「スクールソーシャルワーカー(SSW)」とは?【知っておきたい教育用語】
いじめ、不登校の問題行動が増え続けていることに加えて、子どもへの虐待も深刻な状況になっています。個々の問題に対応するのではなく、包括的に活動するスクールソーシャルワーカー(SSW)の必要性がますます高まっているのです。
執筆/国士舘大学准教授・堀井雅道
目次
学校が直面する問題を解決するために
2020年10月、文科省が生徒指導上の諸課題に関する調査結果(2019年度)を公表しました。それによると、不登校の児童生徒数は18万1272人(小・中学校)、いじめの認知件数は約61万2500件等と、いずれも過去最高となっています。
一方、厚労省は2020年11月に、児童相談所の児童虐待相談対応件数を公表しており、こちらも過去最多の19万3780件となっています。
全国どこの学校でもこのような問題に直面し、学校・学級運営上の重要な課題となっています。その解決にあたり、期待されているのが「スクールソーシャルワーカー(SSW)」の活用です。
スクールソーシャルワーカーの登場と必要性
1990年代半ばのいじめ自殺事件を契機に、学校のさまざまな問題解決に対して、臨床心理士等の「心理」系資格を有する「スクールカウンセラー(SC)」の導入が進められ、学校現場に定着しつつあります。
スクールソーシャルワーカーのほうは、全国的には2008年度から、文科省の「スクールソーシャルワーカー活用事業」として学校に導入されました。その背景には、学校がさまざまな問題に向き合う際に、教育や心理の専門性にもとづく対応だけでは限界があり、「福祉」の専門性も必要であるとの認識がありました。
文科省は、問題行動等には「児童生徒の心の問題とともに、家庭、友人関係、地域、学校等の児童生徒が置かれている環境の問題が複雑に絡み合っている」とし、子どもが置かれている環境に着目して解決できる人材や、学校内外の関係機関等との連携をより強化して課題解決を図るコーディネーター的な存在が必要と説明しています。そして、その役割を担うのがスクールソーシャルワーカーであるとし、学校に導入することを提起したのです。
スクールソーシャルワーカーの特徴と役割
スクールソーシャルワーカーは、「福祉」の観点から課題解決を図っていくという点で、生徒指導・教育相談とは異なる考え方や手法に立っています。
これまでの生徒指導や教育相談においては、教師が問題を起こす子どもとその行動のみを対象として指導をしていくことが通常でしたが、スクールソーシャルワーカーは、問題を起こす子どもの思いや気持ち(子ども最善の利益)を尊重しつつ、その子どもが置かれている環境(友人、教師、保護者、地域社会等)に焦点をあてて、課題解決を図っていきます。
つまり、子どもが起こしている問題の原因は、その子ども個人だけにあるのではなく、周囲の環境にもあるという考え方です。その上で、問題の解決にあたっても学校内の「チーム」のみならず、学校外の人びとや機関とも協働して取り組みます。
スクールソーシャルワーカーは、基本的には社会福祉士をはじめ福祉系資格をもっており、①子どもの置かれた環境への働きかけ、②地域の関係機関(行政の児童福祉関係部署、教育委員会等)、③学校内のチーム体制の構築・支援、④保護者や教職員等への支援・相談・情報提供、⑤教職員への研修、が主な役割です。
活躍の実状と成果
スクールソーシャルワーカーは、2008年度の文科省の活用事業以降、国の予算措置が継続的に行われ、少しずつ増員が図られてきました。しかしながら、すべての学校に配置されているわけではなく、自治体によりさまざまです。特定の学校に配置されて複数の学校を担当する形態(拠点校型)や、教育委員会に配置されて学校の要請に応じて派遣されたり、複数校を巡回する形態(派遣・巡回型)などがあります。
なお、文科省は2019年度までに全中学校区(9479中学校区)にスクールソーシャルワーカーの配置(約1万人)を目標として掲げていました。そして、2020年5月に総務省が公表した「学校における専門スタッフ等の活用に関する調査」の結果報告書によれば、約6割の中学校区で1校以上のスクールソーシャルワーカーの対応実績があるとされています。
文科省の事例集では、スクールソーシャルワーカーによる成果として、次のようなことが報告されています。学校内外の「ケース会議」がもたれて情報の共有化が図られたことや、子どもや保護者への働きかけが増えたことによって、不登校や非行・不良行為、発達障害等に関する問題、貧困や児童虐待など家庭環境の問題が解決の方向へ向かったことなどです。
「福祉」的な視点と手法の必要性
前述の総務省の結果報告書では「SC及びSSWの専門的職務及び具体的な役割に関する教委及び学校の理解不足が原因となって活用に課題がある」と指摘されています。まさに今後の課題は、まず学校(管理職や教職員)がスクールソーシャルワーカーをどのように活用していくかということになります。
スクールソーシャルワーカーは、「学校教育法施行規則」(第65条の3)や「いじめ防止対策推進法」(第22条、第23条3項)において、子どもの福祉、いじめの防止・事後対応において必要な人員として位置づけられています。
学校が直面する問題について、教員や学校内のみで解決するには一定の限界があることは教育法制・政策でも認められているところです。スクールソーシャルワーカーを活用して「福祉」的な視点と手法によって対応していくことが、今日の複雑かつ困難な問題の解決に向けた第一歩になります。
▼参考文献
山下英三郎著・日本スクールソーシャルワーク協会編『スクールソーシャルワーク―学校における新たな子ども支援システム』学苑社、2003年
山野則子・峯本耕治編著『スクールソーシャルワークの可能性─学校と福祉の協働・大阪からの発信』ミネルヴァ書房、2007年
大塚美和子他編著『「チーム学校」を実現するスクールソーシャルワーク』明石書店、2020年
文部科学省(ウェブサイト)「令和元年度スクールソーシャルワーカー実践活動事例集」