今までの実験を想起し、実験器具を実際に触りながら、解決の方法を発想する力を伸ばす理科学習【理科の壺】
問題解決の過程の中でも、「解決の方法を発想する力の育成」は「難しい!」という声をよく耳にします。今回は、6年の「植物のからだのつくり」を例にして、子どもたちに、予想を確かめるために解決の方法を発想する力に焦点を当てて紹介します。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・岩本 俊
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.5年生までの学習で知っている植物のことと、前単元の「動物のからだとしくみ」で学んだことと比べて問題を見いだし、学習計画をたてる
まずは、子どもたちの学習してきたことを整理します。
5年生の「植物の発芽と成長」の単元で学んだことは、
植物の成長に必要(関係している):空気・水・肥料・日光・適した温度
の5つの条件があるということです。
さらに、6年生の前単元「人のからだのしくみ」で学んだことは、
人が生きていくために必要:空気・水・栄養・(日光)・適した温度
です。呼吸した空気から肺で酸素を取り入れ、血液を通して全身に行きわたることや、食べたものがどこで消化され、どのように吸収されるかといったことなど、「どうして空気・水・栄養が必要なのか」を詳しく知ることになります。主にその2つの学習経験から問題を見いだしていきます。
4年生の学習で植物は、気温が上がると成長し、下がると植物は成長しにくかったり、枯れてしまったりすることを知っています。6年生では、5年生で学んだ必要(関係している)な条件について、空気、水、肥料(栄養)、日光の4つが植物の成長に「どうして」必要なのかその理由を詳しく調べていくという学習計画を立てることが出来ます。子どもたちは、成長に必要(関係している)な条件として知っていますが、「どうして必要なのか、どうやって取り入れているのか」等詳しくはわかっていません。そこで、前単元である「動物のからだとしくみ」の学習と比べて整理していきます。
「空気がいるってことは、どこかから取り入れているよね。口や気管、肺みたいなものがあるのかな」「どこから取り入れているの?口があるのかな。根は土の中だから、葉か、茎だと思う」
「二酸化炭素を吸って、酸素を出していると聞いたことがある」
「森は空気がおいしいから、酸素が多いんじゃないかな」
など、知っていることと知らないこと(詳しく知りたいこと)を整理していきます。
子どもは、すでに、知っていることや経験から予想をしながら問題を見出しています。例えば、『水はどこから吸収しているのだろうか』については、経験から「根から吸っているだろう」という予想をもちながら、学習問題を整理していきます。
2.予想を確かめる方法を想起する・実際のものを使って解決の方法を発想する
今まで理科の実験で、調べるときに使った器具・実験方法について想起する時間を取ります。前単元である「燃焼の仕組み」「動物のからだとしくみ」で使った器具・実験方法についてはすぐに思い出すことが出来ますが、水の動きを見やすくする方法など、子ども自ら想起するには難しいものもあります。
どの経験と結び付けていくと子どもの思考がつながるか、教師があらかじめ想定し、子どもと一緒に黒板などを使ってふり返ります。その後、子どもの思考と実際の物とを結びつけて、解決の方法を発想させることが有効な手立てとなります。
【子どもたちの学習経験を想起する板書例】
子どもたちが予想を確かめるため、解決の方法を発想していきます。調べる方法と使う物が想起されると見通しをもつことができ、子どもたちは、ものを触りながら解決の方法を発想しています。同じような方法は、図工や体育で実践されているのではないでしょうか。環境を整えることで、子どもたちは、自ら学びを進めていきます。
この他にも、理科室の中にあるものは子どもたちが必要に応じて様々使っていきます。4年生の理科室の使い方の学習を終えたら、自分たちで準備片付けをする習慣をつけると、物の場所を覚え、使い方もどんどん身に付いていきます。
一方で、子どもたちが行ったことの無い方法や使ったことの無い器具も実験に必要になってきます。
本単元では、よう素液をつけたときに、「でんぷんの反応が見にくいからわかりにくい」という児童の反応から、「どうすれば見やすくなる?」と問うと、「種子のでんぷんでは、種が白かったから見やすかった」と言いながら5年生の学習履歴をタブレットから出しながら考えていました。そこで教師は、エタノールを使った脱色の方法を教えました。「水はどこから吸っているのだろうか」という実験では、子どもたちは「絵具」と発想しますが、絵具では水の通り道(道管)は染まらないので、染色液(切花着色剤)を渡しました。
このように、子どもが何を知っていて、何を知ることが必要なのかを教師側がしっかり理解しておきましょう。
理科の学習は、子どもたちが自分たちで実際のものに触ったり、実験して確かめたりすることに価値があります。大人が教材研究する際と似ているかもしれません。それぞれ、班で相談し、方法を決め、必要なものを出してきたり、時には教師に相談したりして学習を進めていきます。
【子供たちが書いたカード例】
このように今までの学習で使ったものや方法を想起して、実際のものを触りながら、思考・判断・表現していく学習方法は、図工や体育の学習ではよく取り入れているのではないでしょうか。例えば図工で絵を描く際には、鉛筆、色鉛筆、絵具、墨……と学習経験を積み重ねていくことで、どんどん方法が増え、選択肢が増えていきます。体育のマットの学習では、様々な練習場所を用意して、環境を整えることで、子どもたちが自分の学習のめあてにあった場を選んでいきます。理科の学習でも、解決の方法を発想する際に、今までの経験を想起し、実際に物を手に取りながら問題解決する学習方法を取り入れてみてください。子どもたちが自ら問題解決していく姿がたくさん見られるようになります。
イラスト/難波孝
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<執筆者プロフィール>
岩本 俊●いわもと・しゅん 横浜市立本郷小学校主幹教諭。同校研究推進委員長・横浜市教育課程研究委員(理科)・横浜市小学校理科研究会役員など、理科教育の推進に携わっている。
著書:教科書「たのしい理科」(大日本図書)「実践指導細案」(大日本図書)等がある。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。