小三道徳授業ルポ「大切なものは何ですか」登場人物の言葉をきっかけとして考えさせる

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コロナ時代であるがゆえに、特に道徳性を養う道徳科の授業が重要視されています。そこで、道徳教育の研究に取り組んでいる小学校に浅見哲也教科調査官とともに伺い、 調査官からのアドバイスを受けつつ、中学年の授業実践を詳しく紹介します。 今回は神奈川県川崎市立東小倉小学校です。

鳥生莉緒
授業者・鳥生莉緒教諭

教材

教材名:「大切なものは何ですか」(光村図書)
主題:かけがえのない命〈D 生命の尊さ〉

導入

本時のねらい

生命は自分だけでなく、生きているすべてのものにあることを理解し、すべての生命を大切にしようとする態度を育てる。

1 見通しをもつ

⚪教材名である「大切なものは何ですか」という言葉を板書する。あえて、子供たちに問いかけず、「大切なものは何か」ということを子供たちに想像させ、主題や教材への興味や関心をもたせる。

教材に登場する虫のイラストを提示しながら、虫たちがそれぞれ大切だと言っているものを思い出す。
教材に登場する虫のイラストを提示しながら、虫たちがそれぞれ大切だと言っているものを思い出す。

指導の工夫
新型コロナウイルスは世界中に猛威を振るい、多くの命を奪っています。そのような社会を背景に今回、「かけがえのない命」を主題にしました。生命の尊さを取り上げ、 「なぜ、命は大切なのだろう」という発問は三年生には少し難しい課題になりますので、 「命はどうしたら大切にできるでしょうか」と投げかけて考えやすくしました。

浅見先生のここがポイント
教材を読むところから授業を始めていますが、単なる読み取りにならずに、教材の中に問題意識をもたせるようにしています。

2 教材を読む

教材を読み、虫たちがそれぞれ何を大切にしているかを確認する。
⚪アゲハチョウが言った言葉に注目する。物語の心に残ったところを出し合う。

子供たちは教師の範読を聴きながら、自分が大切にしているものは何かを考えます。

発問
「もっと大切なもの」とは何ですか。

学習課題「いのちは、どうしたら大切にできるのでしょう」を板書して示す。
学習課題「いのちは、どうしたら大切にできるのでしょう」を板書して示す。

「もっと大切なもの」とは何かを問いかけ、近くの人と話し合わせます。

子供たちの発言

家族

友達

展開

3 学習課題について話し合う

全体で交流し、自分の経験や知っていることを基に考えを広げられるようにする。

ノートに書いた自分の意見を発表し、交流します。このとき、自分の考えと比べながら聞くことを意識するように促します。

中心発問
命はどうしたら大切にできるのでしょうか。

全体で交流する前に、ノートに自分の考えと理由をまとめる。
全体で交流する前に、ノートに自分の考えと理由をまとめる。

自分だけの命のことが出た場合は「自分だけでよいのか」と問いかけ、自分以外の命についても考えられるようにし、再度話合いの時間を設けます。

浅見先生のここがポイント
教材は学習課題を考えるためのきっかけとして活用し、その後は少しずつ教材から離れていき、「命はどうしたら大切にできるか」という学習課題を、自分自身とのかかわりで時間いっぱいを使って考えるようにしています。

子供たちのノートから<自分の考え>

いのちをたいせつにするためには人のことばかり考えないで自分のことも考えて、せっかくがんばって生んでくれたからこのいのちはすてちゃだめという気もちがあれば、いのちをたいせつにできると思います。また、人間は、がんばって生んでくれたことを思い出せばあきらめたくなくなって、いのちを大切にできると思います。生んでくれた人ややさしくしてくれた人におんがえしをしたいという気もちがあれば、友だちや家ぞくのいのちを大切にできると思います。

いのちを大切にするためにはいのちの大切さを知ればいいと思います。どうしてかというと、大切じゃないと思っていたら大切にできないからです。

せいかつリズムをととのえていたら、いのちを大切にできると思います。理由は、リズムをくずしてしまったばあいは、体がへんになってしまうからです。

いのちは何万円、何おく円出しても買えない。今ある一つだけのもので、あとでこうかいしても二つ目はないと思えばいいと思います。一度いのちをなくしたら、家族や友だちにいっしょう会えないから、やめられると思ったからです。

浅見先生のここがポイント
子供たちの学習のしかたが身に付いています。子供にしっかりと考えをもたせ、発表するときは、自分の言葉で話し、聞いている子供たちも発表後にはうなずいたり、多くの子供たちが「あ〜」と声を出したりしながらきちんと反応しています。

終末

4 ふり返る

黒板

今日の学習を通して、「課題について考えたこと」という視点でふり返りをさせる。

ノートにふり返りを書かせます。友達の考えを聞いて考えが変わったり、違う考えが生まれたりした場合はそれも書くように促します。その後、数人にふり返りを発表させて、みんなで考えを共有します。

子供たちのノートから<ふり返り>

今日のじゅぎょうをうけて自分の考えはかわりました。それは、たすけあう気もちだと思います。理由は、たすけあえば自分は友だちや家ぞくにたすけられ、友だちや家ぞくは自分がたすけられればいのちを大切にすると思います。そしてこのあたらしい自分のいけんは、自分やまわりの人のいのちを大切にするためにどうすればいいかといういけんにあてはまると思います。

自分やまわりの人のいのちを大切にするには、おもいやりのきもちをもてばいいと思います。どうしてかというとおもいやりのきもちをもって注意したら、まわりの人のいのちを大切にできるからです。

○○さんの意見を聞いて、生活リズムをくずさないのも大切だと思いました。人のいのちをすくうためには、□□さんの思いやりや△△さんの、助け合いが大切だと思いました。

文部科学省教科調査官・浅見哲也先生からのアドバイス

浅見哲也先生

教材から始まる学び

この授業では、子供たちにとっては当たり前のようにある生命について、教材の登場人物の言葉をきっかけとして考えられるようにしています。その後、鳥生先生は、教材から少しずつ離れ、経験からくる一人ひとりの子供たちの生命の感じ方や考え方を中心に授業を進めていました。このように生命についてじっくり考えることは日頃の教育活動の中ではなかなかないのではないでしょうか。これが道徳科の授業のよさであることを改めて実感することができました。

取材・文・構成/浅原孝子 

『教育技術 小三小四』 2021年12/1月号より

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