<連載> 菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~ ♯10 高知大学教育学部附属小学校2年B組②<後編>

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菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」  3学級での実践レポート タイトル

菊池実践を追試している3つの学級の授業と子供たちの成長を、年間を通じてレポートする連載。
今回は、高知の小笠原学級(2年生)における、9月中旬の授業レポートの第2回です。「ほめ言葉のシャワー」をレベルアップするための、菊池先生と小笠原先生による2時間続きの合同授業の記録です。

レポートする学級の担任の先生方3名の紹介

上手な子が、ほめ言葉のモデルを示して

「2時間目で、『いいところ見つけ』(ほめ言葉のシャワー)をレベルアップするための言葉をいっぱい考えたよね。今日はAさんのほめ言葉の日なので、(参観者に)聞いてもらいましょう。この前、すごく上手な人を見つけました」
と小笠原先生が話すと、声をかけられた5人が教室の前に出てきた。
「今から、代表の5人の友達が代表で『いいところ見つけ』をするので、どこが上手か、たくさん見つけてください。まず2人、どうぞ」
菊池先生の声かけに、2人が発表。
「1時間目の算数でAさんが手を挙げたとき、ピシッときれいに挙げていて、きれいだと思いました」
「2つあります。1つめは、授業中に姿勢がいいです。2つめは、ちょうどいいぐらいの声でした」
2人のいいところを近くの子と相談し、意見を発表。なかなか手が挙がらないので、まず参観者の先生方から発表した。

相手の目を見ていたところ
「2つあります」と番号をつけて言ったのが、とても聞きやすかった
ハキハキとちょうどいい声で、美しい日本語だった
友達の顔を見て、優しい気持ちを思い浮かべていた

参観者の先生の発表を聞いた後、子供たちも自由に発表。

Aさんに、体を向けて話していた
「です・ます」をちゃんとつけている

小笠原先生が、みんなが見つけた “よかったところ” を黒板に書いていく。菊池先生が、
「『1時間目』と数字を入れて話していました。詳しくその場面が分かっていいね。この調子で、残り3人の発表のいいところも見つけるぞ」と声をかけると、残り3人も発表した。
「2つあります。1つめは、ちゃんと先生の方を見て聞いていました。2つめは1時間目に、笑顔がきれいでした」
「2つあります。1つめは姿勢がよかったです。2つめはちょうどいいぐらいの声でした」
「2つあります。1つめは休み時間に、トイレのスリッパをそろえていました。2つめは、人に物を貸して優しいです」
菊池先生が、
「2時間目で出てきた『すごい』『優しい』という言葉をさっそく使って発表していたのがいいね。じゃあ、3人の発表でいいな、と思ったところは?」
と問いかけると、一人の男子が、「聞いていたAさんのことでもいいですか?」と質問した。
菊池先生が「いいよ」と認めると、その子がトップを切って発表した。

Aさんは、何か言われるとうなずいていた

菊池先生が、「よく見ているなあ。話す人だけじゃなくて、聞いている人も大事、ということなんだね」とほめた。

(発表を)言い終わった後、聞いている人の中で誰かが拍手をしていた。

二人の発表をもとに、菊池先生が、
「上(段)の黒板の上に書いてある(2時間目で考えた)言葉は、すべて “優しい気持ち” の言葉ですね。ほめ言葉は優しい気持ちなんだね」と話した。
続けて、参観者の先生方も発表した。

言う前から笑顔になっていた
みんな、友達を思いやっている
よく考えて言葉を話している。相手を思いやっていることが伝わってきた。言う人も聞いている人も、表情がとてもよかった
みんなきちんと相手を向いて、いい姿勢で話していた

Point1
友達のよかった発言を見つけ合う活動を取り入れると、「大きい声で話していた」「姿勢がよかった」など、表面的な現象についての発表が多くなります。
笑顔やうなずき、身振り手振り、間(ま)などの非言語の部分、発言の内容が出てこないのはなぜか。それは、教師が指導していないからです。教師自身が非言語や内容を意識していないから、子供たちに話すこともない。すると、子供たちの意識もそこにいくことはありません。
発表の中で、聞いているAさんのいいところを話した子供がいました。一見、ずれているように見えますが、この視点に気付いたことはとても価値があることです。
コミュニケーションの公式(コミュニケーション力=<内容+声+表情・態度>×相手軸・思いやり)はスピーチ、つまり、話し手側の公式です。話す側が中心なので、公式の中にうなずきや相槌は含まれません。
ほめ言葉のシャワーは、話し手への指導が中心になりがちですが、実際は話し手と聞き手双方の指導、つまり対話を意識した指導が大切です。

黒板に書き終えた小笠原先生が、
「この前、多くの人が成長ノートに『レベルアップしたい』と書いていたよね。なので、『真剣』も付け加えたいな」と言うと、菊池先生が、
「(発表者の)話す『スピード』もよかったですね」と話し、小笠原先生が黒板に付け足していった。
Aさんと5人がいったん席に戻ると、みんなが大きな拍手を送った。
「こういう言葉を使って発表するのは、国語や算数、全ての勉強のときも同じですね。発表する、聞き合うときに全部大事なことなんじゃないかな。『いいところ見つけ』を毎日しているということは、どの勉強でも大事なことを、毎日みんなで見つけているということ。だから、レベルがアップするんだね」
菊池先生がそう説明すると、小笠原先生が、
「じゃあ、みんな、この中から今日はどういうことを頑張りたいか、1個決めてから、『いいところ見つけ』をしましょう」と続けた。
子供たちは各自、頑張りたい項目のところに、自画像マグネットを貼った。貼り終わったところで、
「美しい姿勢になりましょう」と小笠原先生が声をかけると、みんなの背筋がピンと伸びた。
「今からAさんの『いいところ見つけ』をします。2時間目で見つけた言葉を使って、今決めた『自分が頑張るところ』を考えながら、発表します。まず、隣の人と練習しましょう」
教室に楽しそうな声が響いた。

白い黒板は、みんなが学んだ成果

いよいよ、本番。
司会役の子が、「今からAさんの『いいところ見つけ』の本番をします!」と元気よく声をかけた。
小笠原先生が司会役の子の隣で小声でつぶやくと、その子がなぞって話した。
「準備はいいですか? 美しい姿勢になっていますか? まさか上履きを履いていない人はいませんよね?」
「誰~!?」とみんな大笑い。
「後ろにいる大人たちをびっくりさせよう!」
司会役の子の言葉に続いて、みんなが元気よく、「おーっ!」と答えた。
発表前に何を頑張るかを言ってから、縦列ごとにスタート(以下、< >内は、その子が選んだ「頑張りたいこと」)。

「優しくて素敵」<拍手>
「いい姿勢だったです」<優しい気持ち
「2つあります、一つ目は姿勢がよかったです。2つめは先生の話を聞いていました」<数字
「姿勢が美しいです」<です・ます
「1つ目は、先生の方を見て話を聞いていました。2つめは、1時間目に手の挙げ方がきれいでした」<目を見る
「行動が速いからすごいと思いました」<姿勢
「人が話しているときに、ちゃんと相手の目を見ているところです」<優しい気持ち


途中で1人の女子が発表できずに下を向いてしまった。すると、小笠原先生が、
「今日は緊張しているけれど、いつもは話すもんね」と助け船を出した。
菊池先生も、「聞いている姿勢は一番いいよね」とフォローした。

Point2
発表できない子にどう対応するか。この場面で小笠原先生は、「いつもは話せる」ことをみんな(子供たちと参観者)に伝えてフォローしていました。
子供のつまずきを伸びしろとして捉えられるかどうかは、常に教師自身が目指す方向性と照らし合わせているかどうかにかかっています。

「いいところ見つけ」は続く。

「先生の方を向いて話を聞いていました」<拍手
「話を聞く名人だと思いました」<スピード
「目線がいいです」<です・ます
「チャイムが鳴る前に座っていました」<ちょうどいい声
「元気が日本一と思いました。次は世界一になってください」<です・ます
「相手の目をちゃんと見ていました」<ちょうどいい声

最後に小笠原先生が、
「みんなの目を見て聞いていましたね。そういうAさんみたいな優しい子が増えたらいいなと思います」と涙ぐみながら話した。
Aさんが、「私のいいところを見つけてくれてありがとうございます」
とお礼の言葉を述べ、今日の「いいところ見つけ」は終了。
終了後、参観者の先生たちが、「今日のいいところ見つけ」のよかったところを話した。

Aさんが全員の目を見ていたのは優しい聞き方だと思う。Aさんが安心して聞けるのは、周りのみんなが静かに温かく見てくれたから。Aさんも2Bのみんなもすごい
うちの学校でもほめ言葉のシャワーをやっているので、帰ったらみんなのいいところを伝えたい。

「黒板に書いてあることは、すべてみなさんが学んだことです。ここに書かれていることは全部ハートマークです。温かい気持ちを大事にして、もっともっと成長していくんだな、ということが伝わってきました」と菊池先生が話すと、小笠原先生が、
「さっき、とても感動して泣いてしまった理由を言います」と、後方の女子のところに向かった。
「Bさんは今日、『笑顔を頑張る』と言いました。ほめ言葉のとき、今までBさんはなかなか笑顔になれなくて、成長ノートに『みんなともっと仲良くなりたい』と書いていました」
小笠原先生が感極まって言葉に詰まると、何人かが、「先生、大丈夫?」と声をかけた。
「ありがとう、大丈夫だよ。今日、みんなが温かく聞いていたからBさんは笑顔になれたし、みんなが2時間頑張ったから素敵なほめ言葉になった、と先生は嬉しく思っています。もっと素敵な学級にしていきたいと思います」
みんなが大きな拍手で授業を締めくくった。

Point3
担任は、一人一人の子供とつながりながら、学級の子供たち全員のつながりに結びつけていくタイミングを図っています。この授業で小笠原先生が涙を見せた瞬間は、日々の中でBさんと学級とのつながりを考え続け、待ち続けていた、まさにそのタイミングだったのではないでしょうか。
子供たちがつぶやいた「先生、大丈夫?」という言葉かけや大きな拍手で、教室の空気が一層温まりました。教師自身が自己開示するから、子供たちも自己開示していくのです。
子供の内面の動きは、毎日関わっている担任だからこそ分かることです。こうした場面を積み重ねながら、学級は成長していくのです。

菊池省三先生による授業解説

1時間目は知識の習得、2時間目で学んだ知識を活用するというパッケージの合同授業でした。
その中に、チョークリレーやペア学習、参観に来た先生や実習生の巻き込み、モデルとなるほめ言葉の提示、学んだことを意識しながら行うほめ言葉のシャワー……そうした様々な活動をいくつも入れて構成しました。
中には子供たちが初めて経験する活動もあり、各場面で様々な表情が見られました。
例えば、パソコンとモニターがつながらないアクシデントが起こったとき、子供たちがモニターに近付こうと押し合う場面がありました。次にこういうアクシデントが起きたとき、順番に並ばせれば混乱は生じないかもしれませんが、それでは根本的な解決にはなりません。
「見られない子がいるけれど、どうすればいいと思う?」と言葉をかけ、学校生活や授業の中でどうすればいいかを話し合う機会にしていくといいでしょう。
そうした場面でエネルギーがある子が強引に引っ張っていってしまうと、学級にはマイナスの空気が漂います。
どのようにプラスの方向に向かわせるか。その一つの方法は、教師が場面ごとに見本になる子を取り上げ、モデルを示すことでしょう。
本人のやる気を引き出し、それぞれのよさがみんなの役に立つよう、一人一人を取り上げる──。
これを1年間繰り返していけば、マイナスの現象に一喜一憂することなく、早いスピードで対応できるようになっていきます。いい意味で効率よくそれができていけば、コミュニケーション力の成長が大きく加速する教室をつくれるのではないかと期待しています。
担任は、一人一人に寄り添うことを根本に置きながらも、集団として望ましい姿を示すことが大切です。
○○さんは何ができて何ができないのか。どんな対応ができるか。この、“どんな”の手段が多ければ多いほど、子供に適切な対応ができるはずです。手段は、細かいふるいのようなものです。粗いざるでは多くの子を取りこぼし、「こぼれた子に問題がある」と、子供をひとくくり捉えてしまうようになります。
気になる子がいるから、あの手この手を考える。だから教師は成長するのです。細かい目のふるいの視点を常に持ち続け、対応していくことが大切です。

「いいところ見つけ」の様子
自分が頑張りたいポイントを意識しながら、「いいところ見つけ」に挑戦。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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