理科学習における地域施設との連携について ~子どもたちの深い学びを目指した博学連携~【理科の壺】
理科の学習は必ずしも学校(教室)だけで完結するものではありません。その道のスペシャリストである地域施設などに協力を得て、子どもたちのより深い学びを促す方法も1つの手段であると考えます。今回協力を得たのは「博物館」! 地域の博物館にはどのような役割があるのでしょうか? 博物館は学校とどのように連携をしていきたいと考えているのでしょうか? 博物館の学芸員へのインタビューも交えながら、どのように連携をしていくことが大切かを考えます。スペシャリストの力に頼り切らず、お互いにとってよりよい関わりをするための “ツボ” をご紹介します。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・矢島淳
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
はじめに
理科の学習をよりよいものにするために力を貸していただける施設は、地域の中にいくつかあるのではないかと考えます。地域に特化した知識や長期にわたって蓄積した情報を持ち、子どもたちの「深い学び」を促す問いを与えてくれたり、何気ない疑問に応えてくれたり、本物に触れることができたりと、協力していただける地域施設の役割は多岐にわたるのではないでしょうか。
また、教師も指導内容に自信がなかったり、分からないことがあったりしたとき、同僚に相談することもできますが、少し専門的なものになると、答えまで辿り着けないこともあるかもしれません。そんなときに力を貸してくれるのが地域施設ではないかと考えます。
分からない・はっきりしないことを聞いて授業に生かせるような、気軽に相談できる相手を持つことは、授業の質を高めるだけでなく、ひいては教師の授業力の向上・子どもたちの学習意欲の向上にもつながります。
今回は理科学習へのつながりが深い「博物館」とのよりよい連携の仕方や学習への生かし方を紹介したいと思います。実際に博物館の学芸員の声も聴きながら、博物館と学校の連携の在り方について考えていけたらと思います。
1 地域施設「博物館」の役割について
全国には多くの博物館がありますが、それぞれが思いや願いを掲げて日々尽力していることと思います。私が勤務する学校の近くには「神奈川県立生命の星・地球博物館」があります。教育活動や地域の理科部会の研修会などにおいて常日頃ご協力いただいているのですが、博物館との連携をより密にできないかとご相談したところ、快く研修会を引き受けてくださいました。
その中で、佐藤武宏学芸部長から「社会が求める博物館の存在意義」が5つあることを教えていただきました。
<社会が求める博物館の存在意義>
①生涯学習・社会教育施設としての役割
②学校教育との連携・学校教育を補完する施設としての役割
③レジャー・娯楽施設としての役割
④地域活性化や観光振興策としての役割
⑤文化・教養の象徴や文化・教養施設としての役割
「学校と連携を図りながら、学習を補完する施設としての役割」が博物館の存在意義なのであれば、協力いただきながら学習を進めることもできると思いませんか?
ただ、大切なのは連携することです。どのように進めていくことで、教師にも、子どもたちにも、博物館にも有意義な連携をすることができるのでしょうか。
2 学校と「博物館」との連携について
博物館と学校との連携を「博学連携」と言います。博物館との連携の在り方について考える前に、学校が博物館をどのように利用しているかその状況を確認してみたいと思います。昔と今では、博物館の利用の仕方も随分変化してきているようです。
<昔の学校の利用の仕方>
●社会科見学や遠足で利用する。
●担任の先生を先頭に一列になって展示を見学する。
●ガイダンスや講話を受講する。
●穴埋めのワークシートを埋める。
<現在の学校の利用の仕方>
●グループごとにワークシートをもって学習・観覧する。
●テーマを与えてグループで考えさせるワークシートを活用する。
このように、昔と今では博物館の利用の仕方も大きく変化してきていることが分かります。学校教育が知識詰め込みの時代から思考力養成型の「主体的・対話的で深い学び」への授業改善に取り組み始めたのも1つのきっかけなのかもしれません。
次に、学校が博物館を利用する方法について考えてみたいと思います。
①子どもたちを連れて博物館へ出かける。
●授業や単元に関する実習
●博物館の展示・収蔵資料を利用した学習
●校外学習(社会科見学や遠足など)の行き先
②学芸員が学校へ出向いて講義・授業・実験・実習を行う。
●出前授業や出張授業(授業や単元の学習について)
●総合的な学習の時間やクラブ活動への協力(イベント的な関わり)
③教員向けの研修会を行う。
●地区の教育研究会として
●学校独自の研修会として
●個人の教材研究の相談役として
④オンラインでのやり取りを行う。
(気軽に本格的に運用できれば、無限の可能性があるような気がします!)
オンラインでのつながりは、私の願いを込めて入れてみました。コロナ禍を経て、GIGAスクール構想により全国で1人1台の学習用端末が配備されたことを考えると、博物館との連携においても無限の可能性があるように思います。また、オンラインでのつながりは、地域を超えてつながれる良さもあります。しかし、博物館と学校の数を考えていくとすべての学校に対応することは難しい現状もありそうです。そのため、地域の博物館と密につながることが子どもたちにとってより身近な地域施設となり、よりよい博学連携が生まれるのではないかと考えます。
このように今までも博物館と学校はさまざまなつながりを持ち、共に歩んできました。しかし、なんとなく校外学習で博物館に行くからついでに単元学習の実習もしてもらおう!また、何かできないかを博物館にお願いするようなこともあると聞き、教師が博物館に頼る構図の方が多いようです。教員は多忙だ!という社会での話題も多く取り立てられていますが、協力をお願いする私たちが意識を変えなければならないのではないでしょうか。また、先に述べたような社会情勢もあり、博物館もどのようにしたらいいか悩んでいるのが現状のようです。そのあたり、学芸員の本音を聞いてみました。
3 博物館学芸員へのインタビューより
博学連携を目指す上で重要なことは、博物館の学芸員と教師の思いをすり合わせることが大切であると考え、2名の学芸員にヒアリングを行いました。
1 博物館と学校との関わりについて目指す姿は?
●博物館側と学校側が、それぞれ目的をもって主体的に活動するうえで連携が行われ、その成果が子どもたちに及ぶこと。
●学校は学芸員を活用し、博物館は教員を強化・サポートし、互いに子どもたちから学びを獲る姿。
2 今後できそうな博物館との連携は?
●1回限りの授業ではなく、継続的に関わりをもっていけるとよい(課外授業などでも)。
●学習指導要領(学校側)や博物館の提供サービスの相互分析、それぞれの現場の悩みの把握によるニーズとシーズ(ノウハウやアイデアなど)のマッチング。
3 地域に根ざした博物館とするために、努力していることは?
●なるべく地元の学校からの要請は受けるようにしているが、博物館を継続的に利用してもらえることは多くない。(学校単位でも、個人単位でも)
4 学校と連携するにあたって、学校に行って欲しいことは?
●「何でも良いので博物館で授業してください。」という講師依頼がしばしばあるが、これは博学連携の事例とは言えない。授業を依頼する場合でも、学校側の「何を目的に、どんな内容を、どう進めて欲しい。」という要望をもとに、役割分担や進め方を議論し、調整しながら進めていけると良いと思う。
●義務教育を担う学校側が博物館のサービスを利用して補おうとする教育効果の狙いを十分に認識し、博物館のサービスを提供することで教育効果が上昇する。そのため、学校側との打合せを十分にさせて欲しい。(また、依頼者が実験内容をどの程度理解しているか、どこまでどのように授業が進んだかなども情報共有していきたい。)
4つの質問からも分かるように、博物館は学校と連携しようとする姿勢をもっているが、学校側の関わりが弱いように感じるのは私だけでしょうか?子どもたちの指導をするのは教師の仕事です。博学連携をするためには、どのようにしたらよいかが何となく見えてみたのではないでしょうか。では、私が実践した博物館との実践事例を2つご紹介いたします。
4 博物館と連携した実践事例
① 5年「流れる水のはたらきと土地の変化」
最初の実践は、単元を学習する前に博物館へ行き、浸食・運搬・堆積について学習したものです。写真①は、当日学芸員が記した板書です。最初に、削られる場所・大地を変えるはたらきについて黒板を使って丁寧に説明していただき、そのはたらきを確認するために、写真②のような装置を使って実験をしてくれました。特殊な色の違う砂を使った装置に水を流し、どのように大地が削られていくかを観察する壮大なモデル実験です。途中、「家を建てるならどっち?」などの質問を子どもたちにしながら、学習を日常生活に生かす視点からも問いをなげかけ、写真上にもあるプラスチックの家をおいて実際にどのようになるかを再現してくれました。子どもたちは、どんどん削られていく大地の様子を見ながら家がどのようになるかを興味深そうに観察していました。このように、より実際の大地に近い器具を使って実験を行うことができるのは、博物館ならではではないでしょうか。また、外国製のこのような器具を使えるのも、専門的な知識を持った学芸員でなければできない実験です。更に、知識ある学芸員がより分かりやすい言葉を選んで説明してくれたおかげで、子どもたちの理解が深まったのも事実です。学校に戻った子どもたちは「博物館のような実験を学校でできないか考えてみよう」という話になり、自分たちで方法を模索するような姿も見られました。博物館での学びを使って事象を確認したり、深い学びにつなげたりする子どもたちの瞬間でした。
写真③は、堆積した大地がしま模様になっている様子を確認しているところです。この体験は、後に学習する6年「大地のつくりと変化」の単元の学習につながる大切な経験となりました。このように、現在学習している単元だけでなく、今まで学習した単元の復習につながったり、これから学習する単元の布石になったりするように意識しながら指導していただけるのです。
この単元は、自然と同じような実験をすることが難しい単元のため、苦労されている先生方が多いのではないでしょうか?小さな実験装置を作って行う簡単なモデル実験や動画・画像を活用しながらの学習が多くなり、なかなか子どもの学習意欲を高めることは難しいようです。しかし、スケールの大きな実験装置を目の当たりにしたり、モデル実験の中で堆積した大地の様子を観察できたりした経験から、自分たちができる実験を考えることで、より質の高い実験にできる良さがあると考え、博物館を活用することにしました。こちらがどのような目的・意図をもって博物館を利用するのか、教師の思いを博物館学芸員と共有し、教師の指導を補完していただけるようにしていくのが大切なのです。
② 6年「土地のつくりと変化」
2つ目は、6年の「土地のつくりと変化」の単元で、地層についての学習を終えたあと、火山の仕組みを知るために博物館に協力を依頼し、廃油とカラーサンドを使った火山実験を行ったものです。実験には、博物館がこの実験用に作った特別な実験台を使います。中心の下にはペットボトルをつけることができるようになっていて、地下から噴火する火山を再現できるようになっています。廃油を60度くらいまで熱し、固めるテンプルを混ぜたものをペットボトルに入れ、実験台につけて握りつぶすことでマグマの噴火を再現します。温度がさがることで油が固まり、大地が作られるのです。また、カラーサンドをペットボトルに入れて装着し、エアダスターを使って噴火させることで火山灰の噴火を再現します。噴火の種類や数、大きさによって大地のでき方が違うことを実感できるようにするために、最初こそマグマと火山灰の噴火を交互に行いますが、それ以降は子どもたちが自由に噴火させて山のでき方を観察します。
当日は博物館の学芸員を1名お招きし、体育館で学習しました。最初に子どもたちには、廃油を使ったマグマとカラーサンド(砂)を使った火山灰が噴火することを伝え、火山がどのように作られているのか、ワークシートを使って自由に予想させる活動から入りました。実験前に持っている知識を使ってじっくり考え、山のでき方について自分のなりにイメージを持つことができました。写真④は、実際の実験の様子です。子どもたちには「富士山を作ろう!」という課題を与え、マグマに見立てた廃油と火山灰に見立てた砂を噴火させながら山ができる様子を楽しみながら観察していました。噴火させる砂については、色の違う砂を使うことで、堆積してできた山の様子がしま模様になり、視覚的に山のでき方をとらえることができるのです。写真⑤は、自分たちが作った山を半分に切り、その断面を観察している様子です。噴火を繰り返した山が、このようなでき方をしていることを初めて知り、驚いている子どもたちが多かったです。また、事前に行った山のでき方のイメージと比較すると、ほとんどの児童が予想と違い、その違いこそが大きな学びとなりました。実験の準備・片付けについては、本校の職員も全面的に協力をしてくれました。学芸員と担当者の一対一の構図では完結しないところもあるので学校として協力するスタンスを確認しておくことも必要です。
このように、実際に火山を作る活動は、博物館の特別な道具や学芸員の知識とアドバイスがあって成り立つものです。理科学習で大切にしている「実感を伴った理解」へつながった瞬間です。また、学芸員からは、この実験が中学校でも行っていることを聞き、小学校だけではなく、教育機関が博物館とつながりよりよい実践がなされていることが分かりました。
5 博学連携で大切なことは?
博物館の学芸員の方々のご協力をいただき、ヒアリングや実践を行ってきたことで、博学連携を進める上で大切にしなければならないポイントが見えてみました。
<より良い博学連携のポイント>
●学習の目的や子どもたちにつけたい力を明確にし、学芸員と共有すること。
・どんな内容をどのように進めて欲しいのかを明確にする。
(細かなリクエストを伝えることが上手くいく策の1つです)
・子どもたちの学びがどのように深まるのかをイメージしておく。
●当日に向けて学芸員と連携を密にすること。
・打合せの時間を十分確保する。
・当日の役割分担をしておく。
・学習の進度を伝えておく。
・今後の学習の予定を明確にして共有する。
●継続した博物館・学芸員とのつながりをもつこと。
・困った時の相談役として
・この単元のこの部分については博物館にお願いすると明確にしておく
・博物館との連携マニュアルの作成
・博物館の利用を考えた単元計画を作成
●学校と博物館が連携しようとする気持ちを持ち続けること。
・どんな博物館なのかを理解しておく(学芸員の専門分野について)
・博学連携の事例を共有すること(学校でも・博物館からも!)
●子どもたちにとって身近な存在である博物館であること
・疑問があった時には気軽に相談できる関係性(教師も・子どもも)
いろいろ話をしてきましたが、博物館の学芸員の本業は博学連携だけではないことも頭に入れておく必要があります。今後どのように博物館と連携していくことで子どもたちにも、博物館にも、そして私たち教師にもプラスになるような博学連携ができるのかを考えるきっかけとなればいいなと思っています。また、博物館以外の地域施設に協力を得るときも基本スタンスは変わらないのではないかと思います。より質の高い学びを実現するために、協力してくださる方々に感謝する気持ちを忘れないこともよい連携のためにはとても大切なことだと思います。
最後に、この記事を執筆するにあたり、ご協力いただいた神奈川県立生命の星・地球博物館の学芸員の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。
【協力】
神奈川県生命の星・地球博物館(神奈川県小田原市入生田499)佐藤武宏学芸員・石浜佐栄子学芸員・西澤文勝学芸員
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
矢島淳●やじま・あつし 小田原市立芦子小学校教務主任。横浜国立大学にて、学校・地域の中核的な役割を担う理科教員養成プログラム(CST:コアサイエンスティーチャー)を履修し、認定後は神奈川CST協会の一員として理科の振興を目指し活動を行っている。令和4・5年度には、小田原・足柄下地区小学校教育研究会理科部長として地域の理科教育の推進にも力を入れ取り組んできた。NHK Eテレ『ふしぎエンドレス 理科5年 台風はどう進む?』作成協力。SSTA神奈川・横浜支部会員。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。