小三道徳授業ルポ「貝がら」ICT端末を効果的に活用する
コロナ時代であるがゆえに、特に道徳性を養う道徳科の授業が重要視されています。そこで、道徳教育の研究に取り組んでいる小学校に、 浅見哲也教科調査官とともに伺い、 調査官からのアドバイスを受けつつ、中学年の授業実践を詳しく紹介します。 今回は埼玉県さいたま市立本太小学校です。
目次
教材
教材名: 「貝がら」(教育出版)
主題: 友達によりそって〈B 友情、信頼〉
導入
本時のねらい
主人公ぼくの中山くんに対する気持ちを話し合う活動を通して、相手の身になって考え、寄り添い、信頼しようとする心情を育てる。
1 友達との関わりについて知る
事前指導として「心と生活のアンケート」を実施しました。事前アンケート結果を提示し、友達との関わりについて知ることができます。
展開
2 教材の柱について話し合う
⚪物語の条件・情況の説明後、範読。
⚪物語の心に残ったところを出し合う。
範読の後、物語の心に残ったところを発表します。
子供たちの発言
中山くんが貝がらを届けに行ったところ。
中山くんが話したのに女の子たちが笑ったところ。
中山くんが初めて口をきいてくれたところ。
中山くんが口をきいてくれなかったところ。
浅見先生のここがポイント
「範読後、心に残ったところを子供たちが出し合ったとき、そのすべての発言に対して矢部先生が認め、その後の展開で取り上げていったところがよかったです。」
発問
話しかけても黙りこむ中山くんを見て、 ぼくはどんな気持ちだろう。
子供たちの発言
どうして話してくれないの。
ぼくのことがきらい?
緊張しているのかな。
発問
図工の時間に中山くんがまた話さなくなったとき、ぼくはどんな気持ちだっただろう。
子供たちの発言
初めて話せてうれしい。
なんで女の子は笑ったの?
次の図工の時間に話したいな。
中心発問
「今度こそ、仲よくなれる」とぼくが思えたのはどうしてだろう。
「貝がらを見たとたん、ぼくはどう思っただろう」「どんな気持ちで中山くんは貝がらをぼくに持って行ったのだろう」などの補助発問をすることで、「仲よくなれる」と思ったことについて考えられるようにします。
子供たちの発言
中山くんの気持ちを想像して、そう思った。
きらわれていないと思った。
中山くんは、ぼくのことを、「笑わなくてありがとう」と思った。
宝物をあげる。友情の印。
浅見先生のここがポイント
「中心発問のところで、子供から出た意見を生かして補助発問に向かわせたことが、 授業の流れをとてもスムーズにしています。」
3 ICT端末を活用して、みんなの意見を共有する
展開の後段で今回初めてICT端末を使いました。今まで発表する機会が少なかった子もICT端末なら、自分の言葉で書くことができ、その子たちの意見も全員で共有することができます。手を挙げていなくても子供の話を聞くことを大事にしました。中心発問では、中山くんの気持ちに対するぼくの気持ちを問うことで、子供たちの友達を思う考えをより深められるようにしています。
発問
友達と仲よくなるために、 どうしたらよいだろう。
子供たちは1人1台配付されたICT端末を使い、自分の意見を端的な言葉で書きます。ICT端末に書いた考えはみんなに共有されるので、友達の考えを知ることができます。
浅見先生のここがポイント
「三年生だからこそICT端末には短い言葉を書かせ、意図的指名をして、発言するときにはもっと詳しく発表させることで、子供たちの伝える力が高まっていきます。」
子供たちが記述した画面
終末
4 歌『ともだちはいいもんだ』を聴く
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生からのアドバイス
道徳科でのICT端末の効果的な活用
道徳科の授業でもICT端末が活用され始めています。この授業で子供たちは、友達と仲よくするためにはどうしたらよいかを短い言葉で表記し、機能を生かして友達の考えと比べています。表記された行為は違っても、その行為の根底にある心は同じなのかもしれません。教師は共有された子供たちの表記を見て意図的に指名し、子供は、文字を読むのではなく、自分の言葉でそのときの気持ちを発言していました。このような矢部先生の工夫に、これからの効果的な活用のヒントが得られる授業でした。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小三小四』 2021年8/9月号より