プール事故防止のための監視の方法~子どもの命を守る水泳授業~
プール事故を未然に防ぐために監視の仕事は大変重要です。監視役は大人の仕事です。水難事故を防ぎ、子どもの命を守るために、監視役の仕事の方法をしっかり理解しておくことが大切です。
監修/公益財団法人日本ライフセービング協会
目次
監視役の仕事とは
子供のプール事故防止を防ぐために重要となるのが監視の仕事です。監視の仕事がどのようなものかを正しく知ることが大切です。
監視者はビブスや帽子の着用をして、監視者ということがはっきり分かるようにします。監視役と指導役は必ず分けるようにします。
活動前
監視役は活動前にも仕事があります。
〇プールの安全確認などの準備を行う。
〇監視を始められるようにしてから、子どもを入れる。
<悪い例>
× 子どもが入った後から監視をする。
活動中
監視役は、活動中に次のことを行います。
〇わずかな異変にいち早く気付いたら、声をかけたり注意をうながしたりするなど、事故を未然に防ぐための具体的な行動を常に心がける。
〇大声を発する子、活発に動き回る子に目がいきがちなことにも注意。すべての子どもに目を配る。
<悪い例> 次のようなことが挙げられます。
悪い例は、写真にある以外にも、「子供が入った後から監視をする」「監視している人に別のことを頼む」などがあり、くれぐれも注意しましょう。
活動後
監視役は、活動後に次のことを行います。
〇退水確認を必ず行う。
〇最後の子どもがプールから上がるのを見届けてから退水完了。
指導役の心がけ
プール事故防止のために指導役が心がけることを紹介します。
指導役は、子どもたちにプールで守るべきことなどを事前学習させます。
活動前
〇入水する人数の確認を行い、監視役と共有する。
活動中
〇指導を行いながら、子どもの表情や活動の様子にも気を配る。
〇子どもたち同士がバディの安全確認を行える声かけも意識的に発信する。
〇バディは、お互いの安全を確かめ合うこと以外にも、互いの進歩の様子を確かめ合ったり、手助けをしたりすることもねらいとする。
活動後
〇活動を終えるときは速やかに退水人数を確認する。
〇活動が終わった後も子どもの体調に気を配り、子どもが再びプールに近付くことがないよう、事故防止、安全管理の工夫に努める。
監視の仕方
監視の仕方には「高所監視」「巡回監視」のほか、「待機」の役割があります。
高所監視
高所監視とは、監視台などを用いて高台から俯瞰するような視点でプールを監視することです。特徴は、プール全体を見渡すことができ、水面・水中をくまなく観られることです。特に、自由時間など子どもの不規則な動きを総合的に監視することに役立ちます。
事故につながる行為を目にした際は、そのそばにいる指導役に指示を出して速やかに対処させます。
巡回監視
巡回監視とは、プールサイドなどを移動しながら遊泳者の近くでプールを監視することです。水面や水中をより近くで観ることができ、子どもたちの動きや表情を把握できます。足がつってしまった子など何らかのアクシデントにすぐに対応できます。
待機
監視には、常に集中力や緊張がともなうので、定期的に交替して緊張を解く必要があります。この状態を待機と呼びます。待機も監視の役割の1つです。待機中も突然の事故に対応できるようにしていきます。
これらの役割を監視役の人数に応じて割り振り、定期的にローテーションをしながら集中力を保つことで、めりはりのある、質の高い監視を行うことを心がけましょう。ローテーションの際に、特に留意していた点やそのときにトイレでいない子どもの伝達、ヒヤリハット(ヒヤリとする行為やハッとする行為など事故に直結する1歩手前のこと)などの危ない行為の報告などを行うことも大切です。
監視役が1人の場合は、プール全体や水中などを総合的に観察できる高所監視が有効です。監視役がいない場合は、その日のプール活動をあきらめる判断も必要です。
監視を行ううえでの留意点
〇常に視野を広く積極的に観やすい状況を確保する。視界をさえぎるものがないかを確認し、人や浮き具の陰で観にくかったり、観えなかったりするときは、移動するなどの工夫をして監視を行う。
〇子どもの人数や動きに応じて、常に視線を動かしながら監視を行うことが重要である。プール全体をくまなく、水面だけでなく水中も水底も注視するスキャニングを心がける。
〈様々なスキャニング〉
様々なスキャニング方法を知っておきましょう。
・アップ&ダウン・スキャニング
上下に視線を動かします。
・サイド・トゥ・サイドスキャニング
左右に視線を動かします。
・サーキュラー・スキャニング
円を描くように視線を動かします。
・トライアングル・スキャニング
三角形に視線を動かします。
太陽光の反射・水しぶきなど見えづらさを感じたときも、その場にとどまらず、プールの底まで見える位置に動いて監視を行うようにします。子どもの表情や危険な行為にも目を配ることが大切です。
事故を未然に防ぐには、どのような環境や行為が危険なのかを知り、危険な環境をつくらない、危険な行動をさせない努力が必要です。
〈主な危険な行動(リスク行動)〉
・プールサイドからのジャンプ
・不意に水を飲んでしまうことによるパニック。
・ふざけて仲間を沈める行為。
・浮き具に座ることでひっくり返る。
・ヘルパー(腕や体に巻き付けて、主に水泳の練習時に用いられる補助具)のひもがゆるんでいて、水に入った際に外れる。
・赤台(プールを底上げし、水深を浅くするために使用する台)付近で潜る行為。
・水面に大きなものやビート板を複数浮かべることで生じる死角。
など
プールの特性、対象年齢、人数、水深、用いる道具などによってリスクが変わってきます。起こりうるすべてのリスクを想定し、対策を具体的に講じることが大切です。
現場で観たヒヤリハット事例をすぐに共有し、対応を考えることも大切な安全対策です。安全のためのコミュニケーションを積極的にとるようにします。監視に空白が生まれないよう、その場で簡潔に伝えることを心がけます。
事故を未然に防ぐには、子どもたちの命を守る監視に本気で取り組むことが重要です。水の事故はひとたび起きてしまえば命に直結します。事故は一瞬で起こります。安全で楽しい水の活動を支え、一人一人の命を見つめ、守る大切な時間にしましょう。
◎水難事故防止についてこちらの記事もどうぞ
夏休み前の安全指導①海での事故防止〔ダウンロードプリント付〕
夏休み前の安全指導②川での事故防止〔ダウンロードプリント付〕
安全な水泳授業~プール事故防止のための事前学習~〔ダウンロードプリント付〕
出典・資料提供:公益財団法人日本ライフセービング協会
日本ライフセービング協会のウェブサイトでは、監視について詳しく学べる動画などがあり、楽しく学習できます。
https://ls.jla-lifesaving.or.jp/
取材・文・構成/浅原孝子 写真提供/公益財団法人日本ライフセービング協会