理科好きを育てるためのしかけの工夫 ~まずは自分からやってみよう!~ 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】
理科好きを育てるためのしかけの工夫 ~まずは自分からやってみよう!~

自然事象との出合わせ方は、先生によってカラーが出やすいところだと言えます。ぜひ、一歩立ち止まって考えてみてください。その導入は、子どもたちにとって「やる気」が出る方法でしょうか? 同じ問題を導くのでも、工夫次第で子どもたちの気持ちは大きく変わってきます。今回は、「理科好きを育てるためのしかけの工夫」です。特に自然事象との「出合わせ方のしかけ」についてです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/広島県公立小学校教諭・大下恭平
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

記憶に残る授業ってどんな授業??

小学生のときに、受けた理科の授業で、記憶に残っている授業ってどんなものがありますか?

ホウセンカやヒマワリの観察? メダカの飼育? 大地のつくり?
きっとここに挙げたものではなく、電気やじしゃくの実験や、空気でっぽうを使った実験、水溶液を蒸発させる実験などの「実験」ではないでしょうか。理科という教科の特徴が「理科=実験」となってしまうのは、いささか困りますが、「理科=好き」につなげるためにも、子どもたちの心に響く実験や内容を選んで一緒に考えたいものです。

出合いのしかけを!!

では、「理科=好き」にするためにどのような「しかけ」が必要なのでしょう。教科書を開いて、問題を確認し、教科書通りに実験を進める。これによって子どもたちは、必要な知識を身に付けることができるかもしれません。しかし、むしろこのことによって実験の楽しさばかりに意識が向かい「理科=実験」になっているのかもしれません。

私は常日頃から、子どもたちに「えっ!?」「なんで!?」「自分たちでもやってみたい!!」と思わせる「出合い」を経験させることが大切だと考えています。

ただ出合わせればよい、ということではありません。出合わせ方の工夫が必要になってくると思います。学習対象と出合う時に、「子どもの素朴概念とのずれ」を経験させることや、「知らなかった科学事象に目を向けさせる」という視点をもつことが大切だと思うのです。

新種発見!? 未確認生物「チョウ」!!

3年生の「昆虫の体のつくり」の学習では、「昆虫ってどんな体のつくりをしているのかな?」と子どもたちに問いかけ、体のつくりを調べ、まとめさせるという学習の流れが考えられます。
ですが、これでは記憶の残る授業にはなりませんよね。この授業を記憶に残るものにするためには「出合わせ方のしかけ」が必要です。

イラスト 悩みながらチョウの絵を描いている子供

おもむろに、
「チョウってどんな体をしているかな?」
と問うてみてはどうでしょう。
子どもたちは「自分の記憶」をたどって各々チョウを描くでしょう。既にモンシロチョウやアゲハチョウの成長について学習していますので、自信をもって描くはずです! しかしどうでしょう。それを集約してみると、「体のつくりが1つのもの」や「2つのもの」、「羽が2枚のもの」、「足がないもの」「足が4本のもの」「触角がないもの」など、この世には存在しないチョウがそこには集まっています。

そこで、「この中にチョウはいません! 全部未確認生物です!」と返すと、子どもたちは「え~!! チョウだよ!」「そんなはずない!」と声を返してくれます。
この言葉を拾い上げ、「では、チョウの体がどのようなつくりをしているのか実際に確かめましょう!」と展開していくと、自然と「調べたい!」「確かめたい!」と子どもたちから動き出します。
この実践では、後日、「学習後、お母さんに『チョウ描いて?』と言って描いてもらいました! お母さんは『簡単よ~!』と言いながら未確認生物を描いていました!」と理科日記に書いてくれた子がいました。
「出合わせ方のしかけ」によって記憶に残る授業に変わったのだと思っています。

びっくり!? マジックショー!!

4年生の「ものの温度と体積」の学習では、空気、水、金属の体積が温度によってどのように変わるのかを調べていきます。教科書で紹介されている出合い方(導入)としては、少しつぶしたペットボトルをお湯、氷水につけ、それぞれの大きさの変化に注目させるという流れが紹介されています。
しかしこれでは、記憶に残る授業になりませんよね。この授業を記憶に残るものにするためには「出合わせ方のしかけ」が必要です。

イラスト 丸底フラスコからスポンジ栓が!

お湯の入った洗面器などの容器を箱で隠し、その容器にコルクなどで栓をした丸底フラスコを入れると、「ポン!」っと音を立てて栓が飛び出します。
これを手品風に見せてみてはどうでしょう。理科室の天井近くまで飛び上がる栓の様子を見て、子どもたちは「わぁ!!」と声を上げ、「なんで?」「どうなったの??」と疑問を抱くはずです。このような「出合わせ方のしかけ」によって記憶に残る授業に変わっていくのだと思っています。

教科書に掲載されているものを紹介するだけでなく、それを演示として子どもたちの前でやって見せるだけでも「出合わせ方のしかけ」になるのではないでしょうか。
子どもたちの「わぁ!」「すごい!」「なんで?」「やってみたい!」を引き出すために、まずは教師自らが楽しみながら、「わぁ!」「すごい!」「なんで?」を体験することこそが大切だと感じています。

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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大下恭平教諭

<執筆者プロフィール>
大下恭平●おおした・きょうへい 広島県広島市公立小学校教諭。大阪市の職員として教員生活をスタートする。4年間の勤務を経て、地元の広島市に戻る。大阪市での教員生活の中で、理科を教える楽しさに気付き、広島市に戻った後、広島市教育研究会理科部会に所属。日々、理科指導の在り方について研究、実践を行っている。令和6年度全小理広島大会の会場校の研究主任。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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