小5社会「公害からくらしを守る」指導アイデア
執筆/札幌市立新光小学校教頭・斉藤健一
編集委員/文部科学省教科調査官・小倉勝登
札幌市立山鼻小学校校長・佐野浩志
目次
年間指導計画
・国土の地形と気候の概要
・低い土地のくらし
・高い土地のくら
・あたたかい土地のくらし
・寒い土地のくらし
・米づくりの盛んな地域
・水産業の盛んな地域
・日本の工業生産と工業地域の特色
・自動車工業の盛んな地域
・工業生産を支える貿易や運輸
・放送などの産業とわたしたちのくらし
・情報を生かして発展する観光業
・情報を生かして発展する販売業
・情報を生かして発展する運輸業
・国土の自然災害
・私たちの生活と森林
・公害からくらしを守る
目標
我が国の国土の自然環境と国民生活との関連について、公害の発生時期や経過、人々の協力や努力などに着目して、地図帳や各種の資料で調べてまとめる、公害防止の取組を捉え、その働きを考え、表現することを通して、関係機関や地域の人々のさまざまな努力により公害の防止や生活環境の改善が図られてきたことや、公害から国土の環境や国民の健康な生活を守ることの大切さを理解できるようにするとともに、学習問題を追究し、解決しようとする態度や、学習したことを基に、国土の環境保全について、自分たちにできることなどを考えようとする態度を養う。
評価規準
知識・技能
①公害の発生時期や経過、人々の協力や努力などについて、地図帳や各種の資料で調べて、必要な情報を集め、読み取り、公害防止の取組を理解している。
②調べたことを白地図や図表、文などにまとめ、関係機関や地域の人々のさまざまな努力により公害の防止や生活環境の改善が図られてきたことや、公害から国土の環境や国民の健康な生活を守ることの大切さを理解している。
思考・判断・表現
①公害の発生時期や経過、人々の協力や努力などに着目して、問いを見いだし、公害防止の取組について考え、表現している。
②公害防止の取組と国土の環境や国民の健康な生活を関連付けて、公害防止の取組を捉えて、その働きを考えたり、学習したことを基に国土の環境保全について、自分たちにできることなどを考えたり選択・判断したりして、適切に表現している。
主体的に学習に取り組む態度
①公害防止の取組について、予想や学習計画を立て、学習を振り返ったり見直したりして、学習問題を追究し、解決しようとしている。
②学習したことを基に国土の環境保全について、自分たちにできることなどを考えようとしている。
学習の流れ(5時間扱い)
問題をつくる 1時間
- 公害の種類や発生の位置や時期、その経過の様子などについて、資料を読み取り、公害から国土の環境や国民の健康な生活を守るための取組を予想し、学習問題をつくる。
(学習問題)
公害の発生は人々の生活とどのような関わりがあり、公害から暮らしを守るために、人々はどのような取組をしてきたのだろう。
追究する 3時間
- 教科書や資料集、1人1台端末などを用いて、大気の汚染や水質の汚濁などの公害の様子や公害防止の取組について調べる。
- 調べたことを白地図や図表、文などにまとめ、公害防止の取組の働きについて話し合う。
- 国土の環境保全について、自分たちにできることなどを考え、話し合う。
まとめる 時間
- 昔と今の生活の様子を比較したり、関連付けたりして、公害の発生を防ぎ、国土の環境を守るために大切にすべき行動について、関係図や文にまとめる。
問題をつくる
公害の種類や発生の位置や時期、その経過の様子などについて、資料を読み取り、公害から国土の環境や国民の健康な生活を守るための取組を予想し、学習問題をつくる。(1/5時間)
導入のくふう
大気の汚染や水質の汚濁などの公害の様子を、写真資料を基に現在と過去を比較しながら読み取ることで、公害が人々の生活に影響を与える被害の大きさをイメージできるようにする。
1時間目
日本で起きた公害の様子を写真資料から読み取ったり、その公害がどこで起こったのかを地図帳で確かめたりして、公害が人々の生活と関わりがあることに気付き、公害から暮らしを守るための取組について関心をもつ。
○写真資料を見て、気付いたことを交流する。
空が黒い煙でいっぱいだよ。体に悪そうだね。今はきれいな空が当たり前なのにね。
海の汚れもひどいね。これでは魚も死んでしまいそうだよ。
これらは約60年前のある都市の空と海の様子です。家や学校の中も黒く汚れてしまうほど、空気が汚い状態だったそうです。
こんなに環境に悪そうな時代があったなんて知らなかった。
なぜ、空や海がこんなに汚れていたのかな。当時の人々は苦しんでいなかったのかな。
この写真は1つの例です。1人1台端末で、「日本の大気汚染の歴史」「日本の水質汚濁の歴史」を調べてみましょう。
そして、大気汚染や水質汚濁が起きていた場所を地図帳で確かめましょう。
「環境問題」とか「公害」という言葉自体がない時代があったんだね。今とは違うね。
どこか1か所に集中して汚染が起こっていたのではなく、日本のいろいろな場所で起こっていたんだね。
解決するために、きっと、市民(住民)が行動を起こしたと思うよ。
きれいな空や海に変わった経緯を調べていきたいな。
公害の発生は人々の生活とどのような関わりがあり、公害から暮らしを守るために、人々はどのような取組をしてきたのだろう。
追究する
教科書や資料集、1人1台端末などを用いて、大気の汚染や水質の汚濁などの公害の様子や公害防止の取組について調べる。調べたことを白地図や図表、文などにまとめ、公害防止の取組の働きについて話し合う。その際、個別最適な学びと協働的な学びの一体化をねらって子供自身が事例を選択して調べ、それぞれの視点からの考えを交流することで、公害の防止や環境改善に向けて成果を上げてきた関係機関や人々の努力や協力の様子などを捉えられるようにする。(2~3/5時間)
活動のくふう
「個別最適な学び」を実現するために、児童一人一人が「大気汚染」と「水質汚濁」のどちらか興味・関心の高い事例を選択できるようにし、1人1台端末を活用しながら公害発生の事実とその解決に向けた取組の様子を調べ、まとめることができるようにする。
2・3時間目
日本で起きた「大気汚染」または「水質汚濁」の様子を調べ、その公害がどこで起こったのかを地図帳で確かめるとともに、公害発生の原因や人々の生活との関わり、解決に向けた取組について<大気汚染編>または<水質汚濁編>としてまとめる。
「大気汚染」または「水質汚濁」について興味・関心のあるほうを調べてみましょう。そして、GoogleスプレッドシートやGoogleスライドに次の点を参考にしてまとめていきましょう。
工業が盛んな地域で公害が起こるという共通点がありそうだね。
金属を含んだ水などをそのまま川や海に流してしまっていたんだね。汚染された魚を食べ、人にも被害が出たようだよ。
環境に悪い物質をそのまま空気中に放出してしまっていたんだね。
重いぜんそくに苦しむ人がたくさんいたんだね。
もっと環境のことを考えたらよかったのに。当時、そのような意識はなかったんだね。
今現在と比較しながら、当時の人々の立場や状況を踏まえて、調べたり考えたりしていくと、気付くことが多くありますよ。以前、学習した「工業生産」の内容と関連させて考えてみてもいいですね。
個別最適な学びにつながる「指導の個別化」のポイント
やみくもに調べてしまう子供たちには、自ら学習を調整できるよう、調べる視点を与えるなどの関わりが考えられます。上記のような「時期」「位置」「原因」「経過」などがその視点となります。
教材化のポイント
児童一人一人が「大気汚染」と「水質汚濁」のどちらか興味・関心の高い事例を選択できるようにここでは示していますが、従来のように教師が教材化する際にどちらかを選択し、学習展開を考えていくことも可能です。その際も調べる視点等は上記の通りです。
追究する
GoogleスプレッドシートやGoogleスライドにまとめたことを、1人1台端末などを用いて交流し、「市民(住民)」「市(市長、市役所)」「工場(民間)」の3つの立場から、それぞれの公害防止の取組について整理する。また、環境保全のために、自分たちには何ができるのか、自分たちに協力できることはないかを考えたり、選択・判断したりする。(4/5時間)
活動のくふう
「協働的な学び」を実現するために、児童一人一人が「大気汚染」と「水質汚濁」について調べたことを交流する。その際に、比較・関連・総合して共通点を見いだすなど、単元の目標に迫ることができるようにする。
4時間⽬
日本で起きた「大気汚染」または「水質汚濁」の様子や、その公害の防止の取組について交流し、「市民(住民)」「市(市長、市役所)」「工場(民間)」の3つの立場で整理し、公害防止の取組の働きについて話し合う。
イラスト/栗原清、横井智美