【実践レポート】子供たちが伸び伸び学ぶ「単元内自由進度学習」
学習単元の中で子供たちがそれぞれ自分のペースで学習を進める単元内自由進度学習を3年前から導入している埼玉県上尾市立尾山台小学校(児童数:157人、令和6年5月1日現在)が研究発表会を行いました。研究主題は「自ら学び、考え、共に高め合う児童の育成」です。単元内自由進度学習では、小1、小6、特別支援学級の発表がありました。そのなかから、小1と小6の実践を紹介します。
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目次
子供自身のペースで学べる自由進度学習
「自由進度学習」とは、子供が自分のペースで教科内容を学んでいく学習方法です。小学校にICT環境が整備されたことで、子供たちが同じ教室にいてもICT端末を使って個人の調べや探究ができ、別々の内容やペースで学ぶ場面が増えてきた背景があるため、自由進度学習に取り組みやすい状況になってきました。
「自由進度学習」は、「進度」と「内容」とを子供自身に委ねるという特徴があります。「進度」に関しては、子供自身の理解度や興味に合わせて学ぶスピードを調整できます。そのため、苦手なところに時間をかけたり、好きなところから取り組んだりすることもできるのです。また、「内容」に関しても子供自身が学習内容を選ぶことができます。内容は、教師が複数の教材や資料などを前もって準備します。
「自由進度学習」には、特定の教科の1つの単元のなかで行う「単元内自由進度学習」があります。同校では、学期に1回、例えば、小学1年では国語と算数、小学6年では社会と理科という2教科ずつの単元内自由進度学習を行っています。2教科を組み合わせているのは子供が飽きずに取り組めるからです。文科系と理科系というように教科の特徴が異なる組み合わせにしているのです。また、進度を他者と比較しにくくなるため、自分のペースで没頭できるよさがあります。
単元内自由進度学習の最初は、一斉指導から始まります。第1段階は、「単元内自由進度学習」とはどのようなことを行うのかという説明を子供たちに行います。子供たちは、自分に合った学習計画を立てます。第2段階は、自由進度学習になります。国語科の「じどう車くらべ」「じどう車ずかんをつくろう」の場合は、1~8の学習カードがあり、それに沿って子供たち自身のペースで学習していきます。それが終わった第3段階では発展学習になり、5つくらいの課題から自分の好きな課題を選ぶことができます。この段階は任意のため、基本となる第2段階をじっくり取り組むことも選択できます。発展学習が終わったら、一斉指導で本単元のまとめを行います。
子供たちが自分の活動に集中して取り組む
教室に入ると、子供たちは一見「遊んでいるのか?」と思うような様子です。それは、子供たちが教室を自由に動き回り、それぞれが自分の学習をしているからです。それこそが単元内自由進度学習の特徴と言えます。自由進度では、子供が集中できていなくても、周りに迷惑をかけていなければ、注意をしないことにしています。ある程度時数が過ぎた時点で終了しそうもない場合は、個別の声かけをして、このペースで終わらないことを本人に気付かせ、自分の意思で学習に向かわせるようにします。
小学1年では、国語と算数との2教科を同時進行で行う単元内自由進度学習を行っています。今回、小学1年では8割以上の子供が第2段階の学習カードをすべて終え、発展学習に進んでいるところです。発展学習にはお楽しみの要素も入れ、そこに進めることを楽しみに学習が進められることを意図しています。
1年1組の教室では、自動車の塗り絵をしている子、かるたを囲んで自動車のかるた合わせ(トランプ遊びの神経衰弱)をしているグループ、プリントに取り組んでいる子、隣の教室では、いろいろな形の空き箱を積み上げて高いタワーを作っている子など、それぞれ自分の活動に集中して取り組んでいます。
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また、6年1組の教室では、調べ学習をしている子、ジオラマを作っている子、自分の調べ学習を友達と共有している子、隣の教室では、てこ実験器でおもりをつり下げて実験をしている子、てこを活用して自転車の下敷きになった猫のぬいぐるみを助けている子など、自分の課題に自由に取り組んでいる姿が見られます。小学6年では、社会と理科との2教科を同時進行で行う単元内自由進度学習を行っています。
子供たちには、自由進度学習で、「自分で学習の計画を立てる力」「最後までやりきる力」「自分で立てた計画をもとに実行する力」などの力が身に付くと考えています。また、子供たちは、「自分のペースで進められる」「活動が楽しい」「今やりたい勉強からできる」「知りたいことを詳しく知ることができる」「友達に教えてもらえる」などの理由から好きな授業だと言って、授業を楽しみにしています。一方で、「分からないときに困ってしまう」「1人でやるのが難しい」という声も少数あります。
次に1年生、6年生のそれぞれについて、指導計画と本時の授業展開を見ていきます。
小学1年の単元内自由進度学習(国語/算数)
単元名:国語 「じどう車くらべ」「じどう車ずかんをつくろう」、算数 「どちらがながい」「かたちあそび」
◎単元の指導と評価の計画(国語10時間 算数10時間 本時12/20時間)
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小学1年の子供たちは、国語科では「じどう車くらべ」「じどう車ずかんをつくろう」、算数科では「どちらがながい」「かたちあそび」の単元内自由進度学習中です。子供が学習に自分から取り組み、興味をもち続けながら学習できるよう2教科同時進行の自由進度学習の単元にします。子供たちは、それぞれ自分の計画に従って、国語あるいは、算数の学習活動を行っています。同じペースで学習が進んでいる子供たちは一緒に活動する姿も多く見られます。自由進度学習では、1人学びを基本としていますが、自然に協働的な学びが生まれたときには、それを止めることはしていません。学習カードは廊下に並べられ、子供たちが自由に持っていけるようになっています。
子供たちには、最初の一斉授業で「自由進度学習」についての説明をしておきます。子供たちが疑問に思う点は、最初の説明時に伝えておきます。
分からないところがあったら、どうすればいいのでしょうか?
まずは、自分で考えたり、教科書を調べたりします。それでも分からないときは、友達に聞いてもOKです。友達に聞くときは、小さい声で、短い時間で聞きます。友達も自分のペースで学習しています。じゃまをしません。先生に聞いてもよいのです。
速く進むことがよいことですか?
速いことがよいということではありません。この学習のよいところは、自分のスピードで進めることができるところです。「分かったふり」や「ずる」をしたり、自慢をしたりすることは、自分の成長につながりません。
終わらなかったら、どうしたらいいですか?
全員必ず学習しなければいけないところは、国語はチェック3まで、算数はチェック2までです。終わらなかったときは、休み時間を使ったり、宿題としてやってきたりします。
テストはありますか?
あります!! 最後にテストを行います。 テストをすると、自分の学習した成果が見えます。
終わったプリントは、どうすればよいのでしょうか?
「先生に見せる」「答えカードを見る」の2つの方法があります。答えカードがあるときは、自分で丸付けをします。間違えがあったら、正解するまで頑張りましょう。直し終わったプリントは、水色のファイルにとじます。
国語の学習をしていたのに、算数の学習がしたくなりました。移動してもよいですか?
1時間の途中で、違う教室に移動できません。移動したいときは、次の時間にしてください。
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国語科では、学習のヒントとなる掲示物や教師の作った手本を掲示することで、いつでも確認できるようにします。また、読み書きの苦手な子供のために音声付きの文章を用意し、視聴しながら学習できるようにします。
算数科では、子供にとって身近な物を取り入れたり、使ってみたい材料を自分で選択したりすることによって、楽しみながら学習に取り組めるようにします。
小学6年の単元内自由進度学習(社会/理科)
単元名:社会「江戸幕府と政治の安定」 理科「てこ」
単元の時間:社会6時間 理科8時間 本時10/14時間
社会科での学習問題は「徳川家は、どのような政治をして、世の中を安定させたのか」です。その課題解決に向けて、「飛脚コース」「大名行列コース」「江戸満喫コース」という3コースが設定されていて、子供たちは好きなコースを選びます。「飛脚コース」は標準コース。廊下に置かれた学習カードを順番に取って学び進めるようになっています。「大名行列コース」は、調べたことをノートにまとめて学習を進めます。「江戸満喫コース」は、漫画を読み、歴史の流れをつかみながら学習します。漫画から教科書や資料集での学習に移行させ、押さえるべき用語を理解できるようにします。
歴史人物の肖像画やその人物の業績を掲示したり、江戸幕府の関連図書を用意したりして、子供が学習しやすいようにします。発展学習では、宿場町調べや年表をつくろうなどの「調べ学習系」、漫画や絵本・小説を書こう、歴史人物クイズをつくろうなどの「創作系」、関ヶ原の戦いのジオラマをつくろう、参勤交代の様子を描こうなどの「工作系」などの学習活動が設定されてます。
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理科での学習問題は「なぜ、道具を使うと楽に作業ができるのか」です。課題解決に向けて、「てこのひみつコース」と「道具deてこコース」の2つのコースが設定されていて、子供たちは好きなコースを選びます。てこの原理から考えるコースとてこの道具から考えるコースに分かれています。それは、てこの実験装置やてこを使った道具を一人一人使用し、じっくり作業を行い、思考する時間をつくれるからです。さらに、実験の時間を長く取れるように、実験道具を置いたスペースをパーテーションで区切っています。
発展学習には、てこ実験器で2か所以上におもりを下げた場合について調べよう、学校の中にあるてこを利用した道具を3個以上見付けて調べようなどの「実験・調べ学習系」、モビールを作ってみよう、てこを利用したおもちゃを作ろうなど「工作系」、てこを使って救助しようなどの「仕事系」が設定されています。発展学習に生かすために、てこの原理を使ったくぎ抜きやピンセット、はさみなどの道具が用意されていました。
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ミニインタビュー
校長 熊坂由美子先生
多様な子供たちが自己肯定感を得る
単元内自由進度学習では、子供自身の力で考え、計画を立て、主体的に学習に取り組む姿を多く見ることができています。また、学習する教科、方法、場所を選択できることから、学ぶ楽しさを実感し、意欲的に取り組んでいる子が増えています。子供が学習のゴールまで達成できない場合は、教師の意図的な声かけのタイミングや見取り方を引き続き研究していく必要があると感じています。
教師側では、教材研究の視点を「教師が何をどのように教えるか」から「子供が自分の力で課題を解決する」に変えました。多様な子供を想定して、学習カードやヒントカードを作りました。授業時間には、学習をコントロールするのは教師ではなく、子供一人一人となっています。しかし、すべてを子供任せというのではなく、教師は子供の動きを観察し、要所要所で指導するという動き方をするようになりました。
単元内自由進度学習を取り入れた3年前、校長の私も学習カードを作りました。そのとき私は、難易度3段階のカードのなかの、いちばんやさしい学習カードを作成しました。勉強が苦手な子がある程度解けるような内容にしたところ、いつもは学習を積極的に取り組まなかった子が、スキップしながら次の学習カードを求める姿を目の当たりにしました。自己肯定感や達成感を得たのだと、単元内自由進度学習のよさを感じた瞬間でした。
また、実践を重ね、子供たちの意識調査をすると、この学習方法が「好き・とても好き」と回答した児童が96.4%、「またやりたい・とてもやりたい」が95.5%、さらに「尾山台小の自慢は?(自由記述)」に「自由進度学習があること」と回答する子供が複数いるほど、子供たちに人気のある学習方法となっています。理解が速く一斉指導では待つことが多くなる子、様々な理由から教室に入れない子も、この時間を楽しみにしています。
課題はクリアしながら、今後も一人一人の個性や多様な学び方を大切にし、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を目指すことで、よりよい学びの場を創出していきたいと思っています。
取材・文・構成・写真/浅原孝子