「日本各地のお雑煮の違い」全校朝会【校長講話】文例集 #9
全校朝会での校長講話といえば、校長先生にとって腕の見せどころです。とはいえ、毎月、子供たちの知的好奇心を掻き立てたり、子供たちの心を整えたりする内容を考えるのは苦労するもの。そこで、本連載(月1回公開、全11回)では、学級経営や学校経営に関する多数の著書をもつ俵原正仁先生が、実際に使用したスピーチの全文を公開します。1月は講話「日本各地のお雑煮の違い」を取り上げます。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
1月のテーマはこう選ぼう
全校朝会の話には季節感も必要です。そこで、1月の全校朝会は、お正月の定番であるお雑煮を話題に取り上げます。子供たちは、普段自分たちが食べているお雑煮と日本各地で食べられているお雑煮の違いに驚くはずです。
今回はお雑煮の違いから、自分が普通と思っていることが、他の人から見れば普通でないことがあることを伝えていきます。キーワードは「普通」です。
★月の講話「日本各地のお雑煮の違い」全文
あけましておめでとうございます。
みなさんは、どんな冬休みでしたか?(※1) 校長先生は、お正月に、お雑煮でお餅を3つ食べました。校長先生が食べたお餅は丸いお餅(※2)でしたが、なんと! 教頭先生が食べたお雑煮には、四角いお餅(※3)が入っていたそうです。どうやら、お雑煮にはいろいろな種類があるようです。
みなさんが食べたお雑煮にはどんなお餅が入っていましたか?
今から、お雑煮について、いくつか質問をしていきます。お正月にお雑煮を食べた人は思い出しながら、お雑煮を食べていない人は、「食べるなら、どっちがいいかな?」と考えながら(※4)、①か②を選んでください。
【第1問】 お雑煮のお餅は、①丸いお餅ですか? ②四角いお餅ですか?
【第2問】 そのお餅は、①焼いていなかったですか(煮ている)? ②焼いていましたか?
【第3問】 そのお餅は、①白味噌の味噌汁に入っていますか? ②すまし汁に入っていますか?
全部①だった人はいますか?
焼いていない丸餅が白味噌の味噌汁に入っているお雑煮を食べた人です。このお雑煮は、関西で多く食べられているそうです。12月に給食で出たお雑煮がそうでしたよね。
逆に、全部②だった人もいると思います。焼いた四角のお餅がおすましに入っているお雑煮は、関東で多く食べられているそうです。
では、ここで問題です(※5)。
関西のお雑煮で、丸いお餅が使われているのは、なぜでしょうか?
①かわいいから
②丸だとお椀にたくさん入るから
③円は丸いですよね。そして、円というのは、円満という言葉につながるから
③の円満という言葉は、完全に満ち足りているという意味です。
答えは決まりましたか?……………………それでは、正解を発表します。
正解は③です、つまり、世の中が円満になることを願って、円の形、つまり、丸い形のお餅を入れているのです。では、続いて問題です。
関東のお雑煮で、お味噌を使わないのは、なぜでしょうか?
①昔、お味噌は高級品だったから
②「味噌をつける」のが嫌だから
③味噌を使わないと、すまし汁になります。武士の世界では「すまし」た顔が格好いいとされていたから
②の「味噌をつける」というのは、「失敗する・自分の名誉に傷をつける」という意味です。③の「すました顔」というのは、気取っている顔という意味です。江戸時代、関東は武士の社会だったので、それがかっこいいということで、味噌を使わないことが流行ったという意味です。
答えは決まりましたか?……………………それでは、正解を発表します。
武士は、自分の名誉に傷を付けることを嫌がります。つまり、正解は②の「味噌をつける」ことを嫌がるになります。
このように、お雑煮は、西と東ではずいぶんと違います。ちょっと気になった校長先生は、冬休みに、日本全国のお雑煮を調べてみました。いろいろと面白い発見があったので、紹介します。
まず、一つ目が、鳥取県の小豆雑煮です(※6)。ぜんざいやお汁粉みたいですね。続いて、白味噌にあん入りの丸もちが入っている香川県の「あん餅雑煮」、甘いクルミのたれにお餅をつけて食べる岩手県の「クルミ雑煮」、きな粉が入った別皿を用意して、お餅をきな粉につけながら食べる奈良県の「きな粉雑煮」。調べてみると、このように日本には、いろいろなお雑煮があることが分かりました。中でも、校長先生が一番驚いたのが、沖縄のお雑煮です。では、最後の問題です。
校長先生が驚いた沖縄のお雑煮とは?
①パイナップルが入っている「トロピカルお雑煮」
②冷やし中華みたいに、氷を入れて冷たくした「冷やしお雑煮」
③お餅が入っていない「餅なしお雑煮」
答えは決まりましたか?……………………それでは、正解を発表します。
正解は…③のお餅無しお雑煮です。お雑煮なのに、お餅が入っていない。ビックリです。校長先生は、ビックリしましたが、沖縄の人にとっては、これが普通のお雑煮です。逆に、沖縄の人は、白味噌のお雑煮を見て、ビックリするかもしれません。
自分が普通と思っていることが、他の人から見れば、普通でないこと
があるんですね。自分たちが食べているお雑煮とは違っていても、どのお雑煮もおいしそうでした。自分と違うからダメだということではないのです。そして、このことは、お雑煮だけに言えることではありません。1年生は1年生なりに、6年生は6年生なりにどういう意味か考えてほしいと思っています(※7)。この場で、一言で言うとしたら「みんなちがって、みんないい」ということです。
2024年も、3学期も笑顔かがやく〇〇小学校でいられるように、みんなでいっしょにがんばっていきましょう! これで校長先生の話を終わります。
話し方のコツとポイント解説
(※1)あくまでも話のきっかけづくりのための質問です。ここで子供たちの答えは待ちません。テンポが悪くなるという理由もありますが、冬休み自慢のような回答によって、冬休みにどこにも行けなかった子がつらい思いをするためです。
(※2)私は関西なので、このように言いましたが、その地域で食べるお雑煮を校長先生が食べたという設定で話してください。
(※3)教頭は、校長とは違う地域のお雑煮を食べたという設定で子供を引き付けます。事実と違うかもしれませんが、そこは目をつぶってもらいます。実際に、別の地域のお雑煮を食べた先生がいれば、その先生の話をしてもよいでしょう。
(※4)お正月にお雑煮を食べない家庭もあります。「どんなお雑煮を食べましたか?」という質問にすると、参加できない子供が出てくることになります。そのような子が出ないような配慮をしなければいけません。
(※5)関東や関西地域でない場合、上の3つの質問を割愛して、「関西では丸いお餅が使われているそうです。」と、いきなりここから始めてもかまいません。
(※6)全国のいろいろなお雑煮を紹介する場合、言葉だけの説明だけではどうしても子供たちへのインパクトが薄れてしまいます。できれば、画像と共に紹介しましょう。
(※7)ここでは、これ以上突っ込んだ話はしません。問題提起をして終わります。後は、担任にお任せします。
私は、パワーポイントなどで、スライドショーを作って話をしています。「音声(言葉)+映像(文字・写真)」で、より多くの子に話の内容が伝わるようになります。全校朝会を運動場で行っているのでなければ、ぜひ、スライドショーを作成してください。子供たちの興味・関心もぐっと高まり、しっかり話を聞こうという姿勢になります。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
写真AC、イラストAC
【俵原正仁先生ご著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意