小3道徳「みんなの学級会」指導アイデア

使用教材:みんなの学級会(学研教育みらい)

執筆/鹿児島県公立小学校教頭・坂下泰洋
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也

授業を展開するにあたり

平成三十年度から全面実施となった「特別の教科 道徳」においては、いじめの問題への対応の充実や問題解決的な学習を取り入れる重要性が指摘されるとともに、「考える道徳」「議論する道徳」へと質的転換を図ることが求められています。

そのためには、道徳的価値の理解を基に、自分との関わりで道徳的価値を捉えさせる指導の工夫が大切であると考えます。そこで、今回は、「自己への問いかけの視点」と、それを基にした「6視点共有ボード」及び「自分ふり返りカード」を活用した実践に取り組んでみました。

まず、「自己への問いかけの視点」の設定についてです。内容項目「相互理解、寛容」において、児童が道徳的価値について理解し、自分事として道徳的価値を捉えさせるために、「人を『許す』『許さない』を判断する際の根拠となる視点」を後掲の表①のように設定しました。

このような視点を設定することで、児童が道徳的価値について多面的・多角的に考えられるようにするとともに、主体的な対話を促すことができるのではないかと考えました。

▼表① 自己への問いかけの視点について

表① 自己への問いかけの視点について

この6視点は、内容項目のBの視点における、自己を相手との関わりにおいて捉え、望ましい人間関係の構築を図ることを考える際の根拠にもなるのではないかと考え、「望ましい人間関係を築く際の根拠となる視点」としても設定しました。
また、児童が道徳的価値について理解し、自分事として道徳的価値を捉えられるようにするために、教師が6視点を基にした発問を工夫することで、「相互理解、寛容」という内容項目に含まれる道徳的価値に対する見方や考え方を広げられるとともに、これまでの生活経験を重ねながら対話を行うことができると考えました。

表① 自己への問いかけの視点について

次に、「6視点共有ボード」についてです。このボードは、道徳的価値を追究する際に、6視点を基に考えの根拠を表出し、それを児童相互、児童と教師で共有しながら主体的に対話を行うために用います。また、このボードは、主に学習指導過程の展開前半において使用します。

図①のように、児童が、教材の主人公や登場人物などの心の弱さを追究する場面では青の付箋紙を貼り、道徳的価値を追究する場面ではピンクの付箋紙を貼ります。これによって、児童自身が「6視点共有ボード」に比較、分類、整理しながら主体的に対話を行い、教師も児童の考えを見とることができると考えました。

▼図① 「6視点共有ボード」

図① 「6視点共有ボード」
心の弱さを追究する場面では、青色の付箋紙を貼り、道徳的価値を追究する場面では、ピンクの付箋紙を貼ります。

そして、「自分ふり返りカード」についてです。児童に、道徳的価値の理解を基に、自分との関わりで道徳的価値を捉えられるようにするために、「ふり返る過程」でこのカードを活用し、自己の変容を実感させたいと考えました。

▼自分ふり返りカード

自分ふり返りカード

「自分ふり返りカード」は、次のような観点で取り組みます。
①学習内容の理解
②③視点を使っての思考
④他者との学び合い

また、自由記述の欄では、3観点で自己をふり返ります。

資料のPDFはこちらよりダウンロードできます

展開の概略

  1. 今まで言い争いになったことはないか、想起して話し合う。
  2. めあてを立てる。
  3. 何が問題なのかを話し合う。
  4. どうすれば解決できるのかについて話し合う。
  5. 学習を通して学んだことを基に、自己の生き方について考える。
  6. 広い心で過ごすことの大切さについて、教師の説話を聞く。

実際の授業展開

教材名
みんなの学級会

ねらい
「許す」「許さない」について考える活動を通して、自分の言動をふり返りながら相手の思いや考えを理解する大切さに気付くとともに、自分と異なる意見を大切にしようとする心情を育てる。

内容項目
B 相互理解、寛容

指導の概略(板書計画例)

指導の概略(板書計画例)

展開1(板書①)

6視点を基に生活経験を話し合い、ねらいとする道徳的価値に関する関心や学習意欲を高める。

今まで、どんなときに言い争いになりましたか。

嘘や言いわけをしたとき(視点2「失敗の有無」)。

相手の考えが分からなかったとき(視点5「行為の背景」)。

でも、みんなにもこのような経験はありますね。では、お互いに失敗があったとき。どうすれば許し合えるのでしょうか。一緒に考えていきましょう。

展開2(板書②③)

6視点を基に、児童がゆみやけいすけの言動の問題点や解決方法について、自己を見つめたり、物事を多面的・多角的に考えたりするための発問を設定し、児童の多様な考えを引き出す。

6視点を基にした心の弱さを追究する主な発問
二人は、何に腹を立てているのでしょうか。

  • 心の弱さを追究する場面では、「6視点共有ボード」に青色の付箋紙を貼り、グループの児童の考えを可視化する。

展開3(板書③④)

表①(視点6「理由の正しさ」)から中心発問を設定
二人は、これからどうすれば、お互いを許すことができるのでしょうか。自分には、悪いところはなかったかという点についても考えてみましょう。

  • 道徳的価値を追究する場面では、「6視点共有ボード」にピンクの付箋紙を貼り、グループの考えを可視化する。

展開4(板書④)

今まで話し合ったことから、どうすればお互いの失敗を許し合うことができると考えられますか。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

今回は、ゆみとけいすけの言動の問題点からどうすれば二人は許し合えるのかを考えさせる授業を展開したかったので、「6視点共有ボード」を活用しながら児童の考えの根拠を明確にさせ、人間のもつ心の弱さと道徳的価値を追究しました。

展開前半では、「二人は、何に腹を立てているのでしょうか」と発問することで、お互いの言い方(視点2)や自分の意見だけを通そうとする(視点2)という互いの失敗だけを責め合うという問題点に気付くことができました。また、ともきさんやみんなの思いはどうなのかという行為の背景(視点5)が、問題点を解決するヒントになることに気付けるようにしました。

展開後半では、「二人は、どうすれば許し合えるのでしょうか」と発問することで、「お互いの考えのよいところを認め合う」(視点6)という考えを基に、「お別れ会の前半はサッカーをし、後半は出しものをしてともきさんを喜ばせる」(視点6)という具体的な折り合いの付け方を表出する児童の姿が見られました。

さらに、「今まで話し合ったことから、どうすればお互いの失敗を許し合うことができますか」と発問することで、「6視点共有ボード」を基にした対話活動から「お互いの考えのよいところを生かしながら話し合えば許し合えるし、新しい考えも生まれる」と自己への問いかけを深めることができました。

授業をするうえでの注意点・ポイント解説

道徳的価値の理解を基に、自分との関わりで道徳的価値を捉えさせるためには、児童が自己の変容を実感することが大切です。そこで、「ふり返る過程」では、「自分ふり返りカード」を活用し、児童が、次のような観点でふり返る活動に取り組みます。

  1. 学習内容の理解について
  2. 視点を使っての思考について
  3. 他者との学び合いについて

このような自己評価と自由記述を行うことによって、児童自身が、行為や考えの傾向を知ることができ、自己の変容を実感することができるのではないかと考えました。

一方、教師は、このカードによって、児童の道徳的価値や望ましい人間関係についての考えがどのように変容したのかを見とることができるとともに、指導と評価の一体化を図ることができるのではないかと考えます。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

道徳科の授業では、道徳性を養うための学習として、一つの見方ではなく、多面的・多角的に考えて、道徳的価値の意義をしっかりと理解することが求められています。

特に、自己中心的な考えになりがちな中学年という発達の段階において、自分だけでなく、他者の立場やそのときの状況に目を向けて考えることはとても重要なことであり、坂下先生は、道徳科の授業でそのような見方や考え方ができるような仕組みを6つの視点でつくっています。

「どうすれば…」という授業のめあては、ややもすると解決の具体的な方法や行為を求めがちになりますが、道徳科の授業でそれを考えてはいけないということではありません。具体的な行為に伴う根拠を確かめたり、そのときの気持ちを考えたりして、また、内面的資質である道徳性に向かっていくことができるのです。

改めて、他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養うという目標に気付くことができる授業です。

『教育技術 小三小四』2020年12月号より

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