国語科の「授業準備」アップデート|気付きの多様性を価値付ける技【中野裕己の授業技術アップデート07】

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明日からできる!授業技術アップデート
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新潟大学附属新潟小学校教諭

中野裕己
明日からできる授業技術アップデート

『小学校国語授業アップデート』の著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。

第7回目のテーマは、《子供を「褒める」ために準備する》です。


執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己

授業準備―教材研究と授業構想                          

連載第7回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。

今回は、「授業準備」アップデートとして、国語科の教材研究と授業構想についての技術をお示ししたいと考えています。

①教材研究

国語科の読むこと領域では、まず文章に「何が書かれているか」、そして「どのように書かれているか」を分析します。

《何が書かれているか》

「何が書かれているか」は、いわゆる「内容」を指します。物語文であれば「あらすじ」を、説明文であれば「要旨」を教師が自分なりに捉えておくのです。

なお、「あらすじ」と「要旨」は、中学年以降の指導事項にもなっており、以下のように定義することができます。

【要旨】説明や論説の中心となる大事な内容を指す。要旨をまとめるとき、そこには、書き手が最も表現したい中心となる内容が含まれていなければならない。

【あらすじ】文章や話の筋(展開)をまとめたものである。あらすじは、展開を中心としたまとめであり、流れに直接には関係しない場面や出来事は省略される。

参考:田近洵一、井上尚美、中村和弘(2018)「国語教育指導用語辞典 第五版」教育出版

《どのように書かれているか》

「どのように書かれているか」は、作者や筆者が内容を描き出すために用いている「論理」や「表現」を指します。

これは、指導事項と直接関連する事柄であり、観点をもって文章を読み解いていく必要があります

ここでは、学年別にまとめた観点を掲載しておきます。

学年別観点
引用:中野(2024)「授業はタイミングが9割」明治図書出版社

このような観点を基に文章を繰り返し読んでいきます。そして、「登場人物はだれか」「中心人物はだれか」「会話文はどのくらいあるか」などと、文章から見つけていくのです。

②授業構想

教材研究の後、授業を構想するにあたっては以下の2点に気をつけます。

●子供が文章の「内容」をよりよく理解できるようになること。

●子供が「内容」をよりよく理解するために、「論理」や「表現」に着目すること。

そして、発問、話合い活動、ICT活用などの手立てを構想し、授業や単元を組織していくのです。発問、話合い活動、ICT活用については、以下の記事を参考にしてください。

《教師の「発問」アップデート》
この発問、何かと何かを比較する発問にできないかな?【中野裕己の授業技術アップデート01】

《教師の「ICT活用」アップデート》
「教える」よりも「支え導く」授業観で【中野裕己の授業技術アップデート05】

《学級の「話合い活動」アップデート》
気付きが生まれる話合いを促す技【中野裕己の授業技術アップデート06】

【Before】一本道の授業構想                 

今回のアップデートは、授業構想についてです。

まずは【Before】ということで、「一本道の授業構想」を挙げたいと思います。例えば、次のような授業構想です。

教材】
「ごんぎつね」

ねらい】
ごんの兵十に対する気持ちの変化を捉える。

展開】
①1の場面のごんの気持ちを確かめる。

②ごんの気持ちが最初に変化した場面を問う。

③兵十のおっかあが亡くなったことを知ったごんの気持ちについて、交流する場を設定する。

④まとめる。
「ごんは、兵十のおっかあが亡くなったことを知って、うなぎを盗んだ責任を感じて、いたずらを後悔した」

⑤学習の振り返りをさせる。

中学年の指導事項である「気持ちの変化」をねらいとした授業構想です。

いたずらばかりしているごんが、兵十のおっかあが亡くなったことを知って後悔する場面を、気持ちの変化として捉えさせることを目指す展開です。②でごんの気持ちが「最初に」変化した場面を問うているのは、子供たちが物語の後半に目を向けることを防ぐためです。

このような教師が捉えさせたい方向へ追究を「狭めた」授業構想を、「一本道の授業構想」と呼びたいと思います。

もちろん、ごんがいたずらを後悔する場面は、物語の中で重要な場面の一つです。しかしながら、気持ちの変化を問うて、その場面だけを対象にした授業を構想することには、異を唱えたいと思います。

「気持ちの変化」の捉えは多様であるため、どこを「気持ちの変化」と読むかは、様々なはずです。

本来であれば、子供それぞれが捉えた「気持ちの変化」が共有されたほうが、「気持ちの変化」そのものへの理解は深まるはずです。

【After】複数の道を創る授業構想                  

そこで、子供それぞれが捉えた「気持ちの変化」が共有される授業構想を示したいと思います。次のような授業構想です。

【教材】
「ごんぎつね」

【ねらい】

ごんの兵十に対する気持ちの変化を捉える。

【展開】
①1の場面のごんの気持ちを確かめる。

②ごんの気持ちが変化した場面を問う。

③1〜6場面のうち、どの場面を選んだかを挙手にて確かめた後、グループで交流する場を設定する。

④ごんの気持ちが変化した場面について、他者との交流を通して学んだことを振り返らせる。

⑤次時以降に、場面ごとに気持ちの変化を確かめていくことを予告する。

【Before】の授業構想との大きな違いは、文章全体を対象として気持ちの変化を問うていることです。

そのため、ごんがいたずらを後悔した場面だけではなく、子供たちの気付きに合わせて様々な場面を扱う展開になっています。子供がそれぞれに捉えた変化を広く受け止めてから、次時以降に場面ごとに確かめていくのです。

このように授業を構想するためには、「その都度束ねて(揃えて)学びを進めていく」という授業観から、「多様性を受け止めて、整理しながら学びを進めていく」という授業観にマインドチェンジする必要があります


……と、いうことで、ズバリ! 今回の授業準備アップデートは、

授業準備アップデート

と、いうことになります。明日の授業づくりで、教室に立つときの参考にしてくださいね。


次回の予定テーマは、《ICT活用・生成AI編》です。どうぞ、お楽しみに……!

中野裕己先生

【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。

[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)

X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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