タブレット端末の強みを活かした国語の授業 ― 森村学園初等部・不破花純先生の実践
GIGAスクール構想スタート後、一気に配付が進んだタブレット端末。どんな授業でどう使ったら効果的なのでしょう。
森村学園初等部の不破花純先生は、「共有」と「表現」をキーワードに、タブレットを活用しています。そこで、ご自身の失敗例も含めて、現場の先生たちが今すぐ取り組める実践をいろいろ紹介していただきました。授業でのタブレット利用についてまだ模索中、という先生たちへのヒントが満載です。
不破 花純 (ふわ かすみ)
森村学園初等部 教諭
Apple Teacher Swift Playgrounds認定。2018年度から横浜市の私立小学校、森村学園初等部に着任。2022年度、初等部内では4年生担当としてICT機器を活用しながら子どもたちの主体的な学びを引き出そうと実践している。2018年度より参加しているPanasonic株式会社主催のKWN Japanで、2018年度最優秀作品賞チーム指導者、2020年度心にとどく映像賞チーム指導者となっている。
目次
iPadを使うことが目的になってしまった失敗授業
今回ご紹介するのは3、4年生の国語の授業でのタブレットの活用です。今まで、iPadを使って子供たちに楽しく学んでもらおうと、さまざまな実践を行ってきました。でも、最初から活用がうまくいったわけではありません。まず、私が大失敗した授業についてお話しします。
4年ほど前、校内の授業研究で、「ありの行列」(大滝哲也)を取り上げました。「ありの行列」は、ウィルソン博士が、ありの行列はどうやってできるのかを説明している文章です。そこで、iPadを使い、ウィルソン博士になりきって説明してみよう、という活動を考えました。
この活動の目的は、本文から必要な情報を読み取って、要約してスライドにまとめることです。1画面目に自分の名前を書き、2画面目は本文から自分が説明したい文を選んで書き、最後の3画面目に結論を書いて、それを教室の前のスクリーンに映して説明することにしました。
ところが、当時はまだ、iPad一人一台体制ではなく、iPadを使う授業そのものが珍しい状況でした。そこで子どもたちはまず誰がiPadを触るのか、誰がタイピングするのか相談を始め、スライドを作る時は、スライドをかわいくデコレーションすることに夢中になりました。つまり、「要約してまとめる」ことではなく、iPadを使うこと自体が目的になり、活動の内容が薄くなってしまったのです。
この失敗を通して気づいたのは、私がiPadの「強み」をわかっていなかったということです。授業を参観した先生から、「この授業でiPadを使う必要はあった?」と言われたのですが、iPadの強みを理解した上で活用していれば、こういう結果にはならなかったと思います。
「共有」機能を使ってみんなで「目指せ40ワード」!
私が考えるiPadの強みは「共有できる」ことと「表現ができる」ことです。
「目指せ40ワード」では、「共有」機能を活用しました。これは、「うれしい」「おもしろい」などの気持ちを表すワードを別のことばで言い換えてみる活動です。一つの気持ちを言い表すにも、さまざまな表現があることを知り、それらの表現を使えるようになることが目標です。
この授業では、ロイロノートを使いました。活動は、まず選んだワードについてイメージを膨らませるところから始めます。例えば自分にとって「うれしい」とはどんな場面なのか、それぞれ思い浮かべてもらいました。そして、「うれしい」を、一人一人が別のことばに言い換えてロイロノートのカードに書き、それを全員で共有しました。
40人のクラスで40ワードを目指すので、他の人と表現が被ったら、やり直しです。時間制限を設けたこともあり、子供たちはゲーム感覚で楽しく取り組んでくれました。
全員が提出した後、私が良いと思った表現について取り上げて話したり、子供たちが良いと思った表現を発表してもらったりしました。お互いの表現を学んでそれを使えるようになるという、今後につながる活動になったと思います。
クイズが大人気、図書室にも貢献した「ことわざカード」
iPadのカメラ機能とロイロノートを使った「ことわざカード」作りは、ことわざを1つ選び、その意味を調べて、写真で表現するという活動です。
子供たちは、自分の選んだことわざを表現する写真を撮り、ロイロノートで編集して、カードを作りました。そして、全員のカードを印刷し、写真が表すことわざを当てるクイズにして、図書室前に掲示しました。
他学年の児童も興味を持ってくれて、特に図書室の近くに教室がある2年生の子供たちは、毎時間後やってきて、楽しそうにクイズを解いていました。このことが、実際にことわざの本の貸出増にもつながったのです。
この活動は、ゴールが教室内だけでなく、外部に開かれていたので、子供たちのモチベーションが初めから高かった印象があります。また、読書好きが多いクラスで、図書室に貢献できることはとてもうれしかったようです。
クラスでは、ロイロノートで共有し、授業で面白い作品を取り上げて皆で考えたりしました。カード作りは個人で行いましたが、1人で写真を撮るのが難しい時などは、自然にお互いに声をかけあって、みんなで協力しながら取り組むことができました。
作り方は自由、「モチモチの木」の主人公を動画で紹介
3年生の「モチモチの木」の単元では、Clipsを使った、動画による「表現」にもチャレンジしました。「モチモチの木」を一通り学習した後に、主人公の豆太を紹介する動画を作ってもらったのです。表現方法は自由、長さは2分以内で、1週間の宿題として取り組みました。
このクラスの子供たちは、すでに「総合」の時間にClipsの使い方を学んでおり、基本的にはみんな同じような動画制作のスキルを持っています。ただ、操作方法を忘れてしまったりしたら、その時は、自分たちで解決する力を養うために、なるべく友だち同士相談して助け合うようにと声掛けをしました。
動画の一部はこちらでご覧いただけます。
子供たちの個性が表れたユニークな動画ができたと思います。この活動に初めて取り組んだ年は、授業時数が足りず、共有に十分な時間が取れませんでしたが、次の年はお互いの動画を見て「感想カード」を送り合う活動も取り入れました。
クラス全員のお気に入りがわかる、「お気に入りBOOK」作り
「お気に入りBOOK」作りは、ロイロノート、カメラ、Pagesを使って、「共有」「表現」の両方を意識して行った活動です。この時は、ロイロノートのシンキングツールを活用しました。
子供たちはまず自分のお気に入りの物を一つ選びます。ぬいぐるみや自転車、ラケットなどさまざまなものがありました。そして、それに関する情報を、ウェビング(イメージマップ)を使ってたくさん書き出します。その情報を、フィッシュボーンで項目別に整理したら、ノートに、自分のお気に入りは何か、なぜそれが好きなのかなどを説明する文章を書いていきます。
フィッシュボーンで情報をまとめた時点で全体の流れができていたので、多くの子供たちはすらすらと書くことができました。作文に悩んでいる児童には、教科書の「これがわたしのお気に入り」の単元にある例文を参考にするように促しました。書き方について特に指示はしませんでしたが、当校で行っている「言語技術」という授業で学んだことを取り入れた児童も多く、論理的でわかりやすい文章が書けたと思います。
文章が書けたら、Pagesで文章とお気に入りの物の写真を組み合わせて編集し、それをロイロノートに提出して共有しました。子供たちは、お互いにとても興味を持って見ていました。
「白いぼうし」の魅力を伝える宣伝にチャレンジ
最近「表現」の実践として行ったのは、4年生の「白いぼうし」を宣伝する活動です。当初はポスター制作を予定していましたが、3年生の時「モチモチの木」で動画作りを経験して、また動画を作りたいという子供たちも出てきたので、「白いぼうし」を宣伝する活動に変更しました。
表現方法は動画でも紙のポスターでも自由に選んでいいことにしました。
そして内容は、
1) 自分が考える「白いぼうし」の魅力を入れること
2) 自分の作品を見た人が「白いぼうし」を読みたくなる作品にすること
を条件としました。
クラスの3分の1ほどの子供たちは紙媒体による宣伝を選び、ポスターや新聞などを作りました。その他の子供たちは動画で表現し、プログラミングや社会科の授業などで使用したことのあるspringin’(スプリンギン)やAdobeのアプリを活用して、動くポスターを作ったりする児童もいました。どの表現方法でも、面白い発想の作品がいろいろあって、感心しました。
共有は、作品を展示する「展覧会」形式で行いました。一人一人が、机の上に自分の作品と、創作上気をつけたポイントを書いたノートを置き、みんなが教室内を歩き回ってお互いの作品を鑑賞します。そのあとロイロノートで感想カードを送り合う活動も取り入れました。
自由な創作活動を促して、先生も一緒に楽しむ
子供たちは、クラスメートからコメントをもらうことはとても嬉しいようです。そこで、最近では子どもたち同士でコメントし合う活動も積極的にやっています。お互いにコメントをする際には、良かった点だけを伝えるように指導しています。
授業では、私自身が良いと思った作品は、皆の前で取り上げてコメントします。また、振り返りとして子供たちにアンケートを取って、私からフィードバックしたりします。
私は、今回ご紹介したような活動を行う際には、自分の中であらかじめ正解を用意したりせずに、子供たちに課題を投げかけるようにしています。だからこそ、子供たちが工夫して作るいろいろな作品を心から楽しむことができるのかもしれません。みんな創作活動が大好きなので、自由に表現できていると思います。
タブレットの強みである「共有」と「表現」。タブレット活用で悩んだら、ぜひこのキーワードを思い出して、楽しい授業をデザインしてください。
取材・執筆/石田早苗