夏休み明け指導のポイントと活動アイデア

特集
夏休みあけの学級経営リスタート特集

北海道公立小学校教諭

山田洋一

二学期成功の鍵は、夏休み明けの最初の指導にかかっていると言っても過言ではありません。子供たちが学校に来たくなるような学級づくりのために、二学期最初の指導のポイント、低学年の子供がワクワクする授業のアイデアを紹介します。

執筆/北海道公立小学校教諭・山田洋一

やまだよういち・1969年北海道札幌市生まれ。教育研修サークル「北の教育文化フェスティバル」代表。日本学級経営学会理事。著書は『子どもの笑顔を取り戻す!「むずかしい学級」リカバリーガイド』(明治図書出版)など多数。

夏休み明け指導のポイントと活動アイデア

「思い出してもらう」という姿勢で接する

夏休み明けの指導のポイントは、たった一つです。それは、「できていたことを、思い出してもらう」ということです。

これが、「一から理解させ、もう一度覚えさせ、できるようにする」にしてしまうと、教師は「必死になって指導しようとする」でしょう。そういう教師の姿勢は、そのまま子供たちに「居心地の悪さ」として伝わってしまいます。

一方、「思い出してもらう」は、いったん身に付けたものが、今一時的にできなくなっているだけであるという考え方でもあります。

この考え方は、「そのうち思い出せる」「必ず、またできるようになる」という教師のゆったりとした構えにつながり、休み明けの子供たちにとっての安心・安全な教室を具現化することにつながります。

朝の時間に楽しみをつくる

教室にはさまざまな子供たちがいます。その中には、この時期「なんとか学校にやってきた」という子供もいます。そんな子供たちがいることを考えれば、朝の時間の大切さは、強調しても強調しすぎることはありません。

そこで、登校に前向きになれない子供たちへの朝の時間のアプローチを考えてみましょう。特に、大きな仕掛けや準備が少なくて済む取り組みを中心に紹介します。

(1)少し早めに教室に入る

一番簡単にできる工夫は、教師が少し早く教室に入るということです。何をするかというと、朝の準備のサポートをしながら、子供たちと楽しくおしゃべりすることです。

そうは言っても、「楽しく」というのは、なかなか難しいことです。子供たちの話は、時々脈絡がなかったり、理解がしにくかったりします。その話を、「楽しく聞く」ためのコツが三つあります。

一つ目は、子供の話を確認しながら聞くということです。子供が「昨日ね、大きな虫がいたんだよ」と言えば、教師は「そうなんだ。大きな虫がいたのね」と応じます。「すごく怖くて……」と言えば、「そう怖かったんだね」と応じます。

子供の話を確認しながら聞く教師

二つ目は、促しながら聞くということです。子供が何かを話したら、「それで、それで?」「それからどうしたの?」と、話の続きを促すように聞きます。これで、子供たちはもっと話したいと感じてくれるはずです。

三つ目は、少し大げさに「ボケる」ということです。子供が「昨日ね、大きな虫がいたんだよ」と言えば、両手を広げて「これくらいの?」と尋ねます。子供は必死で反論します。「違う、違う。そんな大きいわけないじゃない! ううんと(手を広げて)これくらい!」と正確に伝えようとします。これらの工夫で、子供たちはたくさんのことを教師に話したいと思ってくれます。

こうして、登校が早い子には、この時間にできるだけ関わってあげるようにします。

一方、登校が遅い子も当然いますから、休み時間にはそうした子供たちを中心に関わるようにします。

いずれにしても、登校に前向きになれない子供たちが楽しみにできることや、楽しめる時間を設けるということが重要なことです。

(2)朝のイベント・ミッションを用意する

子供たちが、朝の時間を楽しみにするという目的からブレてさえいなければ、他にもさまざまな工夫が考えられます。

教室の戸のところに、「割り箸おみくじ」を設置します。割り箸の先に「大吉」「中吉」「小吉」だけが書いてあるおみくじを設置して、「朝来たら、運だめしに引いてみてね」と伝えておきます。

余裕があれば、「〇吉」の下に「赤いふくの人に『おはよう』を言おう」「先生にきのうのことをはなそう」と、もう一言付け加えると、人との関わりを促すこともできます。

また、前日の放課後になぞなぞを一つ板書しておくのもよいでしょう。

ミッション系の指示も、朝の時間を楽しくできるアイデアの一つです。例えば、「友達一人に、『面白い顔』を見てもらおう」「『なまむぎ、なまごめ、なまたまご』を3回繰り返してから、教室に入ろう」などの指示を、教室前に掲示するのも楽しいでしょう。

おみくじ

ルールやマナーを思い出してもらう

低学年を何度も担任した先生はすぐに分かることですが、夏休み明けにはマナーやルールを忘れてしまっている子供が多くいます。

これは、その子が悪いというよりも、子供が大切にされる家庭での生活が長く続いたことで起きることであり、環境が起因していると言ったほうがよいでしょう。

それは、ある意味しかたがないことですから、そんな状況にある子供たちには意図的に、ルールやマナーを思い出してもらう機会をたくさんつくるとよいでしょう。

(1)並ぶ機会を増やす

家庭生活には全くなく、学校では頻繁に行われるのが「並ぶ」ということです。そして休み明けの子供たちの行動で、できなくなっていることの第1位といえば、この「並ぶ」ことです。これも、その都度「早く並びなさい」「真っすぐに並びなさい」「静かに並びなさい」と言っていては、子供たちにとって学校が「嫌な場所」になるだけです。

そこで、子供たちにとって気が付いたら「きちんと並んでしまっていた」という状態がつくれるような工夫をしてみます。

まず、教室前の廊下に2本のビニールテープを貼っておきます。長さは、子供たちが2列になったときの列の長さに合わせます。

そして、廊下に子供たちを出す前に「ビニールテープの上に立って並ぶよ。テープから落ちないで並べるかな?」と語りかけます。その後、真っすぐ並んでいる子に「並べているねえ」「真っすぐだねえ」と声をかけます。

教室の中でも、意図的に並ぶ機会を増やしていきます。例えば、「食器の片付け」「教師に一人ひとりノートを見てもらうとき」「プリントを回収するとき」など、ばらばらに持ってこさせずに並ばせるようにします。

このときにも、教室内の通路に足形(足形が描かれた紙をラミネートしたもの)を貼り、「その上から落ちないようにしてね」と声をかけていきます。そのうえで、「〇〇さん、静かに並んでいるね」「〇〇さん、前の人にくっつきすぎていないね」と声をかけます。

並ぶことなどたいしたことではないと考える方もいるかもしれません。また、そんなに並ぶことばかりに力を入れてどうするのかと、疑問をもつ方もいるかもしれません。しかし大切なことは、並ぶことそのものではなく、並ぶことを通して「廊下や教室では、静かにすること」「並ぶときには適切な距離を取ること」「順番を守ること」など、学校での基本的なルールや、マナーを思い出してもらうことなのです。

まっすぐ並べた子たち

(2)人間関係を構築する語彙を増やす

長い家庭生活で、子供たちは自ら表現しなくても意をくみ取ってもらったり、先回りして危険や失敗を回避してもらったりしています。しかし、そうしたサポートがほとんどないのが学校です。それが原因となって、この時期、友達同士のトラブルが増えることがあります。

その多くは、ちょっとした一言が言えなかったことや、「ムカつく」「死ね」などの衝動的な表現をしたこと、相手の気持ちを尋ねられなかったことによります。ですから、適切な人間関係を構築するための言葉を使えるようにしてあげるとよいでしょう。

例えば、自分の気持ちを伝える言葉(気持ち言葉)の例を挙げます。

  • 腹が立ちます。
  • 悲しいです。
  • くやしいです。
  • 残念です。
  • (まず)ごめんなさい。

また、相手の気持ちを知りたいときの言葉(知りたい言葉)の例も挙げます。

  • どうしてそんなことを言うの?
  • どうしてそんなことをするの?
  • どんな気持ちなの?

こうした言葉を、実際の場面などを使ってロールプレイなどで予習しておくようにします。

「遊びに入れてほしかったけれど、入れてもらえない場面」「ボールで遊んでいたら、関係ない人に当たってしまった場面」など、実際に起こりえそうな場面で例示しましょう。

もちろん、こうした言葉を子供たちは知らないわけではありません。しかし、実際の場面では使えないのです。また、子供たちはトラブルが起きた後で、「その言い方はいけなかったね」と指導されることはあるのですが、「では、どのようにすればよかったのか」を指導されることは案外少ないようです。また、実際には何も解決していないのに、ただ謝らされているということも多いようです。これでは、適切な言葉の使い手にはなれません。まず適切な表現を予習しておき、やがてトラブルの場面で使えるように指導しましょう。

次は「解決言葉」を紹介しましょう。次のようなものです。

  • どうしたら、うまくいくかな?
  • どうしたら、みんなの気分がよくなるかな?
  • どうしたら、悲しい人が出てこないかな?

こうした言葉を使うことで、感情をぶつけ合うだけの関係から、問題をともに解決しようとする「仲間」へと、子供たちの関係性も変容するはずです。

生活指導の半分は行動を変えるための働きかけであり、もう半分は言葉に関する指導だと考えましょう。

帰りの時間は、明日の0時間目と考える

帰りの時間の使い方を考えるときには、これが明日の0時間目だと考えるとよいでしょう。明朝、子供たちが、学校生活を楽しみにして再び学校に来るためには、何が必要でしょうか。

第1に必要なことは、今日一日のふり返りです。今日が充実した一日であれば、明日もまた子供たちは元気に登校できるはずです。

そこで、子供たちには二人1組になってもらって、次のような活動をしてもらいます。

  1. じゃんけんをする。
  2. 勝った人は負けた人に「どんな一日でしたか?」と質問する。
  3. 負けた人は質問に答える。
  4. 勝った人は、それを聞いて感想を言う。感想が思い浮かばないときは、「今日はいい日でしたね」、あるいは「明日はきっといい日ですよ」と言うようにしておく。

役割を交替してもう一度行います。これによって、身近な人から共感してもらったり、勇気付けてもらったりする経験をします。

また、この活動に慣れてきたら、たくさん質問をして、長く対話が続けられるように促します。たとえ今日が、今一つ楽しくない一日だったとしても、人に聞いてもらうことでリセットして帰れる可能性が出てきます。

「どんな一日でしたか?」
「給食がカレーで…」

第2に必要なことは、明日への見通しです。明日はどんな教科の学習があったり、行事があるのでしょうか。こうした明日への見通しがあると、明日を楽しみに待つことができます。

ですから、教師が時間割を提示するにせよ、子供たちが当番活動として時間割を提示してくれているにしろ、それは、子供が帰る前に提示されるべきです。明日への見通しをもつために必要だからです。

そして、帰りの時間に「明日は、どんなことが楽しみ?」と、子供たちに尋ねてみましょう。

もちろん、楽しみがないという子もいるかもしれません。それはそれでかまいません。その場合は次のように語りかけましょう。「どんな一日になったらよいと思う?」と。そして、給食が好きな子には給食のメニューを伝えてあげればよいし、遊ぶのが好きな子には「休み時間、一緒に遊ぼうね」と約束をすればよいのです。

また、明朝読み聞かせをする絵本を1ページだけ読んであげるのも効果があります。

明日、楽しみにすることがあれば、それがほんの一つの小さなことでもよいのです。0時間目であることを、心に留めておきましょう。

イラスト/藤井昌子

『教育技術 小一小二』2021年8/9月号より

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