第58回 2022年度 「実践! わたしの教育記録」審査員選評

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第58回  2022年度 「実践! わたしの教育記録」審査員選評


第58回「実践! わたしの教育記録」入選者が発表されました。4人の審査員の方々から、入選作品についての選評を伺いました。

これからの教育界をアップデートさせる可能性を感じる取り組みの数々に感銘を受けた

赤坂真二教授

上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二さん

まず、特選の北島幸三氏の実践であるが、PTA役員からの提案を生徒との思い出を創るだけでなく、教育の機会にしようとした氏の着想に敬意を表したい。保護者の思いに賛同する形で活動を立ち上げ、生徒を巻きこみ、学校、地域を巻きこんでいったプロセスが無駄なく端的に記録されていてドラマを見ているようだった。生徒の主体性を引き出しながら、生徒や保護者の協働を組織していく一連の流れは、魅力的な学校づくりのヒントが満載だった。

特別賞の久冨哲朗氏の記録は、「発信・共有」をベースとした社会科授業の改善という問いがシャープで、協働学習、個別進度学習、そしてICTの活用というバラエティー豊かな取り組みが、ばらけることなく一貫性をもって子どもの変容を伝えていた。

入選の授業・学級づくり部門の一編、水流卓哉氏は、現在の学級活動における話合い活動の問題点を鋭く突き、それを改善するための手立て、また、話合い活動のプロセスにおいて明記することが避けられがちなルール面も正面から取り上げ、再現性の高い実践報告となっていた。同部門入賞の友田真氏の実践は、今注目されるUDL実践の具体的な記録として価値がある。可能な限り無駄な情報を省いて、授業で起こった事実を忠実に述べたことでより説得力を感じた。

入選の授業・学校づくり部門の宮森正人氏の実践は、生徒の主体性を高めるためのしかけの一つひとつが素晴らしく、教師としての覚悟を感じさせるものだった。特に生徒の手によるクラス替えの実践は圧巻であった。同部門入選の窪田悠氏の実践は、現在の学校組織において足枷になっていると言われるPTA活動の在り方に斬り込んだ。近未来的であるようでいて、すぐに実現可能な取り組みとして希望を感じさせる実践であった。

新採・新人賞の中原修平氏の実践は、一まとまりの動きをつくるまでの即興表現の経験値を上げる、話合いによって動きを高め合うなど、打つ手の一つひとつがとても効果的。それをプログラミング的思考の枠組みでまとめたことが斬新だった。

優れた実践ばかりで、優劣を付けることがとても難しかった。これからの教育界をアップデートさせる可能性を感じさせる、新規性のある取り組みが多々あり、感銘を受けた。

新しい教育の担い手=新採・新人賞部門の読み応えのある実践記録の数々に頼もしさを感じた

岩瀬直樹

学校法人 軽井沢風越学園校長、軽井沢風越幼稚園園長・岩瀬直樹さん

コロナ禍も3年目となった。現場での状況はしんどさを増し、大人の働き方にも、子どもたちの育ちにも大きな影響が見えてきている。このような状況の中、情熱的な実践記録をたくさん読ませていただき、このような現場での子どもたちとの試行錯誤が学校教育を支えているのだと熱い気持ちになった。

特選の北島幸三さん。生徒はもちろん、北島さん自身の生徒への熱い想いが伝わってくる記録である。コロナ禍の制限のマイナスにフォーカスするのではなく、その中で培われた強みに焦点を当てた実践。「何をするか」の前提として「何のためにやるか」という目的を深掘りしているところに、プロジェクトベースとしての価値がある。生徒の幸せそうな顔が浮かんだ。つくづく学校とは「幸せな子ども時代」を過ごす場なのだ。

特別賞の久冨哲朗さん。バズワード化している自由進度学習であるが、教材研究と綿密な授業デザインが支えることを実践で示した好例である。評価の透明性も提案性が高い。この学びを経験した学習者の声・成長など個の変容まで記録されると、さらに実践記録としての価値が高まるだろう。

入選の水流卓哉さん。丁寧にプロトコルを記述し、実践の具体が伝わってくる。先行実践を調査することでさらに豊かな実践になるだろう。友田真さん。UDLの視点を活かしつつ、一人ひとりの問いから出発する探究的な学び。教師の関わりについて熱く記述してほしかった。宮森正人さん。一つひとつの実践は興味深く、その価値が伝わってくる。総花的でTIPS集のようになってしまったので、具体の記述を読みたい。窪田悠さん。PTAの新しい形として興味深い内容。このような実践記録が増えていくと面白い。

新採・新人賞の中原修平さん。表現とプログラミング思考を掛け合わせたユニークな実践。個の変容を読みたかった。新採・新人賞部門は読み応えのある実践記録が多く、頼もしい限りであった。この世代が新しい教育をつくっていくのだろう。だからこそ謙虚にたくさん学び、たくさん実践記録を世に問うてほしい。

①対話・議論 ②誰かに何かを提案 ③みんなを巻き込む―3条件を満たした特選作品に感動

菊池省三

教育実践研究家・菊池省三さん

コロナ禍が長引く中で、「硬くて、遅くて、冷たい」過度な管理主義教育や悪しき一斉指導が、再び広がっているのではないかと危惧していたところがありました。しかし、本年度も気持ちのこもった論文にふれることができ、私自身元気をいただきました。子どもたちと向き合っている先生方の実践の事実に元気をいただきました。ありがとうございました。

特選に選出された北島幸三先生のご実践は、まさしく「コロナだからこそ挑戦できた!」生徒と一緒に取り組んだ価値ある記録です。私は、これから目指すアクティブな実践は、①誰かと対話・議論する経験、②誰かに何かを提案する経験、③みんなを巻き込んで活動する経験、この3つが必須だと考えています。私が考えるこの3条件に合致していた内容に感動しました。

特別賞を受賞された久冨哲朗先生のご実践も、「発信・共有」「創造」がキーワードにあるように、先に述べた3条件が満たされた価値ある実践だと思います。知識重視の授業からの脱却に、大きなヒントを与えてくれています。

授業・学級づくり部門で入選された水流卓哉先生の実践は、ビジネス界のアイデアを取り入れた話し合い指導改革の斬新なものでした。「教育界は毎年同じことの繰り返し。ビジネス界に教育改革のアイデアがある」という私自身の師匠の言葉を思い出しました。同入選の友田真先生の子どもたち自身がやる気になる実践も、今までの我々教師の考え方を変えてくれる視点を示されたものです。今後は、「学びマップ」が子どもの学ぶ意欲を狭めることなく、より高まるような内容に進化していく実践研究を期待したいです。

授業・学校づくり部門の2点の入選作品も創造的なものでした。窪田悠先生の新しいPTAの在り方は、全国の学校の参考にしてほしいと思います。PTA発行の広報誌一つとっても三位一体の取り組みの成果が伝わってきます。また、宮森正人先生の「自分取扱説明書」などの一連の取り組みは、自分の学校や教室に合ったアレンジを加えることで、取り入れ可能なものばかりです。提案されている取り組みが複合的に機能し始めると、主体的な人間が育つと思います。

新採・新人賞の中原修平先生の実践は、ICTを活用しつつ、丁寧に子どもを「みて」いることが分かる実践です。子ども同士の協働的な学びも大切にされていたことも理解できる実践です。

本年度も貴重な学びの機会をいただき感謝しています。本当にありがとうございました。

実践者の独自性と新たな学びへのチャレンジを感じる優れた作品群

木村泰子

大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子さん

応募いただいたすべてのみなさま、日々の激務の中で実践をまとめていただき、それを学ばせていただくことができましたことに心から感謝いたします。ありがとうございました。2022年度は、学級づくり・学校づくりの両部門においてそれぞれの独自性が見られるとともに、新たな学びへのチャレンジを多く感じました。

沖縄県の今帰仁村立今帰仁中学校の北島先生の実践は、「コロナだからこそ挑戦できた!」の言葉にすべてが表現されていました。「自分たちで社会を変えることができる」まさに、日本の最大の教育課題である当事者意識の向上に一石を投じる見事な実践記録です。「~だからこそ挑戦できる」と行動する生徒たちの未来が想像できました。

バルセロナからの久冨先生の実践は、「生みの苦しみと向き合う~競争ではなく創造の機会を~」のミッションのもと、すべての人が大切にされる社会の「創造」を目指して当事者意識を向上させるものでした。

愛知県の水流先生の実践は、目的と手段を明確に認識しながら「多数決」から「対話」へと、まさに民主主義の根幹を学ぶ今からの学校教育に不可欠な実践でした。

広島県の友田先生は自律的な学びを上位目標に、子どもを主語にした授業づくりへのチャレンジが意義深いものでした。

札幌市の宮森先生の実践は、子どもを主語にした学校づくりを目的に、従前の学校の当たり前を一つひとつ丁寧に問い直し、新たなシステムをつくっていかれた記録であり、今、全国の学校現場が他の何より優先して取り組む課題であると感服しました。

さいたま市の窪田先生は、教員の立場で新しいPTAの在り方に着目されたところがお見事です。大人が変われば子どもは変わることを実証されました。「大人から学校での学びの楽しさを」のミッションを取り上げ、学校の環境を豊かに生み出す大変意義深い実践でありました。

3年目の名古屋市の中原先生の実践は、学びの苦手な子どもが「初めて楽しく思えた」と言葉を発した事実から始まっています。この記録は先輩教員たちが学びの原点を振り返るかけがえのない実践記録です。

みなさん、本当にありがとうございました。実践の評価は目の前の子どもの事実です。来年度も学ばせてください。待っています。

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