小2道徳「まいごのすず」指導アイデア
執筆/埼玉県公立小学校教諭・田中三三子
監修/前・埼玉県公立小学校校長・藤澤由紀夫、文部科学省教科調査官・浅見哲也
使用教材:「まいごのすず」(学研教育みらい)
目次
授業を展開するにあたり
「まいごのすず」は、「親切、思いやり」をねらいとした話です。主人公のゆうきと友達のまさやが、帰り道に持ち主が分からない鈴の付いた鍵を拾います。児童館の映画を見る予定だった主人公は、映画に行くか鍵を届けるかで葛藤しながらも相手のことを思いやり、鍵を学校に届けに行きます。主人公の姿から、相手を思い行動する強い気持ちを感じ取ることができます。
二年生の子供は、一年生の頃に比べ、相手の考えや気持ちに気付くことができるようになり、友達が困っているときに自分から声をかけたり、手伝いをしたりする行動が増えてきます。しかし、まだまだ目が向く範囲が狭く、相手の思いに気付くことができないため、親切にする相手が限定されたり、親切が自分勝手な押し付けになってしまったりする姿も見られます。また、相手が困っていると分かっていても、恥ずかしさや迷いから、行動に移せない子供もいるようです。
そこで、子供の視野を身近にいる人から少しずつ広げることを意識するとともに、相手の立場を想像する大切さを指導し、中学年の「相手のことを思いやり、進んで親切にしようとする」態度の育成につなげたいと考えました。展開においても見知らぬ誰かに親切にする難しさや親切にすることのよさについてじっくり考えられるようにしました。
展開の概略
1.「親切」クイズをする
「仲のよい友達が転んだとき」「同じ学校の一年生が重い荷物を持っているとき」「知らないおばあさんがハンカチを落としたとき」の三つの場面で親切にできるかを考え、現在の自分を見つめ、問題意識をもたせます。
2.課題を提示する
【学習課題】
「親切について考えよう」
3.教材(前半部分)を提示し、主人公の心情を基に話し合う
鍵を拾ったときのゆうきの気持ちに自己投影させます。自分だったら届けに行くかどうかをホワイトボードに書いて見せ合い、話し合うことで、学習を自分事として捉えさせます。
4.教材(後半部分)を提示し、主人公の心情を基に話し合う
教材にはない「鍵を届けた場面」を設定し、ゆうき(子供)と鍵の持ち主(教師)で役割演技をすることで、親切にするよさを感じ取らせます。
5.「親切」について考える
6.学んだことをふり返り、今日の学習で考えたことを書く(ワークシート)
7.教師の説話を聞く
▼ワークシート
▼役割演技のペープサート
▼教師の説話(ことわざの紹介)
ワークシートや資料のPDFはこちらよりダウンロードできます
道徳科ヒントとアイディア小二「まいごのすず」
実際の授業展開
主題名
あい手のことを考えて
教材名
まいごのすず
ねらい
鍵を届けるか迷っている主人公の気持ちと自分を重ねて考えることを通して、相手のことを考え、行動しようとする態度を育む。
内容項目
B 親切、思いやり
準備するもの
・親切クイズの場面絵 3枚
・挿絵 2枚
・ワークシート
・主人公と鍵の持ち主の女の子のペープサート
・ホワイトボード
ワークシートや資料のPDFはこちらよりダウンロードできます
道徳科ヒントとアイディア小二「まいごのすず」
指導の概略(板書計画例)
導入
①親切クイズで、授業のはじめに自分の考えをもつ。
- 相手によっては親切にできないこともある自分自身に気付き、問題意識をもてるようにする。
展開1
②自分だったら鍵を拾ったとき、どんなことを考えますか。
- 自分だったらどうするかをホワイトボードに書いて、意見を交流していく。
- なぜ行くのか、行かないのか、行動の理由を聞く。
- 行かないと答えた子供を否定するのではなく、この後、それでも鍵を届けたゆうきの心情について話し合うことで、考えを深めていく。
展開2
③鍵を届けたゆうきは、どんな気持ちでいるでしょう。
- 役割演技で鍵を届けた場面を設定し、相手のことを考えて親切にした心地よさに気付けるようにする。
- 演技する子供だけでなく、見ていた子供にも発言させ、考えを広げていくようにする。
展開3
④「親切」について考える。
- 落とし主の話を聞くことにより、親切にしたほう、されたほうのどちらも温かい気持ちになることを色で表し、板書をする。
- 相手のことを考える心が大切なことを子供の発言の中から引き出し、深めていく。
展開4
⑤今日の学習で親切について考えたことを書きましょう。
- 今までの自分をふり返りながらワークシートに記入するように、個に応じた指導をしていく。
終末
⑥ことわざ「なさけは人のためならず」の説話を聞く。
- 進んで親切にしていこうとする実践への意欲付けを図る。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
授業の導入で「親切クイズ」をして、授業前の親切に対する自分のあり方を見つめさせました。親切にする対象が「仲のよい友達」のときは全員の子供が「できる」と答え、「一年生」に対しては迷う子が数人、「知らないおばあさん」となると「迷う」「親切にできない」と答える子供が半数となりました。
これは人間の弱さであり、誰にでもあることと受け入れながらも「でも、相手によって親切にしたりしなかったりしていいのかな」と問題意識をもたせたうえで、「親切について考えよう」(課題)と投げかけました。
教材提示では、教材を前半部分(「ゆうきは、手のひらのかぎを見つめました。」まで)と後半部分(「やっぱり落としたのは…」から)に分けて提示しました。主人公の選んだ解決方法をすぐに示すのではなく、自分ならどう解決していくか、自分事として真剣に考えることで話合いを深めることができます。
展開前半では、自分なら「届けに行く・迷う・行かない」を一人ひとりがホワイトボードに書いて友達に見せ合い、その理由を話し合う活動を設定しました。自分から挙手をしない子供も意図的に指名するなど、多くの子供の考えを聞きましたが、ホワイトボードによって自分の考えを明確にしていたため、すべての子供たちが自分の考えを発言できました。この話合いで友達の意見を聞き、考えが変わっていく子供もいました。
展開後半で、教材には描かれてはいないのですが、鍵の落とし主に鍵を届けた場面を設定し、主人公役(子供)と落とした子役(教師)で役割演技をしました。鍵を届ける側と届けてもらった側の気持ちを多面的・多角的に考えることで親切に対する考えがより深まりました。
相手のことを思って行動できたときの心地よさを印象付けたかったので、親切にした側、された側の心の色を視覚化し、板書に残しました。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
インターネットが普及している世の中で、映画はこの機会を逃すと二度と観られないという設定は特殊です。教材提示の前に、主人公の条件・状況をしっかりと押さえることが必要です。子供が理解できていないと、届けに行くか行かないか葛藤する場面の話合いが深まりません。
また、ともすると、「他の誰かに任せればよい」「目立つ場所に鍵を置いておけばよい」など子供の発言が方法論に傾いてしまうこともあります。補助発問を準備しておき、自分の楽しみよりも相手のことを優先して、鍵を届けに行った主人公の強い思いを掘り下げることが大切です。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
人には親切にしたほうがよいということは分かるので、特に低学年の子供たちは道徳科の授業でよいことを言おうとする傾向があります。もちろん純粋にそのように思っている子供もたくさんいることは確かなことです。しかし、実際の生活では、 状況が変わると親切にすることができなくなるものです。
そこで田中先生は、授業の導入で、知らない人だったらどうかと聞いてみたり、教材の前半部分だけを提示して、楽しみにしていることが前にぶら下がっているときに親切にできるかどうかを考えてみたりするなど、問題を自分事としてしっかりと受け止めて考えられるように工夫しています。
また、教材には描かれていない鍵を拾って届けた場面を役割演技で表現することにより、親切にしたときの気持ちばかりでなく、されたときの気持ちも体得することで、改めて子供たちは、親切にすることのよさを実感できたのではないかと思います。
イラスト/どいまき
『教育技術 小一小二』2021年2月号より