小3国語科「ありの行列」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小3国語科 「ありの行列」(光村図書)の全時間の板書、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/東京都西東京市立田無小学校校長・前田 元
執筆/東京都昭島市立富士見丘小学校・松清のぞみ
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
この単元では、文章を読んで理解したことに基づいて、感想や考えをもつ力を育成することや、文章を読んで感じたことや考えたことを共有し、一人一人の感じ方などには違いがあることに気付くことを目指します。
特に、文章を読んで理解したことについて、既習の内容や自分の体験と結び付けて考えを形成したり、そのようにして形成された考えを共有したりすることにより、一人一人の感じ方に違いがあることや他者の感じ方のよさに気付くことを重点的に指導します。
説明的な文章を読むことにおいても、どこに着目するか、どのような知識や経験と結び付けて読むかによって、一人一人の考えに違いが生じることを体験的に理解できるようにしていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、説明的な文章を読んで、感じたことや考えたこと、疑問点、もっと知りたいことなどの中から、最も心に残ったことを「すごい」「ふしぎ」として友達と共有する活動を通して、一人一人の感じ方の違いについて体験的に理解していくという言語活動を設定しています。
児童は、教材文を読み進めながら「すごい」「ふしぎ」と感じたことを集めていきます。
なぜそう感じたのかという理由を考えさせることで、この「すごい」「ふしぎ」が考えや感想につながっていきます。
本単元の後半では、集めた様々な「すごい」「ふしぎ」の中から、「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」を選び、その理由を検討することで、考えや感想をもち、「文章を読んで理解したことに基づいて、感想や考えをもっている」という指導事項に迫っていきます。
本単元の教材文は誰もがよく目にし、児童にとっては最も身近な昆虫である「あり」を題材としているため、本教材に対する児童の興味・関心は、生活経験によってそれぞれ異なっていると予想されます。実験についても砂糖や石など、ありふれたものを使っており、その様子を容易に想像できることから、「あり」の生態ではなく、実験手法やウィルソン氏本人(学者)に興味を寄せる児童もいるでしょう。このように、着目するところが異なることで、考えや感想にも違いが生じます。
それぞれの実験を読み、段落相互の関係に着目しながら、考えとそれを支える理由や事例との関係などについて、叙述を基に捉えていく中で、「すごい」「ふしぎ」と感じたことを集めていきます。
そこで、本単元では、「すごい」「ふしぎ」と感じたことを友達と交流する場面を繰り返し設定します。まずは、児童自身が考えや感想の違いに気付き、考えや感想の違いに着目することで、考えや感想の理由に目を向けられるようにしていきます。考えや感想、理由に目を向けることで、それぞれの考えや感想のよさ(既有の知識や経験と結び付けているなど)を捉えることができるようにします。
交流場面での指導をいかして、指導事項の「文章を読んで感じたことや考えたことを共有し、一人一人の感じ方などに違いがあることに気付く」ことができるようにしていきます。
また、自分の考えを他者の考えと比較して客観的に捉えることで、文章についての理解がより深まっていくことも実感できるようにします。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉「すごい」と「ふしぎ」を集めて楽しむ
本教材を初めて読んだ児童の感想は、「そうだったのか」「知らなかった」といった、初めて知る情報に対する新鮮な驚きが多くあることが予想されます。児童がもつ、新鮮な驚きや好奇心を大切にして学習を展開していきます。
そのために、教材を読み進めていく中で児童が抱いた「すごい」「ふしぎ」と感じた事柄を毎時間、1人1台端末に記録していきます。学級の全員でいくつの「すごい」や「ふしぎ」が集めることができるかを思い浮かべると、児童の学習意欲が喚起されてきます。
併せて、見つけた「すごい」や「ふしぎ」を友達と交流していきます。その中で、児童は友達との感じ方や考え方の違いに気付くとともに、それでも同じ部分から「すごい」と感じられたことを共感していきます。異なる部分から「すごい」と感じていても、その理由を自身に置き換えて考えているという、似た考え方に気付いていくこともあるでしょう。
違いを認め合い、共感する交流を通して、児童が「すごい」や「ふしぎ」を見つけることへの意欲だけではなく、友達と考えを交流して違いを感じることへの意欲ももてるようになることを目指します。
〈対話的な学び〉 対話で考えの違いを楽しむ
本単元では、意見を交流して対話する場を多く設けています。「すごい」や「ふしぎ」と感じたことについて理由を添えて交流し対話していきます。
対話する際には、「すごい」や「ふしぎ」と感じた理由を明らかにしてから行います。児童が自身の理由を検討していく中で、「隣の友達はどのように考えているのだろう?」「友達の考えやその理由も知りたい」といった、確かめたい気持ちや好奇心を呼び起こし、楽しんで友達の考えを聞くことができるようにしていきます。
児童が「すごい」や「ふしぎ」と感じた理由をはっきりともつことが対話の原動力となるので、理由を検討するときに、苦心している児童には「他にもすごいと感じられるところがあるのに、どうしてこれを選んだの?」や「難しいなら、こっちのすごいにしてみたら?」と投げかけ、「だって…」と続けて出てくる児童の言葉を手掛かりにして、理由を考えることができるようにするなど、適切なタイミングで支援を行います。
理由をはっきりともって交流し対話することで、児童は友達との考え方の違いや、感じ方の違いを感じられるようになっていきます。対話をいかして、互いに違いを認め合いながら学びを進めていきます。
〈深い学び〉 交流を通して身に付けた力を他の学習でいかす
児童が互いの「すごい」や「ふしぎ」と感じたことを交流し対話していく中で、共感したり、違いを認めたりする言葉を適切に使うことが必要になります。
そこで、本単元では、「このことは、〇〇で学習した△△と同じで(違って)…」、「…と同じ(似た)経験をしたことがあって、そのときは…」「自分だったら…」といった具体的な文例を示し、「すごい」や「ふしぎ」と感じたことと既有の知識や体験と結び付ける考え方を身に付けられるようにしていきます。
本単元で学習する交流し対話する経験は、国語科の他の学習や他教科での話合いの場面でも大いに活用することができます。
他の学習場面においても本単元の交流場面を想起させることで、児童が繰り返し活用し、互いを尊重しながら話し合うことができる姿を目指します。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
本単元では、児童が「すごい」や「ふしぎ」と感じたことを大切にして学習を進めていきます。
読み進める中で、児童が感じる「すごい」や「ふしぎ」は、多くの数に上ることが想定されます。
そこで、1人1台端末をポートフォリオのように活用し、児童が感じたことを記録していきます。
1人1台端末は、記録を重ねたとしてもかさばることもなく、また、記録を確認する際も簡単に見直すことができるため、紙を使用する場合よりも利便性が高い部分があります。
本単元の後半では、記録してきた「すごい」や「ふしぎ」と感じたことの中から、「いちばんすごい」や「いちばんふしぎ」と感じたことを一つ選び、交流する時間を設けます。
その際も、1人1台端末の簡単に見直せるよさをいかして、これまでの学習を振り返っていきます。
6. 単元の展開(7時間扱い)
単元名: ありの行列
【主な学習活動】
・第一次(1時)
第1時
・題名と単元扉から、文章に対する興味を広げる。
・はじめの感想を交流する。
・「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」と感じたことを選んで紹介するという活動を知り、学習の見通しをもつ。
・第二次(2時、3時、4時、5時)
第2時
・本文を読み、「はじめ」、「中」、「おわり」の文の構造を捉える。
第3時
・②③段落を読み、指示する語句や接続する語句に着目し、実験1の内容を確かめ、「すごい」「ふしぎ」と思うところを交流する。
第4時
・④⑤段落を読み、指示する語句や接続する語句に着目し、実験2の内容を確かめ、「すごい」「ふしぎ」と思うところを交流する。
第5時
・⑥⑦⑧⑨段落を読み、ウィルソンの研究の内容を確かめ、「すごい」「ふしぎ」と思うところを交流する。
・第三次(6時、7時)
第6時
・これまでの学習を振り返り、交流してきた「すごい」「ふしぎ」の中から「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」と思ったことをデジタル付箋にまとめる。
第7時
・学級全員の「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」を掲示し、読み合って、詳しく聞きたい相手を選んで交流する。
・その際、教科書p103の感想の例を参考にして、「~だそうです【伝聞】」という文末の書き方についての意識を高め、記述の中で活用する。
・単元の学習を振り返る
全時間の板書例と指導アイデア
文章を読んではじめの感想をもち、学習の見通しをもつ時間です。
まず、教科書p95の題名と単元の扉から感じたことや考えたことを自由に発表し合い、学習への興味を呼び起こします。
●「主体的な学び」のために
つづいて、本文を読み、ノートにはじめの感想を書きます。
はじめの感想を書く際に、条件として「すごい」と思ったこと、「ふしぎ」に感じたことを書くことを示します。本教材は、3年生の児童にとって新しい情報がたくさん示されているので、児童が様々な感想をもつことが予想されます。
【 児童のはじめの感想の例 】
感想が書けたら、発表し、板書で示して、学級全体で共有していきます。次の活動で感想を比べて、多様な感想があることを確かめるので、多くの児童が発表できるようにします。感想の内容に偏りが見られる場合は、机間指導の中で、異なる感想を見つけて指名し、発表してもらいます。
次に、板書で示した感想を見比べて、分析していきます。いろんな感想があること、これからの学習でもいろんな「すごい」「ふしぎ」が出てきそうなことを児童と確かめ、学習課題につなげていきます。
学習計画を示しながら、6時間目には、読み進める中で感じた「すごい」と「ふしぎ」を集めていって、「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」と感じたことをまとめ、7時間目には交流することを確認し、学習の見通しをもたせます。
● 1人1台端末の活用
授業の終わりに、1人1台端末のスライドにはじめの感想を入力して終えます。
本単元では、児童1人で複数枚のスライドを使用するので、学級共有フォルダ等にそれぞれのデータを保存して管理します。データのタイトルは児童の氏名や出席番号等にすると確認や管理がしやすくなります。
【 端末画面のイメージ 】
本文を読み、「はじめ」「中」「おわり」の文の構造を捉える時間です。
「すごい」「ふしぎ」を集めるためには、どこを詳しく読んでいくとよいか児童に投げかけ、文章全体を見渡して、「はじめ」「中」「終わり」のどこを詳しく読むか考えていきます。
前の時間に、「すごい」と「ふしぎ」を集めていくことを伝えましたね。では、「ありの行列」のどこをよく読むと「すごい」「ふしぎ」を見つけられると思いますか?
全部詳しく読むのかな?
文章の形で「はじめ」「中」「終わり」って学習したよ。
「はじめ」はどこだろう?「中」や「終わり」も分からないと、どこって答えられないね。
では、「ありの行列」の「はじめ」「中」「終わり」を確かめて、どこをよく読むと、「すごい」「ふしぎ」が見つけられそうか考えていきましょう。
学級全体で、本文の「問い」と「答え」の関係を見つけながら、「はじめ」「中」「終わり」の分け方を考えていきます。
学級全体で段落ごとの大まかな特徴を出し合い、板書しながら、板書例のように整理していきます。
文章全体について段落ごとの大まかな特徴を整理することができたら、改めて全体を確かめ、大きく、問い→実験や研究→答えとしてのまとめという「はじめ」「中」「終わり」の構造になっていることを確かめます。
「はじめ」は、どの段落になりそうですか?
①が入るのは間違いないと思うけど、②がなあ。
①の段落は、質問みたいになっているよ。
②はウィルソンっていう人のことが書いてあるよ。
③からは実験が始まってる。
そうすると、「はじめ」は、どの段落になるかな?
①だと思う。
では、「終わり」は、どの段落になりそうかな?
やっぱり⑨は間違いない。
⑧は実験のことだなあ。
⑨は「このように」ってはじまりだよ。
ということは?
「終わり」は⑨だと思う。
あとは「中」でいいかな?
「ありの行列」の文章の構造を整理したところで、教科書p42を開き、以前に学習した「すがたをかえる大豆」の学習を想起させます。黒板に、姿を変える大豆の段落ごとの特徴を示し、今回学習をしている「ありの行列」の段落ごとの特徴と比べていきます。すると、「すがたをかえる大豆」は、「はじめ」に問いと答えが示されており、「中」には事例、「終わり」では全体のまとめと、「ありの行列」とは異なる構造になっていることが分かります。
「すがたをかえる大豆」の文章は、「中」の事例に大豆がどのような食品に姿を変えているのかが、詳しく書かれていたことを確かめ、「ありの行列」でも、「中」で「いろいろなことが詳しく書かれているのではないか」と見当をつけていきます。
「ありの行列」と「すがたをかえる大豆」の文章の構造を確かめたところで、今一度、本単元では、「すごい」と「ふしぎ」を集めていって、「いちばんすごい」「いちばんふしぎ」と感じたことをまとめることを確かめます。
「すごい」や「ふしぎ」をたくさん集めるため、どこを中心に読めばよいか、「すがたをかえる大豆」の文章も参考にしながら考え、「中」を詳しく読むことが大切であることを押さえていきます。
イラスト/横井智美