小5理科「植物の実や種子のでき方」指導アイデア
執筆/福岡県那珂川市立片縄小学校教諭・濵田愛子
監修/文部科学省教科調査官・有本淳
福岡県那珂川市立安徳北小学校校長・白水隆暢
福岡県那珂川市立南畑小学校教頭・大園亨
目次
単元目標
結実の様子に着目して、それらに関わる条件を制御しながら、植物の育ち方を調べることを通して、植物の結実とその条件についての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力や生命を尊重する態度、主体的に問題解決しようとする態度を養うことがねらいである。
評価規準
知識・技能
①花には、おしべやめしべなどがあることを理解している。
②花粉がめしべの先に付くとめしべのもとが実になり、実の中に種子ができることを理解している。
③植物の結実について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。
思考・判断・表現
①植物の結実について、問題を見いだし、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。
②植物の結実について、観察、実験などを行い、得られた結果を基に考察し、表現している。
主体的に学習に取り組む態度
①植物の結実についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。
②植物の結実について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
評価計画
総時数 7時間
事前準備:ヘチマやアサガオなどの観察・実験で使用する植物を植える。
子どもたちは、これまでの経験から断片的に「おばな」「めばな」「おしべ」「めしべ」「花粉」といった言葉を知っていることがあります。教師として知っておくとよいのは、次になります。1つの花に「おしべ」と「めしべ」がある花(例:アサガオ・オクラ・サクラなど)を両性花といいます。両性花の花は、花の根元がふくらんでいることが多く、その部分が種子へと変わっていきます。「おしべ」と「めしべ」がそれぞれ別の花に付いている花(例:ツルレイシ・ヘチマ・スイカなど)を単性花といいます。単性花のおしべがついている花を「おばな」、めしべがついている花を「めばな」といい、種子ができる部分は「めばな」のみにあります。
アサガオは種をまいてから30~60日ほどで花を咲かせるので、8~9月の単元だとすると、6月下旬~7月上旬で種をまいて準備しましょう。また、観察のタイミングでは、咲き始めている花や種子がついている花など、それぞれの段階の花があると理解が深まりやすく、単元の初め、咲き始める前のつぼみがたくさん必要なので、時期をずらして多めの株を用意しておくとよいかもしれません。
第1次 花のつくりについて調べる。(授業の詳細①は、こちらの記事をご覧ください。)
1~2 花のつくりを他の花と比べながら調べる。
知識・技能①
花には、おしべやめしべなどがあることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
主体的に学習に取り組む態度①
植物の結実についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。〈行動観察・記述分析〉
第2次 受粉の役割について調べる。
3 花粉の様子を調べる。
知識・技能③
植物の結実について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
4 花が開く前のおしべとめしべを比べながら調べる。
思考・判断・表現②
植物の結実について、観察、実験などを行い、得られた結果を基に考察し、表現している。〈発言分析・記述分析〉
5~6 受粉させた花と受粉させなかった花の変化について、条件を整えて調べる。(授業の詳細②)(授業の詳細③)
知識・技能②
花粉がめしべの先に付くとめしべのもとが実になり、実の中に種子ができることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
思考・判断・表現①
植物の結実について、問題を見いだし、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
主体的に学習に取り組む態度②
植物の結実について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。〈発言分析・記述分析〉
授業の詳細②
第2次 受粉の役割について調べる。
5 受粉させた花と受粉させなかった花の変化について問題を見いだし、条件を整えて調べる。
植物の結実について、問題を見いだし、予想や仮説を基に、解決の方法を発想することができる。
①問題を見いだす【自然事象との出合い】
ヘチマの植物について、実ができたものと実ができなかったものを比較し、学習問題を見いだす。
両性花のアサガオ(ナス・トマト・オクラなど)や、単性花のヘチマ(ツルレイシ・キュウリ・スイカ・トウモロコシなど)等、学級で育てている植物の実物から、実がついているものといないものがあることを確認するとよいでしょう。今回は、単性花での実践事例を取り上げています。
花が咲いた後に実ができるんだったね。実はできているかな?
<問題を見いだす>
さまざまな植物を育てた際に、花が咲いている様子や実ができている様子の写真を子ども自身で記録しておけるようにしましょう。撮った写真から、実ができている写真と実ができていない写真を取り上げることで、問題を見いだすことができます。
花が咲いたところに必ず実ができる訳ではないんだね。
実ができるには、受粉が関係しているんじゃないかな。
実ができるためには、受粉が必要なのだろうか。
②予想する
予想の際は「メダカの誕生」などの他単元や、第1次で花のつくりについて調べたときにめしべを触ったことと関係付けて考えることを助言するとよいでしょう。
メダカは、卵と精子が受精して子メダカが生まれたから、植物も受粉しないと実ができないんじゃないかな。
受粉が必要だと思うよ。前に観察したときに、めしべの先がネバネバしていたから、受粉しやすくなっていたんだと思う。
③解決方法を考える
どうやったら調べることができると思いますか?
問題解決の過程において、特に第5学年で重視したい考え方は、「条件を制御する」です。教師が実験方法を提示するのではなく、どうすれば調べられるのか、「植物の発芽と成長」の単元で学習した「変える条件・変えない条件」を想起し、関係する条件を整理し、その条件を制御しながら子ども自身で実験方法を考えるようにするとよいでしょう。
実ができるのに、受粉が必要かどうか調べたいから、変える条件は「受粉させる・させない」だね。
一方は受粉させて、もう一方は受粉させないようにしたら調べられそうだね。
花粉が飛んでめしべに付かないようにするには、どうすればよいでしょう?
花にビニール袋をかぶせて、受粉しないようにしたらいいと思うよ。
④観察・実験をする
実験方法に従って実験を行い、実ができるかどうかを記録する。
単性花(もしくは両性花)を使い、条件を制御しながら実験を行う。
【ヘチマなど(単花性)での実験方法】
【アサガオなど(両性花)での実験方法】
ヘチマなどの単性花は、実験の手順が簡単であるメリットがあります。また、アサガオは、たくさんの花が咲くため、実験のやり直しがしやすいメリットがあります。子どもの実態や育てている植物などに合わせて実験を行うとよいでしょう。
アサガオなどの両性花は、開花すると自然受粉してしまいます。そのため、つぼみの状態のときに、おしべをピンセットで取り除くことが必要です。おしべは前日の午後から伸び始めるので、翌日に開きそうなつぼみのおしべを午後の早い時間に取り除くとよいでしょう。また、風や昆虫によって受粉しないようにするために、袋をかけるようにします。袋をかける理由を子どもたちと共有することが大切です。そして、袋を取った後、実験をしていた花がどれかわからなくなることがあります。そのため、色違いのモールやマスキングテープなどで目印を付けておくようにしましょう。
授業の詳細③
第2次 受粉の役割について調べる。
6 受粉させた花と受粉させなかった花の変化について、実験結果をもとに問題を解決する。
●花粉がめしべの先に付くとめしべのもとが実になり、実の中に種子ができることを理解することができる。
●植物の結実について問題を見いだし、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現することができる。
⑤結果の処理
ICT端末を活用し、結果を記録する。
<結果を整理する>
花がしぼんだ後、1週間程度でめしべの根元にある子房の部分が膨らみます。子どもたちは、変化の様子について言葉での説明が難しい子もいるため、実ができるかどうかを数日間写真で記録しておくとよいでしょう。また、その写真を結果の記録として使うようにしましょう。
受粉した方は、めしべのもとがふくらんで実になったよ。
私たちの班でも、受粉させた方に実ができて、受粉させなかった方は実ができなかったね。
⑥結果を基に考察する
それぞれの実験結果をICT端末を活用して共有し、客観的に考察を行う。
<結果を共有する>
ICT端末の共有ノートを活用することで、複数の結果を簡単に全体で共有することができます。共有ノート上で、記録した写真を「実ができた」「実ができなかった」に整理することで、結果を基に客観的な考察を行うことができます。また、写真を貼り付ける際には、植物名・条件(受粉させた/受粉させなかった)を記入するようにしましょう。
実ができたときの共通点は何でしょう?
みんなの結果を見ると、受粉させなかった方は、どの班も実ができていないね。
アサガオでもヘチマでも、受粉させた方だけが実ができているね。
⑦結論を出す
実ができるためには、受粉が必要である。
⑧振り返る
受粉すると、めしべのもとがふくらみ、実ができ、その中に種子ができるんですね。
受粉はメダカでいうと、受精と同じことなんだね。
花が咲く植物は、種子から育って花を咲かせて種子をつくり、生命をつないでいるんですね。植物によって、受粉の仕方は違います。植物は、さまざまな受粉の仕方で次の命をつないでいます。
植物の受粉の仕方は、風によるもの、昆虫や鳥などによるもの、水によるものなどがあります。さまざまな植物の受粉の仕方について取り上げることで、多様性の見方をはたらかせることができます。教科書などにある、さまざまな受粉の仕方について、写真や動画などを提示すると理解が深まります。 また、社会科の「米づくり」や「野菜・果物づくり」の単元と関連させることもできます。植物の実や種子をつくるために、人工授粉をさせたり、受粉に昆虫を利用したりするなど、農家の人々が手間をかけたり工夫をしたりしながら育てていることを紹介することで学びを広げることができます。
<品種改良で異なる品種同士を受粉させている様子>
<イチゴ畑でミツバチを放している様子>
イラスト/難波孝