ICTを活用した「予想」と「考察」 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科で自分の考えと他の人の考えを交流する場面は様々ありますが、今回は予想と考察の場面について取り上げます。可能な限り、子ども自身が疑問に思ったことを自分の力で問題解決できるようにしたいですね。そのために先生は、子ども自身が「問題は何か」「自分はどう考えているのか」自信があるのか」ほかの人はどのように考えているのか」などの環境づくりに徹したいものです。
これまで1人1台端末がなかったときは、時間的な制約から全員の考えを交流するのは無理でした。しかし、1人1台端末を持つことで、子どもたちの交流のさせ方も変わりました。今回は端末を使ってどのように意識化させるのかといった工夫が紹介されています。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/埼玉県公立小学校教諭・鈴木和弥
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.子どもに「予想」と「考察」の必要感を持たせたい!

理科の学習にとって欠かせない「予想」と「考察」。しかし実験の多い単元の中で、「予想」と「考察」では何をしたらいいのかと悩んだり、時間がなくて疎かになったりしている先生も多いのではないでしょうか?

子どもに予想と考察の必要感がもたせられない。ノートに書かせたけど、看取る余裕がない。子どもの考えをどうやって全体共有したらよいか分からない。そんな先生のためにICTですぐできる「予想」と「考察」を紹介します。

2.すぐできるICT「予想のコツ」

予想は問題に対して自分の立場を明確にするものです。問題を自分ごとにしなければ、実験をしても実感がわいてきません。
「自分はこう考えたけど、実際はどうなのだろう?」
と思わせるために大切な場面となります。そんな「予想」場面でICTを使ってみましょう。
今回は、6年「月と太陽」での活用例をお示しします。

【流れ①】予想のワークシートをICTで配信する

紙のワークシートでは、配っているだけで時間をロスします。ICTで配信すると、ほんの数秒で全員の子どもにいきわたります。実験で忙しい理科にはもってこいです。

また紙のワークシートでは、印刷した際にせっかくの図や写真が白黒でかすれてしまうことがあります。ICTでは、図や写真もすべてカラーで配信できます。他にも子どもが図を拡大したり、自分で色を付けたりすることも容易です。支援の必要な子どもにとっても取り組みやすくなります。デジタルなワークシートで、子どもが思考することに時間を使っていきたいですね。

下の図は、配信する子どものワークシートのイメージです。

【流れ②】自分の考えに「自信度」を付ける

【流れ③】グループで予想を伝え合う

ツールによっては、子ども同士で考えを送り合う機能が付いています。送りたい相手を決め、自分のスライドを送ることができる機能です。この機能を使い、グループで予想を共有します。児童は、他の人の考えを自分の端末で見ることができます。友達のノートやワークシートがよく見えないということがなく、しっかり話し合いができます。

【流れ④】ワークシート回収は提出機能で一瞬 そのまま全体共有!

ICTでは、子どもの入力したスライドを瞬時に提出、回収することができます。今までは教室中をかけまわって子どものノートを見ていたのが、画面を見るだけで全員の考えを看取ることができます。

上の図を見ると、一目で自信のある子ども、自信のない子どもが分かりますね。実験前に自信のない子どもを把握しておくことで、実験中の手立てにつながります。そして数人を指名し、「どうして、そう考えたのかな?」と発表させます。様々な考えを共有することで、子どもの視点を広げられます。子どもの実験への意欲が高まったところで、実験に入りましょう。

ここでのポイントは、子どもだけでの確認で終わらせないことです。しっかりと先生が押さえるべきところを取り上げて、クラスの子どもたち全員と確認をしましょう。

3.すぐできるICT「考察のコツ」

考察は実験結果から考えられることを自分の言葉で表現する大切な場面となります。
「実験結果がこうなったので、そこからこう考えられます」
と、問題に正対して考察することで、子どもはより妥当な表現力を身に付けます。

【流れ①】考察は写真や動画を生かす

 ICTを使えば、実験結果を写真や動画で記録できます。記録した写真を用いて、考察を書きこむことができます。言語化しにくい結果の場合、写真を補助的に使うことで、子どもが考察を言語化しやすくなります。自分の言葉でじっくりと書かせましょう。下の図は、まだ言語化が難しく写真を使って結果を示している子どもの考察です。

本来、考察では「事実(結果)」と「解釈(結果から分かったこと)」を書くことが求められています。そこで左図においては、「植物に色水を吸わせると、水が通ったところには色がついて筋が見えました。このことから、水の通り道があり、根から取り入れた水は、茎の外側を通って葉の全体にいきわたることがわかりました」。
右図においては、「実験では右側から光を当てるとボールの右半分に光が当たったことから、太陽が西に沈むことで、南にある月は太陽の光の反射で半月になる」。
と書かせたいところですね。しかし子どもによって表現力には差がありますので、個人の能力に合わせて書かせ、次第に上手に書けるようにしていきたいですね。

【流れ②】自分の考えに満足度を付ける

「予想」の際と同じように、自己評価をします。今度は「満足度」として、「ぜったい」「たぶん」「きっと」「ひょっとして」の4段階に分け、スライドの色を変えます。満足度を付けることで、自分が実験結果を理解しているか、納得しているか自己評価できます。

【流れ③】グループで考察を伝え合う

予想と同じように、子ども同士で考えを送り合う機能でスライドを送り合います。考えたことを口にする、アウトプットすることでより学習への理解が深まります。また他の人の意見を聞くことで、自分と考えは同じでも違った表現を学ぶ機会になります。

【流れ④】提出機能で全体共有。予想と比較!

先生が子どもの思考について根拠ある予想をして、単元の学習に入れるとよいですね。

考察も、予想と同じように提出機能で全体共有します。そして、実験前の予想と実験後の考察を比較しましょう。スライドの色を見比べることで、実験結果に満足している子ども、満足していない子どもを見分けることができます。考察で「きっと(緑)」「ひょっとして(青)」が多い場合、実験内容を理解していない子どもが多い可能性があります。
「ここはもう少し、説明や復習が必要だな」と先生が気付くきっかけになります。

考察も数人を指名し、発表してもらいます。「なぜ青にしたの?」など満足度につなげて聞くことで、子どもの「ここが分かった」「ここが分からなかった」という考えを全体で話し合うことができます。そして、子どもの言葉からつなげる形で「結論」に入りましょう。

ICTでより楽しい理科の授業を

ICTを使うことでより効率的に、より深く学習に取り組むことができます。子どもにとって楽しい実験の時間が増えるのもICTのよさですね。まずは先生が使ってみて、より活用しやすい方法を見付けてみてほしいと思います。

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒につくっていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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<執筆者プロフィール>
鈴木和弥●すずき・かずや 埼玉県公立小学校教諭。大学では、理科の研究室に所属し理科教育の楽しさ、おもしろさを学ぶ。生活科・総合的な学習の時間の研究校に勤務。ICT推進委員長、理科主任としてICTの推進、理科教育の研究を日々行っている。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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