いじめと戦う!プロの対応術の一覧

東京都町田市や北海道旭川市で起きた痛ましい事件のように、時として子供たちの命を奪う「いじめ」。日々の確かな学級経営によって予防すべきですが、それでも起きてしまった場合、一刻も早く事実確認をし、適切に対応、解決しなければなりません。具体的でリアルなプロの対応術を解説する話題沸騰の連載マンガ、第2話を公開。主人公たちは、いよいよ加害者への指導を開始します。

第1話はこちらから

目の前に突きつけられたいじめの現場。どうする、まどか!?
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監修・千葉孝司先生によるポイント解説 #2

  • どうなったら「いじめが解決した」と言えるのか

目の前のいじめがなくなったからと言って、いじめが解決したことにはなりません。被害者が自分に対する自信を失い、集団に対する不安を抱えたままでは、「またやられるんじゃないか」「どうせ自分が悪いんだ」「誰も信用できない」と、いじめられているときと変わらない心理状況が続いているのです。被害者の自尊心を回復させ、安心できる居場所をつくることが解決のゴールになります。

では、加害者についてはどうでしょうか。加害者にとっては、「攻撃性をコントロールできるようになる」ことがゴールです。人を攻撃することで得られる「あいつよりマシだ」といった偽りの自尊心ではなく、「いじめなんてしたくない」という本当の自尊心を持てるようにすることがポイントです。

誰かをいじめることで得ていた「ストレスを解消できた」という思いや、「他人を自分の思い通りにしたい」といった気持ちを捨て、「自分の話を聞いてくれる人がいる。自分に自信がもてる」と、ポジティブに感じられることが、加害者にとってのゴールです。

  • 違いを認め合う集団に

担任している学級の子供たちに対する温かい関わりは足りているでしょうか。自分自身が満たされていれば、人は他人に寛容になれます。

そもそも子供たちは「違い」に敏感です。その他大勢と違っている子の違う部分を攻撃してしまうこともよくあります。「みんなと違った人」がいるのではなく「みんながそれぞれに違っている」、そして違っているそんな自分もみんなに受け入れられている――。学級の中に、そんな感覚を醸成することが大切です。

「変わっている」ことを善いことだと捉え直すために、私は子供たちの前で、次のような語りをよくします。

「寝食を忘れて一つに没頭できる人って、他のことが気にならないから、周りからは変わった人に見えるものだよ。そしてじつは、世の中で凄い発明をしたり、大きな変化をもたらしたりする人って、そういう変わった人ばかりなんだよね。

どんな人にも子供時代があるから、将来大きな仕事を成し遂げる変わった人も、普通に教室に一緒にいたりする。その人をもし、「変わっているから」という理由でみんなでよってたかっていじめたら、その人はどうなってしまうだろう。

最悪、自ら命を絶ったり、自信がもてなくなって、何もできなくなるかもしれない。もし将来難病を治す画期的な新薬を開発する人が、子供時代にいじめで力を発揮できなくなったら、人類みんなの損失だよね。すごく変わった人は、将来あなたが大人になってかかる病気の特効薬を開発する人かもしれない。その人をあなたが攻撃したら、あなたの病気も治らないかもしれない――。だから「変わっている」からと言って人を攻撃しても、何も良いことはないんだよ」

執筆/千葉孝司(北海道公立中学校教諭)

時として子供たちの命を奪ってしまう「いじめ」。日々の学級経営によって予防すべきですが、それでも起きてしまった場合、一刻も早く事実確認をし、適切に対応、解決しなければなりません。そこには、プロとしての具体的でリアルな対応術が求められます。

いじめ対応実践の第一人者、千葉孝司先生(北海道公立中学校)の監修のもと、『江戸城再建』等の作品があるビッグコミック連載作家・黒川清作先生が描き下ろした新連載をお届けします。第1話は特別に、計41ページを一挙に公開!

予想を超えるスピードで加速するいじめ。どうする?続きは2話で。

怒濤の急展開と大きな感動が待ち受けるこの物語の続きは、絶賛発売中の単行本「いじめと戦う!プロの対応術」(←書名をクリックすると販売サイトに移行します)に収録されています。ご購読ください。


監修・千葉孝司先生によるポイント解説 #1

いじめ指導の基本的な流れは、事実の確認 → 加害者への指導 → 被害者への謝罪 → 傍観者への指導  です。

  • 事実の確認

最初にするのは事実の確認です。

事実には客観的事実と心理的事実の2種類があります。

客観的事実とは、誰の目から見ても一致する事実や行為ですが、子供たちの心理的事実を無視してそこに到達することも難しいものです。

「遊んでいただけです」と言う加害者に対し「それはいじめだろう」と言っても平行線をたどることがあります。まずは否定せず行為の際にどんな気持ちであったかを聞き出した上で、改めて振り返らせると、「悪かった」「やりすぎだと思います」という言葉を口にします。

Aさんが「ちらっと見た」(客観的事実)ことを「にらまれた」(心理的事実)と捉えている被害者もいます。まずはどう感じているのかという心理的事実を語らせたうえで、客観的事実に迫っていきます。

被害者からのヒアリング中には、先週されたことを聴いているのに、もっとさかのぼった過去の出来事が混在してしまうことがあります。被害意識が強い場合もありますが、そこに過去の経験が影響を与えていることもあります。被害者の心理的事実を受け止めることは、心のケアそのものにもなっていきます。

被害者と加害者の心理的事実同士をぶつけ合っても、全体像がぼやけてしまい、指導が中途半端になります。「わざとぶつかった」という心理的事実を引き出したとしたら、そこにとどまらず、「ちらっと目があってからぶつかった」というような、「誰が見ても一致する客観的事実」に到達し、置き換えておく必要があります。

  • 加害者への指導

先の見通しを持つのが苦手、人の気持ちを想像し理解するのが苦手、つい衝動的に動いてしまい考えてから行動するのが苦手……。加害者の中にはそういった特性を持つ子も多いものです。自分の行為で相手や周囲がどんな気持ちになるか、その行為が続いていくと最悪どんなことが待っているのか、一緒に考えていく必要があります。

いじめはされた側よりもした側にとって「黒歴史」となるのだ、ということも伝えます。「あ、これはまずい」と納得させたうえで、自分の行為の悪い点、どうすればしなくてすむのか、そのために必要な考えや行為、これから相手にどうしたらよいかなどを考えさせます。

そして二度とその行為をしないことを約束させます。するとそれ以降、「先生との約束をきちんと守っているね」というポジティブな声かけが出来るようになります。

  • ③被害者への謝罪

加害者に「先生に言われたから仕方なく謝っているだけだ」と思わせてはいけません。謝罪内容を一緒に考え、実際に言わせてみることが大切です。そしてその言葉を聞いた相手がどう思うかを想像させます。加害者が「謝ってもらったけど不安だと思う」と言った場合は、不安を取り除く態度や方法についても考えさせます。

〈謝罪の言葉の例〉

「自分が人の気持ちをきちんと考えなかったせいで、すごく嫌な思いをさせてしまいました。今はとても悪いことをしたと反省しています。これから二度と同じことをしないことを約束します。どうもすみませんでした」

  • ④傍観者への指導

いじめの場面をただ傍観していたことがいかに悪いことであるかを伝え、そうした場面を目撃した際の具体的な行動の方法と、教師の決意を伝えます。

以下は、傍観していた学級の子どもたちに対して教師がどう話すかの一例です。

例えば幼児がよちよち歩きをしながら崖へと向かっていたら、どんな悪人でも駆け寄って止めるはずです。『自分は突き落としてはいない、見ていただけだ』と言っても、そうした場面で何もしないことは許されることではありません。いじめはする側もされた側も見ている側も、全ての人を傷つけます。

クラスでつらい思いをしている人がいたら、先生に伝えてください。直接言うのが難しければ、「〇〇さんが嫌な思いをしています」という紙を先生の下駄箱に入れてください。

先生はあなたたち一人ひとりを大切にしたいと思っています。でも全てを見ているわけではありません。どうか協力してください。必ず一人ひとりを守ります」
               

執筆/千葉孝司(北海道公立中学校教諭)

「いじめ対応の本質と、解決のための具体的手順がよくわかる」と、学校の先生方、そして子育て中のお母さんたちの間で好評の『マンガで解説 いじめと戦う! プロの対応術』。待望の第3話を公開しました! 今回のテーマは「いじめを否認する加害者への指導」。 経験の浅い若手男性教員が、手強い「女子いじめグループのリーダー」と対決。物語は波乱の展開を迎えます。

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意地悪女子グループの優雅なおしゃべりタイム…。
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   茨木不在の職員室に垂れ込める暗雲…。次回、強烈な彩香ママ襲来!

怒濤の急展開と大きな感動が待ち受けるこの物語の続きは、絶賛発売中の単行本「いじめと戦う!プロの対応術」(←書名をクリックすると販売サイトに移行します)に収録します。どうぞご期待ください!

監修・千葉孝司先生によるポイント解説 #3

  • 保護者と協力しあうために

保護者の中には、わが子と自分自身との心理的距離が極めて近い人もいます。わが子が先生に叱られると、まるで自分が叱られたかのように感じ、強く抗議してくるタイプの人です。加害者の子供の保護者がそういうタイプだった場合、

「わが子もいじめられていたことがある」

「わが子がそうするには、それだけの理由がある」

「わが子だけでなく、他の子もやっている」

といった主張をし、子供への指導が困難になることがあります。被害者の子供の保護者がこのタイプの場合は、不利益を被ったことに対して、「どうしてくれるんだ」と学校を責め立てる場合もあります。

十分な準備をせずに双方の保護者を会わせてしまうと収拾がつかなくなってしまうことは想像に難くありません。ヒートアップしている保護者の心の根底にあるものは不安です。それぞれが感じている不安は何で、どんなことに困っているのだろう、と、保護者の心情を理解しようとする姿勢が何よりも大切です。

保護者と学校が対立する構図になりやすいのは、解決の主体を互いに押し付けようとするからです。「家でもしっかり指導してください」と伝えるのではなく、学校で起こったことは学校の責任で指導します。そして保護者に対しては、「足りない部分を協力してもらえないでしょうか。なぜなら、あなたのお子さんが大切だからです」というスタンスで接します。そういうスタンスは対立を生みにくくします。いじめという罪を子供だけに背負わせるのではなく、保護者に押し付けるのでもなく、学校が一緒に背負っていきます、という姿勢が必要です。

執筆/千葉孝司(北海道公立中学校教諭)

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旭川市や町田市の悲劇を繰り返さないために、教育現場は何をすべきなのでしょうか?一人でも多くの子供の命を救いたいという思いでお届けしている連載マンガ『いじめと戦う!プロの対応術』。緊迫の第4話を公開しました! 今回のテーマは「いじめを認めない加害者の保護者への対応」。「女子いじめグループのリーダー」彩香の母が、いよいよ学校へやってきます。主人公たちはどう対応するのでしょうか?

 どんよりとした夜の職員室に、頼もしい後ろ姿が!
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全力を尽くしても届かないときもある…。激動&感動の最終話は、来春刊行の単行本をお楽しみに!

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怒濤の急展開と大きな感動が待ち受ける最終第5話は、発売中の単行本「いじめと戦う!プロの対応術」でお読みください。

監修・千葉孝司先生によるポイント解説 #4

  • いじめられた子供の心を守るということ

「やられたらやり返せ」

いじめにあった際に、そう子供に伝える保護者は少なくありません。「やられたらやり返せ」だけではなく「自分にも悪いところがあるんじゃないか」「休んだら負けだ」といった言葉を口にする場合もあるかもしれません。しかし、これらの言葉は、まるでスポーツの勝負で負けた子供を励ましているかのようです。

いじめはスポーツでフェアな勝負をしているのとはわけが違います。一方的な嫌がらせ、精神的な暴力です。その暴力は被害者に甚大なダメージを与えます。

地震や火災の際には、まずは命を守ることを最優先します。「逃げずに自分で消火しろ」とはなりません。同じように、いじめにあった際に避難するのは当然です。避難して心を安定させ、傷ついた心を回復させていく必要があります。

「やられたらやり返せ」→「やり返せない自分が悪いんだ」

「自分にも悪いところがあるんじゃないか」→「いじめられた責任は自分にあるんだ」

「休んだら負けだ」→「どうせ自分はダメなやつなんだ」

これらの言葉は、いじめによって下がった自己肯定感をさらに下げていくことがわかります。いじめられた子供の心を守るということは、「自分には価値がある」という感覚を取り戻させることを意味します。

  • いじめられた子供の心の内

いじめが原因で不登校になった子供の心の内はどのようなものでしょうか。

自己嫌悪や自責の念、孤独感、無力感、周囲への失望、加害者への怒り、先に対する不安・・・。

こういったものが渦巻いているのではないでしょうか。

マンガ(4話)の中で渡辺先生は「――桑原さんは1ミリも悪くない!だから、先生と一緒に戦ってくれないか?」と熱く語っています。

「桑原さんは1ミリも悪くない」というセリフは、その通りでしょう。しかし「一緒に戦ってくれないか?」という言葉はどうでしょうか。あまりにも早いタイミングです。まるで病気で寝込んでいる人に対して「外に出て体を鍛えよう」と言っているようなものです。

いじめは被害者が悪いわけではないのに、「自分が悪い」という感覚をもたらします。脳裏をめぐる嫌な記憶は、自分が悪いんだという結論に向かいやすいものです。

そして次のような考えがグルグルと回ってしまうこともあります。

自分が悪い→自分には価値がない→自分には現状を変えられない→どうせまた同じことが起こる→自分が悪い

こんな状態の子供には温かい言葉が必要です。

「あなたが悪いわけではないんだよ」

「気がつかなくて悪かったね」

「あなたの力になりたいと考えているよ」

「止めてくれない周囲にもがっかりしたね。でもあなたのことを心配してくれた人もたくさんいたよ」

「加害者に対しては先生も腹を立てていて許せない気持ちだよ」

「これから先はこんなことが起こらないように、しっかり指導もするし、見守っていくからね」

こういった言葉をかけられても、いじめによって増大した人間に対する不信感がすぐに無くなるわけではありません。つらかった気持ちに寄り添いながら、本人が口にするのを嫌がらないのであれば、「今までどんな気持ちだったの?」とつらい思いを吐き出させる必要があります。

また、夜は眠れているのか、1日の中でどれくらい嫌な出来事を思い出しているのか、などを聞くことも心理状態を知る上では大切です。

渡辺先生は桑原さんの思いを少しも聞こうとせずに、自分の思いを押し付けています。これでは心の安定は回復しません。自分のことをわかってくれている人がいると思えるからこそ、被害者の心は安定し、登校することができます。そうでなければ学校に足は向きません。学校の先生は、伝えるスキルを優先させて、キャッチするスキルを磨く機会が少なくなりがちです。

マンガのラストシーンに「――俺の言葉は…心は…」「届かなかった……」という独白がありますが、渡辺先生がやるべきことは桑原さんの言葉に耳を傾け、心を受け止めることです。

  • いじめで不登校になった子へのアプローチ、3つのステップ

いじめで不登校になった場合とそうでない場合の不登校とでは何が違うのでしょう。

キーワードは他者との関係性です。

「人の視線が気になる」「人が自分をどう思っているかが気になる」という不登校の子供は多くいます。教師が「あなたのことを悪く思っている人なんていないよ」と思うような子供であっても、本人はそう感じてしまいます。これは他人ではなく自分で自分を否定しているわけです。自分で自分を否定しているからこそ、他人から否定されているように感じてしまいます。否定を怖れる気持ちが視線を怖れるという感情につながっていきます。そこでまずは自分で自分自身を肯定できるようにすることが対応の基本になります。

しかし、いじめの場合、周囲の視線や言動が気になるというのは、実際の過去の体験に由来しています。そして二度と同じ思いをしないように自分を守るために、そのことを忘れないよう強くインプットしています。そんな子供が自分自身を肯定するためには、他の子供が自分のことを悪く思っていない、攻撃をしないということを確信できる必要があります。また加害者が指導にどこまで納得しているのかなど、複数の要素がからみ、対応はより困難になります。きめ細かに順序立てた対応が必要になります。

  • ステップ1 安定させる

いじめ被害者の苦しみは、学校から離れていても続いています。「いつまでも気にするな」といった対応では不安は募るばかりです。「嫌な気持ちになったり不安になったりするのは当然だよ」と共感し、「今は心を休めていいんだよ」と伝えます。

被害者の中には「自分が悪いから被害にあった」と考える子も少なくありません。もし自分自身に非があるのなら、自分が自分である限り、またいじめられる可能性があるということになります。

「あなたが悪いんじゃなくて、どんな理由をつけてもやった側が100%悪いんだよ」ということを伝えます。たとえば「万引き犯は、こんな盗みやすいレイアウトにしている店が悪いって言うんだけど、どう思う?」と聞けば、「それは店じゃなくて盗んだ側が悪い」と答えます。「いじめもそれと同じなんだよ。いじめの多くも犯罪にあたるからね」といえば納得します。

中には自分を責めるよりも加害者側を強く責める子供もいます。

「なんであんな幼稚なことをしたのか」

「やられた側の気持ちがわからないのか」

そう口にするのは、いじめられた際に、何も言えなかった悔しさが残っているからかもしれません。その場合は「あのとき、本当はなんて言ってやりたかったの?」「そうするとどんな態度をとられたと思う?」「結果的に言わなくてよかったのかもね」「今なら分かるかもしれないから、何をどうやって伝えようか」と行動を支持し、過去ではなく先に気持ちを向けてあげることも効果的です。

いじめが原因で休んでいる際に、いじめのことを思い出して不安定になることもありますが、さらに、保護者に休んでいることを受け入れてもらえなくて苦しみが増す場合もあります。「いつまでも気にするな」といった対応を保護者がしてしまうこともあります。保護者も不安です。このまま学校に行けなくなったらどうしよう、勉強が遅れたらどうしよう。そんな不安は怒りとなって子供に向かってしまいます。子供の気持ちは保護者の気持ちと連動します。保護者の不安や気持ちを学校側が受け止めていくことも大切なことです。

  • ステップ2 どうするかを一緒に考える

いじめの被害者は、教師が加害者を指導しようとすることには消極的なものです。人はつらい状況に置かれると解決を願う反面、解決を図ろうとして悪化するくらいなら我慢した方がましと考えるからです。いじめられた子供は、勝手に何かをされることに不安を覚えます。ですから、「これからどうしていくかを一緒に考えていこう」という担任の姿勢は安心感を与えます。特に加害者からの謝罪の場面はストレスフルな場面であり、設定の際には細心の注意が必要です。

「いつまでも気にしないで、謝ってきたら許してあげて仲直りしなさい」

もし、謝罪の場面で、こんな言葉を担任からかけられたら、子供はどんな気持ちになるでしょう。

「それは正しいことではありませんか?」と頭に浮かんだ人はいるでしょうか。ではあなた自身が今まで出会った人の中で、どうしても許せないという人を思い浮かべてみてください。

もしも第三者に「いつまでも気にしないで、謝ってきたら許してあげて。仲良くつきあってください」と言われたらどんな気持ちになりますか?

何もわかっていないのに、そんなきれいごとを言わないでほしい。

どれほど苦しい思いをしたか、わかっているのか。

そんな思いになるのではありませんか。ひょっとすると大人と子供は違うという人もいるかもしれません。でも許せない気持ちに大人も子供もないのです。

謝罪を受けるか、受けないか。許すか、許さないか。

いじめ加害者と仲良くするか、距離をおきたいか。

今後どうするかについては被害者の気持ちを尊重することが大切です。「どうする?」と聞かれても「わからない」と答える場合も多くあります。そのときは、選択肢ごとにどうなるかを想像させて一緒に考えていきます。

担任はすぐに加害者に謝らせて解決しようとしがちです。しかし本人の中で許せる気持ちがあるのかどうか、謝罪のタイミングは今なのかどうかという確認が必要です。

提案はしても選択するのは被害者です。「顔も見たくない」と加害者の謝罪を拒否する場合は無理強いせずに、加害者に謝罪の手紙を書かせ、本人が読んでもいいと言うタイミングで渡す方法もあります。

実際には、「もうしないなら許す」「謝ってくれたら、もういい」という子も多くいます。その際には「今はそう思えるんだね。そう考えたのはどうして?」と心底そう思えているのか、不安はないのかなど、思いを聞き出すことも必要です。自分の気持ちに正直にならずに、そうすることがいいからだと思っている場合もあるからです。

また、謝罪をされて許したという流れになっても、それで心の痛みや苦しみがゼロになるわけではありません。安直に解決したと思わないことが求められます。一度許したと言っても、やっぱり許せないと口にすることもあります。それは本心であり、そう思うだけの理由もあるのです。

いじめが原因で生じた様々な思いを吐き出し、心が落ち着いてきたら、まずは別室で過ごし、そこで仲の良い友人と触れ合う時間をつくるという手もあります。もちろんそれを必要とせず教室に入れる場合もあります。

学校に来られる場合は、嫌なことがあったら、こっそり先生に教えるサインを決めておくなど、安心して過ごせる手立てを考えておきましょう。

  • ステップ3 自尊心を回復させる

いじめは人間としての尊厳を否定する行為です。その行為にも様々な種類があります。

マンガの中で桑原さんは2種類のいじめを受けています。一つは「ばい菌扱いされること」で、もう一つは「無視されること」です。

男子児童は桑原さんの机にふれたとき「桑原菌」がついたとはやしたてました。この行為は人を人として扱わずに、ばい菌扱いしています。これはやっている側も悪いことをしているという自覚があるので指導もしやすいでしょう。では、無視はどうでしょうか。ばい菌扱いにくらべると、やっている側の罪悪感は薄いのかもしれません。無視という行為は、そこに居ないように扱う、つまり空気のように扱うということです。指導の際には、「無視は人を人でないように扱っている。その意味ではばい菌扱いするようないじめと本質的に差はないんだ」と伝えると納得しやすいことでしょう。

いじめは人としての自尊心を損なう行為です。人として大切に扱われない、価値のないものとして扱われてしまう行為です。結果として被害者は自分でも自分自身に価値が無いように感じます。そのようにして傷ついた心は、集団に入ったときに、周囲から価値のないものとして見られることに耐えられないのです。そうなると周囲から100%自分自身を受け入れてほしいと感じます。そうなれば安心できるからです。しかし実際には、他人の気持ちは自由になりません。それを求めるかぎり教室に復帰することが難しくなります。

大切なことは自分と他者との境界をはっきりさせることです。

具体的に言うと、人がどう思うかは、その人自身が決めることであり、その人の勝手であるということです。他の人がどう思うかはコントロールできないのです。

どう思われるか心配だ、こう思われたら嫌だ、と悩んでいるかぎり、その問題は解決できません。

「人がどう思うかは、その人の自由であり、人がどう思ったとしても自分は自分だ」という感覚が、まさしく自尊心そのものだと言えるのかもしれません。

他人からどう思われるか不安だという感情は、否定せずしっかりと受け止めながら、考え方のバリエーションを増やす必要があります。たとえば、「私は他の人にどう思われようと気にしません。なぜなら~」と、なぜならに続く考えをいくつも一緒に考えるというのも手です。 

いじめを受けることは自分を否定することになり、「またされるのではないか」と、未来にも暗い影を落としていきます。そこで「次にまた同じことに出会っても大丈夫です。なぜなら~」を一緒に考えるのも将来の不安を解消するのに有効です。

そして何より「自分のために先生は時間をつかってくれる」という事実が、自分自身に価値があるのだという思考につながるのです。

さて、いじめが原因で不登校になってしまった桑原さん。はたして茨木先生は、どんな言葉で彼女の自尊心を回復させ、未来に向かわせようとするのでしょうか。

執筆/千葉孝司(北海道公立中学校教諭)

  • 怒濤の急展開と大きな感動が待ち受ける最終第5話は、1~4話とともに、絶賛発売中の単行本に収録されています。どうぞご期待ください!

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