小6 国語科「私たちにできること」板書例&全時間の指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「私たちにできること」(光村図書)の各時の板書例、発問、予想される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/長野県駒ケ根市立中沢小学校・原 猛
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、身近な事象を取り上げ、それに対する解決法を提案する文章を書きます。
分かりやすく説得力のある文章にするためには、記述する前に構成をよく検討する必要があります。
個人に対しては、これまで学習したことを活かして、考えとそれを支える理由や事例、原因と結果、問題と解決方法との関係を整理しながら構成を考えられるようにしていきます。また、グループでよりよい文章に練り上げていく活動を通して、一人一人の資質・能力を高めていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、「B 書くこと」の言語活動例「ア 事象を説明したり意見を述べたりするなど、考えたことや伝えたいことを書く活動」として、身近な資源や環境をテーマに取り上げ、その問題点や解決のために自分たちにできることを考え、提案する文章を書きます。
言語活動を設定する上で、あらかじめ環境問題を扱った書籍や新聞記事等をコピーしておき、子供の目につきやすい場所に掲示するなどして、テーマについての興味・関心を高めておくとよいでしょう。
また、子供自身が興味のある書籍や新聞記事等を集める時間を設けることも有効です。身の回りの自然や環境をテーマにすることで、子供にとって現状の把握や問題の発見がしやすくなります。
また、解決方法についても、無理なく取り組める方法を提案することで、実際に行動して達成感を味わったり、新たな課題を発見したりすることが期待できます。
提案文は子供にとっては初めて書く文種であるため、読み手に対して自分の提案内容を十分に理解・納得させるようにすることが必要です。そのため、子供がどこでつまずきやすいかを想定するためにも、できれば教師が事前に自作してみるとよいでしょう。
また書いた提案文を実際に発表したり、提案した方法を委員会や学級の活動で実践したりする場を設定することで、子供にとって目的意識が生まれ、分かりやすく説得力のある書き方を工夫しようとする意欲につながるでしょう。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 身の回りの事象に対して問題意識をもつ
主体的な学びを生み出す上で大切なことは、事象に興味・関心をもち、目的意識をもって学習を進められるようにすることだと考えます。そのために子供にとって身近な事象を取り上げ、その問題点に対して具体的な解決方法を提案する、という課題意識をもてるような単元の導入を考えました。
自然や環境に関するニュースを目にする機会は多いと思いますが、それらの問題が自分の身の回りに関係していることを意識できることで、生活に即したテーマや具体的な解決方法を考える姿につながるでしょう。
また、書いた提案文を発表したり解決方法を実際に実践したりするなど、学習後の見通しがもてるようにすることで、より課題意識をもって活動に取り組む姿につながることが期待できます。
〈対話的な学び〉 グループで協力し分担して提案文を書く
グループで協力し分担して提案文を書くという活動は、テーマを決めるところから提案文の完成まで、書くことのプロセスに沿ってグループ内で情報を共有し、考えを整理しながら進めることになります。そこでは対話による練り上げが不可欠です。
具体的な活動としては、提案内容についての話合いや文章の構成を考える場面、推敲の場面が中心になりますが、課題を見つけ解決方法をグループで考えていく中で、身近な事象と自分のもつ知識や情報とのつながりに気付いたり、様々な人の考えを関係付けたりすることが期待できます。
グループでの活動の中で、個々に集めた情報から読み手が納得するような事例を話し合って選んだり、それらを並べる順序を考えたり、意見を出し合って推敲したりしますが、それらが活発に行われればよいというわけではありません。そこには自分でじっくりと考えることも必要です。
話合いの前に、一人で調べたり考えたりする時間を確保するとともに、ノートやワークシート等に各時間の振り返りを書くようにすることで、書くことの各プロセスにおいて、各自がどのように考え、その結果どのように書いたのかを評価することができます。
それによりこれまでの自分の考えと、調べた資料やグループでの話合いによって生じた新たな考えとをつき合わせて、自分自身の考えをまとめ直すこともできます。
〈深い学び〉 事象と自分の知識とを結び付け、情報を関連させながら考えを深める
子供たちはこれまでの学習で国語科に限らず、他教科等においても事実に基づいて自分の考えを書くという活動を重ねてきています。
本単元では、自然や環境についての事象と自分の知識とを結び付け、調べた情報を関連させながら、自ら解決方法を考えたり、構成や表現方法を工夫しながら表現したりする活動をおこないます。
その過程で自分の考えを形成したり、言葉による見方や考え方を深めたりすることが期待できます。
そしてその学びは、提案したことを実践に移したり、さらなる課題を見つけたりして、自分たちの力で生活を変えていこうという意識に発展していくことも期待できます。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)提案のための資料を収集する
テーマが決まったら提案するために必要な資料を集めます。
学校図書館の書籍や新聞で調べる、学校やお家の人にインタビューするなど、テーマによって適した情報収集の手段は異なりますが、「どんな資料が必要か」という観点で考えると、子供自身で調べる方法や対象が決めやすくなるでしょう。
その一つとしてインターネットで調べる方法も有効です。集めた資料は、画像やデータとしてタブレットに取り込み、保存しておくと、いつでも見返すことができて便利です。
インタビューをする際には、音声録音機能や動画撮影機能を用いることも有効です。
子供たちは「話すこと・聞くこと」の学習を通して、大事なことを落とさずに聞く力や必要なことをメモすることを学習してきていますが、それがうまく発揮されないこともあります。これらの機能を用いることで話を聞くことに集中したり、後で再生することでインタビューの様子を正確に確認したりすることもできます。
(2)個に合わせた言語活動の充実のために
原稿用紙やノートを使った下書きだけでなく、ICTを活用した文字入力も可能なクラスが多いでしょう。またワープロ機能の中には音声入力ができるものもあります。文章を書くことが苦手な子供にとっては、音声入力で下書きをすることで、抵抗感なく文章を書けることが期待できますし、下書きにICTを用いることで、グループで共有し合うこともできます。下書きの方法を子供が自ら選択できるようにすることも考えられます。
(3)協働的な学習の充実のために
① デジタルホワイトボードアプリを用いて、書く内容の共有・構成をする
収集した資料を項目ごとに付箋に書き出し、それを入れ替えながら文章構成を考える、という活動はよく行われますが、ホワイトボードアプリを用いることで、複数の子供が同時に付箋を共有し、操作することができます。
提案内容を考える場面では、ホワイトボードをグループで共有し、調べたことを書いた付箋を貼っていきます。このとき、「調べて分かったこと」「考えられる問題点」「解決に向けた取り組み」など、資料の内容ごとに付箋の色を変えておくと分類がしやすくなりますが、端末上ならそれも容易です。書き出す際には出典も併せて記録するようにしましょう。
② ワープロソフトで下書きを共有して推敲し合う
上記のように、ワープロソフトを使って下書きをすることで、グループ内で同時に共有することができます。グループで見合いながら文章全体の構成や内容、書き方などを検討し、画面上で加除修正していくこともでき、多様な見方から説得力のある文章を考えるのに有効です。
6. 単元の展開(10時間扱い)
単元名:具体的な事実や考えをもとに、提案する文章を書こう
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時、3時)
① 書籍のコピーや新聞記事など、自然や環境に関する記事から興味のあるものを集め、画像やデータとしてタブレットに取り込んだり、画用紙に貼って新聞スクラップをつくったりする。
② 取り込んだ画像やデータ、新聞スクラップなど、集めた資料をもとに、身近な自然や環境から問題点(テーマ)を考え、自分たちにできることを提案する文章を書くという見通しをもつ。
③ 教科書や教師の例文を参考に、提案文の特徴を考え、書く文章のイメージをもつ。
・第二次(4時、5時、6時、7時、8時、9時)
④ 提案のための資料を収集する。〈 端末活用(1)〉
⑤⑥ グループで具体的な提案内容について話し合う。必要に応じてさらに資料を収集する。〈 端末活用(2)〉
⑦ グループで提案する文章の構成を考える。
⑧ グループで分担して下書きを書く。〈 端末活用(3) 〉
⑨ グループで下書きを読み合って推敲する。〈 端末活用(4) 〉
・第三次(10時)
⑩ 提案文を読み合い、感想を交流してよさを共有し、学習を振り返る。
各時のワークシート例、板書例と全時間の指導アイデア
〇 第1時は、自然や環境に関する書籍のコピーや新聞記事から、興味をもった記事を選び、画像やデータとしてタブレットに取り込んだり、記事を貼って新聞スクラップを作ったりします。教師が事前に用意しておいたものに加えて、子供自身も社会科での学習を想起し、興味をもった書籍や新聞記事を集める活動を行うと、課題意識や見通しをもつのに有効です。
記事を集めるにあたっては、
『考えよう!地球環境 身近なことからエコ活動』シリーズ(財団法人環境情報普及センター・監修,竹内聖子、他・文/金の星社)
『地球のためにわたしたちにできること』シリーズ(ポプラ社)
『調べよう ごみと資源』シリーズ(松藤敏彦・監修/小峰書店)
「こども環境白書」(環境省ウェブサイト)
「環境問題を考えよう」(Yahoo!きっずウェブサイト)
などを参考にすると集めやすいでしょう。
同じ内容の記事を集める必要も、この段階でテーマを絞る必要もありません。
まずは子供自身が自然や環境の問題点について考え、課題意識をもち、そこからテーマを決めていけるようにするために、テーマ設定までの時間は十分に確保したいと思います。それが子供の主体的な学びにつながっていくでしょう。
集めた記事を読んでどんなことを思いましたか? 自然や環境について、ここが問題だ、心配だと感じたことを書きましょう。
電気が足りなくなって、節電注意報というものが出たんだ。電気を使いすぎるのはよくないんだ。学校や家でも電気がつけっぱなしになっていることがよくあるよ。
世界にはたくさんの絶滅しそうな動物がいるんだね。
地球温暖化のせいで異常気象が起こるようになって、災害が増えているんだ。地球温暖化はCO2が関係しているんだって。
水や資源の無駄づかいをなくすことなら、自分たちにもできるかもしれないね。
ゴミや電気の無駄づかいを減らすと、CO2が減らせるって本に書いてあったよ。
〇 第2時は、集めた資料から思ったことや問題だと感じたことをもとに、提案文のテーマを決めます。テーマを決めにくい場合は、例えばゴミ問題なら学校や家庭から出るゴミの量など、身の回りの事象を具体的にイメージすることで、解決方法が考えやすくなり、テーマも決めやすくなるでしょう。
テーマが決まったら同じテーマを選んだ子供同士でグループを作ります。または事前に生活班などのグループを決めておき、資料を読んで感じたことを発表し合いながらテーマを一つに絞っていってもよいでしょう。
〇 第4時は、テーマについての現状や問題点、解決方法などの資料を集めます。現状について詳しいデータや統計が必要なら図書館、タイムリーな情報が必要ならインターネット、具体的な事例や身近な人の意見が必要ならばインタビューなど、テーマや必要な情報に応じた資料の集め方を考えましょう。個人で進めたり、グループで分担して集めたりするやり方もあります。
集めた資料は、「現状」「問題点」「解決方法」等、種類によって色の違う付箋に書き出すようにすると構成しやすくなります。資料を集めている中で考えた問題点や解決方法も、色分けして付箋に書き出していくようにします。この時間だけでは十分に資料が集められないこともあるでしょう。5・6時にグループで提案内容について話し合い、さらに必要になった資料を集める時間をとることも必要です。十分に資料を集めることで、提案内容が考えやすくなります。
● 主体的な学びのために〈端末利用の方法と効果〉
付箋に書き出す活動を、ホワイトボードアプリを用いて端末上で行うこともできます。
教師が「現状」「問題点」「解決方法」などと記入したワークシートを作成し、個人やグループで共有できるようにしておくとよいでしょう。集めた資料をグループで共有しながらまとめたり、提案文の構成を考えたりするのに有効です。
テーマについての現状や問題点、解決方法などを明らかにするために、どんな方法で資料を探せばよいでしょうか?
図書館で本や新聞の記事を探したい。
学校の電気の使い方について、先生や友だちがどう考えているかインタビューしたいです。
インターネットで調べれば詳しいことが分かると思います。
調べたことは、内容ごとに色の違う付箋に書いていきましょう。
イラスト/横井智美