授業に活きる!子供たちから意見と意欲を引き出す指導者とは?
スペインの名門サッカークラブ・ビジャレアルのジュニアチーム育成に長年携わってきた佐伯夕利子さん。自身の指導経験から得た、選手一人ひとりの力を伸ばす指導法の極意をまとめた『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』が出版されました。学校教育にも通じる指導者としての心構えなどが多様な例とともに述べられています。著者の佐伯さんに、本書のポイントからお話しいただきました。

目次
指導から入るのでなく、まず聞くことが大事
―佐伯さんは30年以上、スペインでサッカー指導者として活躍され、名門ビジャレアルの育成組織で選手の育成や指導大改革にも携わりました。現地の指導大改革では、どのような気付きがありましたか?
佐伯 指導大改革では、私の指導者としての未熟さや傲慢さに気付かされました。例えば、サッカー現場で起こるシチュエーションの一つとして、選手が右にパスを出したとします。指導者は自分の主観で「今は右ではなく左に出すべきだった」と思うと、つい「なぜ右に出したのか? 右ではなく左に出すべきだ」と言ってしまうわけです。
ビジャレアルでは、こうしたコミュニケーションは浅はかで意味がないことに気付かされました。選手が右にパスを出したのなら、それには何か理由があるはずです。選手から見える角度と指導者から見える角度は違います。その時選手が恐怖や不安を感じたなど、アクションを起こすには何かの背景があるはずです。しかし、それまでの私は、そうした選手の思いを汲むことすらできませんでした。
新しい指導法については、試行錯誤を重ねて少しずつ身に付けていきました。習得したスキルの一つが、「さっきはなぜ右にパス出したの?」などと選手にオープンに問いを投げることです。答えを導きだす問いではなく、フラットにその選手に聞くのです。そしてどんな答えでも、なるべくフラットな状態で聞き、こちらが意図しない答えや言い訳が返ってきても、「そうなんだ」とリスペクトして受け止めるという事を訓練しました。そのようなコミュニケーションを通して、選手との関係性を再構築する作業を繰り返しました。