星峯西小学校の教科別実践例をチェック! Part3【先進的な自治体&小学校のICT活用実例】④
前回まで、鹿児島市立星峯西小学校の、2021年度の実践をふり返りながら、そこから同校の先生方が気付いたことなどについて紹介をしてきました。今回は、それを受けた2022年度の同校の実践の方向性や、これから力を入れて取り組もうとする先生方へのアドバイスなどを紹介していきます。
目次
低学年ではアナログの比重が高く、学齢に応じて次第にデジタルの比重が高く
こうした2021年度の実践をふり返りつつ、2022年度以降の実践について、谷口源太郎校長は次のように話します。
「2021年度の多様な取り組みはコロナ禍だから進んできたところもあります。実際に『今、コロナ禍だからやっているんでしょ』という声もありました。しかし、最初にお話しした通り、情報活用能力はコロナ禍の有無に関わらず、今後の社会を生きる子供たちにとっては必要なものだと考えています。
そのため、これまで確かな学力の育成を図るため、授業と補充指導と家庭学習を連動して行ってきたアナログの実践に、デジタルの学習指導を積み重ねていって、そこでどういう組み合わせ方で、どう取り扱っていけば、よりよい学習指導ができるのかということに全教科で取り組み始めたところです。
これはあくまで仮説ですが、学齢によって、アナログとデジタルの比重は異なるべきだろうと考えています。ごく簡単に言えば、低学年ではアナログの比重が高く、学齢に応じて次第にデジタルの比重が高くなるというイメージです。例えば、タブレットの使用も3年生までは学校内で学習に使って慣れ、次第に多様なことに使えるようになり、4年生以上の高学年が家庭に持ち帰って学習に使うようなイメージで考えております。
その具体を授業分野、補充指導分野、家庭学習分野で実践を重ね、どのようなバランスで実施することがより効果的なのか、文部科学省の資料なども参考にしながら進めたいと思っています。
実際に文部科学省もそれを考えて、StuDX Styleという事業を立ち上げていますし、経済産業省もEdTechという支援を行っているのだと思います。そうした状況も踏まえ、本校では、これまでの学習指導にデジタル機器が加わったことで、より効果的だったとか成果が上がったという実践と成果を積み重ねていきたいと考えています。
ちなみに2021年度末の1月からデジタルドリルをモニターで使わせていただいていますが、それを授業中ならどう使い、補充指導や家庭学習ならどう活用するかということの実践研究を進めていきたいと考えています。その成果については、国や県の学力調査などを活用して、結果は他校にも広く還元をしていきたいと思います」
七夕弘和教諭は先生方の様子を踏まえて、次のように2022年度の実践への期待感を話します。
「私もこのような実践は2021年度が初めてだったので、いろいろ試行錯誤しながらやってきましたが、先生方も同様だったと思います。私は理科専科ですから、1度使った教材類は3クラスで3回使えるわけで、成果や課題を確認しやすい立場でした。
先生方は自分の学級だけでの試行錯誤でしたが、ここまで実践を重ねて、自信も付いてきたと思いますので、2022年度は『これがよかったから、これを使ってみて』と言い合えるようになると思いますし、それは子供の学習の向上だけでなく業務の効率化にもつながって、よりよいと思っています」
趣味や日常も含めて、教師も常にタブレットなどに触れることでスキルアップ
さらにこれまでの実践を通して、苦手意識のある先生がまず取り組むとよいことについて聞いてみました。すると、持橋知行教諭は次のように話します。
「学校の先生は子供たちに対し、タブレットやスマホ中毒にならないように意識を喚起する立場であるために、自ずと自分自身も距離をとっている場合があると思います。そこを変えてみることから始めてはどうでしょうか。余談ですが、私の場合は子供たちに対し、『先生はスマホ中毒だよ。それは機器の扱いが上手になるためなんだからね』と話しているんですよ。趣味や日常も含めて、常に触れておくことが基本のスキルアップにつながります。
デジタル機器もスポーツなどと一緒で、それに触れた時間に比例して、上手になっていくのです。もちろん、新しいものに触れるときにはストレスもありますが、そのストレス耐性を強めるという意味でもそうですし、単純に苦手意識を払拭するためにも、たくさん触れることが大切だと思います」
続けて、七夕教諭がこう話します。
「例えば、会議システムやライブ配信の活用も、年に1、2回では久しぶりで忘れてしまうものですが、卒業式に使い、終業式に使い、始業式、入学式で活用していると自然に慣れて使えるようになるのです。同様に、基本的で簡単な操作だけでも、『これは毎日やる』というように、日常的に使う機会を意図的につくっていけば、すべての先生がスキルを付けていくことができるのではないでしょうか」
最後に谷口校長は次のように話しました。
「苦手意識のある先生がいるのも事実ですから、やはり重要なのは職員研修です。
特に若い先生方が中堅やベテランになっていく過程では、必ずICTスキルは必要になる技術です。一方、ベテランの先生も使えるようになるとメリットがあるのです。例えば、プリントを何枚も印刷して配っていたものが、メール配信で済みますから、非常に時間を節約できます。タブレットにドリルを入れるときにも、研修を行って実施していったのですが、やはり負担軽減ができます。そのように取り組むことの意義を理解したり、簡単なことからまず取り組むことでよさを実感できたりするような研修の充実が必要でしょう。
本校の場合は、持橋教諭、七夕教諭のような優秀なスタッフがいたこともありますが、昨春から始めて二学期にはオンライン授業もできたし、卒業式はオンライン配信もするなど、多様な実践を積み重ねてきて、実際にやればできるものだなと私も先生方も感じています。 ただ実践を重ねていく過程で、保護者から『そんなに急いでやる必要はあるのですか』という疑問の声が出たりもしました。しかし今、ICTに関する学校間格差が生まれつつあり、実践が進まない学校で保護者から、『うちはやらないのですか?』という声があるように聞いています。ですから、疑問をもたれていた保護者にも、やがては『ああ、あのときにやってくれていてよかった』と理解されるようになると思います。このような実践は何よりも子供たちにとって、今後の社会を生きるうえで重要な資質・能力の一つを育むものなのですから」
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こうした学校での実践を踏まえ、次回、改めて鹿児島市学校ICT推進センターの取り組みなどを紹介していきます。
次回記事は6月27日(月)公開予定です。
「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例は、毎週月曜日に更新いたします。
執筆/矢ノ浦勝之