動画ツールFlipgridの活用で子供の学びを広げたい!つがる市立森田小・前多昌顕先生のICT実践
動画を使ったソーシャルラーニングサービス、Flipgrid(フリップグリッド)をご存じでしょうか。Flipgrid社が開発し、Microsoft社が無料で提供しているこのサービス、日本でも徐々に利用する先生が増えてきています。
Flipgridは、動画で“お題”を出して、学習者が動画で答えを投稿し、それを共有して、動画やテキストでコメントをつけあうことができるプラットフォームです。閉じられたコミュニティの中で、子供たちが安全に交流することができます。
まだ使ったことがないけれど、動画活用に興味があるという先生たちは多いかもしれません。一方で、子供たちが学校の回線からYouTubeにアクセスできないようにしている学校もあるなど、「動画」についてはややネガティブなイメージを持つ人が多いのも事実です。
では、「動画によるソーシャルラーニング」とはいったいどんなものなのでしょうか。
Flipgridをフル活用してさまざまな実践を行っている、日本初のFlipgrid認定教育者(レベル3)である、青森県つがる市立森田小学校の前多昌顕先生に、その実践例と、Flipgridを使う子供たちのようす、またFlipgrid活用についての考えなどを聞きました。
前多昌顕 (まえた・まさあき) 青森県つがる市立森田小学校教諭。日本初のFlipgrid認定教員レベル3。初任の頃よりICTの教育活用に興味を持ち研究を進める。一時期、ICT教育と距離をとり研究対象を思考ツールにしたが、プログラミング教育必修化をきっかけに再開。Microsoftイノベーティブエデュケーションフェロー2020-2021、Education Exchange 2020日本代表、Google for Education認定トレーナー。NPO法人学修デザイナー協会理事で学修デザインシート開発者。
目次
低学年から高学年まで、誰でも、どんな端末でも利用が可能
Flipgridは、前任校で使い始めました。そのときは1年生から6年生まですべての学年で使い、現在もほとんどの学年で活用しています。私が最初にFlipgridを使ったのは2年生のクラスでした。低学年での動画の活用は難しいのではと思いましたが、はじめにしっかりレクチャーすると、その後子供たちは自分でどんどん勝手に使うようになりました。
Flipgridはどんな端末でも使うことができます。私の学校ではGIGAスクール構想で整備されたChromebookを使っています。Flipgridはアプリもありますが、教育委員会からアプリのインストールを制限されているので、Web版での活用がメインです。GIGAスクール端末が整備される前は、端末の準備に苦労しました。校長の理解のもと、中古のタブレットや貸与されたタブレットをかき集めて、自前で1人1端末を実現していました。複式学級の小規模校だったからできたことです。
Flipgridをクラスで使うときは、まずクラスに「グループ」を作り、メンバーを登録します。「グループ」の中には、さまざまなお題を投稿する「トピック」を作ることができます。そのお題(トピック)の答えを子供たちが録画ボタンを押して撮影して投稿すると、全員の動画のサムネイルが一覧でき、お互いの動画を見てコメントをつけあうこともできます。
音読、九九練習から音楽のテストまで、撮影・共有機能のさまざまな活用方法
私は、Flipgridの動画撮影や共有機能をさまざまな形で活用しています。
例えば、音読や九九の個人練習を動画撮影するという使い方。1人で練習するといまひとつ身が入らないこともありますが、カメラに向かうとビデオを見る相手のことを意識するため、しっかり練習することができます。また動画が蓄積されるので、自分の上達の様子も確認できます。
音楽のリコーダーや歌の実技テストも、動画を撮影して提出する形で行っています。この方法なら一発勝負で緊張して失敗してしまうということはありません。子供たちは納得のパフォーマンスができるまで繰り返し撮ることができます。教員もビデオを見ながら指の動きを確認したり、気になるところを見直したりと、評価もスムーズにできるようになりました。
またFlipgridは、撮影するときに、画像を読み込んだり、パソコン画面を表示したりすることができます。そこで、プログラミングの授業では、子供たちが自分で作成したプログラムを画面で見せて説明するビデオを作りました。また、文字を手書きする機能を使って、算数の計算式などを書きながら説明する動画も作っています。子供たちがどういう手順で計算したのか、思考の過程を動画で可視化でき、それを後から全員で見せあうこともできるのです。
Flipgridを使った簡易プレゼンテーションで、効率よく学習の目的を達成
5・6年生の社会科では、単元のまとめとして「学んだことを整理して伝える」プレゼンテーションを行い、全員で共有してフィードバックしあっています。
以前は子供たちにプレゼンテーションソフトで発表資料を作らせていました。ただそうすると、画像やアニメーションなど細かいことにこだわって、内容を理解してまとめるという本来の目的とは違うところに時間をかけてしまうことがあります。そこで、Flipgridで簡易プレゼンテーションを作る方法に変えてみました。すると子供たちは、タイトルは手書きの文字を映したり、教科書を見せながら話したり、工夫しながら「まとめ」に集中し、シンプルなプレゼンテーションを45分で作って投稿することができました。
全員のプレゼンテーションは、それぞれの端末で閲覧して、自由にコメントしあいます。Flipgridでは動画でもテキストでもコメントを残すことができますが、どちらでもよいことにしています。また、動画にLike(いいね)ボタンを押せるように設定しておいて、時間がなければ、Likeをつけるだけで終わることがあってもよいと思います。
教員からのフィードバックは、子供たちがプレゼンテーションを作成したとき、その場で直接、口頭で行っています。理由は、Flipgrid上で全員に細かくフィードバックすると非常に時間がかかるからです。ICTを活用することで、かえって時間がかかってしまうのは本末転倒だと思います。
“非同期”だからできる、海外の子供たちと英語で楽しい交流
Flipgridのグループは閉じたコミュニティですが、「トピック」のゲストパスワードを発行し、URLを知らせることで、外部の人たちとコミュニケーションすることも可能です。Flipgridで行うのは、ZoomやTeamsのようなライブのオンラインコミュニケーションではなく、動画を使った非同期の交流ですから、海外とやりとりする際、時差を気にする必要がありません。また、リアルタイムだと気後れしてしまうこともある英語での交流も、非同期ならじっくり準備できるので、子供たちは余裕を持って楽しんでいます。
私は、FacebookにあるFlipgridのグループに参加していて、海外と交流するときは、そこで呼びかけて反応があったところと連絡をとりあって実施しています。いままでに、イスラエル、バングラデシュ、アメリカ、メキシコなどの子供たちと交流しました。話題は「どんなお菓子が好き?」とか、「地元で有名なものは何?」など簡単なものです。でも、英語の授業で、日本人同士で話すのとは違い、自分たちの英語が通じて海外の子供たちからリアルな答えが返ってくると、子供たちは本当に嬉しそうな表情をします。
動画ネイティブの子供たちが開拓する、多様で楽しい使い方
Flipgridを使って子供たちが授業中に遊んでしまうのではないかと心配する声もあります。でも私はまず遊ばせるようにしています。飽きるまで遊んだら、子供たちは授業に集中することができます。
小学生の子供たちは、生まれた瞬間から携帯電話やスマホのカメラを向けられてきた動画ネイティブ世代です。動画撮影に抵抗はなく、基本的なことを教えれば、特に指導しなくても自分たちでどんどん使い方を覚えます。子供たちは柔軟なので、Flipgridで自由に遊ばせるといろいろな使い方を開拓します。最近では、デコレーションした写真を簡単に作成できる簡易プリントシール機のように使っている子供たちもいました。
大事なことは、子供たちに、Flipgridを通じて安全な環境で自分が発信者になる経験をさせることだと思っています。いきなりTikTokやYouTubeに動画を投稿して危険にさらされることなく、自分なりの発信方法を学んでいくことです。
いまは授業以外でもさまざまなことにFlipgridを活用しています。例えば、お楽しみ会で子供たちが企画した「宝探しゲーム」は、動画のURLをQRコードで発行するFlipgridの機能を活用しています。学校のあちこちにQRコードを隠しておき、それを見つけてスキャンして、動画にアクセスしながら宝探しをするという全く新しいゲームを子供たちが発明しました。
Flipgridを使った児童会総会も行っています。総会ではいろいろな委員会への感謝のことばを発表することにいつもかなりの時間を使っていました。総会の場で話すことは、子供たちにとっては大事な経験ではありますが、一方通行の「感謝」を延々と発表するのはあまり効率的ではありません。そこで、Flipgridの動画を使ったところ、時間の短縮になったことはもちろん、発表が苦手な子供たちもしっかり感謝のことばを言うことができて、いい結果が得られたと思っています。
Flipgridは、単に動画による交流、というだけでなく、多様な使い方ができるサービスです。子供たちにも自由に使わせて、一緒に新しい利用方法を見つけてください。面白い活用ができたら、ぜひ教えていただければ嬉しいです。
取材・執筆/石田早苗