合同授業です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

担任・堀井悠平先生より、学級の現状報告

二学期も半ばを過ぎると、子供たちはそれぞれの個性を発揮したり、学級での役割を自他ともに認め合ったりして、一人一人の居場所ができてきたように感じています。
今まで顔を覆っていたマスクを外し、学級活動にも授業にも積極的に取り組むようになった子、これまで無反応で発言しなかったけれど、最近では深い質問をし、ワードセンスを発揮しながら自分の意見を発表するようになった子、率先してクラスをリードする子――日を追うごとに、それぞれに役割が生まれ、それを学級全体で受け入れる空気ができています。
9月に初めて取り組んだ熟議では、「日本一の話し合いにするにはどうすればよいか」というテーマ設定が難しかったためか、議題設定の過程が教師主導になり、子供たちの意欲を高め切れなかったことが大きな反省点として残りました。
熟議の最中も、おとなしい子の発言を受け入れずに強引に決めようとする子供たちや、話し合いの輪の中に入れずに、外から見ているだけになっている子がいて、話し合いそのものを見直すきっかけになりました。
1回目の熟議の後は、みんなで挙げた課題の解決に向け、具体的な活動を決めて取り組んできました。その中で、「一番難しいな」と感じるものについて話し合った結果、「相手のことを考えた対話」「相互理解を深めること」という意見にまとまり、それらを2回目の熟議の議題として挙げることとしました。

菊池先生と堀井先生の合同授業レポート

5年3組は、<日本一の話し合いにするにはどうすればよいか>の議題で、9月に熟議を行った。話し合いの結果、子供たちから次の4つの解決策が出された。

自分の意見を発表する
白熱するための全員参加
相互理解を深める
相手のことを考えた対話

子供たちは、最初の熟議が終わってから2か月、上記の解決策について取り組んできた。その結果、「自分の意見を発表する」「全員参加」はできるようになってきた。しかし、「相互理解」「相手のことを考えた対話」については、「難しい」という意見が出された。
どうすればもっと相手のことを理解できるか──。そこで、今回(11月)の熟議では、<自分や相手のことをもっと理解するためにはどうすればよいか>について、解決に向けたアイデアを出し合うことにした。
熟議のグランドルールは、次の3つ。

①発言を「いいね」で受け入れよう
②発言に発言をつなごう
③みんなが参加者になろう

「みんなで解決に向けたアイデアを出していきましょう」
と係の子が説明すると、みんなが大きな拍手を送った。

Point1
熟議に取り組む教室もありますが、「1回熟議をやっておしまい」ということが多いのではないでしょうか。前の授業で行った熟議を踏まえて、解決策を実行するうちに、新たな課題が生まれてくる。それらを解決するために何をするかを新たな議題として挙げて、再び熟議を行う。これが本当の熟議です。
5年3組のように、議題について考え続け、熟議を続けていくことは、とても重要です。

堀井先生が「自分や相手の何を理解するのか、理解したいのか、近くの人と話し合いましょう」と声をかけ、話し合いの後、数人が発表した。

感情
長所と短所
個性

「では、相手をお互いに知るために、日々どんな活動をしているか言える人?」
と堀井先生が尋ねると、子供たちは次々に意見を出した。

授業中や休み時間の交流
質問タイム
ほめ言葉のシャワー
係活動

子供たちの意見を黒板に書きながら、堀井先生が、
「日々やっているから、みんなは相互理解ができているのかな、と思っていました。例えば、自学ノートに、一人一人の良さを書いてくれる人がいました。学級全体のいいところを紹介してくれる人もいました。それなのに、なぜ難しいのか、相互理解が深まっていないのかを、今日の熟議では話し合っていきたいと思います」
と説明すると、子供たちは真剣な表情でうなずいた。

付箋に書いた意見を、グループ分けしながら模造紙に貼り出す

まずは、一人一人が青い付箋紙に自分の考えを書き出していく。書き終わったところで、各自が付箋紙を大きな模造紙に貼り出していく。似た内容をグループ分けし、マジックペンで囲んで項目を入れていく。

自分の長所をわかっている
相手の長所をわかっている

「この2つは、一緒(のグループ)にまとめるね」
「いや、自分と相手だから、ちがうグループじゃない?」
「『友達とだけ話す人がいる』は、『交流』のグループかなあ」
「そうだねえ」
「『交流』がちょっと多すぎるから、もっと分けた方がいいんじゃない?」
「ねえ、○○君が書いた『みんなの考えをパクる』っていうのは、いい意味、それとも悪い意味?」
「悪い意味かなあ」
「いや、いい意味」
「じゃあ、(付箋に)『いい意味で』を書き加えた方がいいね」
あちこちで、楽しそうに相談し合う声が聞こえた。

一番解決したい課題を1つ選ぶ

堀井先生が、
「今、出てきている意見の中で、『一番解決したいこと』を決めましょう」と次の話し合いの内容を指示、菊池先生が「一番深刻なものを決めるといいね」と続けた。
「『相手のことを知ろうとしない』と『しゃべらない』は似ている」
「これは『相互理解』をしようとしていないからやね」
「ああー、そうだねえ」
この班は「相互理解しようとしていない」に的を絞ったようだ。
一方、他の班では「自己開示ができていない」「コミュ(ニケ-ション)力が高まっていない」の2つのグループの関係性について話し合っていた。
「『関係性をよくするために自己開示する』というけど、よくしようと思っても、『話したい』という心を持たないと話してくれないのでは」と、コミュ力を重視する子の意見に納得し、2つのグループを矢印でつなげながら、「自己開示するにはコミュ力が必要」と模造紙に書き込んだ。
「自己開示すれば、コミュ力が高まるの? じゃあ、この二つは合体かな?」
という投げかけに、どうしようか思いあぐねている様子を見た堀井先生が、
「『コミュ力』って具体的にはどんな力?」
と尋ねた。子供たちが「会話力」と答えると、
「それも書き込んでいった方がいいね」とアドバイス。
「会話の他は?」
「うなずき」「相づち」「正対」「語彙力」といろいろな活動を出し合う子供たち。
「こっちにある『交流』(のグループ)は?」
「交流するときは、仲がいい友達とやりがちやけん、合体させていいかも」
この班は、「自己開示するためには、コミュ力をつける」に決めた。

Point2
熟議は、ディベートほどはっきりとしたフォーマットが決まっていません。ですから、子供たちの話し合いの中で、「ここは大事だな」と思ったことがあれば、教師が介入してもいいのではないでしょうか。
この班では、自己開示とコミュ力に課題があることを話し合っていました。
「関係性をよくするために自己開示が必要」→「『話したい』という心を持たなければ話してくれない」→「コミュ力を高めなければいけない」というのが話し合いの流れでした。
このとき、堀井先生が「『コミュ力』って具体的にどんな力?」と子供たちに尋ねました。これは、子供たちの考えを整理させるために必要な介入でした。子供たちが「会話力」と答えると、「そういう具体的なことも書き込もう」とアドバイスしていましたが、技術的なものだけでなく、内面的なところまで考えさせるため、もう一歩踏み込んだアドバイスをしてもよかったでしょう。

菊池先生から堀井先生へのメッセージ

一人一人がしっかりと意見を出し、話し合いながら課題を見つけていく熟議は、大人でも難しい話し合いです。3組の話し合いが、9月の熟議に比べて深まっていることに感心しました。
じっくり考え、みんなで話し合いながら課題を練り上げていく熟議を継続していくことで、子供たちが成長していることがわかりました。
一方、熟議に慣れてくると、良くない意味で饒舌になってしまう場合があります。知っている価値語や学んだ言葉で意見を作るようになり、表面的な言葉だけのやりとりが続く可能性が出てきます。
例えば、自己開示が必要→どうすればいいか→本音で話す→そのためには自己開示が必要、というように、言葉だけが堂々巡りしてしまうことがあるのです。
当事者意識がない状態での話し合いは、所詮他人事なので、具体的な解決策がなかなか出てきません。結果として、迫力ある話し合いにならないのです。
ときには原点に戻り、当事者意識を持って意見を作り出すという “思考の方向性” を示していくことが重要です。そのためには、教師の介入が必要になる場面も出てきます。
今回の熟議でいえば、どの班も課題を相手側に向けていました。

休み時間に、仲のいい人だけで交流している
質問タイムのとき、相手の目を見ていない
協力しない人がいる

このように、多くの子供が、“相手に問題ありき” で意見を作っている様子が見られました。
堀井学級のキーワードとしてよく出てくる「自己開示」「相互理解」という言葉は、どの班でも出ていましたが、「自己開示するためにはどんなことが必要か」という話し合いになると、“相手” に求める意見が多く出されていました。自分事として捉えている意見があっても、少数だったためか、最終的に残る班はありませんでした。
少数でもキラリと光る意見や、自分事としてとらえている意見を見つけたら、教師はそこを大きく取り上げ、価値付けていくことが大切です。

授業の様子。一人一人が書いた付箋紙を、模造紙に貼ってグループ分け。班ごとに特色ある模造紙ができあがっていく。
一人一人が書いた付箋紙を、模造紙に貼ってグループ分け。班ごとに特色ある模造紙ができあがっていく。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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