ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #28 「Goal 14 海の豊かさを守ろう」の授業|倉内貞行 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #28
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「海の豊かさを守ろう」について学ぶ授業実践提案です。ご執筆は、青森県の倉内貞行先生。6年生での実践例です。

執筆/青森県公立小学校教諭・倉内貞行
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして。青森県で小学校教員をしております、倉内貞行と申します。
青森県は、三方を海に囲まれており、漁業や運輸の面において非常に海との関わりが強いと言えます。特に漁業は本県を支える産業として無くてはならないものです。
今回のお話をいただいたときに、迷わずGoal 14「海の豊かさを守ろう」で授業をつくりたいと考えました。拙い実践記録ですが、読んでいただけますと幸いです。

2 SDGsのGoal 14についての解説

広く大きい海洋は、地球が生命を維持できる様に調整し、人間に食料をもたらし、交易を可能としてきました。地球や人間にとって、欠かすことの出来ない海洋ですが、近年、私たちは大きな負荷をかけてしまいました。沿岸水域の環境悪化、海洋の酸性化による生態系や生命の多様性への悪影響が顕著に見られ始めています。
持続可能な開発のために海洋に対する関わり方について考え、実行することが求められています。
海洋はあまりに広く大きく、私たち一人一人にいったい何ができるのだろう、という疑念を抱かせます。しかし、海洋の持続可能性を人類一人一人が意識し、改善していくことによって大きな変化を起こせるはずです。

3 SDGsのGoal 14についての授業の実際

本実践は小学校6学年の総合的な学習の時間で、SDGsに関する学習の導入として位置づけました。
その理由は、私も子どもたちもSDGsについて、「わかっているようで実はあまりわかっていない」ことがあり、「自分事として捉えにくい」傾向があると感じていたからです。
できるだけわかりやすく紹介されている表面上の知識ではなく、実際にデータを把握することにより、課題について具体的なイメージをもつようにすること、それをどのように自分事にしていくかを考え、さらに実行したいと思えるようにすることを、学習の際には大事にしたいと考えました。
子どもたちの実態を知るために行ったアンケート調査結果には、様々なメディアでSDGsが紹介されていることが反映され、多くの子どもたちはSDGsの17の目標のロゴを見たことがありました。
Goal 14に関連して「海洋プラスチックごみ」のCMが非常に印象深かったようでした。子どもたちには、「ぼんやりとした知識や理解」がレディネスとしてあるのだと確認できました。
また、4年生の時の社会科では、「ごみの処理」について学習してきたことを事前に確認できました。こうした実態を踏まえつつ、以下のような授業を行いました。

⑴学年 6学年

⑵教科及び領域 総合的な学習の時間「地球の未来とわたしたち」

⑶単元の目標
SDGs(持続可能な開発目標)についての探究的な学習を通して、課題の解決に必要な知識及び技能を身に付けるとともに、地域の特徴やよさが分かり、それらが人々の努力や工夫によって支えられていることを理解する。(知識・技能)
地域のよさを受け継いだり、持続可能な社会のあり方について情報を発信したりしていくために必要なことは何か見通しを持って調べ、収集した情報をまとめ、表現する力を身に付ける。(思考・判断・表現)
探究的な学習に協働して取り組み、互いのよさを活かしながら、持続可能な社会を実現するための行動を考え、進んで活動に参加しようとする態度を養う。(主体的に学習に取り組む態度)

⑷教材 「海の豊かさを守ろう」について少しくわしく考えよう

本時のねらい
海洋プラスチックごみ問題について、資料をもとに何が課題となっているのかを正しく読み取り、他者と協働しながら課題解決に向け議論を行うことを通して、未来を予測しながら自分たちにできることを考えることができる。

授業展開
【導入】地球における海の大きさを再確認し、テーマをつかむ
教師が、太平洋を中心にし、ほぼ陸地が見えない地球の画像を提示しました。子どもたちは口々にこの画像について意見を言います。
一通り意見を言い合った後、この画像が地球であることを伝えます。そして、昨年度の社会科の学習内容から、地球における海洋と陸の面積比率を思い出してもらいました。
子どもたちそれぞれが確認し、およそ7:3で正しかったようだとほっとしていました。
ここで、「地球は水の惑星」と板書し、全体に問いました。
「地球の海の豊かさは守られていますか?」
すると、なんと全員が「守られていません。」を選択しました。
「そうそう!プラスチックが海に大量に捨てられているんだよ!」

【課題の設定】当たり前だと思っていたことの曖昧さに気付き、学習課題を設定する

SDGs Goal 14 のロゴ

Goal 14のロゴを提示しました。子どもたちは、「やっぱり!」というリアクションを見せました。様々な場面で目にしているのでしょう。そこで、
「今、海の豊かさを守るうえで課題になっているのはどんなことですか?」と問いました。
「プラスチックごみ問題だと思います!」先ほどの話題から、すっかり「海洋プラスチックごみ」に焦点が当たっています。
さらに、
「プラスチックで海を汚してしまっているのは誰なのかな」と問うと、「え…人間。」少し、戸惑いが見えます。
「人間って例えば?」と少し食い下がると、「地球の…人間」。だいぶ困ってきました。
「プラスチックごみが海にあると誰か困るのか?」
「海の生物が食べて、死んでしまったりする」
ここで、「海洋プラスチックごみ問題」という問題があることは何となく知っているけれど、詳しいことはあまり分かっていないことを確認しました。資料から、この課題について確認してみようということになりました。

【調査・交流】「海洋プラスチックごみ問題」についての調べ学習と解決策の議論
調べる内容について話し合い、以下の項目を明らかにすることを確認しました。

海洋プラスチックごみとはどんなもの? 何が問題なの?
海洋プラスチックごみは誰が捨てている?

基本的な情報を収集するために、事前に作成したホームページのリンク集を端末に配布しました。

a SDGsってなんだろう? | 日本ユニセフ協会
b SDGs(エスディージーズ)とは? | EduTownSDGs | 東京書籍
c SDGs ACTION!|朝日新聞デジタル
d 今、知っておきたい海洋ごみの事情|海と日本PROJECT|日本財団

友達と分担して調べたり、個人で調べたり、思い思いのスタイルで情報収集が進んでいきました。
やがて、
「大変だよ!すごい量のゴミ!これ、どうするんだろう!」などという声がわき上がってきました。
「え、どういうことなの?」と質問すると、クラス全体で情報が共有されていきました。ここで、調べたことをホワイトボードアプリに出し合い、以下の事を確認しました。

〇海洋プラスチックごみとはどんなもの? 何が問題なの?
人間の生活から年間800万トンから1500万トンのプラスチックごみが海に流れ出ていると言われている。
海洋ごみは「漂着ごみ」「漂流ごみ」「海底ごみ」をまとめた呼び方。海洋ごみの8割が街で発生したごみである。
海洋ごみの個数のうち65%を占めるのがプラスチックごみ。分解されない。
プラスチックごみは分解されないけれど、細かくなっていく。5mm以下に細かくなったプラスチックごみは、「マイクロプラスチック」と呼ばれている。
プラスチックは安くて、丈夫で便利。だから、増え続ける。

〇海洋プラスチックごみは誰が捨てている?
海洋ごみの8割が街から出たもの。川などを通って海に行き着く。
日本はプラスチックごみの排出量がアメリカに次いで世界2位。

〇紹介されている解決策は?
①3Rを意識してプラスチックごみを減らす。
②ポイ捨てをしない。
③ゴミ拾いなどのボランティア活動をする。
④マイバッグをもつとか、ストローなどを紙製にするとか、ビニール袋を断る。

これまでに調べたことをもとに考えるとすれば、妥当な結論かなと思います。
ただ今回は、もう少し粘って課題に向き合ってほしいなと考え、子どもたちに、
「本当にこの解決策だけで十分かな?」と問いかけました。
「十分…ではないけど、あと何ができるだろう」
「もう流れ出したごみはそのままだしなあ」
「これでは2030年までには間に合わないかもしれない」
かなり、ずしりとした重い空気感に覆われました。やや簡単に考えてしまっていた課題の詳細を少し理解しただけなのに、現実はなかなか厳しいことを実感できました。そして、使い捨てプラスチックの消費という巨大な仕組みから脱却することの難しさを、私を含めみんなで味わいました。
そうしているうちに、ある子から、
「このやばいってことを、みんなに知らせないといけないんじゃないかな」と、情報の発信を提案する意見が出てきました。まずは、自分が関わることができる範囲でアクションをしてみようか、という機運が出てきました。校内の小学生に知らせること、家庭に伝えて協力してもらうこと、地域にも伝える方法がありそう、そんな意見が出されました。

【まとめ】「海洋プラスチックごみ問題」についてのまとめとその他の課題の気付き
今日の学習を、各自の言葉でまとめてもらいました。下の「児童の感想」の項【4-⑴】をご参照ください。

【今後の展開について】Goal  14の他の課題や他のGoalにも目を向ける
最後にGoal 14「海の豊かさを守ろう」は、海洋プラスチックごみ問題を解決するだけで達成できるか、を問いました。先ほど活用した資料の中にいくつかヒントはあり、「海洋酸性化」の問題、「漁業資源の保全」の問題もあることを確認しました。
さらに、SDGsの目標一覧を見せました。
「まだまだ課題は山積みだ!」というため息がもれました。どれについて考えたいかを問うと、それぞれが興味のあるGoalを挙げました。
最後に、
「今日は全体で資料を読んだり、対策を考えたりしたけど、SDGsにはとてもたくさんの目標があります。今後はこれらの課題から個人で選択して、研究して、最後に交流したり、みんなでアクションを起こしたりしませんか?」と言うと、
「大変だ!」と言いながらも、何だかワクワクした様子が見られました。

⑺評価(評価方法)
海洋プラスチックごみ問題について、資料をもとに課題となっている事柄を正しく読み取ることができる。(デジタルホワイトボードへの記述、発言)
他者と協働しながら課題解決に向け議論を行うことを通して、未来を予測しながら自分たちにできることを考えることができる。(デジタルホワイトボードへの記述、発言)

海岸に漂着した「海洋ごみ」の写真

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

⑴ 児童の感想
自分が思っているよりも現状はもっと酷いことが分かりました。特に驚いたのは、私たちが知っているリサイクルは、ほんの少ししかされていないこと。とても驚きました。
鳥の胃の中にプラスチックゴミが沢山入っているのを見て、想像以上でした。自分にできることは少ないかもしれないけど、頑張りたいです。自分たちが原因なのに、自分たちが困っているのは変だなと思いました。
私はこの学習で海にたくさんゴミがあり、その対策などをちょっとしかしたことなかったです。そもそもこういうことを考えたことがなかったし、まだ大丈夫、と思って、ずっとほとんどしてこなかったので、今日から何かしないとな、と思いました。海洋プラスチックごみが450年残って海にさまよい続けるということがわかったので、ゴミ拾いの活動にどんどん参加してみたいと思いました。多分というか、絶対ニュースや、CMとかで放送されても、みんな「ほぉ」としか思わないと思うので、その他の方法で伝えていかなきゃいかないのかなと思いました。 道端でゴミを見つけたら拾いたいです。これはみんな意識してやらないと絶対に止められないし、まずはできることから意識してやらないといけないのかなと思いました。

⑵ 授業の成果と課題
【成果】
本時における大きなねらいは、「わかっているつもり」を超えていく経験をすることでした。
SDGsについて、多くの人がある程度認識し始めた今だからこそ、資料を丁寧に読みながら、課題の大きさや、個人を含めた多くの人が手を取り合って解決に向けて取り組むことの必要性を感じさせたかったのです。
本時の授業は、子どもたちの「知っている」に少し情報を付け足して、切迫した課題意識や、自分自身も関わっているという当事者意識をもつことができたことが成果ではないかと考えます。

【課題】
SDGsについての学習に、これから年度末にかけて取り組んでいく予定ですが、インターネットでの情報収集ばかりではなく、やはり実際に多くの人やもの、ことと関わらせたいところです。
今回の授業も、データを中心にしたものでしたので、まだまだ座学の域を出ていないように思います。
子どもたちにとっては、どれも大きすぎる課題ですから、自分たちに近づけて考えるための学習のあり方を子どもたちと探していきたいなと考えています。

⑶ 他教科・他領域とのつながり
調査活動において資料を調べていくという活動があるため、算数科における「資料の調べ方」「割合とその利用」「平均とその利用」などの学びは常に活用されています。
時折、復習も兼ねて取り扱うことができます。
社会科との関連もあり、5学年の漁業に関する学習、環境に関する学習とは直接重なりが見られます。「海洋資源の保全」や「持続可能な開発」に向けては、例えば、本単元で県での取組を取材するなど、地域に根ざした学習が可能です。
今後、近隣の町で漁業に従事している方と、テレビ会議システムを利用して座談会を行う予定です。

【参考文献】
SDGs17の目標 | SDGsクラブ – 日本ユニセフ協会
SDGs(エスディージーズ)とは? | EduTownSDGs | 東京書籍 
SDGs ACTION!(朝日新聞デジタル)

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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