問題解決の力を育成するための「事象提示の工夫」と「根拠のある予想の書き方」~4年「ものの温まり方」~ 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
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もののあたたまり方の授業では、「見えない温度をどのように見える化するか」が重要になります。子どもたちは、日常で見えないものはあまり気にしていません。この単元では、見えない「温度」、「あたたまり方」に着目していきます。導入場面では、最初から温度計を出して…というわけにはいきません。何かしら日常生活で馴染みのある物を使ったり、状況を設定したりして事象提示を行うことが多いです。今回は、「ものの温まり方」の授業導入をする際のアイデアとして、チョコレートを使った実践の紹介です。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/東京都公立小学校教諭・波多江玉稀
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.はじめに

みなさんは授業を行う際、どんなことに気をつけて教材研究をしていますか?
教材研究をするときには、
目的「何のために教えるのか?」と
内容「そのために何を教えなければならないか?」
に視点を当てて考えるとやりやすいです。
なぜなら、教師がねらいを明確にしていないと、学習のねらいが広がってしまい、子どもたちは何を学んでいるのか、分からなくなってしまうからです。

4年生では、問題解決の力を育成するために、学習の過程において、自然の事象・現象から見出した問題について、既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想することを教えることが大切です。
まずは、理科の目的と育成したい内容(思考力)を確認してみましょう。

【理科の目的と育成したい内容(思考力)】
目的
「問題解決の力を育成する」
内容
①差異点や共通点を基に、問題を見いだす力(第3学年)
②既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想する力(第4学年)
③予想や仮説を基に、解決する方法を発想する力(第5学年)
④より妥当な考えをつくりだす力(第6学年)

このように見てみると、①と②はつながっているものなので、4年生の「根拠のある予想や仮説を発想すること」を大切にしたくても、その前に①の「差異点や共通点を基に、問題を見いだす力」がとても大切ということがわかります。今回は、4年「ものの温まり方」の事例を元に、問題解決の力の育成するための「自然の事象・現象の提示(事象提示)の仕方」と「根拠のある予想や仮説の発想」について考えていきます。

2.どのようなものを事象提示にすればいい?

個人で予想や仮説を発想するためには、事象提示の際に働かせる見方・考え方が大切です。そのためにも、事象との出会いの場面において、児童一人一人が問題意識をもって問題を設定しているのか、どのような見方・考え方を働かせているのかを教師がしっかりと見取っていく必要があります。

事象提示の3つの工夫

問題解決の力を育成するためには、
①自然の事物・現象から問題を見出す
②既習の内容や生活経験を基に、予想や仮説を発想する
③予想や仮説を基に、観察・実験などを行い、結果を整理する
④その結果を基に、考察・結論を導き出す
という流れで行います。
事象提示の工夫は、そのうちの「①の問題を見いだす場面」がメインになります。
ここでは、身の回りで起きている自然の事物・現象の提示(事象提示)を工夫することで、意図的に自然の事物・現象に目を向けさせることができます。工夫のポイントは次の3つです。

:見方・考え方として「質的・実体的」にとらえられるようにすること
:教えたい学習問題にたどり着くまでの子どもの発言(思考)を書き出して考えること
:子どもたちがすでに学んでいること(既習事項)とのずれが生じる内容の教材を提示すること (単元の二次・三次など)

ここでは、金属・水・空気のそれぞれの事象提示について、ポイントをふまえて見ていきましょう。

Ⅰ:見方・考え方として「質的・実体的」にとらえられるようにすること

今回の授業の「もののあたたまり方」は、金属、水、空気と異なったものを扱います。「もののあたたまり方」で金属、水及び空気を「質的に捉える」とは、金属、水及び空気など「物ごと」、「材質によって」熱の伝わり方が違うと捉えることになります。また、ここでは「実体的」にも捉えることができるのですが、「もののあたたまり方」で金属、水、及び空気を「実体的に捉える」とは、熱は目に見えないけれど、温度が伝わったり変化したりしていると捉えることになります。

この単元では、「熱」という目には見えないエネルギーを扱います。この見えない「熱」を実体的に捉えるためには、「示温ペースト(インク)」「低温で溶けやすい物」「線香のけむり」といった、熱の様子を可視化するための教材を用いて実験を行い、金属、水及び空気の熱の伝わり方を調べます。
つまり、熱の伝わりによる温度変化を見えるようにすることが大切です。

Ⅱ:教えたい学習問題にたどり着くまでの子どもの発言(思考)を書き出して考えること

子どもの疑問から、どのような現象が起きればこの問題にたどり着くのか、という過程を、逆算して想定してみましょう。ノートなどに書き出しておくといいですね。

金属とはちがう?
温まり方が違うのかな。
どんな風に伝わるんだろう。
温度は目に見えないね。
水は蒸発するから上にいくのかな。
水はどうやってあたたまるんだろう。

このような言葉が児童から出ると、「水の温まり方」の学習問題を立てることができます。

Ⅲ:子どもたちがすでに学んでいること(既習事項)とこれから学ぶことで違いが生じる事象提示をすること(単元の二次・三次など)

一次:金属では「熱せられた部分から順に熱が広がって温まる」。
二次:水では「熱せられた水が水槽の中を移動して全体が温まる」を子どもたちは学びます。

つまり、教師は金属と水の結論でしっかり違いを見出だせるような事象提示を行う必要があります。
今回は、根拠のある予想を書きやすいように、子どもたちが経験上、温まると溶けることを知っている「チョコレート」を使ってやっていきます。

金属では、金属板の上側と下側にチョコを設置し、チョコに直接炎が当たらないようにしながら下側から熱して、どちらから溶けるかを子どもたちに聞きます。(30秒ほどで溶けます。)
金属は、熱したところから温まるので、下のチョコから溶けます。

次に、水についても事象提示をしていきます。
水の入ったビーカーの底の部分と上の部分にチョコを設置します。
金属と同じように、直接チョコに炎が当たらないようにしながら温め、どちらから溶けるか子どもたちに聞きます。
子どもたちから意見が出ますが、ほとんどの児童は下と回答するでしょう。
ですが、実際に温めていくと、上のチョコが溶け始めます。

子どもたちは、金属と水の温まり方に違いがあることに気付き、疑問が生まれます。そこから問題を見出すことができます。

このように、一次・二次の内容を同じ素材、同じ状況などで事象提示をすると、イメージしたり疑問が生まれたりして問題を見出しやすくなります。

3.根拠のある予想を書くためには?

第4学年では、主に予想や仮説を発想する力の育成を図っていくことが示されています。4年「ものの温まり方」では、2つのポイントに気を付けて行ったことで、子どもたちが根拠のある予想を書く力が伸ばすことができます。

ポイント①:授業の流れを固定する
ポイント②:根拠の視点を提示する

ポイント① 授業の流れを固定する

次の①~④という過程を一次、二次、三次だけでなく、様々な単元で行うことで、予想や仮説を発想する力を伸ばすことができます。

①個人で予想や仮説を発想し表現する。
②自分の予想や仮説が何を根拠としているのか自覚させる。
③思考ツールを使いトリオや全体で話し合う。
④改めて自分の予想や仮説を見直す。

全体での話し合いにおいては、「自分がどの視点を根拠にしたのか」「友達の考えを聞く」という2つのことで話し合うことで、改めて自分の予想や仮説を見直して、根拠ある予想や仮説をつくり上げていくことができます。

ポイント② 根拠の視点を提示する。

自分の予想や仮説の根拠を明確にさせるために、根拠の視点として次の3つを提示すると、予想や仮説を発想する力を伸ばすことができます。

(A)これまでの学習
(B)生活で経験したこと
(C)導入での体験活動

(A)これまでの学習
これまでの学習を根拠にすることで、本単元の内容を既習の内容と関係付けて考えることにつながります。

4年「ものの温まり方~2次:水はどのようにあたたまるのか~」での例
金属と温まり方が同じだと思うから。
温めたときにあわがいろいろな方向から出ていたから。
水は温まると上にいって蒸発して水蒸気になるか

4年生では、空気や水について、第4学年「空気や水の性質」「物の体積と温度」で扱っており、また金属については、第3学年「電気の通り道」「物と重さ」で扱っています。これまで児童は、金属、水及び空気に対しては、次のような理解があると考えられます。

これらのことと関連付けると、(A)を使って根拠のある予想を書くことができます。その時に、今まで学習したことを確認してもよいでしょう!

表 今まで学習したことの確認

(B)生活で経験したこと
生活経験と結び付けることで、日常生活に適応して考えようとする主体的な学びにつなぐことができます。

4年「ものの温まり方~2次:水はどのようにあたたまるのか~」での例
お風呂で追い炊きをした後は、上が温かくて下が冷たかったから。
鍋の中で野菜がぐるぐる回っていたから。
鍋を火にかけても上の取手は持てるから。

(C)導入での体験活動(事象提示)
導入での体験生活(事象提示)と結び付けることで、見方・考え方を自覚的に働かせて予想や仮説を書くことにつなぐことができます。

4年「ものの温まり方~2次:水はどのようにあたたまるのか~」での例
上の物が溶けていたから。
少し下の物も溶けていたから。
上のも下のも溶けてはいたから。

ものの温まり方を観察する子供

おわりに

理科の授業は、「理科専科がいるから…」「実験の準備や予備実験が大変」と、教員にとってマイナスなイメージが強いですが、理科の授業のながれを学んだり、子ども達が、一年間を通して理科の学習の仕方を学んだりすることで力が育ちます。
根拠のある予想を書くときの3つの視点は、他の教科やふりかえりを書くときにも生かせるので、ぜひ参考にしてみてください!

イラスト/難波孝

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波多江玉稀教諭

<執筆者プロフィール>
波多江玉稀●はたえ・たまき 東京都公立小学校教諭。大学時代、教科と教科を効果的につなぐ活動や、教科とその他のコトをつなぐ活動ができる小学校教員を目指して学んできた。教員になった今も、教科の枠を超え、ものと他者のつながりに働きかける活動を行い、他者と協力しあって働きかけ、働きかける主体にまで変化をもたらすことのできる子ども達を育成するために、各教科で実践を重ねている。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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