理科授業での “対話のススメ” ~子どもたちの問題解決の質を高めるために~【理科の壺】
2022年4月に行われた全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙での「理科の勉強は好きですか。」という質問に対して、肯定的な回答をしている児童の割合は、79.7%との結果が出ています。理科離れが言われるようになって久しくありませんが、依然として、理科は子どもに好かれている、もしくはあまり嫌われていないと言えるでしょう。 そして、子どもに「理科のどこが好きか」をたずねると、おおよそ「実験や観察が楽しい!」という答えが返ってきます。確かに理科では、校庭に出かけて虫取りや散策ができたり、普段は自由に使うことが許されていないもの(例えば火や薬品など)を使うことができたりと、「わくわく」「面白い」といったイメージがあるのだと思います。自然や科学の不思議さや面白さからくる「楽しい」「好き」も大歓迎ではありますが、やはり授業の中で友達と一緒に考えを交流したり話し合ったりしながら解決していくこと自体の面白さや楽しさも大いに感じてもらえたらうれしいですね。そこで、理科授業での対話についてまとめてみました。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような“ツボ”が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校総括教諭・芳賀淳一
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.そもそも、なぜ“対話”が大切なの?
主体的・対話的で深い学びを視点とした授業改善の必要性がうたわれていますが、理科授業での対話は、「問題解決の質を高めるため」にあると考えます。対話を通して、自分の考えを独りよがりの考えではなく、より科学的な考えに、より妥当な考えに更新していくことができるのです。
対話によって
●自分の考えに自信がもてるようになる
●視点が広がったり増えたりする
●間違いに気付き、修正の必要を感じる
●新たな見通しや方法が見つかる
●考えの客観性や妥当性が高まる
●求めていた納得解が見つかる etc.
「方法の質」や「結果の質」、「自分自身の質」を高められる!
2.“対話” を活性化させるために
理科授業における対話は、主に、問題の見いだしや予想、考察の場面にあらわれます。その時に、授業者が「さあ、今からみんなで話合いをします。誰か考えを発表してください」というのでは、話合いの質も子どものモチベーションも高まりません。先生との一問一答や一方通行のやり取りではなく、子ども同士のやり取りを充実させるときに、私は、以下の3つが欠かせないと考えています。
① 子どもの考えの事前の “見とり”
問題や予想、考察など、子どもが自分の考えをノート等に表現しているものを事前に把握しておきます。可能であるならば、問題の見いだしや予想、考察などの個人の思考場面の直後にいったん授業を終え、ノート等を回収し、子どもの考えに目を通せるとよいです。そうすることで、その後のクラスでの話合いの方向性について見通しをもつことができます。
「Aと考えている子の方がBと考えている子より多いな。」「この子はAの考え方を図で表現している。」などがあらかじめわかっていることで、「最初に少数派のBの考えの子から発言を促せば、多数派のAの考えの子が反論しそうだな。」であるとか「最初に○○さんの表現したAの考え方の図を提示して、○○さんがどんな考えをしているのかを全体で考えさせよう。そうすれば、たくさんの子が手を挙げて言葉で説明を始めそうだな。」など、その後の子ども同士の対話をあらかじめ想定することが可能になるわけです。
45分の中で個人の思考からクラス全体での話合いまでを行うときにも、子どもの考えの “見とり” は欠かせません。この場合、机間指導の際に即時的に子どもの考えを見とらなければならないため、授業者の “腕” が求められます。子どもに質問して直接聴き取ったり、座席表を活用してメモしたりしながら、少ない限られた時間で可能な限り、子どもの考えを把握することが大切です。そして、どの考えとどの考えを繋ぐか、どの考えを取り上げ価値づけるかなどについて瞬時に判断し、コーディネートしていくことが必要になってきます。
② 対話のチャンスを増やすためのグッズや環境
授業では子ども自身が考えていることをなるべくたくさん表出させたいところですが、どの子も積極的に意欲的に意見を述べたり、質問したりするわけではありませんよね。自分の考えはもてているけど、恥ずかしさや自信のなさにより、大勢の前で自ら話すことが難しいという子も一定数はいるはずです。話合いの活性化のためには、いわゆる “お客さん” になってしまう子が、授業の中でどこまで自分を出せるかがポイントになると考えます。
例えば、子どもの出席番号や名前を記したネームプレートのマグネットを用意しておくだけで、子どもが表現するチャンスをつくれます。友達の考えの中のどの考えに近いか黒板上にネームプレートを貼るだけでも意思表示になるわけです。さらに裏と表で色を変えて両面仕様にしたり、色違いのものを2枚用意したりすれば、途中で考えが変わったときや最終的な意思を決定するときに最初の色と変えることで、考えの変化や意思決定を表すことも可能になり便利です。それだけでも「どうしてそのように考えたのか」「なぜ、考えを変えたのか」など子ども同士でやり取りするきっかけを作ることができます。
他にも小グループでの話合いでは、グループの考えをまとめるためのホワイトボードを用意しておくことで、子どもたちがホワイトボードを囲んで相談しながら進めることができます。ICTのクラウドを利用して各自の考えを共有したり交流したりすることで、友達の考えが見える化され、考えを相手に説明したり、質問したりする機会をグッと増やすことができます。
グッズや環境ありきの授業では意味がありませんが、グッズや環境一つで対話のチャンスが増すことが期待できるはずです。
③ 教室は間違えてもいい場所だという学級風土と、分からないことは「分からない」と言える雰囲気づくり
ひょっとすると3つ目が一番重要かもしれません。これは理科に限らずですが、「間違えてもOK。むしろ間違いにこそ価値があり、そこに学ぶ価値がある。だから1人1人が思ったことを授業の中で表現していくべきだ。そうやってみんなでつくっていくのが授業なんだ」といった学級風土があれば、子どもは臆することなく発言したり、自分を表現したりすることができます。また、分からないことは「よく分からない」と素直に言える雰囲気があれば、そのつぶやきを発端に、分かっている子が分からない子に説明する必然を生み出すことができます。学級風土や雰囲気が下地や前提となって、子どもたちの発言やつぶやきから対話が始まり、活性化していくことが期待できるのです。
理科専科の先生には、直接的な学級風土づくりは難しいかもしれませんが、理科の授業を通して、そういった学びの意義について子どもたちに伝えながら、対話の促進を目指していくといいかもしれません。
イラスト/ナタカ
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〈執筆者プロフィール〉
芳賀淳一●はが・じゅんいち 神奈川県公立小学校総括教諭。川崎市立小学校理科教育研究会特別常任委員。神奈川CST。勤務する川崎市立下沼部小学校では教務主任と研究推進委員長を務める。同校は令和5年に理科の全国大会を控える。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。