自治体で取り組む「水平型コミュニティ」ICTシステムづくり【先進的な自治体&小学校のICT活用実例】①

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「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例
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「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例

文部科学省は、GIGAスクール構想を浸透させ、学びを豊かに変革させていくために、StuDX Styleというサイトを立ち上げています。ここには多様な実践事例が紹介されていますが、このサイトの事例提供や編集協力として、名を挙げられている組織の一つに、鹿児島県の鹿児島市立学校ICT推進センターがあります。
そこで、同センターや同市立星峯西小学校で、GIGAスクール構想により、教育をどのように豊かに変えていこうとしているのか、取材を行うことにしました。

GIGAスクール構想以前でも情報機器の整備率が高く、2人に1台

まず、鹿児島市立学校ICT推進センターの木田博所長は、同市のこれまでの状況について次のように話します。

「本市は以前から情報教育に力を入れてきており、本センターの前身となる学校情報センターは1987年1月に設置しています。当然、ICTやネットワーク環境の整備に力を入れており、GIGAスクール構想以前では全国の中核市の中ではおそらく最も情報機器の整備率が高く、2人に1台の整備がされていました」

鹿児島市教育委員会の辻慎一郎教育部長は、自身の若手教員時代から情報機器の活用に取り組んできており、当時をふり返りつつ、現在の状況について次のように話します。

「今のGIGAスクール構想の1人1台は、私の若い頃には夢のような話で、現役のうちにそれが実現したのは嬉しい限りです。

正直言って、学校は最近の情報化の波に乗り遅れてきたように思います。私が教師になった30数年前は、自宅にはパソコンはなくても学校にはあり、学校のほうが進んでいました。しかし近年は、通信環境も機器整備も家庭のほうが進んでいるような状況です。家庭がそうなっているということは当然、子供たちは社会に出てからICT機器を使うことが必須になるわけですから、当然、学校でも活用できることが必須でしょう。それがGIGAスクール構想によって、やっと時代に追いついたと感じています。これによって、いよいよ学校が変わることに期待をしているところです」

小学校から高校までの子供も先生もみんな同じドメインをもつ

では、学校の変革を支えるため、同センターを中心に、どのような取り組みを進めてきているのでしょうか。まず、環境整備について木田所長は次のように話します。

「本市、本県の特徴的なものとしてはまず、県域アカウントが挙げられます。これは、私が鹿児島県総合教育センターに3年間在籍していたときに担当したのですが、本県内の43市町村が、@kago.ed.jpという同じドメインをもつというものです。

小学校から高校までの子供も先生もみんな同じドメインをもっていますから、県内のどこへ異動しても学校種が変わっても、同じドメインを使い続けられるのです。本県の場合は、教員生活の間に1、2度の離島での勤務も含め、市町村間の異動を経験しますが、教員である限りは、どこに住んでいても自分のアカウントを使い続けられますし、児童・生徒も県外に移ったり、私立に行ったりしない限りは、12年間使い続けられるのです。

これによって、子供たちの学びを12年間、ずっと追い続けることが可能になります。加えて、各自治体が個別に導入するよりも、予算削減ができたり、管理業務の負担軽減ができたりするなどのメリットもあるのです」

このような取り組みが及ぼす影響について、辻教育部長は次のように話します。

「これによって例えば、評価についても大きく変わることが期待されます。これまで先生方は、本時や単元の中での子供の変容などはよく見とっていましたが、年間を通じた変容や小・中・高校と進学に伴う学校種を越えた変容など、長期的な視点で子供を評価することは十分ではなかったのではないでしょうか。しかし、県域アカウントの導入によって、より長期的に子供の学びの足跡を追跡し比較していくことで、一人の子供を継続的に、長期的に評価を行い、一人ひとりをより適切に支援したり、指導の改善を図ったりすることも可能になると思っています。

そうしたことから、他の県などで本市のGIGAスクール実践についてプレゼンを行うと、特に県域アカウントについては、とてもよいと評価されますし、私立の学校で研修をさせていただいた際、『県域アカウントに入れないか』という声もいただいたことがあります」

鹿児島県の県域アカウントの特徴
鹿児島県の県域アカウントの特徴。

市の水平型GIGAコミュニティの構築を進める

この県域アカウントは、子供の学びに生かすだけでなく、先生の学びである研修などにも活用していると、木田所長は説明します。

「こうしたシステムを活用し、研修を実施するのは本市だけでなく、他の自治体でも行われているところだと思います。ちなみに、本市では2年前は21回研修を行い、400人ほどが参加してくださったのですが、2021年度はその4倍ほどの先生方が参加しています。これはオンデマンドを含まない数ですので、もっと実数は多いはずです。

本市の特徴的な取り組みとしては、現在、水平型コミュニティの構築を進めてきているところです。これまでは、文部科学省からの通知が県教委、県教委から市町村教委、市町村教委から各教員へという垂直型で下りてきていたわけです。ところが今は、文部科学省がすぐにホームページにアップすることが多くなってきたため、全教員が即時、新しい情報を共有できるようになったわけです。

そう考えると、コミュニティ自体も垂直型ではなく水平型で、全員で共有し、全員で問題を解決していくような形にできないかということで始めたものです。

具体的には、市の水平型GIGAコミュニティの構築を進めており、例えば鹿児島市GIGAスクールフォーラムというコミュニティには、市内の1000人以上の教職員が参加していますし、初任者研修コミュニティもあれば、校長会もあるのです。

これまでの研修は一つの場所に、定員の人数が集まって、必要な話を聞いたり質問したりすればそこで終わりでした。ところが、GIGAスクール以降、先の例のように研修に定員はなく、学校にいながら参加が可能ですし、終了後、動画を残すので、開催後の受講も可能です。また質問があれば、フォーラムのページに質問を書き込むと、その分野の得意な先生、先進実践をされた先生などが解決方法を示してくれるのです」

同センターの永田千章指導主事は、同フォーラムの意義について次のように説明します。

「通常、年度当初は多様な問い合わせが多く、特に2021年度はGIGAスクール元年ということで、年度当初、本センターに多くの問い合わせ電話がありました。しかし、GIGAスクールフォーラムで、トラブル解消の質問と回答ができるようにして以降は、問い合わせがグッと減りました。それくらい、横のつながりの中で問題解決ができてきているのではないかと思いますし、これがないと、十分な対応や支援ができなくなっていたかもしれないと思います。

また、質問に対しての直接の解決法が出されるだけでなく、先進校や得意な先生がよい実践例の動画や資料を紹介してくれていますから、見たい先生はそれらをじっくり見て、実践に生かすことも可能なのです」

「2021年度、多数の資料や動画がアップされ、GIGAスクールフォーラム2を作る必要が出てきているところです。このサイトのよさはフォーマルな研修が行える一方で、先生方同士のインフォーマルな研修も行えるということで、研修の広がりが出てきていますし、以前よりももっとカジュアルなものになってきていると思います」と木田所長。

水平型GIGAコミュニティ
専門性の高い同僚に質問をすると、具体的なアドバイスが返ってくる。

『しら(調べる)、とる(撮る)、つく(作[創]る)、とる(録る・残す)』という合言葉

このような水平型コミュニティによる研修を進める一方で、同センター主催の研修や資料作成も行っている、と木田所長。

「文部科学省教育DX推進室から、教育DX(デジタルトランスフォーメーション)のための3つの段階として、デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションが示されています。

GIGAスクールでデジタル機器をどう運用しても、一朝一夕にすごい授業ができるわけではないし、一足飛びに私たちが思い描くような授業がすぐに実現できるわけではありません。まずはデジタイゼーションで、デジタルに置き換えることから始めましょうということです。そこから、個別のプロセスをデジタル化し、授業をどう変えられるかを考える、デジタライゼーションのステージに入っていきます。そこから最終的には、授業の価値自体を見直して、新たな形の枠組みで授業を考えていく、デジタルトランスフォーメーションに入っていくわけです。

ですからデジタイゼーションがダメだというわけではなくて、段階的に高まっていくことが大切です。そこで、まずデジタイゼーションに取り組むために、『しら(調べる)、とる(撮る)、つく(作[創]る)、とる(録る・残す)』という合言葉で、学習場面における多様な場面をデジタルに置き換えることを周知し、研修なども行ってきているところです。

後で説明をしますが、実際にそうしたところから入った実践の中で、次第に授業の質の高まりへとつながっていった実践も多数あります」

GIGAスクール「はじめの一歩」より
デジタイゼーションから取り組みを始めるための合言葉、「しら、とる、つく、とる」。

タブレットの活用目的や方法について説明する、4コマ漫画『レッツ! ICT活用!』

こうした環境整備や研修の充実を図ったうえで、2022年度からは、子供たちがタブレットを家庭に持ち帰って、学習に生かすように取り組み始めたと木田所長は話します。

「子供たちの主体的な学び、家庭や社会に開かれた学びをつくっていくためにも、タブレットは授業中のみに使わせるのではなく、学習中や自らの問題解決のために使わせるというようにしました。2021年度は初年度でしたし、家庭の通信環境整備などもありましたので、緊急時の持ち帰りのみでしたが、2022年度からは環境が整ったため、家庭での活用もできるようにしていく予定です。

やはり家庭での活用を考えるときには、ネットワークの問題があります。そのため2021年度、家庭のWi-Fi環境に関する2度目の調査を行いました。その環境がない家庭に対しては、モバイルルーターを確保し、必要な家庭が使えるようにしました。

ただ家庭で活用する場合、落として壊すこともあるとは思いますが、今は導入期ですから、故意にやった場合を除いては、基本的に本市で修繕を行うようにしています」

ただし、こうしたWi-Fiの環境保持費用については難しい面もあると永田指導主事は話します。

「現在、ほぼ市で修繕を行っているわけですが、市の修繕費も限られています。そこで、2021年度の修繕を精査してみると例えば、適切な使い方がなされずに破損した例もあります。しかし、学校側が使い方の指導を過剰に行うと、家庭で活用されなくなる場合もあります。

そこで活用については、私たちから家庭に説明するようにしています。その目的で、活用の目的や方法について分かりやすく説明するための、『レッツ! ICT活用!』という4コマ漫画で構成した資料も作成。親子で見て、理解を図ってもらえるようにしています」

R3タブレット活用資料「レッツ!ICT活用!」より
4コマ漫画で活用の目的や方法を紹介する『レッツ ICT活用!』。

さらに木田所長はこう続けます。

「家庭に持ち帰るようになったとき、ただ持ち帰って使うことが目的化するのではなく、何に活用するのか、子供の発達段階も考えながら、先生が明確な目的をもって活用できるよう、さらに先生側の研修も充実を図っていきたいところです。

その他、家庭及び学校での活用中のネットワークが心配なところだと思いますが、本センターでは専属のシステムエンジニアが常駐しており、各校からシステムやネットワークの異常が検知されると即時対応しています」

最後に辻教育部長はこう話します。

「これまで情報機器の教員による活用には個人差があり、ともすると、得意な人だけがどんどん先へ行って、苦手な人は置いていかれるということもあったと思います。そうではなく、『1人の100歩よりも、100人の1歩を大切にする』という信念で、研修を進めていきたいものです。それこそ、子供の学びでは個別最適化と言われますが、先生の学びにもそれが必要と考えます」

では、同センターや同市教委のこうした基盤整備のうえで、各学校ではどんな実践が行われてきているのでしょうか。次回から2回にわたり、同市立星峯西小学校の実践を紹介していきます。

永田千章指導主事、辻慎一郎教育部長、木田博所長
写真右から、鹿児島市立学校ICT推進センターの永田千章指導主事、鹿児島市教育委員会の辻慎一郎教育部長、同センターの木田博所長。

<第2回> 星峯西小学校の教科別実践例をチェック! Part1 はこちら>>>
「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例は、毎週月曜日に更新いたします。

執筆/矢ノ浦勝之

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