健康管理は日常の良い習慣から! 特別支援学級の自立活動(健康の保持)を、歯みがき指導で実践しよう
今回は特別支援の自立活動「健康の保持」指導の一例として、歯みがき指導の授業実践を紹介します。触覚過敏があると、歯みがきを口に入れることに抵抗があります。また、ボディーイメージが身についていないと、口の中は肉眼では見えないため、不安が先行してしまったり、歯ブラシを上手に動かせなかったりします。そのような場合は、鏡を使いながら歯みがきに取り組むと、安心して取り組むことができます。子どもたちの実態に合わせて、指導の仕方を工夫する必要があります。歯みがきに対して、前向きな気持ちで取り組むことのできるよう、支援をしていきたいものです。
【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #06
執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉
歯みがき指導から適切な健康管理を
「健康の保持」の項目には、大きく分けて5つの項目が設定されています。
⑴ 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
⑵ 病気の状態の理解と生活管理に関すること
⑶ 身体各部の状態の理解と養護に関すること
⑷ 障害の特性の理解と生活習慣の調整に関すること
⑸ 健康状態の維持・改善に関すること
つまり、健康を保持したり、生命を維持したりしながら適切な健康管理を行うことができるようにするとともに、日常生活を行うために必要な身体の健康状態の維持・改善を図ることが目的とされています。
今回は、本校の養護教諭をT1として行った、特別支援学級での「歯みがき指導」について紹介します。担任が指導する方法もありますが、ここは専門性を備えたゲストティーチャーを招聘して授業実践をお願いした方が、より子どもたちの心に響き、歯みがきをしようという実践的態度に結び付きやすいものと考え、敢えて養護教諭に協力を依頼しました。
私は以前から、子どもたちの歯みがきの様子が気になっていました。そこで、
毎朝・毎晩歯みがきをしているかどうか、担任しているクラスでアンケートを取りました。そうしたところ、以下の通りの結果になりました。
この結果から、家庭で、歯みがきの習慣が身についている子どもたちが半数、身についていない子どもたちが半数という実態が分かりました。また、歯みがきをお家の人に手伝ってもらっている子どもたちが多いことが分かりました。歯みがきの必要性と虫歯との関連についても理解しているようです。このような子どもたちの実態を踏まえて、子どもたちには以下の内容について、できるようになってほしい、知ってほしいと考えました。
●一人で歯みがきができるようになってほしい。
●歯みがきをしないと、虫歯だけでなく、歯周病や口臭の原因になることも知ってほしい。合わせて歯周病や口臭についての知識も身につけさせたい。
●口臭と言う切り口から、自分だけでなく、相手も困らせてしまうことがあることに気づかせ、相手意識の醸成にも繋げていきたい。
養護教諭が授業をしている際、子どもたちに補足をしたり、別の時間に説明をしたりしながら、授業を実践していきました。以下に、授業の様子や指導案を紹介します。特別支援教育に携わっている先生方だけでなく、養護教諭の方にも非常に参考になるのではないかと思います。
【事前準備】
●口をすすいだ水を出すための牛乳パックを準備する。牛乳パックの上を開いて、コップの形にし、洗って乾かす。1人1個
【児童の持ち物】
●歯ブラシ
●コップ(口をすすぐ水を入れる)
●長いタオル(首に巻く用)
●ハンカチタオル
●洗濯ばさみ(タオルを止める用)
●手鏡
【当日の場づくり】
授業終了後、別の時間にはなりましたが、クラスの子どもたちに感想を聞きました。紹介したいと思います。
*新しく知ったことや、やってみようと思ったことはありましたか。
●歯ブラシを「優しく動かす/小さく動かす」と言うことが分かった。
●歯みがきをお家でもちゃんとやりたい。
●口が臭いのは嫌だから、丁寧に歯みがきをしたい。
●学校でも歯みがきの音楽を聞きながら、歯みがきをしたい。
「学校でも、歯みがきの音楽に合わせて、歯みがきをやってみたい」という意見が多く出たこともあり、子どもたちと一緒に、いつできるかを考えました。そうしたところ、火曜日と木曜日の掃除の時間を歯みがきタイムの時間として、歯みがきに取り組むことになりました。(ちなみに、月曜日は、歯みがきセットを忘れた友達が歯みがきをできなくなってしまうから、歯みがきタイムは辞めた方がいいという意見に。水曜日は、体育や図工があって教室が汚れるから、掃除をした方がいいという意見に。金曜日は特別時程=簡単掃除のため、5分しか時間がないから歯みがきをするには時間が足りないという意見に。よって、火曜と木曜に歯みがきタイムとなりました。子どもたちはこの1年間で、周りの状況を加味しながら、本当によく考えられるようになりました)
本授業で終わりにせず、これからは歯みがきタイムを続けていく中で、子どもたちには歯みがきの習慣をまずは学校で、つけていきたいと思います。また、1月には低学年の子どもたちを対象に、歯科衛生士の方を招いての授業が予定されています。こちらに、特別支援学級の子どもたちも参加できるよう、調整していきたいと思います。そして私自身、一般社団法人予防医療普及協会の一人であります。子どもの段階から、自立活動や保健体育、日常生活の指導の授業の中に、本授業のような予防医療に触れる機会を多く設定していき、子どもたちのQOLの向上に貢献できればと考えています。
【参考文献】
・文部科学省「小学校学習指導要領解説」(平成29年告示)
イラスト/難波孝
奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ/京都教育大学卒業、京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)/現在、埼玉県公立小学校教諭。
2024年現在、小学校教諭11年目(通常学級5年 特別支援学級6年)/自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任/児童発達支援士資格 非営利活動任意団体空に架かる橋Iメンバー/TOSSサークル「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
・「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)