小学校理科の「問題の見いだし」授業ポイント! ~「あれ?どうして?」などの子どもの認知的葛藤を引き起こそう~ 【理科の壺】
子どもが問題を見いだすには、何か「ふしぎだな」と思うきっかけが必要です。その際、「比較する」ことが、「ふしぎだな」と思うきっかけづくりに役立ちます。しかしながら、ただ「比較すればよい」のかといえば、それだけでは子どもは十分に問題を見いだすことはできません。そこには先生の価値づけ・整理・焦点化といった、問題を見いだすための言葉かけ、働きかけが必要なのです。「あれ?どうして?」と、認知的葛藤を引き起こす手立てと、言葉かけ、働きかけについて考えてみましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?
執筆/福岡県公立小学校教諭・倉富麻衣子
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
私は、理科の授業づくりをする中で、「問題の見いだし」の授業が上手くいったときの子どもの反応が忘れられません。教師としてとてもうれしく、ワクワクします。授業の準備をするとき、「どんな事象を比較させるか?」「どのタイミングで事象を出すか?」「そのとき、子どもにどんな発問をするか?」などを考え、子どもの姿を想定します。その準備が上手くいき、子どもの実態にピッタリと合って、子どもたちから「あれ~?どうして~?」と認知的葛藤が表れ、「たぶん、〇〇なんだよ」「〇〇かもしれないよ?」などのつぶやきが表れたとき、私は教師として、「よっし!」と心の中でガッツポーズ!をします。今回は、私が試行錯誤したり先輩の先生方から学んだりして見つけた、子どもが問題を見いだすための成功のツボをお伝えしたいと思います。
1.問題を見いだす場面での教師の役割
子どもたちの問題解決のスタートは、「問題の見いだし」です。子どもたちが、自ら問題を見いだすことが大切です。では、教師の役割は、どのようなものなのでしょうか?
私は、以下の2つだと考えます。
【問題を見いだす場面での教師の役割】
●「あれ?どうして?」などの子どもの認知的葛藤を引き起こす環境づくり
●子どもの気づきや疑問を問題へと醸成していけるようにコーディネートすること
認知的葛藤とは、子どもたちが既に持っている考えと違う事象に出合ったとき、「あれ?どうして?」と、自分の認知(既にもっている考え)とのズレによる葛藤が起きることです。また、2つの事象を比較し、その違いに着目して「あれ?この2つは、どうして違うの?」と、事象と事象のズレについての葛藤を起こすこともあります。
認知的葛藤を引き起こすことは、問題を見いだす場面では欠かせません。
2.「あれ?どうして?」認知的葛藤を引き起こす工夫例
問題を見いだす場面での教師の役割「『あれ?どうして?』などの子どもの認知的葛藤を引き起こす環境づくり」について、事例を紹介します。問題を見いだすためには、2つの事象を比較するという手立てが有効です。ここでは、2つの事象を比較するという手立てを用いた、小学3年生の具体的事例を紹介します。いずれも、私の実践です。
⑴ 単元「風とゴムの働き」の事例
導入場面で、帆のついた車をうちわであおぎ、ゴールゾーンに止めるというゾーンゲームを設定します。その後、「風の強さを変えると、ものの動き方はどのように変わるだろうか」という問題を見いだすことができるように、「ゴールに届かないとき」と「ゴールをこえたとき」について比較する活動を設定します。
すると、子どもから、「どうしてゴールに届かなかったのかな?風の力が弱いからではないかな?」「どうしてゴールをこえたのかな?風の力が強かったからではないかな?」と気づきや疑問が出てきます。これらを整理して、問題を醸成していきます。(資料1参照)
⑵ 単元「ものの重さ(ものの種類の違い)」の事例
3 子どもの「問い」を観察の視点へ
子どもは、大きいものは重いという考え方をもっています。そこで、初めは、大きいアルミ缶と小さいアルミ缶をてんびんで比べて、やっぱり大きい方が重いよねという考えを引き出しておきます。その後、「これ(小さいスチール缶)だと、どうかな?」と教師が問いかけて、小さいアルミ缶を小さいスチール缶に変えます。このとき、子どもには、スチール缶だとは伝えません。小さい方が重いという事象を目の前にした子どもからは、「え~!なんで?」と声が上がります。そして、「小さい缶は、種類が違うんだよ」「缶には、アルミ缶とスチール缶があるから、あれは、スチール缶じゃないのか」などと気づきや疑問が出ます。これらを整理して、「同じ体積でも、ものの種類が違うと、重さは変わるのだろうか」という問題を醸成していきます。(資料2参照)
⑶ 元「ものの重さ(ものの形)」の事例
「粘土は、形をかえても、重さは変わらない」という結論を得た子どもたちに、新たな事象を出合わせて、問題を見いだすという方法もあります。「粘土は、形を変えても重さは変わらない」と結論を得た子どもたちに、アルミ箔(アルミニウム)をぎゅっと丸めた事象と折り紙を折った事象を提示します。
すると、子どもから、「アルミ箔を丸めたアルミ球は、重くなりそう」や「粘土は形を変えても重さは変わらなかったから、アルミ箔だって変わらないのかな?」という気づきや疑問が出てきます。それらを整理して、「粘土以外のものでも、形を変えても、重さは変わらないのだろうか」という問題を醸成していきます。(資料3参照)
3.問題を醸成するための丁寧な指導
問題を見いだすためには、2つの事象を比較するという手立てが有効だと、これまで述べてきました。ただし、2つの事象を比較させるだけでは、問題を見いだすことは難しいです。ここでは、問題を見いだす場面での教師の役割「子どもの気づきや疑問を問題へと醸成していけるようにコーディネートすること」について紹介します。
資料4のように、事象Aと事象Bを比較して、教師が「AとBを比べて調べたい問題をつくりましょう」と発問するとします。これでは、子ども一人一人が、自分で問題を見いだすことは難しいです。
資料5のように、事象Aと事象Bを比較したとき、子どもたちから出てきた気づきや疑問を、教師が価値づけ・整理・焦点化することで、問題を見いだす道筋をコーディネートします。このように教師が手立てを講じることで、一人一人の子どもが自分で問題を見いだすことができるようになると考えます。
では、もう少し分かりやすいように、資料5の具体例を述べます。前述の資料2「ものの重さ」の問題の見いだし場面での具体例です。
「事象A:プラスチックでできた大きいコップと小さいコップ、アルミニウムでできた大きい缶と小さい缶を比べて、大きい方が重くなる事象」、「事象B:プラスチックでできた大きいコップとガラスでできた小さいコップ、アルミニウムでできた大きい缶とスチール(鉄)でできた小さ缶を比べて、小さい方が重くなる事象」を子どもたちが比較する活動を設定します。それらの事象を比べた子どもは、「普通は、大きい方が重いのに、どうして、小さい方が重いのかな?」という疑問を持ちます。
ここで、まず、2つの事象を比べて、気づいたことや疑問に思ったことを一人一人がノートに書きます(資料6ノート例① 気づき・疑問)
その後、学級みんなで、気づいたことや疑問に思ったことを出し合います。そのときの教師の役割が大切です。以下のように進めるとよいです。
例えば、
「大きい方が重くなるのは、小さい方も大きい方も同じ素材だからだと思う。」
「小さい方が重くなるのは、素材が違うからだと思う。」
「できた素材で重さが変わるのかな?」
といった、子どもの気づきや疑問を取り上げて、褒めます。(価値づけ)
このときに、取り上げる子どもの気づきや疑問は、2つの事象の違いを生み出している要因に目を向けているものです。
そのとき、子どもが発言した内容を黒板にキーワードで整理して板書します。(整理)(資料7参照)
そして、「重さが違うのは、物の素材が違うからではないか?という考えが出ているけれど、みんなはどう思いますか?」と発問して、違いを生み出している要因に目を向けさせる話合いをします。(焦点化)
その後、一人一人がノートに自分で自分の問題を書きます(資料6ノート例② 自分の問題)。その問題を学級みんなで出し合い、最後に、学級みんなの問題(資料6ノート例③ みんなの問題)がつくられます。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
倉富麻衣子●くらとみ・まいこ 福岡県公立小学校教諭。大学・大学院では、理科専攻にて学ぶ。現在は、小学校理科を中心に日々実践研究を行う。令和2年度第17回優れた教育活動等実践教職員等表彰(北九州市教育委員会)、2019年度ソニー子ども科学教育プログラム最優秀校研究主任、NHK Eテレ『ふしぎエンドレス理科4年 空気をあたためると?』作成協力、共著に『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 理科 小学校3年』(東洋館出版)。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。