子供を勉強嫌いにしないために最初に学ぶべきスキルとは?ー松丸亮吾さん【みん教×EDUPEDIAコラボインタビュー】前編

謎解きクリエイターとしてテレビ、雑誌で大活躍中の松丸亮吾さん。斬新な学習法を取り入れた、ひらめき学習塾「リドラボ」を開校しました。リドラボで学ぶのは “ひらめき学習”。身に付けるのは、考える力の素地となる “

松丸亮吾/まつまる・りょうご
東京大学に入学後、謎解き制作サークルの代表を務め、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている〝謎解き〞の仕掛け人。監修の書籍『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)は累計185万部以上に。現在は「考えることの楽しさをすべての人に伝える」を目標に東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともにあらゆるメディアに謎解きを仕掛けている。
目次
“地頭がいい” の正体とは?
5つの問題解決能力で、勉強も人生も乗り越えられる

──松丸さんが塾長を務める「リドラボ」の開校イベント*では、子供たちが生き生きと協働して学んでいる姿が見られましたね。松丸さんの「頭を使って考えることが楽しくなれば、無敵になれる」という言葉も印象的でした。
松丸 ありがとうございます。このプロジェクト自体3年間 かけてようやく出来上がり、やっとこぎ着けた開校イベントだったのですが、リアルに保護者の方や子供たちとお会いできて、とても良かったと思います。
通常の学校や学習塾では、答えが合っていて「よっしゃ!」って仲間とハイタッチするみたいなこと、なかなかないじゃないですか。リドラボでは、子供たちがコミュニケーションをとりながら、チーム一丸となって何かに取り組むという部分を大切にしているので、そういった楽しんで取り組む姿が実際に見られたのは嬉しかったです。
僕は、実は元々勉強が苦手だった時期があって、その時に “ひらめきで問題が解ける” という体験に救われた過去がありまして……。突破口がなさそうに見えることや、行き詰まった時にも、「いや、気付いてないだけで、突破口は常にあるよ!」っていうメッセージを伝えていきたいと思っているんです。
*2023年4月1日に、東京で実施されたリドラボ開校記念イベント。小学生と保護者37組を招待し先行体験授業が行われた。
──“ひらめき” がキーワードなんですね。
松丸 はい。ひらめき体験については、幼い頃にやっていた「ひらめき体験教室」*などのおかげで刷り込まれました。ですから、例えば勉強で「数学に関して苦手分野があって、成績が伸びない」といった時にも、「どうやったらこれを伸ばすことができるんだろう?」と、ゲーム感覚で楽しめたんですね。
僕にとっては、勉強もゲームも同じです。「勝てる方法」を考えるのが好きなんですよね。負けた時に「じゃあ、次はどうすれば勝てるようになるかな?」って考える癖が自然とついていたんです。それは、勉強が苦手な子が得意になっていく上で、すごく有効な方法論だなと思っています。
勉強は、たくさんやればもちろん成績は伸びますけれど、効率が悪い勉強法もありますよね。「勝てる方法」を考えることが好きになっていれば、 闇雲にやるのではなく、「どうすれば勉強の成績を効率よく上げることができるか」を考えて勉強することができます。そうすると成績も伸びていきやすい。「要領がいい」っていう言葉がありますけれど、その要領の良さっていうのが、いわゆる”地頭力”なのではないかと思っています。
大事なのは、“地頭の良さ”は生まれた瞬間に身に付いている力ではなく、後天的に確実に伸ばすことができる力だということです。それをリドラボでは”地頭力”と呼んでいるんです。
*ひらめき体験教室…立正大学教授・鹿嶋真弓氏が開発した学習プログラム。『ひらめき体験教室へようこそ』(図書文化社発行)。
──地頭は先天的なものではなく、後天的に伸ばせるということですね。その”地頭力”を育成するのに、謎解きが効果的なのですか?

松丸 いえ、必ずしも謎解きに限らないと思います。僕ら(リドラ株式会社)はもともと、謎解きを作るエンターテインメント集団でしたが、あらゆる問題を作っていくうちに、「問題によって様々な力を働かせることで、解くことができるんだ」っていう発見があったんです。
それらの種類を分類していったら、5つに集約できました。つまり、逆に言うと、この5つの力っていうのは、あらゆる問題提起に対して効率よく解決することができる力のことであり、「問題解決能力は5つのジャンルに分かれる」という発見につながりました。具体的には、以下の5つです。
1 多角的思考力
2 論理的思考力
3 発想力
4 試行錯誤力
5 解釈表現力
これらがたまたま謎解きでも使える、ということです。謎解きだけでなく、自分の人生設計にも、受験の成功にも、仕事にも、この5つの力は使えます。何かしらのハードルを乗り越えるための問題解決能力というわけです。
保護者からの熱烈な反響
教科学習だけではない教育を求めるニーズは高い
──松丸さんが、リドラボを設立した経緯、教育への興味関心が高まったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
松丸 僕、純粋に子供が好きなんです。子供のために、いろんなことをしてあげたいっていう思いがありまして。子供向けのイベントを開いたりとか、子供とコミュニケーションできる機会を今もなるべく作っていますし、講演会のようなオファーはできるだけ引き受けて全国各地を回っています。
そうして全国を巡った中で、保護者の方からの声で一番多かったのが、「うちの子、勉強ができません。どうやったらできるようになりますか?」というものでした。「僕はこういう方法でやりましたよ」って言うと、「やっぱり松丸くんは、頭の出来が違うんですね。うちの子は無理だわ」とか「うちの子には、ちょっとできないので」と言われて、それを聞くたびに疑問に感じていたんです。
僕は生まれた時から勉強ができたわけじゃないですし、 勉強ができなかった時期もあって……。それを乗り越えたきっかけは、頭を使うことを楽しめるようになったことだったんです。具体的には僕の場合は、「IQサプリ」*でしたが、要はきっかけ次第だと思うんです。
今の子供たちにとっては、それは「ナゾトレ」かもしれないし、「リドラボ」かもしれないし、そういうきっかけを生み出すものに、明確な教育的価値を付けたいな、と。こうした “頭を使うことが楽しめる塾”は、今のところあまり開発されていないんですよね。
*IQサプリ…バラエティー番組「脳内エステ IQサプリ」(フジテレビ)
やっぱり日本社会全体が、教科学習に偏っている側面がありますので。それが、勉強嫌いが増えている原因かもしれないなと思っています。
つまり、“思考力を伸ばす前に「勉強」に立ち向かう” のって、ゲームで “レベル上げする前にラスボスに挑む” みたいな難しさがあると思うんです。でも、「頭を使うと楽しい」って思えたら、難しいレベル上げも楽しめて、どんどん子供が勝手に成長するのではないでしょうか。
その装置を先に作らないと、勉強嫌いの子は増えてしまう。それが、おそらく頭の出来・不出来と言われる正体になっているのではないかと思います。
だから、思考力を純粋に伸ばすことができる「地頭に特化したカリキュラム」は、社会的にも必要だし、謎解きを作ってきた僕であれば、それを開発できるかもしれないと思ったんです。
4年ほど前に、そんな話を東京大学准教授の藤本徹博士としたことがあって、それがどんどん実現していって、気が付いたら「リドラボ」というサービスになっていたという経緯です。

──反響はどうでしたか?
松丸 想像以上に大きかったです。「最初は謎解き好きな人が集まって来てくれるのかな?」くらいに思っていたのですが、結果は全然違っていて、 謎解きという文脈ではなく、詰め込み型の教育に疑問を感じている多くの保護者が反応してくださいました。
「うちの子は、教科学習だけしていって、社会でやっていけるんだろうか?」とか、「受験向けの勉強をすることだけが、果たして子供にとって幸せなことなんだろうか?」と悩まれている方がこんなに多かったんだと気付かされました。 まだスタートしたばかりですが、こうした声はもっともっと潜在的にあるのでは?まだまだこの輪は広がっていくのでは?という感触を得ています。