泳げない子も水泳好きになる「ダンススイミング」のすすめ

関連タグ

足がつくプールで、シンクロナイズドスイミングやダンスなどの要素を取り入れたプログラムを行う「ダンススイミング」。泳げない子でも参加できる点や安全監視しやすい点、小学校の水泳授業の課題を改善する数々の要素がつまったダンススイミングについて、考案者の不破 央(ふわひさし)さんにお話を聞きました。

不破 央さん
元100m平泳ぎ日本記録保持者 不破 央さん

映画『ウォーターボーイズ』の指導からうまれた「ダンススイミング」

――まず、ダンススイミングが誕生した経験をお聞かせください

不破 きっかけは、映画『ウォーターボーイズ』(2001年公開)で、シンクロナイズドスイミングの振り付けと指導をしたことです。ご存知のように映画は大ヒットし、全国でシンクロに夢中になる男子高校生が急増しました。

ただ、映画の中ではアクロバット的なジャンプや、人が上に重なっていく組み体操的な、多少危険が伴う演技も取り入れていたので、私としてはシンクロ初心者の男子高校生がそうした演技を安易に真似することに不安を募らせていました。

そこで、水中での注意を喚起し、安全を啓蒙する活動を推し進める団体「日本ダンススイミング協会」を設立しました。ダンススイミングという名の下で、足のつくプールで音楽に合わせてウォーキングしたり踊ったりするリズム水泳やシンクロ、水中パフォーマンスなど、あらゆるジャンルを取り込んで、毎年大会を開催しています。

4種目の水泳指導とは違い、助け合い感覚を大切にする教育的効果

――ダンススイミングの子どもたちへの普及に積極的に取り組まれていますが、その一番の理由は?

不破 自分は、他人よりも速く泳いで勝つことが優先される競泳選手として育ちましたが、『ウォーターボーイズ』の現場で、感動したことがありました。

シンクロはチーム競技なので、「自分さえよければ」は通用しせん。速い人が遅い人に合わせる、遅い人は速い人に頑張ってついていかなくてはならないわけです。また、水中なので言葉が伝わりにくく、仲間の様子をよく見て間違っていたら自分から近づいて教えてあげるという助け合いの感覚が、チームの上達には欠かせないのです。その共同作業から学ぶことは多く、子どもたちへの教育としても効果があると思い、子どもたちを対象とした活動に力を入れるようになりました。

――現在の小学校における水泳指導についてご意見をお聞かせください

不破 水泳は、水中で体を動かしているので、他のスポーツのように、指導者がリアルタイムで指導することができず、一度子どもの運動を止めてから指導します。その方法だと、一人の先生が指導できる子どもの数は最大5人程度。それが実際は30人を教えないといけないわけです。先生の指導に無理が生じるのは、そもそも小学校の水泳授業が4種目をベースに「泳げるようになること」がゴールにあるからです。

競泳選手の経験から言っても、4種目をマスターするのはすごく難しい。なので、私は泳げない子、泳ぎたくない子は泳がなくてもいいという考え方です。

水中でボールを投げたりゲームをしたり、ウォーキングやエクササイズ、また救助法を学んだりと、陸上では体験できない、プールという特殊な環境だからこそ味わえることがたくさんあります。なぜ4種目にこだわるのか、そのほうが不思議ですね。

チーム演技の模様
小学生ダンススイミングのグループ演技の模様

――ダンススイミングの特長をお話しいただけますか

不破 ダンススイミングは、足が水底につくプールで立った姿勢、顔が水面から出た状態が基本です。そこからシンクロナイズドスイミングやダンスなどの要素を取り入れた様々なバリエーションの動作、演技を行いますが、顔が水面から出ているので呼吸の確保が保障されて、足が水底につくので溺れるような心配もありません。

その動作や演技も、各人の能力を尊重して、能力以上のことを求めたりはしません。できる子は仰向けになって浮けばいいし、水中で回転したり逆立ちすればいい。そのレベルに達していない子は、例えばチーム演技の際、後方で手を上げるだけでもいいわけです。今年は手を上げるだけだったけれど、来年は水中から足を挙げられるようにしようと。

子どもたちに対して、その時点での「できる」「できない」という評価を与える必要はないというのがダンススイミングの考え方です。

異学年が一緒に楽しめる動作と演技 わかりやすくてアレンジも自由

――能力が異なる子どもたちが一緒にできるのであれば、学校で異学年の子どもたちが合同で学ぶことも可能ですか?

不破 ダンススイミングのイベントで、小学生たちが50~60代のおじさんと一緒に演技をしたことがあります。おじさんが小学生を持ち上げたり、小学生がおじさんにアドバイスしたり、面白かったですよ(笑)。

ダンススイミングは、老若男女関係なく、小学生なら上級生が下級生の面倒を見たりと学年の垣根を越えて楽しめます。

4種目の上手な泳ぎ方を子どもたち同士で教え合うことはなかなか難しいけれど、ダンススイミングの場合、潜って飛ぶような動作は、誰が見ても一目瞭然なので、「もう少しお尻を引っ込めたほうがいいよ」など、簡単にアドバイスできます。先生がすべてを教える必要がなく、子どもたち同士で教え合う姿を見ていればいいわけです。

チームで同じ動作をする場合も「いま全員がきれいに揃った」とその場で子どもたちも教える側も実感できます。そんな達成感が次から次へとやってくるのも、ダンススイミングのメリットですね。

――ダンススイミングは今日学んだこと、覚えたことを最後に発表して、お互いに見せ合う時間を大切にしているそうですが、それは小学校の授業で行われている「振り返り」に共通するところがありますね

不破 そうですね。最後に発表して見せ合うことをレッスンのゴールに置いています。他人の動作や演技を見て、「ああやればきれいに見えるんだ」と思って真似をしてみたり、いろいろな発見がありますからね。

それと、動作の形や演技の振り付けを自分たちで創作できるのもダンススイミングの特長ですね。

例えばクロールを上達するには、泳ぎの姿勢やタイミング、強さなど習得することがある程度決まっていますが、ダンススイミングは、子どもたちの人数分の創意工夫が動作や演技に表現されても一向に構いません。水上に上がったときのポーズがどうやれば面白いのか、カッコいいのか、自由に考えればいい。自分でデザインできますし、もともと正解というものがありません。

チーム演技はみんなの作品、創造物と捉えているので、ある程度任せたほうが達成感も大きいはずです。

プールでの安全監視にもメリット 泳げない子どもに対応した指導法も

――ダンススイミングは、チーム単位が基本ですね。その点、プールでの安全監視にもメリットがありそうですが

不破 長方形のプールでもっとも監視に適した場所はプールサイドです。ダンススイミングもそこから監視します。必ず上から俯瞰しますし、ほぼ全員がこちら側を向いているので、数十人でも一気に見通せるし、個々を確認しやすい。基本的に顔が水から出ているので、その場で声をかけることもできます。こちらの話を聞いていない子どもがいるとすぐわかりますよ(笑)。

水と親しむプログラムが泳ぎへの第一歩

――泳げない子どもや水に恐怖心をもっている子どもに対しては、どのような指導を?

不破 泳げない子どもには、「これが無理そうだったら、じゃあB案をやってみよう」「それも難しければC案」というように代案を提示して、例えば手で水をパシャパシャさせて水しぶきを上げるようなところから始めます。それを徹底させてできるようになると、不思議と子どものほうから「次はこれをやりたい」と言ってくるんです。

水に恐怖心を感じる子どもには、水鉄砲のようなおもちゃを与えて楽しませます。楽しませながら、「水が平気なんだ」と自覚させるように働きかけます。そんな小さな成功体験を繰り返していると、1時間もしないうちに水中に潜っていたということがありました。低年齢であればあるほど、そういう例が多いですね。

水泳の技術は、手のひらで水をとらえて運んで戻す動作の繰り返しで成り立っています。ダンススイミングは、水中でフォーメーションの移動があって、次の場所へ速く行くための工夫をしているうちに、手のひらと水との感覚が研ぎ澄まされるのでしょう。

教えていないのに、いつの間にかバタフライができていたという例もありました。これは長い間、水泳を教えてきた私にとってもショックでした。

つまり、水と親しむ経験の少ない子どもに、手足はこうしなさいというような従来の指導をするよりも、鬼ごっこでもしながら体を移動させたり向きを変えたりしながら水と仲良くなるほうが、ずっと早く泳げるようになるということですね。

不破さん
「ダンススイミングは泳げなくても誰でも楽しく参加できるので、学校の授業で実践するのに適しているのではないかと思います。実際、学校側から『プログラムを導入したので指導に来てください』というオファーがあります」と不破さん。

――学校側の反応はいかがですか? また、最後に水泳指導の難しさを感じている先生へのアドバイスをお聞かせください

不破 ある小学校でダンススイミングの指導を実践したとき、プールの中で子どもたちが楽しそうに、しかも集中している姿とその統率力にたいへん驚いたという意見を先生方からいただきました。

水泳の指導法で悩んでいる先生が多いと思いますが、いわゆる旧来の指導をいきなり変えるのではなくて、プールで歩く、飛ぶ、潜る、潜って何かを探すエクササイズなど、水と親しむ運動がたくさんあるので、授業の一部にそうしたプログラムを取り入れてはいかがでしょうか。

クロールには習得しなければいけない細かい技術が20~30通りもあります。ダンススイミングはせいぜい10通りで、ほぼすべての演技が表現できます。それさえ覚えれば、子どもたちが夢中になれる水中スポーツだと思います。子どもたちを中心に底辺の拡大に努めて、ダンススイミングからシンクロナイズドスイミングへと移行し、やがてオリンピック選手が誕生するようになればいいですね。

ダンススイミングのグループ演技 撮影/北村瑞斗
不破さん

不破 央(ふわ ひさし)1968年生まれ。静岡県富士市出身。元100m平泳ぎ日本記録保持者。映画・ドラマ『ウォーターボーイズ』でシンクロナイズドスイミングのシーンの振り付けや指導を担当。多くのメディアの水泳企画に携わる。ダンススイミングの普及に努めるオフィストゥリトネス代表を務めると同時に、水中スポーツの安全対策の啓蒙を呼びかける日本ダンススイミング協会の会長も兼任。

『小二教育技術』2018年6月号より

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました