発達障害の特性がある子の自信を育てる手立て、学習道具とは?

筑波大学附属特別支援学校研究主任・教務主任

佐藤義竹

特別支援教育では「手立て」をとても大切にしている、と筑波大学大塚特別支援学校研究主任で特別支援教育のスペシャリスト佐藤義竹先生は話します。手立てとは、「子供が○○することができる」ために配慮されるもので、言葉がけや教材教具など様々です。通常学級において、発達障害特性のある子が困る場面でどのように学級担任が支援するのがよいのか、またどのような道具が支援する手段に適しているのかなどを佐藤先生にうかがいました。

佐藤義竹先生

どのような場面でどのような困りがあるのかを把握しよう

――発達障害特性のある子が、学校生活や学習で困る場面は様々だと思いますが、例えば、どのような場面での困りがよく見られるのでしょうか?

佐藤 学校生活では、学習面、運動面、コミュニケーション面の大きく3つの場面での困りが考えられます。注意集中や情報処理が難しく、学習面や運動面では、例えば、「話を最後まで聞けない」「言われたことを理解し行動に移せない」「順番通りに並べない」「どこに並べばよいか分からない」「ハサミがうまく使えない」などの困りが見られます。

また、コミュニケーション面では、相手に対して強く言いすぎてトラブルになったり、相手に伝えられなくて自分で抱え込んでしまったりといったことがあります。

私たちもそうであるように、初めて取り組む課題、経験の浅い課題などには特に苦手意識をもちやすいと思います。

気になる子の、どのようなときに、どのような困った姿が見られるのかを、よく観察、把握することが重要です。そうすることで、子供が困った場面でどのように支援するとよいかの気付きにつながると思います。

――困る場面が見られたとき、小学校の学級担任はどのように対応するのがよいのでしょうか?

佐藤 特性を踏まえて本人に寄り添った対応を考え、課題に対して段階的に取り組んでいくこと、つまり、スモールステップの視点が大切になります。最初から大きな目標、達成が難しい目標を設定して、励ましながら取り組むことも大事かもしれませんが、子供が達成感を感じながら少しずつ大きな目標に歩んでいくプロセスを大切にしたいと考えています。

子供の目標をスモールステップで考えるときに、忘れてはならないのが、学校全体の目標です。全体の目標を受けた個別の目標を設定することで、「あなたも学級の一員なんだよ」という意識を子供に伝えることが大切です。

例えば、不器用さからハサミの操作が難しい子供に、最初から30㎝の直線を切るようにさせるのではなく、初めは「ちょきん」と1回で切れるくらいの長さの課題を準備する、次は「ちょきん・ちょきん」と2回切ったら完成……というように進めるイメージです。スモールステップの視点を通して、子供が「できた」を感じ、次もがんばってみようと思える意欲を育むようにしたいと考えています。

佐藤義竹先生

――スモールステップの目標を達成するなかで、子供が「やりたくない」と言ったときには、どのように対応すればよいでしょうか?

佐藤 私の場合は、「今日はやめておこうね」と一度その活動から離れるようにします。

時間を置いて、また取り組むようにするとよいと思います。

子供のためを思って、向き合いすぎると、厳しい言葉がけをしてしまうこともあります。こうなると、今まで築いてきた教師と子供との信頼関係が崩れかねません。いったん引くことも必要です。

子供の「できた」を育む道具であることが重要

――発達障害特性のある子が「できる」ようになり、自信をもつことができるというのはどのような学習道具なのでしょうか?

佐藤 私が若手のとき、教材は手作りのオリジナル教材でなくてはならないと思い込んでいたことがあります。深夜までかかって手作りした教材が子供に合わなくて落胆することもありました。そのとき、もう少し広い視点で考えてもよいことに気が付きました。

子供が試行錯誤を通して自然とスキルアップしていくように課題を促すのではなく、私たち指導者側が活動内容や方法を工夫することが大事だと考えています。その工夫が、手立てであり、手立ての1つが道具であると思います。

製品づくりのプロが開発した商品は使い勝手もよく、デザインや耐用性なども優れていると思います。私たち教員が作る教材はその逆だ……ということではありません。市販製品も手作りも、どちらもうまく柔軟に活用することが大切です。

その中心に子供の存在があり、子供の「できた」を育む道具であることが大切です。そのためにも指導や支援のプロである私たちの見立て、その子に対する個別の目標設定が重要になります。自信をもつことにつながるような、自信を育んでいく段階的な取組があれば、どんな学習道具でも有効に活用することができます。

――佐藤先生が具体的にこの学習道具を使って、子供が自信をもったという例をお聞かせください。

佐藤 手作り教材である「気持ちのメーター」を使った子供と保護者とのやりとりから、学習道具の奥深さを勉強させていただきました。子供が自分の状態に気付いて、場に応じた過ごし方(対処方法)を考え、生活の幅を広げてほしいと思って作った教材です。

その子供はイライラしたときに自分でどうしたらよいのか分からず、ちょっと大きな声を出してみたり、周囲にきつく当たってしまったりする様子が見られることがありました。イライラを「我慢する」のではなく、適した過ごし方を選択できる手立てがあれば、その子供なりの過ごし方の幅を広げられるのではないだろうかと考えて作ってみました。

まずは、自分の状態を可視化・見える化すること、そして次に具体的な過ごし方を選択することで、イライラを場に応じた方法で対処することにつながりました。

また、その様子を見ていた他の子供が「私も使ってみたいです」と言うので、同じ教材をその子供用に用意しました。すると、同じように、自分なりに活用しながら安心して過ごせるようになっただけでなく、家庭にも持ち帰って使えるようにしてみたことで、学校と家庭で同じ環境を整えることができ、保護者と担任で子供の成長を共有する手立てにもなりました。

佐藤先生手作りの「気持ちのメーター」
佐藤先生手作りの「気持ちのメーター」

――佐藤先生が「これはすばらしい」と思われる、学級担任におすすめの道具を5点お教えください。

佐藤 1つ目は、見通しをもつことができるタイマーです。時間の経過を見える化するタイマーもたくさんの種類があります。見通しをもち、終わりを意識することによって、自分の行動を調整できるようになります。

●タイムタイマー モッド/輸入元:(株)ドリームブロッサム

2つ目は、プリントをまとめて収納できる袋です。登校後、また持ち帰ったプリント類の提出の手助けになる袋です。準備するのに時間がかかって授業に間に合わないという子供に適していると思います。この道具は、整理分類できる視点があるので、子供が「できた」という自信をもつことができます。

●プリントまとめて忘れん絡袋 A4/(株)ソニック

3つ目は、音刺激を軽減する耳栓です。耳の穴にフィットするような大きさで、必要なときに周りを気にせず使えるような商品です。環境音をカットする道具はたくさんの種類が開発されています。場によって子供が選択できるような環境を整えることが大切です。

●黄色:3M™ E-A-R™ウルトラフィット™耳栓340-4004 水色:3M™耳栓1290/スリーエム ジャパン(株)

4つ目は、リコーダー演奏を手助けしてくれる「ふえピタ」です。笛穴に貼るだけで安定して押さえることができるので、自分もほしかったなと思いました。

●ふえピタ/(株)tobiraco(トビラコ)

5つ目は、けん玉が難しい子供に最適の道具です。プラスチック製のけん玉やソフト素材のけん玉は、まさにスモールステップの道具です。負担のない範囲で試行錯誤を繰り返しながら、子供が「できた」という成功体験をすることができ、徐々にステップアップしていくことをイメージしやすい道具だと思います。

●簡単プラけん玉/(株)アーテック
●EVAクリスマス&お正月けん玉/(株)アーテック

――工夫された学習道具と一口に言っても、その子に合うかどうかは使ってみないと分からないと思います。どのようにすればよろしいでしょうか? また、合う・合わないはどのように見分ければよろしいでしょうか?

佐藤 本人が使ってみてどう思ったか? というようにその子の感じ方・考え方を大事にしたいと思います。

一方、なかなかそこまでの表現が難しい子もいる場合がありますので、その子の様子から合う・合わないを見定めることが大切です。ただし、初めて道具を使う場合は、使い方が分からないと、自主的な活用までつなげることは難しいのです。そのため、導入当初はいっしょに確認しながら使ってみるといったプロセスはぜひ大事にしてください。

道具があればそれでOKではなく、最初は使い方を知る丁寧なやりとりも大切です。そのような過程を経て、取り組む姿からあまり道具が機能していないと思われるのであれば、違う道具を活用する、もう一度使い方をいっしょに確かめるなど、私たちの振り返りが大切です。

その子にどのようなことができるようになるとよいかを考える

――小学校の学級担任は、発達障害特性のある子に対して、どのようなところに留意すればよいでしょうか?

佐藤 障害特性を押さえた上で、その子に今、何を求めるか、どのようなことができるようになるとよいか、というような個別の指導目標を設定することが大切だと思います。学習集団全体の目標を受けて、その子の個別目標をどこに置くかを指導者の見立て・実践・評価改善のプロセスが必要不可欠です。

その場合、教員集団の意見交換が大事になります。子供を真ん中におき、どのようにしていくか、学級担任だけでなく、教員集団で考えていくようにするとよいでしょう。

佐藤義竹先生

――学級の周りの子供たちへはどのように指導をすればよいでしょうか?

佐藤 私は10数年、知的障害特別支援学校の勤務経験しかありませんので、小学校との文化的な違いがあると思いますが、その前提でお話しさせていただきます。

自分自身の経験からは、周囲の子供たちへの何か特別な指導の必要性を感じたことはありません。もしかすると、特別支援学校という「みんな違ってみんないい」が自然と満たされている学校文化だからなのかもしれません。「必要な子供に必要な手立てを」という考え方に立ち、周りの子も必要だったら手立てを活用すればよいし、今のままで大丈夫であれば今のままでよいのではないかと思います。

「だめ」ではなく、「どうして必要なの?」という視点に立ち、必要な手立ての活用を関係者間で合意形成を図りながら活用してみることが大切だと思います。

――学級担任は、学習道具を使うとよいことなどを保護者へどのように伝えればよいでしょうか?

佐藤 「なぜ、学習道具を使うのか?」という説明や合意形成を図る姿勢が大事だと思います。説明するときには「~が難しいから、特別(個別)に学習道具を活用します(活用したいと思います)」ではなく、「~できるように、その手立てとして学習道具を活用します(活用を考えてみませんか?)」という伝え方が大事です。それが個別の指導目標であり、個別最適な学びにつながるものであると考えています。

 

取材・文・構成/浅原孝子  撮影/黒石あみ(小学館 写真室)

 

プロフィール
佐藤 義竹(さとう・よしたけ)

筑波大学附属特別支援学校研究主任・教務主任 
福島大学教育学部卒業後、筑波大学大学院修士課程修了。福島県立特別支援学校に5年間勤務後、筑波大学附属大塚特別支援学校中学部担任を経て、地域支援部。東京都文京区教育センター専門家、文京区特別支援教育相談委員会委員、筑波大学支援専門家チーム。社会性や自尊感情を育む教育プログラムを実践。自己選択・自己決定、意思表明の力を育む教材として「すきなのどっち?」を、コミュニケーションにおける傾聴の手立てとして「きもち・つたえる・ボード」を開発。著書に『今すぐ使える! 特別支援アイデア教材50』『1日1歩 スモールステップ時計ワークシート』(ともに合同出版)、『自信を育てる 発達障害の子のためのできる道具』(小学館)がある。

 

発達障害の子が直面する課題を助ける道具の本

自信を育てる発達障害の子のためのできる道具

自信を育てる
発達障害の子のためのできる道具

著/佐藤義竹

発達障害の子のための道具100点以上を紹介しています。障害のあるなしにかかわらず、手立ての1つである道具は、多くの人の生活を支えてくれるはずだという佐藤先生のメッセージがつまった内容となっています。

A判/96頁
ISBN9784093115407

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