小5図画工作科 「相手」に伝える表現『届け! わたしの思い』
今回のテーマは「絵や立体に表す」です。ここでは、小学5年生の子供にとって身近である、6年生の卒業を祝う気持ちを、絵や立体で表す活動を紹介します。「相手」を意識する視点をもつことで、自分の表現を問い直し、主題をどのように表すかについて考えを深める姿を目指します。
執筆/北海道公立小学校教諭・渡邊千晴
監修/文部科学省教科調査官・小林恭代
北海道教育大学教授・花輪大輔
目次
本題材について
図画工作科の学習では、自分の表したいことを、形や色、イメージなどを手掛かりに、材料や用具を使ったり、表し方などを工夫したりしながら作品に表していきます。授業では、自分の表したいことを表すにはどうしたらよいのかを問いかけ、子供一人一人の思いや工夫を引き出します。しかし、「絵」や「立体」などで、「どのように表すか」について多くの部分を教師が決めてしまうことはないでしょうか。自分の表したい思いは一人一人異なるのですから、学級の全員が同じ方法で表すことは、本当に適しているのか考える必要があります。
もちろん、いつも自由に表現方法を選択することは難しいと思いますが、「どのように表すか」を子供自身が決めることを大切にしたいものです。ここでは、小学5年生の子供にとって身近である、6年生の卒業を祝う気持ちを、絵や立体で表す活動を紹介します。本題材では、どうすれば自分の表したい思いが伝えたい「相手」に伝わるのか、子供自身が考えることを大切にし、表現方法を子供たちにゆだねます。「相手」を意識する視点をもつことで、自分の表現を問い直し、主題をどのように表すかについて考えを深める姿を目指しました。
題材の目標
卒業を迎える6年生や在校生に伝えたいことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴、構成の美しさなどの感じを考えながら、どのように主題を表すかについて考え、表し方を工夫して表し、主体的に表現したり鑑賞したりする活動に取り組む。
題材の評価規準
●知識・技能
知 6年生や在校生に伝えたいことを表すときの自分の感覚や行為を通して、動き、奥行き、バランス、色の鮮やかさなどを理解している。
技 表現方法に応じて材料や用具を活用するとともに、前学年までの材料や用具についての経験や技能を総合的に生かしたり、表現に適した方法などを組み合わせたりするなどして、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。
●思考・判断・表現
発 動き、奥行き、バランス、色の鮮やかさなどを基に、自分のイメージをもちながら、6年生や在校生に伝えたいことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴、構成の美しさなどの感じを考えながら、どのように主題を表すかについて考えている。
鑑 動き、奥行き、バランス、色の鮮やかさなどを基に、自分のイメージをもちながら、自分たちの作品の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴、表し方の変化などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を深めている。
●主体的に学習に取り組む態度
主 つくりだす喜びを味わい、主体的に6年生や在校生に伝えたいことを表現したり鑑賞したりする学習活動に取り組もうとしている。
材料や用具
《子供》はさみ、クレヨン、絵の具、カラーペン、身辺材 など
《教 師》画用紙、身辺材、電動糸のこぎり など
題材の指導計画
指導のポイント
・伝えたい「相手」を想定することで、「自分が表現したことを見た人がどう思うか」ということを考え、自然と「自分の表現をもっと工夫してよいものにしたい」という気持ちが生まれるようにします。
・誰にどのような思いを伝えたいのか、そのためにどのように表し方を工夫しているのか、対話を通して子供からたくさん引き出すようにします。
・表現方法については制限をせず、どのように主題を表していったらよいか考える時間を設定し、ICT端末を活用したり、友達と話し合ったりして、じっくりと考えられるようにします。そうすることで、どの子供も自分の表現を追求する姿が見られました。
・子供が自分で選んだそれぞれの方法が、どのくらいの時間がかかるのか、子供が見通しを立てることが難しい場合は、教師から個別に声を掛けるようにします。
活動の流れと指導上の留意点
〇6年生や在校生に伝えたいことから、表したいことを見付け、どのように主題を表すかについて考える。
・誰に、何を伝えたいのかを考えよう。(10分)
導入では、お世話になった6年生との思い出を振り返りながら、6年生の卒業に向けて、自分が伝えたい気持ちについて話し合いました。話し合う中では、「伝えたい相手」は、6年生はもちろん、いっしょに卒業式に出る在校生にも広がっていきました。6年生へは、「ありがとうございました」という感謝の気持ちや、「卒業おめでとうございます」という祝う気持ちを伝えたい、在校生には、「みんなで最高の卒業式をつくろう」「6年生との思い出をたくさん振り返ろう」と呼び掛ける気持ちを伝えたいなど、一人一人違った「伝えたい気持ち」が出てきました。このように誰に何を伝えたいか考えることで、表したいことを見付けていく姿が見られました。
・ICT端末を持って校内を歩き、どこにどのような作品をつくって展示すれば自分の思いが伝わるか、考えよう。(35分)
次に、「自分が伝えたい気持ち」を6年生や在校生に伝えるには、どうすればよいのかを一人一人が考えました。絵に表すか、立体に表すか、どのような材料や用具を使うのかは制限せず、どのような表現が最も自分の気持ちを相手に伝えられるかについて考えます。しかし、図工室にいて考えるだけではなかなかよいアイデアは出ません。そこで、ICT端末をカメラモードにして校内を歩き、どこにどのようなものがあれば自分の気持ちを伝えられるかを考え、その場所の写真を撮りました。
〇材料や用具を活用し、表したいことに合わせて表し方を工夫して表す。
・試したり、考えたり、表したり、友達に見てもらったりしながら、自分の表現を追求しよう。(90分)
ICT端末で撮影した写真に直接アイデアを書き込んだり、簡単な設計図をかいたり、表したいことを友達や先生に話したりして、どのように表していくのかイメージを膨らませ、じっくりと考えました。
在校生や6年生に、「すてきな卒業式にしよう」という思いを伝えたい子供は、温かい雰囲気を出すために、絵の具・色鉛筆・クレヨン・カラーペンなど、様々な材料や用具を使って、絵に表しました。卒業式の時の体育館の様子を表し、奥行きを表したいと、ステージを小さく、手前に大きな木をかいています。両脇にある緑の木は在校生を、ピンクの桜の木は卒業生を表現しています。
・自分の思いが伝わる表現となっているか振り返り、友達と交流しよう。(適宜5分程度)
自分が大切にしている主題は何か振り返り、自分の伝えたい思いが、伝えたい相手に伝わるよう表現できているか友達同士で感じたことや考えたことを交流します。
他者の視点も取り入れながら、自分の表現をつくり、つくりかえ、さらにつくっていきます。
6年生に、和太鼓の「龍の舞」という曲を教えてもらったときの感謝の気持ちを表したいと思った子供は、電動糸のこを使って板を切り、龍をつくりました。太鼓の音に合わせて舞う龍を表したいと、動きに着目して形を決めたり、土台への接着の方法を工夫したりして表していました。
さらに、友達と交流する中で、6年生に曲を教えてもらったことを伝えたいという新たな思いをもち、もっと表し方を工夫したいと考え、自分と6年生を雪だるまで表して龍の奥に配置しました。
〇自分たちの作品の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴、表し方の変化などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を深める。
・自分の作品を校内に展示し、お互いの作品を見合おう。(10分)
自分の作品を、校内の様々な場所に展示し、友達と見合います。
場所の特徴を生かした作品もたくさん生まれました。
二重窓の内側と外側に作品を貼り、内側の窓を開けると校舎が桜につつまれるような作品です。
「卒業おめでとう」という気持ちを伝えたい6年生の目線に合わせて作品を展示しました。
・友達の感想を参考にして、表現をつくりかえよう。(80分)
作品を一度校内に展示すると、学級の友達はもちろん、他の学年の子供が自分の作品を見ている様子も見ることができます。
感想を聞いたり、反応を見たりして、さらに表現をつくりかえていきました。
玄関にある校歌の掲示を生かし、全校のみんなが校歌を歌っているように表現した作品です。
温かい雰囲気で校歌を歌っていることが伝わるように、材料の特徴を考えて、工夫して表しました。
構成/浅原孝子