学校におけるデジタル観をアップデートしよう
ビジネス界のマインドや手法を教師の仕事に落としこむエッジの効いた発信で多くの若手教師に支持される、”さる先生”こと坂本良晶先生の連載。今回は、学校におけるデジタル観のアップデートの必要性に関するお話です。
執筆/京都府公立小学校教諭・坂本良晶
目次
デジタルとの付き合い方を学ぶ
「東京都と神奈川県にキャンパスがある産業能率大学は、来年2月の入学試験でスマートフォンを使って情報を調べることができる新たな方式の試験を導入する」というニュースがありました。これは、これからの学校におけるデジタル観の大きな変化を示唆するものであると考えられます。
学校では、「デジタルは悪である」という捉え方をすることが多いのではないでしょうか。
LINE等のSNSをめぐるトラブル、子どもがYouTubeばかり見ているといった保護者からの悩み相談。このような面だけを見ていると、「スマートフォンはトラブルの元、YouTubeは怠惰の元」といったネガティブな印象を抱くこともよくわかります。
しかし、これからの子どもたちは、デジタル環境なしに学ぶこと、生きる事は不可能です。だからこそ、より良い「デジタルとの付き合い方」を学ぶことが大事なのです。
そこで今回は、学校におけるデジタル観のアップデートの必要性について考えていきたいと思います。
まずは教師が使う
先日、Twitterでアンケートを取ったところ、1人1台のタブレットがまだ整備されていない自治体は8割以上に上りました。すなわち、まだほとんどの日本の学校では基本的に、教師が主体となり一斉授業的な展開をしていることが主流だといえます。
1人1台のタブレット使用を見越して、今すべきことは、まずは教師が使うことだと思います。
子どもにとっても、YouTube等が学びのツールになるという意識はまだ少ないはずです。そこを崩し、学びのツールとしての活用のイメージを持たせることが大切です。そして、子どもたちが教師からツールの使い方を「真似ぶ」ことで、自律した活用へと繋がると考えます。
YouTubeの活用
国語や社会等で日本の文化や伝統について学ぶ単元は、学年問わずよくあります。教科書に載っていることを学んだ上で、他の事例に関して調べるような活動を取り入れる事は多いでしょう。
例えば、京都の「祇園祭」を例に挙げれば、副読本に数枚の写真と文章による説明があるだけです。そこから図書室等で資料にあたったり、インターネットで検索したりするなどして知識を深めたり、新たな問いを見つけるといった学習をすることはよくあると思います。
しかし、より質の高いアウトプットをするためには、より質の高いインプットをすることが必要です。
その点において、YouTube上には、実際に現地に足を運び撮影し、高度な技術で編集されたコンテンツも非常に多いため、学習に大いに役立てることができます。
特に最近は4K映像等、クオリティの高いコンテンツが増えているため、現地で見学するのと遜色ないレベルに達していると感じます。
もちろん、YouTubeは誰もがアップロードできるプラットフォームなので、ソースには気をつける必要があります。公式チャンネルならば信用に値するといったことを子どもたちに伝えることも大切です。
Google Earthの活用
社会科の地理的領域の学習において、Google Earthを活用することができます。
教科書の資料や地図帳を用いれば、現地の地理的な様子を掴むことはできます。しかし、より具体的な地形的な様子や、現地の景色や建物の様子までは分かりません。そこで、Google Earthの出番です。
まずは上空からの様子を俯瞰します。谷に川が流れていて、少ない平野部に民家や田畑があるのが分かります。
次に3Dモードでカメラを傾けます。すると、想像していた以上に高い山に周りを囲まれていることがわかりますね。
ストリートビューモードでは、まるで現地にいるかのような状態で辺りを散策することができます。美山町の特徴である茅葺屋根の民家の様子を詳しく観察することができます。
子どもたちが調べ学習をする際、圧倒的な情報の量と質を子どもたちにもたらすツールとして、Google Earthを役立てることができるのです。
今後の展望
ここからは個人的な展望になります。
PBL(※)を展開する京都の塾「studioあお」では、子どもたちの問いを元に課題を解決していく多くのプロジェクトが進められています。その中で、資金を得るためにクラウドファンディングを、PRをするためにSNSを活用しています。
※PBL…Problem-based Learningの略。問題解決型学習。⇒【教育用語】PBL(プロブレム・ベースド・ラーニング/プロジェクト・ベースド・ラーニング)
今後、公立学校においても、子どもたち自身が人と人とを繋げるツールとしてSNS等を主体的に活用するシーンが出てくるかもしれません。そう考えると、目の敵にしがちなSNSへの“観”を学校側が改めていく必要も出てくるでしょう。もちろんマイナスの面もあるので、メディアリテラシーを高めていくことも同時に進めなければなりません。
GIGAスクール構想(※)というゲームチェンジを目の前にして、学び方の新たな可能性が無限に出てくることが予想されます。先入観に捉われず、多くの可能性について検討し実装していくことが、これから求められるのではないでしょうか。
※GIGAスクール構想…Global and Innovation Gateway for All。多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境を実現すること。
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1983年生まれ。京都府公立小学校教諭。前職では大手回転寿司チェーンで店長として全国売り上げ1位を記録するという異色の経歴をもつ教師。「教育の生産性を上げ、子どもも教師もハッピーに。」を合い言葉に日々発信するTwitter「さる@小学校教師」のフォロワー17000人以上。著書に『全部やろうはバカやろう』(学陽書房)、『MISSION DRIVEN』(主婦と生活社)などがある。