「改正教育職員免許法」とは?【知っておきたい教育用語】
「教員免許更新制」を発展的に解消しようという動きが話題になっています。教員免許更新制とは何かを確かめながら、その動向や背景について紹介します。
執筆/茨城大学大学院教育学研究科教授・加藤崇英
目次
教員免許更新制の創設
教員免許更新制は、平成18年7月の中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」における提言等を受け、創設されました。答申では「教員として必要な資質能力は、本来的に時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しており、教員免許制度を恒常的に変化する教員として必要な資質能力を担保する制度として、再構築することが必要である」とし、教員免許状について「一定の有効期限」をもって、「必要な刷新(リニューアル)」を行うことが必要であると指摘しました。
また、この制度は、当時、議論となったいわゆる「不適格教員」の排除を直接の目的とするものではないと説明されました。そしてこの制度によって「公教育の改善・充実」が期待され、「公教育に対する保護者や国民の信頼が確立する」と指摘されました。
教員免許更新制の実施
平成19年6月の教育職員免許法(以下、教免法)の一部改正により教員免許更新制が導入され、平成21年度から本格実施されました。
普通免許状はそれまで終身有効でしたが、制度導入後に授与されるものには10年間の有効期間が定められました(旧法9条1項)。特別免許状も有効期間は10年となりました(旧法9条2項)。有効期間を更新するためには、原則として、大学等が開設する免許状更新講習(旧法9条の三)を30時間以上について受講・修了し、免許管理者(都道府県教育委員会)に申請しなければならないとされました。
制度導入前に授与された普通免許状等(旧免許状)には有効期間の定めはありませんでしたが、旧免許状所持者である教育職員等は、経過措置として、10年ごとの期限までに前述の免許状更新講習の課程を修了し、免許管理者による確認を受けなければならないとされました(平成19年改正法附則2)。
制度の実施後は、カリキュラムの改善もなされました。平成26年3月、文部科学省「教員免許更新制度の改善に係る検討会議」は「教員免許更新制度の改善について(報告)」を取りまとめました。これを受けて、「必修領域」の精選と「選択必修領域」の新設等が、平成28年度からなされました。
教員免許更新制の発展的解消
中教審「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」は、「教員免許更新制小委員会」における集中的な審議を経て、令和3年11月、「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて(審議まとめ)」を公表しました。
「審議まとめ」では、制度の「一定の成果」を認める一方で、「免許状を更新しなければ職務上の地位の喪失を招きかねない」なかで「変化を前向きに受け止め、探究心を持ちつつ自律的に学ぶという、高度な専門職にふさわしい水準で教師の主体的な姿勢が発揮されてきたと評価することには慎重にならざるを得ない」と指摘しました。
さらに「そうした制約の下での学びは、形式的なものとなり、学習効果を低下させてしまいかねない」と述べ、「10年に1度、特定の期間に免許状更新講習を受講することも、教師が常に最新の知識技能を学び続けていくという必要性と整合的とはいえない」としました。そしてこれらの議論を経て、教員免許更新制を発展的に解消するとしました。
教員免許更新制の廃止と免許の取り扱い
その後、第208回国会において「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」(令和4年法律第40号)が成立し、令和4年5月18日に公布されました。教免法の改正では、普通免許状及び特別免許状を有効期間の定めのないものとし、更新制に関する規定(有効期間の更新及び延長、免許状更新講習などの規定)が削除されました。この改正により、令和4年7月1日から教員免許更新制は廃止されました。
教員免許状を、旧免許(最初に取得した教員免許状が、平成21年3月31日以前に授与されている者)と新免許(最初に取得した教員免許状が、平成21年4月1日以降に授与されている者)に分けて考えると、この令和4年7月1日以降に有効期限を迎える教員免許状(旧免許及び新免許)は有効となり、手続なく、有効期限のない免許状となりました。
また、この日時点で有効期限が切れている教員免許状(新免許)は失効していることになります。さらに、この日時点で有効期限が切れており、教員経験が一度もない、これまでに更新などの手続をしたことがない、2回目以降の有効期限の2か月前までに更新手続を行わなかったなどのいわゆる「休眠状態」の教員免許状(旧免許)については有効となり、手続なく、有効期限のない免許状となりました。ただし、この場合でも有効期限当日に「現職教員」の場合は失効となります。
「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて
改正された教育公務員特例法(以下、教特法)においては、「新たな教師の学びの姿」を実現するため、まず、「指導助言者」及び「研修実施者」を定義(教特法20条)し、「研修等に関する記録」の作成を任命権者に義務づけています(教特法22の5条1項)。そのうえで当該校長及び教員からの相談に応じ、研修、認定講習等その他の資質の向上のための機会に関する情報を提供し、又は資質の向上に関する指導及び助言を行うものとすることとしました(教特法第22の6条1項)。(いずれも令和5年4月1日施行)
端的に述べれば、教員免許で担保される資質力量の維持・向上は、10年ごとの職場を離れた大学での講義・演習としての研修の制度から、学校内外のさまざまな研修機会を通じ、かつ校長等による指導助言が適切になされる研修の制度へとかたちを変えることとなります。これは、よりいっそう教員の自主性が求められる制度になるといえます。同時に、これまで教員免許更新制にかけられていた相当のリソースを、今度は学校現場や教育委員会に振り向けることが必要といえます。
▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「教員免許更新制の発展的解消と『新たな教師の学びの姿』」