カメラとスライドアプリで「安・近・短」のICT活用 – 茨城県立協和特別支援学校・藤田武士先生の実践

文部科学省による「端末利活用状況等の実態調査」では、2021年7月末時点で、96% を超える公立小中学校が、一部、あるいはすべての学年で端末の利活用を開始していると回答しました。ICT環境は確実に整ってきていますが、ではそれを使って何をするのか。実はまだ模索中、という現場の先生も多いかもしれません。

そんな時は、とりあえず他の先生たちの実践を真似してみるのも一つの方法です。茨城県立協和特別支援学校の藤田武士先生は、ICT活用の初めの一歩の踏み出し方として、いいなと思った他の先生の実践を「徹底 的に パクる(Tettei Tekini Pakuru = TTP)」ことを推奨しています。

自らもTTPしながら、さまざまなICT活用に取り組んでいる藤田先生に、タブレットの導入期から今までの実践や、ICT活用に際して大切にしていることなどについて、お話を聞きました。

藤田 武士(ふじた たけし)
茨城県立協和特別支援学校 指導研究部長・教諭
NHKストレッチマン・ゴールド番組委員。茨城県特別支援学校ICTエキスパート教員。モリサワUDフォントエバンジェリスト。
2019年4月より茨城県立協和特別支援学校にて情報部長として、授業実践のみならずICT環境整備、校内職員研修に積極的に取り組む。2021年度からは、指導研究部長として、学校全体の研究を主導する立場として、ICT活用と授業改善を中心とした研究や研修に取り組んでいる。

タブレットは、「伝える」ことを手助けしてくれる子供たちの相棒

2016年度、前任校で、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクグループが取り組む「魔法のプロジェクト」に参加しました。この年のプロジェクトは「魔法の種」という名前で行われ、全国の特別支援学校・特別支援学級・通常の学級70校に172台の携帯情報端末が貸し出されました。

学校でも、県全体でも教育用端末の導入はまだまだという時期で、私もiPad活用を始めたばかりでした。このプロジェクトで「コミュニケーションの広がりを目指したICTの活用」という研究テーマで取り組んだのは、小学部6年生の知的障害のある児童が、アプリを使い、写真を撮って、絵日記を作成するという実践です。

この児童は、発音が不明瞭なため、自分のことばが人にうまく伝わらないと感じており、家でも学校のことを自分から話すことはありませんでした。そこで、日記を作って帰りの会で発表し、「伝わる経験」を積み重ねることで、苦手意識をなくしてもらおうと考えました。

写真があると、それを見て言葉を想起することができ、また文章の不足は写真で補えます。帰りの会でも、絵日記を見せながらスムーズに発表できて、友達から称賛され、自信もつきました。また、作成した絵日記をプリントアウトして家に持ち帰って見せると、家族との会話が増え、日記にも変化が出るなど、さまざまな成果が上がりました。

さらに、この児童は、書くことについても、手指の巧緻性が低く、字形が正確でなかったり鏡文字になってしまったりするので、苦手意識をもっていました。そこで、アプリを利用してゲーム感覚でひらがなを書く練習に取り組んだ結果、書くことに積極的になり、絵日記の作成にも手書きを活用するようになりました。

絵日記を通じて、自分のことばが友達や家族に伝わるという経験を積み重ね、書字にも自信がついたことで、この児童は自己肯定感がアップして、もっとやりたいという意欲をもつようになったのです。

この事例を通じて、私はiPadが、子供たちの内面にある想いや考えをアウトプットするのに効果的なツールであることを実感しました。iPadは、話をすることが機能的に難しかったり、気持ちの面で、人前で話すことが苦手だったりする子供たちが、より多くのことを伝えられるように手助けしてくれる相棒のような存在だと思いました。

この「魔法のプロジェクト」に参加したことで、私には全国各地に知り合いができ、情報交換をしたり、お互いの実践を共有したりして、たくさんの事例や情報に触れることができるようになりました。これをきっかけに、私の“得意技”であるTTP(徹底 的に パクる)が加速していきます。

他の先生のアイディアを“パクって”作るオリジナルの授業

2021年度、茨城県立協和特別支援学校で、研修テーマとして取り組んだのは、「わくわくドキドキタブレット〜3C大作戦〜」です。3Cは、クリエイティブ(Creative)、チェンジ(Change)、チャレンジ(Challenge)の頭文字。タブレットの活用を、表現するための道具として使う(クリエイティブ)、児童生徒が学びのインプットとアウトプット、振り返りのために活用する(チェンジ)、映像教材を授業で活用する(チャレンジ)という3つのレベルに分け、91人の教員全員がこれに取り組み、1人1つのレポートを提出して事例集を作りました。

私の“クリエイティブ”の実践は、高等部1年生の国語の「フォトポエム作り」です。実はこれ、佐賀市立大和中学校で中村純一先生が行った春の景色を撮って俳句集を作るというアイディアをTTPしたものです。中村先生の実践を踏まえ、生徒の実態や授業のねらいに応じてリメイクして、私のオリジナルの授業を組み立てました。

この授業のねらいは、写真と詩を通じて端的に物事を伝えられるようにすることと、iPadの基本的な機能やアプリの使い方を、学習を通じて習得することです。授業の冒頭で、「“春”といえば、何を思い浮かべますか?」という問いかけをし、子供たちが挙げたキーワードを書き出して、「春」をたくさんイメージした上で、写真を撮ってきてもらいました。

写真の撮り方やKeynoteの基本的な使い方はみんなで一斉に学びましたが、子供たちの習熟度やニーズを見つつ、プラスアルファの機能は個別に教えました。そして、新たな機能を覚えた生徒が、それを別の生徒に伝える、という方法で、子供たち同士の学び合いもありました。

完成したスライドを、友達や先生に見せて、それについていろいろやりとりするという状況も、自然発生的に生まれます。スライドという形の作品ができあがると、見せたい、見てほしい!という気持ちが湧いてくるようです。見せるとなれば、説明も必要になり、そこにコミュニケーションが生まれて、子供たちは、自然に自分の思いを伝えることができています。

タブレットで生徒たちの気づきや発見をその場でアウトプット

同じような取り組みは美術でも行いました。デカルコマニー(転写)という題材に取り組んでいた子供たちが、制作を進める中で、お互いの作品について「○○に見えるね!」、「○○みたいじゃない?」と会話していたのを聞いて、「じゃあ!それを写真に撮ってみたら?」と提案したのです。

子供たちは早速iPadを取り出し写真を撮り、スライドを作り始めました。基本的な流れは前述した国語の授業と一緒です。撮った写真はKeynoteに貼り付けて、タイトルをつけました。その際、自分の視点だけではなく、友だちの意見や視点を聞いてそれを受け入れる、という傾聴と折り合い、同意と他者視点を学ぶこともできたと思います。できたスライドは、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などの子供たちが大好きなアニメからインスピレーションを受けたマニアックなものや、「くまのプーさんと〇〇」といったオーソドックスなものなど、子供たちはさまざまなタイトルをつけて、お互いの作品を共有して楽しみました。

この活動は、美術の学習として当初の予定にはなかったことですが、授業の中で出てきた生徒の発言を私が拾い上げたことで、新たな学びが生まれました。生徒たちの気づきや発見をその場ですぐにアウトプットするのに、タブレットはとても有効なツールだと思っています。

必要性を感じて学んだことは、スキルとして定着

最近では、Keynoteを使って、図形を組み合わせていろいろな漢字を創ったり、それをマジックムーブで動かして簡単な動画を作成したりすることにも取り組んでいます。漢字を創る活動では、図形を組み合わせることで漢字の構成を覚えられるという利点があります。そして、子供たちの意外なクリエイティビティを発見することもできます。

漢字をマジックムーブで変形させていく動画の作成にはいろいろな工夫が必要です。例えば、画数の少ない漢字から多い漢字に移るときは、最初のスライドで重ねておいた図形を分散させる動きで画数の多い漢字に変形させ、逆の場合は図形を集めて重ねることで画数の少ない画像を作る、など、マジックムーブの効果が生きる創り方を、私がただ教えるのではなく、ヒントを出しながら一緒に考えます。

デバイスやアプリの機能の使い方は、作品創りの中で、生徒たちがやりたいことを実現するために必要だと思ったら教えるようにしています。必要性を感じて学んだことは、自分のスキルとして定着します。そして、先生が1人の生徒に教えたら、今度はその生徒が先生役になって友だちに教える、という形で子供たち同士の学び合いが広がることも大切にしています。

マジックムーブで動画を作ることで、子供たちは見せ方や魅せ方を意識するようになります。これは、他者の視点を考えることが苦手な知的障害や発達障害のある生徒たちにとって、とても有効な学びなのではないかと思っています。こうやって創った映像を、今年度はプロジェクションマッピングで学校の壁面に投影して、生徒と一緒に鑑賞したいなと思っています。。

誰もが「やりたい」「できる」と思える「安・近・短」のICT活用

私のICT活用のポリシーは「安・近・短」です。「安」は、カメラやKeynoteといったiPad標準アプリや無料のアプリなどを使ってできるだけ「安く」行うこと、「近」は、春という季節や、美術で作った作品など、「身近な」ものや身の回りにあるものなどを題材にすること、そして、「短」は、学習における準備をなるべく「短い時間」で行うことができる取り組みです。

得意な先生だけがトップランナーとしてICTを活用して、学校全体を牽引することもときには必要かも知れませんが、学校として持続可能な教育活動を進めていくという視点で考えていくと、児童生徒も教員も、みんなが「やってみよう」、「やってみたい」、「私にもできるかも」と思えることが大事なのではないかと思っています。それで、私は最近いろいろな先生の授業に顔を出して「こんなコトできるんじゃない」、「こういう活用もあるよ」と言いまくっています。 もちろん、言うだけではなく、言ったからには一緒に授業を考え、子供たち同様、先生たちも授業を通じて、「できた!」「楽しい!」と思ってもらい、次への意欲を高めてもらえればと思っています。

今回ご紹介した実践例は、ほとんどカメラとKeynoteを使って行いました。iPadの無料アプリを使い、またインターネットに繋がっていなくても、できることはいろいろあることがおわかりいただけたでしょうか。

ICT活用のアイディアは、他の先生たちの授業実践をTTP(徹底的にパクる)すれば、どんどん出てきます。いつもと視点をちょっと変えることで、誰でもICT活用の新たな取り組みを始めることができると思っています。 ICT活用の始点は、視点を変えるところから・・・!

取材・執筆/石田早苗

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