インタビュー/柴田大翔さん|「教師は楽しい!」を発信し“ギガ先生”の輪を広げていきたい【注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」Vol.03】

連載
注目の若手&中堅教師に聞く「わたしの教育ビジョン」

“ギガ先生”の愛称で知られ、ICTを使った授業づくりや学級経営、校務の時短術などをInstagramやVoicyといった各種SNSに発信している柴田大翔先生。日々発信することの意義や目的、これからのビジョンについて語っていただくとともに、明日からでも実践できる働き方のコツやICTを活用した教育実践についても教えていただきました。

大阪府公立小学校教諭
柴田大翔(しばた・ひろと)

1990年大阪府生まれ。教師のワークライフバランスを意識した働き方やICT端末をフル活用した授業アイデア、学級づくりを研究。その内容を「ギガ先生」としてInstagramやVoicyといったSNSを中心に日々発信している。自身のSNSの総フォロワー数は2.2万人を突破(2024年4月現在)。著書に『今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法』(学陽書房)、『小学校 新卒からの3年間を華麗に乗り切る仕事術』(明治図書)など。

残業時間を90%以上も削減―自身で始めた働き方改革

「夜遅くに帰って寝るだけの生活を送っていました(笑)」――そう話すのは、大阪府の公立小学校で教鞭をとる柴田大翔先生。今でこそ、教師の働き方についての情報をSNSや著書で発信する柴田先生ですが、以前は、月の残業時間が120時間を超えるほど働き詰めの毎日で、円滑に仕事を回すことができていなかったと話します。

「早朝6時に出勤して夜中の10時ごろに帰宅なんてこともザラでした(笑)。そのころは若くて独身だったこともあり何とかなっていたんですが、そんな生活を重ねるうちにだんだんしんどくなって……。大きく変える契機になったのは、結婚して子どもが生まれたタイミングです」

自身の子育てをきっかけに、短時間で効率よく働く方法を模索するようになったという柴田先生。まず実践したことは「できることは、とにかく早く取りかかる」ということでした。

「それまでの自分自身の働き方を振り返ったとき、事務などのちょっとした仕事を後回しにしていたことに気づいたんです。例えばアンケートなどは手をつけたらすぐに終わるはずなのに、後回しにしてしまうからどんどん積もっていき、気付いたときには、自分のキャパでは処理できないほどに膨れ上がってしまう。ですので、ちょっとした事務作業などを早めに処理することから実践しました」

加えて、すべての業務を自分一人でやることを「あきらめた」ことも大きかったといいます。この「あきらめた」はポジティブな意味であり、「自分一人で抱えこむ必要はない」と吹っ切れたとのこと。そして、柴田先生はこれまで一人で行ってきた作業を一部、子どもたちに任せるようになりました。

「例えば、宿題の答え合わせなどです。子どもたちからすれば、先生がいなくても、自分たちでちゃんと行えるんですよ。それに、教師から離れたとき、子どもたちが自分自身で学び続けられる力をつけるには、子どもに委ねる場面をつくることも大切だと気づいたんです」

その結果、手が空き心に余裕ができたぶん、子どもたちのことをより見取れるようになると同時に、子どもたちが自発的に学べる環境も構築されていったといいます。さらに、そうした環境が安定的な学級経営につながり、子ども同士のトラブルによる放課後の対応なども大幅に削減されたとのこと。もちろん、子どもに任せていいこととそうでないものはあり、その切り分けも行いました。

子どもたちに任せてOKなこと/NGなこと
 OKなこと
宿題の答え合わせ/宿題のやり直し/配布物の返却/簡単な学級掲示物の作成/掲示物の貼り付け
教室の備品の整理整とん
× NGなこと
テストの丸付け/テストの返却/氏名印を押す書類作成/黒板の掃除
健康状態のチェック/食物アレルギーの子への配膳
(特に子どもの健康状態に関することは子どもに委ねないようにしましょう。)

ICT活用で授業アイデアを実現―Canvaを活用した教育活動の実践

なお、1年間の学級経営の明暗を左右するのは、新学期のスタートを上手くきれるかどうかだと柴田先生は語ります。

新学期はまず、規律的な部分に重きを置きます。例えば、挨拶や返事をきちんと行うことだったり、丁寧な言葉づかいを心がけたり、靴をそろえたり……。そういった人としての基本的なことを徹底的に指導します。ここさえクリアすれば、その後、子どもたちは自分の力で進んでいけるようになります」

また、子どもたち同士の関係性や学級の雰囲気(カラー)の土台がつくられるのもこの時期とのこと。「ギガ先生」でもある柴田先生は、新学期はじめのオリエンテーションやレクリエーションにこそ、ICTの活用がもってこいだと語ります。

「おすすめは、自己紹介カードをCanvaで作ってみること。プレゼン用のテンプレートが数多くあるので、書くことや表現することが得意な子はいろんなトピックがそろっているものを使えばいいですし、苦手な子はトピックの少ないものを使えばいい。従来は教師が用意したプリントに子どもが書き込むのが主流だったと思うんですが、自由に選ばせてあげることで、一人一人の性格や個性に合った自己紹介カードをつくれますし、子どもたち同士でもお互いのことをよく知るきっかけになります」

ICT教育を実践する際は、基本的なメディアリテラシーなどを子どもたちに指導すると同時に、「まずは教師が楽しんでみることが大切」という柴田先生。例えば、Canvaを活用したクラスのロゴマークづくりは、子どもたちと一緒に作業することで、クラスの団結がより深まっただけでなく、探究学習にもつながる効果的な教育実践になったと楽しそうに話します。

「学級目標づくりはありますけど、ロゴマークづくりはあまり聞かない。「なら、つくっちゃおう!」って(笑)。しかも、クラスのロゴマークをデザインしたオリジナルトートバッグも製作して、今度の社会見学にみんなで持っていこうと話しています。Canvaを含め、ICTは使えば使うほど、今まで考えられなかったような教育活動が実現できます。まずは教師が、『ICTを使うと、こんなに楽しいことができるんだよ』と実践する姿を見せることで、子どもたちにも学習の楽しさが伝わっていくと思います」

↑Canvaで作成したクラスのロゴマーク
ロゴマークをデザインしたオリジナルトートバッグ→

Canvaを活用した指導や授業に積極的に取り組んでいる柴田先生は、現在Canvaの認定教育アンバサダーである「Teacher Canvasador」への認定をめざし、日々Canvaを活用した教育技術の研究、発信に努めています。

「Canvaは、教育ツールとして無限の可能性をもっています。使い方次第で、頭の中にある様々な授業アイデアを形にすることができます。ICTを活用した授業づくりに熱心な先生はもちろん、『ICTを授業にどう活用したらいいかわからない』『あまり活用できていないな』と悩む先生にも、ぜひ一度ふれて、体験してみてほしいです」

キーワードは「楽しむ」――ギガ先生としての原点

ICTに限らず、どんなことでも「とにかく楽しむ」ことを大切にしているという柴田先生。シンプルな言葉ですが、その「楽しむ」気持ちこそが今日までの柴田先生を動かしてきた確固たる原動力でもあります。

「もともと教師になろうと思ったのは、小学生時代にお世話になった恩師の姿がきっかけ。高校3年生のときに、たまたまその先生の授業を見学する機会があって、何年経っても変わらず楽しそうに授業をする先生の姿を見て、教師になりたいと思ったんです。

その後、大学の教育学部に進学し、子どもたちとふれあうボランティアサークルに所属しました。そこで、子どもたちと昔の遊びをしたり、巨大シャボン玉をつくって遊んだり……(笑)。とにかく、子どもたちと何かワクワクするようなことや、楽しいことをするのが好きなんですよね。そういった姿勢が、現在の教育実践にもつながっていると思います」

「子どもたちと楽しいことがしたい」――その思いを胸に、気合い十分で臨んだ1年目でしたが、柴田先生に任されたのは、学級担任ではなく少人数指導の担当でした。当初は、学級担任になれなかったことに悔しい気持ちを抱いていたという柴田先生。しかし、1年目からクラスをもたなかったことがかえって、自分を成長させるチャンスだったと語ります。

「担任をしていないぶん、さまざまな学年のクラスの授業を見学できたんです。多くの先輩教師の授業スタイルを実際に見て聞いて学びました。すべてを基礎から一つひとつ学べたので、2年目にはじめて担任を任されたときは、ある程度学級経営の見通しを立てることができました」

初任校がICT教育推進校だったこともあり、ICTを活用した指導や校務DXなどについても先輩教師に学びながら、自分でも勉強し研鑽を重ねていきました。そうして学び得た教育技術を、“ギガ先生”としてInstagramを通じて世の中に発信し始めたのが2022年でした。

『教師の仕事は楽しい」という魅力を発信する目的ではじめました。なぜ”ギガ先生”かというと、GIGAスクール構想が本格的に動き始めた年で、かつ自分の得意分野でもあったICTに関連する言葉にしようと考えたからです。投稿を続けていくうちに、全国の先生たちから様々な反響をいただくようになりました。自分の発信した情報が日本のどこかで同じように頑張る先生たちの役に立っていることを実感し、それが私自身の大きな励みにもなっています」

さらに、SNSを活用することで、以前よりもはるかに教育技術を学べる機会が広がったと柴田先生は続けます。

「SNSが普及する前は、教育技術の習得にあたって本を買って読んだり、セミナーに行って学んだりすることが多かったと思います。もちろん、そういったことも大切なのですが、もっと手軽な方法で、かつ忙しい仕事時間のすき間に学べるのがSNSなんです。スマホさえあれば、いつでもどこでも、コンテンツによっては無料で情報を得ることができますから。特に3年目までの若手の先生たちには、どんどんSNSを活用して学んでほしいですね」

SNSによって「アウトプット」を――教師こそVoicyを活用してほしい

現在、Instagramのほかに、柴田先生が特に力を入れているのが、音声プラットフォームである「Voicy」を通じた配信。音声配信サービスなので、ほかのSNSよりもさらに手軽に投稿できるのが魅力とのこと。毎日の自動車での通勤時間を利用して、車内にスマホをセットし、移動しながら録音しているといいます。Voicyで配信することの意義は、「アウトプット」にあると柴田先生は語ります。

声に出すことで、頭のなかの考えが言語化され、整理されます。もちろんインプットすることも重要ですが、アウトプットしてはじめて知識や技術が着実に身につきますし、新たに気づくことがあります。それはInstagramへの投稿も同様です。Voicyは、さらに自分の声を通して発信できるので、話す技術の向上にもつながります。私は、教師こそ、Voicyを活用すべきだと強く感じていて、もっと広めるためにも『Voicyフェス』に出場することをめざしています」

Voicyを配信するためには、審査を通過する必要があるとのことで、10回以上も挑戦したという柴田先生。

柴田先生が話す「Voicyフェス」とは、Voicyの配信者たちが一堂に会し、50以上の対談が実施される大型音声イベントのこと。柴田先生には、このフェスを通じて教師という仕事のやりがいや楽しさといった魅力を多くの人に発信したいという目標があり、そのためにも日々コツコツと配信を行っています。また、柴田先生は、Voicyを広めることによって、教育界の最前線で頑張っている教師の生の声を、日本全国の教師たちの元に届けたい、という強い思いも明かします。

「去年10月に開催されたVoicyフェスでは、さる先生(坂本良晶先生)が教員として初めて登壇しました。坂本先生をはじめ、今の教育界で活躍する先生の話を聴けるのは、とても貴重な機会であり意味のあることだと思っています。それに、全国どこにいても耳だけで学べる点もすごく大きい。Voicyを通して刺激を受けた先生が、『こんなこと、あんなことに挑戦してみよう!』『今度は自分も発信してみよう!』とチャレンジの輪が広がっていくことを期待しています」

教師という仕事の魅力を伝えたい――SNSを通じた発信の先にあるビジョン

柴田先生は、InstagramやVoicyに投稿する際、「ポジティブな発信をすること」を特に意識しているといいます。なぜならそこには、SNSをはじめるきっかけとなった「教師の仕事は楽しい」との思いはもちろん、その先に「教師を志す人を増やしたい」という使命感があるからです。

「教師のなり手不足や若手教師が早期に退職してしまうといった問題は、教師の仕事や働き方に対するネガティブなイメージによる要因もあると思います。ただ、最近では学校の働き方改革も推進されるなど、よい方向に変わってきています。

私も以前は仕事に追われていましたが、工夫することで残業時間を大幅に削減でき、働き方を改善することができました。私自身の経験や知識、情報を発信していくことで、少しでも若手教師や教師を志す人たちが『頑張ってみようかな』と思ってもらえるような投稿を意識しています」

また、実際の職場でも若手の先生をサポートするよう心がけているという柴田先生は、3年目までの教師に次のようなアドバイスを送ります。

「はじめのうちは、わからないことばかりだと思いますので、とにかく他の先生の仕事を見て学び、テクニックを盗みましょう。授業のことでいえば、『守破離』を意識してみてください。1年目は科目ごとに授業の型を身につけ、その型の中で授業を楽しんでみましょう。2年目あたりから、少しずつ自分に合った授業、また子どもに合った授業を意識し、授業の型を完全に身につけたとき、自分のオリジナリティーが出せるようになってきます。

メンタルのことでいえば、決して一人で抱えこまないこと。困ったり悩んだりしたら、ほかの先生を頼りましょう。一方で、先輩教師は、若い先生が相談しやすいような環境を意識してつくっていくことが大事ですね」

:指導書にならった授業を完璧にできるようにし、「授業の型」を身につける
:一部分をアレンジして、自分のカラーを出してみる(自分に合った、子どもにあった授業)
:「授業の型」を確実に身につけたうえで、オリジナリティーを出す

最後に、教師という仕事の魅力について柴田先生は次のように語ってくれました。

「これからの社会を築き上げていくのが、今の子どもたちです。子どもたちが大人になったとき、よりよい社会をつくっていくためには、やはり子ども時代にどのような教育に関わっていたかが重要だと思います。そんな、子どもたちの人生のいちばん大事な時期を担えることが教師という仕事の最大の魅力です。これからも、その魅力をより多くの人に伝えていけるよう活動していきたいです」

「教師の仕事は楽しい」――そう目を輝かせて話す柴田先生の姿からは、教師という仕事のやりがいや楽しさといった魅力はもちろん、仕事に懸ける熱意やプライドもひしひしと伝わってきます。教師のなり手不足、若手教師の離職が課題とされている昨今、柴田先生の発信は、今日の教育現場で頑張る多くの教師、そして、これから教師を目指す人々に大きな力を与えていくことでしょう。今後も柴田先生の活躍から目が離せません。

柴田先生の著書『小学校 新卒からの3年間を華麗に乗り切る仕事術』(明治図書出版)。3年目までの若手教師が1年目~3年目、それぞれの年で意識しておくべき仕事術をまとめた1冊。授業や学級づくりのことから校務のことまで、すぐに実践できる事例を一挙に紹介しています。

取材・文/鷲尾達哉(カラビナ)

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